さろあとセイナが、戦いながらも戦闘中のあかば達のところに降ってくる。両者とも一歩も引かない戦いだ。互いに武器を構えながら、しばらくの間睨み合いが続く。
「二人とも、大丈夫か」
先程まで激しい戦闘だったにもかかわらず、さろあは刃をセイナに向けながら、あかばとダインを気遣っている。
「あかば、お前よくあの蹴りを受けてこんだけ傷が無いんだ?・・・ああ、まさか"もうあの力に目覚めたか"」
「は、はいさろあさん。『
あかばはさろあに自分が使えるようになった能力を伝える。それはさろあの不安を少しは取り除くことになったが、完全には拭えない。
「そうか・・・だが、回復できるからといって、防御は疎かにするなよ。あくまで攻撃を受けた後の手段だ。受けない方が良い」
その通りだった。例え回復できたとしても、敵を倒せなければ意味がない。それをあかばに再確認させるように、遠回しな言い方をしたのだ。
「はい!」
そう返事をするあかばの目に、もう不安は無い。ただ目の前の敵に集中する良い目をしている。
「・・・話は終わったかしら?」
セイナは律儀にも待っていたらしい。それは油断させるためか、それとも未練を残さずに殺す為の間を作ったのか。
「―――じゃあ、もういいわねェ!」
「もう言い残すこともあるまい!」
戦いは、セイナとゴウガの叫びと共に、再び始まってしまった。セイナはあかばとダインには目もくれず、やはりさろあに一直線だ。
「さろあさん!」
これ以上さろあを一対一で戦わせないというように、あかばはさろあの隣に位置取ろうとする。
「お前の相手はこの俺だァ!」
ゴウガがあかば目掛けて突っ込んできたせいで、さろあへの手助けは困難になった。あかばは瞬時に切り替え、ゴウガと対峙する。もちろん、ダインもすかさずあかばの隣に移動する。
「あかば少年!さろあさんを助けたい気持ちは分かるが、まずは目の前の敵を倒さなくては!」
ダインの指摘はもっともだった。そして距離は近いが、セイナとさろあ、ゴウガとあかばとダインという形に戻った。
「行きます!」
あかばが初めに動き出した。既に『
「フゥン!これしきの力で勝てるとでも思っているのか!」
しかしゴウガも手強い。一筋縄では倒せる相手ではない。でも、それはゴウガからすれば、あかばも同じだ。
(クソッ、あかばが回復能力を手に入れてからというもの、決定打に欠ける。しかもこの速度、普通の攻撃ではまず当たらない・・・面倒な)
そう、あかばを捉えることは出来ても、一撃で意識ごと粉砕しなければゴウガに勝機は無かったのだ。しかもあかばの隣にはダインという人間もいる。彼も決して弱くはない。
「ここじゃぁ!」
あかばとゴウガの刃のぶつけ合いの中で、的確にダインが隙を突いてゴウガの横腹を一閃した。
「本当に鬱陶しいな!お前はァァ!」
怒りの咆哮を上げたゴウガ、それと同時にダインに振られる大剣。・・・でも、それはあかばが見逃さない。ダインに向けられた攻撃を、ダインと一緒に受けることで受け止めたのだ。
「ゴウガ!アンタ何手こずってるの!」
近くからセイナの声が聞こえてきた。それは仲間であるゴウガを叱責する言葉だった。
「おい、何よそ見してんだ」
さろあの温度の無い声と共に、銀閃がセイナの胴を走る。だがセイナは一歩後ろに引くことで完全に斬られる事は免れた。そして当然のようにその傷を回復している。
「ええ、よそ見をしたのは悪かったわ。けれどアレは流石にイラつくわよ」
セイナは明らかにゴウガの事を嫌悪しているようだ。どうやら自分が未熟と判断した相手にはとことん冷たいようだ。
そして二つで起こっていた戦いは、偶然にも同じ場所で重なることになる。
「あら、ようやくまた集まれたっ」
そしてセイナはゴウガに近づく。さろあは阻止しようとしたが、それをやめた。・・・何故なら、セイナがゴウガに向かって、いきなりレイピアを突き出したのだ。しかもそれが、あかばにとっては目で追うのがやっとの速度で、深々とゴウガの心臓に突き刺さったのだ。
「ガ・・・ハァッ!?き、貴様!一体何をしたか分かってッ―――」
ゴウガの言葉は最後まで聞かれる事無く、セイナがもう一発ゴウガの喉に突き刺したことによって、ゴウガの命は消え、光の粒となって消えてしまった。
「・・・」
さろあは黙っていた。目の前の光景が想定できなかった訳ではない。ただ、本当にやるとは思ってもいなかったのだ。
「はぁ、これでようやくうるさい奴は消えた。やっとさろあとの戦いに専念できるわぁ!」
本人はとても狂気的に喜んでいるようだった。セイナは天使として、あかばを殺しに来た筈だ。でもその仲間のゴウガを殺してしまったのは天使セイナだった。
「ど、どうして!?仲間なんじゃないのか!?」
あかばが恐怖か驚愕か、はたまた両方のような声でセイナに向かって叫ぶ。それに返された答えは非常に冷たいものだった。
「仲間ですって?確かにそうだけど、でも弱い奴は目障りなだけ。もちろん、今のあなたもよ?」
そう言って逆にあかばの事を睨みつける。咄嗟にさろあが庇うように前に出た。
「お前の相手は俺だ」
セイナの目を鋭く見つめながらさろあは言った。それを聞いたセイナは、再び狂気的な笑みを浮かべ、同時にオーラが増す。
「そう来なくっちゃ!」
空気が震えるような、肌が凍るような、そんな感覚をあかばは感じ取る。それほどまでに、目の前の天使は根本的な強さが違うのだ。
「・・・」
(僕は・・・何て無力なんだろう)
さろあとセイナの一対一のバトルが始まった。あかばとダインの二人はただ傍観するだけだった。ただ動いても、どれだけ隙を突いて加勢しても、きっと足手まといになると分かっていたから。少し離れて見ることしかできなかった。
―――どれくらい時間が経っただろうか、さろあとセイナは未だに動きが鈍らずに戦い続けていた。
「アッハァ!いいわァ楽しぃ!もっともっとアンタと戦っていたいわァ!」
セイナの狂気は、まだまだ鎮まることを知らない。・・・そうあかばが感じていた時だった。
「でも、今日はもういいわ。お楽しみはまたいつか・・・今度はもっと本気でやり合いましょう?」
そう言ってセイナは、悪戯をする子供のような笑みを浮かべながら、自身のすぐ背後に白く光るポータルを作り、その中に消えていった。
「今度はタイマンでね~」
そう言い残して
―――その場に残された三人は、ただ一瞬で起きた事を素直に呑み込めなかった。今回の脅威は去った。でもこれからが、地獄の始まりに過ぎないのかもしれない。