「ん・・・」
謎の女によって気絶させられたあかばが、意識を浮上させようとしている。あれから一体どうなったのだろうか。
最後に聞こえたのは、さろあがあかばの名前を叫んだ声だ。もしかしたら、さろあが助けてくれているのかもしれない。
目を開けた瞬間に映るものは―――
「あっ!やっと起きたんだね!」
見知らぬ少女があかばに向かって話しかけてきている光景だった。そして周りを見渡す。自身が寝させられていたベッド、そして床のタイルや壁の感じを見るに、そこは"カギリナシ"の世界ではないという事が何となく分かった。
「え?・・・君は誰?・・・それにここって・・・」
あかばは疑問をその少女に投げかけた。まだ何がどうなっているかを理解できていない様子だ。でもそれも、一瞬で警戒することになる。
「おや、目を覚ましましたか」
そう、その声の主は、先程の女だったのだ。あかばの首裏に峰打ちをして、気絶させた張本人である。あかばは視界にとらえた瞬間、横になっていたベッドから飛び起きて身構える。この女が生きているという事は、もしかしたら、意識を失う寸前に駆けつけてくれたさろあが負けてしまったのかもしれない。そう思うと、冷や汗が止まらない。
「さ、さろあさんをどうした!!何故僕をここに連れてきたんだ!」
恐怖心を掻き消すように、威嚇するように聞く。すると女は、一瞬だけ申し訳なさそうな表情を浮かべた。そして質問に答えるように口を開ける。
「どうもしていませんよ。そうですね、見てもらった方が分かりやすいでしょう」
そう言って女は、一歩横に体をズラした。本来ならただ少し移動しただけだ。でもズラした先に見えたのは、壁にもたれかかってこちらを見ている者の姿だ。そう、それはさろあだ。
「さろあさん!?」
当然あかばは驚く。自分の師匠のような存在が、まるで自然なようにそこにいるからだ。
「・・・あかば、怪我がないようでひとまず安心だ。言っていた通り、傷はつけていないようだな」
さろあはあかばを一瞬見た後、すぐに女の方をじーっと見つめた。"一体何がどうなっているのだろう"。あかばがそんな疑問を感じていると、一番最初に話しかけてきた少女が、この場の空気を読まないように元気に話し始める。
「あはは!驚くのも無理はないよぉ。でも安心して、別にあの人・・・さろあさんだっけ?あの人が元々こっちのグルだったとかじゃないから。一応、説明した方が良いかな?じゃあお願いするよ、"アルスシア"」
そう言って少女は、さっきの女に顔を向けた。"アルスシア"、それが女の名前のようだ。そしてあかばが気絶させられてから今に至るまで、細かく説明し始める。
「承知致しました。あなたが気を失った後、さろあ様が到着されました。もちろんさろあ様は刀を抜いて、こちらに向けてきました。・・・ですが我々の目的を伝えたところ、刀を鞘に納めてくださったのです。もちろん、さろあ様もこの世界にご同行して頂きました。目的を伝えた時と同時に、"無傷"と"目が覚めるまでの監視"を条件にしておられたので」
そこまで話し終わると、壁にもたれかかっていたさろあがこちらに近づき、口を開く。
「まぁ、大体そういう事だ。もちろん強引なやり方を容認した訳では無いが、丁重に扱うと言っていたからな。今丁度言っていたが、俺はこいつらが変な気を起こさないように監視をしていたという事だ」
そしてさろあは、アルスシアと少女の方を向く。
「ちゃんと言っていた通り、あかばが無事だったな。だからそろそろ本題に入れ」
その言葉は、どこかプレッシャーのある言い方で放たれた。でもアルスシアが気を引き締める様子を見せながらも、少女は平然と反応する。
「え~?こっちとしては本題に入ることは良いんだけど、きっとまだあかばは状況も吞み込めていないし、それにきっと納得もいってないでしょ?だからそれは明日にする!今日はここを色々紹介させてよ!」
少女の提案に、さろあは一瞬視線をあかばに送り、少し悩む素振りを見せて了承する。
「やったぁ!じゃあ決まり!早速案内してあげ・・・あ、そういえば自己紹介してなかったね!」
そう言って少女は、あかばの前でクルっと一回転して、可愛らしく名乗った。
「私は"しろ"!今はこのお城の王様をしてるんだぁ!」
少女の自己紹介は一瞬で終わったが、あかばはいくつか疑問に思った事を口にした。
「お城?王様?」
「うん!気づかなかった?ここはおっきなお城の中なの!そして私は、このお城の、この国の王様なの!」
あかばは一度、周りを見渡してみる。確かに普通の民家にしてはこの部屋だけでも大きいくらいだ。それに誇り一つないくらい綺麗な状態が保たれているようだ。
「きっとご警戒されているでしょう。無理もありません。ここに来てほしかったとはいえ、やり方が強引過ぎましたからね」
アルスシアが付け加えるように言葉を発する。あかばが気絶させられた時のあの戦いの雰囲気は、もう一ミリも放出されていない。むしろ表情は凄く申し訳なさそうな感じで、あかばの顔を見れてすらいない。
「確かにそうだけど、大事なのはここからどうイメージを払拭させるかでしょ?だからアルスシアも一緒に案内するよ!」
そしてしろは、あかばとアルスシアを強引なくらいに連れて行き、この部屋を後にする。さろあは三人についていこうとはせず、一人で色々とこの城を見て回るようだった。あの二人を安全だと確認できたようだった。
「ここはキッチンだよ!ここではお城の皆の分のご飯を作ってるんだよ!ちなみに、ご飯を作ってくれるのはメイドさん達だよ!」
「メイドさん?」
あかばが首を傾げる。何故ならここにはメイドらしき服装の人物はおろか、あかば達三人しかいないからだ。
「いつもは誰かここにいるのですが、本日はあかば"様"が来られた特別な日ですので、違う部屋に集合させております。後々向かいますので、お楽しみください」
「わ、分かったけど・・・なんで僕に"様"付けしてるの?」
「アルスシアの癖みたいなものなんだよね!あんまり気にしないであげてね?」
食堂の紹介が終わり、次の部屋に向かう三人。あかばも少しだけ警戒を解いているようだった。
次に案内されたのは、長めの廊下が続く場所であった。しかしそれだけではなく、横を見ると、壁だと思っていたところに、実はいくつも扉がある事に気が付いた。
「次はここ!ここはお客さんやお城に住んでいる人、そしてメイドさん達のお部屋兼寝室だよ!本当はメイドさん達一人ずつにお部屋を与えてあげたいんだけど、数が多くてそれができないんだぁ。だからメイドさん達には、一部屋五人づつで生活してもらってるの!もちろん窮屈じゃない大きさだよ!」
部屋の数は、見ただけでも廊下の先まである。一体どれだけの人数がいるのだろうか。
「部屋の数は正確には数えていませんが、少なくとも10は超えていますね。一応、一人一部屋使える場合もあります」
「アルスシアがそうなんだけど、一人でお部屋を使ってるんだよ!アルスシアは私の護衛みたいなものだから、装備とかきちんとしたいと思って!もちろんアルスシアだけが一人一部屋を使ってるわけじゃないからね!空き部屋も一応あるんだから!」
それを聞いて、一体どれくらい部屋の数があるのか、正確に調べたくなってしまったあかばであった。でもそれは叶わず、廊下の先に到着し、扉を開けて次の場所に向かう。
「さてさてお次は食堂でーす!すっごく長いテーブルでしょ?私たちはご飯を食べる時、みんな一緒に食べるんだよ!正直言うと、机の端から端まで全員の顔は認識できてないんだよねぇ」
「ここには、先程紹介したキッチンで作られた料理が、メイド達によってここまで運ばれてきます。どれも絶品ですよ」
「そうそう!全く飽きないし、全部美味しいの!」
そして長い長い机の横を進み、次の扉まで向かう。アルスシアが扉を開け、二人が入るのをエスコートしている。
次に目に入ったのは、特に何か小物や机などは置かれていないものの、横の壁が一面ガラス張りになっている空間だった。
「ここは自由スペースだよ!ここで日向ぼっことかしたら最高なんだよ!」
「多くは、休憩スペースとして利用する者が多いですね。椅子はありませんが、よく手の空いたメイド達がここで談笑していますよ」
あかばは、自分もここで休憩している姿を想像してしまっていた。もうすっかり警戒心は無い様だ。
「次は最後になるよ!まだまだ紹介してない所はあるけど、いっぱい歩いたら疲れちゃうでしょ?それに他にも理由があるんだ!」
そう言ってしろは待ちきれないように次の扉の前に行く。その扉は今までよりも一回り大きかった。
「やっとここを案内できるよぉ!さぁ早く入って入って!」
そうしてしろが大きな扉を両手で開ける。
そこには、先程から存在が出ていたメイド達が待機していた。思っていたよりも数が多い。ざっと見ても20人はいる。
「「「「お待ちしておりました、あかば様」」」」
メイド達全員が一斉に挨拶する。そしてしろが一歩前に出て、あかばの方に体を振り向かせ、こう言った。
「改めてようこそ!私の住む国、"闇の国"へ!!」