さろあがあかばにつけている修行、修行開始から丸二日も行っていた。あかば自身の覚えも早く、そのお陰か、新しい事を教えるのではなく、ひたすら修行を行っていたのだ。
「こ、これでどうですか!」
現在あかばは、力の修行の最中で、さろあが自身の力で作った盾をさろあが構え、その盾を素手で破壊するように力の出し方を鍛えるという事をしていた。何度も盾に拳を打ち付けていくごとに、自然と衝撃音が大きくなっているのが分かる。
「そうだな・・・まだ破壊は出来ていないが、修行前よりかは確実に威力が上がっているだろう。今なら、あの時一人じゃ受け止められなかったゴウガの攻撃も、『
さろあは少し甘いかもしれない評価を付けたが、あかばは嬉しくも満足せず、更に力を理解したいというふうに修行を続けた。
「分かったよ、でもそろそろ休憩しろ。どれだけ優秀な人間も、休まなきゃ本領を発揮できないものだ。それに、お前は少し追い込みすぎるところがある。偶には気分転換に、この丘の下の方でも散歩してこい」
確かに、あかばはこの力の修行をやり始めてから、一度も休憩していなかった。あかばはさろあの言うとおり、休憩も兼ねて散歩することにしたのだ。その間さろあはこの丘の上で待っているらしい。
「休憩に時間は設けないから、満足するまでしてこい」
そう言ってさろあは、あかばが散歩して離れていく姿を見送った。
―――大体十分くらい歩いたあかば。丘の下の先は意外にも森林が広がっていて、あの丘の上から見えた高層ビルが並ぶ街並みとは正反対のような景色に驚いている。後ろを振り返っても、さろあの姿を認識できないくらいには歩いていたのだ。
「・・・こうして一人でいると、何だか思い出しちゃうな」
あかばの脳裏によぎるのは、カギリナシの街が壊された光景、そして、その事によって思い出してしまった、あかば自身の故郷のことだ。
「本当に良かったなぁ、この世界があんな事にならなくて」
昔の事だが、あんな事を経験した中での唯一の生き残り、それがあかばだ。元より精神力は年齢に比べてとてつもなく高い。でも、未だにあの光景が忘れられないように、思い出すたびに悲しみに暮れている。
「ううん、もう乗り越えてかなきゃ。いつまでもこんなんじゃ、さろあさんを心配させちゃうから」
あかばはさろあによってもたらされた、この休憩の時間によって、自分の心をまた一つ成長させた。そして振り返り、さろあの待つ丘の上に戻ろうとした。
―――その時だった
空間の圧が重くなったと感じた瞬間、あかばがの背後から、まるで闇のようなポータルが開かれていく。その圧だけで押しつぶされそうだ。
「・・・見つけましたよ、あなたが"あかば"ですね?」
ポータルから出てきた人物が、あかばの事を一方的に知っている。まるで今までの天使のようだ。
「あなたには、我々の世界に来ていただきます。ご了承ください」
その人物は、比較的背の高い、刀を持った女性だった。見た感じ天使ではないようだが、そうなるとあかばを知っているという事の謎が深まる。
「い、行くわけない!それに、僕を連れて行って何をするつもりなのかも分からない以上、受け入れられません!」
それでも、あかばは拒絶した。自分が天使から狙われているのは知っているが、明らかに天使ではない人物の要望の方が、よっぽど危険かもしれないと判断したのだ。
「・・・成程、来ていただけない・・・と」
刀を持つ女性の雰囲気がどんどん重く冷たくなっていく。
「では・・・無理矢理にでも、連行させていただきます」
―――次の瞬間
「ッッ!?」
もう目の前にいる
「はっっや!?」
眼前に迫りくる刃、その速度は今までに類を見ない。だが、あかばはギリギリ自身も抜刀が間に合い、かろうじて刀を受け止めることに成功した。
(な、なんだこのスピード!?セイナと同じくらい・・・いやそれ以上じゃ!?)
あかばがそう思うのも無理はない。動体視力を鍛えても尚、視認して攻撃を受け止めることがやっとなのだ。
「・・・今のを防ぎますか」
そう呟く女は、次の瞬間にはまた刀を構えている。
「予想と少し違いますが、まだ成長途中のようですね」
「では、こちらも少し技を使いましょう」
女の雰囲気がまた変わる。あかばは尋常ではない空気に気を引き締める。まるで、空気が凍えているような悪寒を背筋に感じる。
「安心してください、命を取ることはありません。ですが・・・・・」
―――少々眠っていただきますよ
次の瞬間、女の体から氷のようなオーラが立ち昇る。
「
その技名を、あかばの耳が聞き取った瞬間・・・女がフッと目の前から姿を消した。いいや、消えたと錯覚するほどに速く動いていた。そして今、その女はあかばの背後にいたのだ。
あかばはもう、間に合わなかった。背後に気配を感じた瞬間、首に鈍い音が響く。
「ぐぁっ―――」
女はあかばの首裏に、峰打ちをしていたのだ。あかばの意識は、意思とは関係なく闇に沈み始めてしまう。
「ようやく動かなくなりましたか。では、あなたを待っているお方の場所へ・・・お連れ致します」
あかばの体を抱え、まだ閉じていないポータルへと向かっていく。
しかしその刹那、さろあが非常識的なスピードで走ってくる。
「あかば!!!」
「・・・・・」
そしてあかばは、さろあの叫び声を最後に、意識を完全に手放すのだった。