【起点の章第一話 ―もう一度―】
ある世界があった。そこに一人の少年が過ごしていた。その世界とは、平和な世界・幸せな世界・美しい世界。そんな理想が現実になったような場所であり、誰もが口をそろえて「楽しい」と言うようないい世界だった。
“あの時”までは
・・・少年が気付いたころには、何もかもが壊された後だった。眼前に広がる大波、荒れ狂う水の音、あらゆる感情が頭の中を何度も往復する中、少年は涙を流し震える声で言葉を零す。
「なんで?」
その言葉と同時に視界が黒く染まり、周りの音を捉え始める。
「う...ん?」少年の目が覚めた・・・その顔は泣いていた。
「夢か...」
そう呟き、ベッドから起き上がる。
次の瞬間、少年が自らの頬を勢いよく叩く。
パンッ!...
少年はいつもの悪夢を振り返らず、すぐに切り替える。
「いや、今考えるのはやめよう」
次にドアノブに手を掛け、ドアをゆっくり開ける
ドアを開けると、目の前に一人の青年がいた。青年の見た目を簡潔に話すと、少し長い水色の髪に真っ赤な瞳の、どこかミステリアスな雰囲気を持つ人物だ。
「あ、おはようございます」
いつものように少年が挨拶をすると青年はこちらを向いて、表情を崩さず答える。
「...起きたか」
すると青年は手を顔の少し前の空中にかざすと、そこの空間が一瞬青白く光る。そしてその空間から何かを取り出し始める。
「水だ、飲め」
青年は空間から取り出した水を少年にそっと渡した。水を貰った少年は笑顔で礼を言う。
「ありがとうございます!」
そのまま水を一気に喉に流し込んだ。飲み終えた後、前から気になっていた質問を投げかける。
「そういえば、その何もない空間から物を取り出すやつってどうやってるんですか?」
青年は少し難しい顔をして答える。
「...そうだな、これは俺自身の一個の能力だから誰でもできるわけじゃないぞ」
「そ、そうなんですか!?」
「ああ、お前もこんな感じの能力があれば出来るようになる。」
それを聞いた少年は少し顔を曇らせる。
「僕にも、あなたみたいな能力があるでしょうか...」
そんな摩訶不思議な力を自分でも使ってみたいが、どうしても自信が持てないようだ。
青年は少し言うのを迷うが、表情を崩さず応える。
「ああ、お前にも能力はあるが...」
少年は信じられないといった表情で目をキラキラさせている
「本当ですか?」
青年は、今度は迷いのない声で答える。
「ああ、本当だ。俺はお前の能力を知っている。」しかし一瞬だけ表情を曇らせて続けた。
「だが今は詳細は言えない。今教えると、肉体を鍛えなくなるだろ?」
その言葉を聞いても少年は純粋な笑顔で返答する。
「なら、もっと鍛えなくちゃですね!」それを聞いた青年も嬉しそうに
「ああ、今の内にちゃんと強くなれ」と応援の言葉を投げかけ、少年は「はい!」と元気に頷く。
そして少年は、ふと思い出したかのように次の質問をする。
「そういえばここに来てしばらくしますが、お互い自己紹介がまだでしたね」
それを聞いた青年も忘れてたように
「...あぁ、そうだったな」と思いだす。
「俺は“さろあ”だ。...お前は?」少年は嬉しそうに笑顔で答える
「僕は“あかば”です!」
「ああ...改めて、これからよろしくな」
少年も今一度きちんと挨拶をする。
「はい!よろしくお願いします!」
そうして朝の会話を終え、あかばは外へ修行をしに行く
これがこの場所にきてからの習慣となっている。
そして時が進み、辺りが暗くなりかけていた時だった。
“アイツ”がやってきたのは。
「..8!99!100!」何やら、あかばが剣を使って素振りをしているようだ。素振りが終わるころ、丁度さろあが帰宅し、あかばに声を掛ける。
「...今日の分は終わったか?」
あかばはそれに反応し、汗を拭きながら答える。
「はい!ちょうど今100回終わりましたよ!」
「よし、なら今日は帰って飯にしよう。休息も大事だ」
ここ最近のいつもの流れだった。しかし家に帰ろうとした時、さろあの視界にあるものが映った。
「ん?あれは...」
それを見ると瞬時にその正体に気づく。
「...もうそんな時か」
あかばはさろあの言動に少し困惑している。
「その、急にどうしたんですか?それにどこを見て...」
あかばはさろあが自分の後ろを見ていることに気が付く。
次の瞬間、背筋が凍るような感覚に襲われた。そして、あかばは恐る恐る後ろを振り返る。
「なっ!?なんですかこれ!」
その時あかばの目の前に映るものは"空間が切り取られたように開いている空"と、それをもっと広げようとしている"無数のヒビ割れた空間"だった。さらにその空間の中には、宇宙のような景色が広がっている。
すると突然、さろあがあかばに、少し強く言葉を投げかける。
「あかば、お前は逃げろ」
イマイチ状況に追いつけないあかばは、その言葉に困惑する。
「え?どうして...」しかし構わずさろあは続ける。
「いいから逃げてくれ、...アイツが来る」
本来なら、素直なあかばは従って逃げるだろう。だが、さろあの願いとは真逆の感情が今、あかばに湧き出ていた。
(さろあさんは逃げてって言ってるけど、正直逃げたくない。だって...)
(“あの時”みたいな事はもう嫌だ、何より、もう弱い自分で居たくない!)
その時、あかばの表情に決意が宿る。
「イヤです、僕はもう逃げないってあの時決めましたから」
さろあはその言葉に一瞬の驚きも出さない。
「分かった...だが、一つだけ」空間の割れ目はほとんど広がり、完全に開こうとしている...
「ヤバくなったらすぐに逃げろ。それだけだ」
あかばは「はい!」と気合を込めて頷き、それに同意する。
次の瞬間、空間の割れ目が限界に達し、辺りは白い光に包まれるさろあとあかばは咄嗟に目を塞ぐ。
・・・そして光が収まり、さろあとあかばが目を開けた
「っ!」
あかばは全身から寒気が来る感覚に襲われた。光が収まったその先に見えたのは、妙な威圧感を持つ一人の人物だった。