【変点の章第一話 ―闇の国―】
しろが言った言葉"闇の国"。これがこの世界の・・・いや、この国の名前だった。
「闇の国?」
「そう!ここは闇の国だよ!すっごくいいところなんだよ!ちなみにここは王の間だよ!とっても広いでしょ!」
そうは言われても、あかばはどうしても疑問に思う。"闇"、それは悪い事とか、悪いものの表現として使われる事が多い。それはあかばも例外ではなく、簡単に呑み込めるものではない。
「あーー!今、闇の事悪く思ったでしょ!!」
なんと、しろはあかばの考えを見抜いてしまう。少し怒ったような口調になるも、心の底では怒りは感じられない。
「闇はね!全部を包み込んでくれるんだよ!確かに悪いイメージとかあるけど、ここでは違うんだから!」
とりあえず、ここでは闇は悪いものではないという事なのだ。しろは更にその説明をしようとしたが、アルスシアがそれを止める。
「しろ様、本日の目的はそちらではありません。顔合わせですよ」
それを聞いたしろは、ハッとしてすぐにあかばに謝る。
「ご、ごめんね!闇に関しては私、とーっても詳しいからつい・・・」
しろはコホン、と気を取り直して、メイド達を紹介する。
「えっとね!さっきも言ったけど、ご飯とか身の回りのお世話とかしてくれるメイドさん達だよ!本当は全員紹介したいんだけど・・・それをしたら朝になっちゃうよ!」
そう、実はあかばがここで目を覚ました時間帯は、丁度夜が始まったくらいの時間帯だったのだ。
「だからとりあえず、メイド長とメイド長補佐の二人だけ紹介するね!」
そう言ってすぐ、横一列のちょうど真ん中二人のメイドが一歩前に出る。そして一人は明るく、一人は礼儀正しく挨拶する。
「どーも!メイド長のアイカです!これからよろしくお願いしまーす!あ、呼ぶときはアイカかメイド長のどっちかで!」
「メイド長、もう少し律儀に・・・はぁ、申し訳ありませんあかば様。私はメイド長の補佐を担当しております、サキと申します。御用の際は何時でもお呼びください」
そしてまた一歩下がり、完璧な横一列に戻る。その所作は一部の隙も無いように整えられているのが良く分かる。
「どぉ?まずは二人を覚えてね!まだまだメイドはいっぱいいるけど、この二人のどっちかに言ってくれれば全員のメイドを動かせるから!」
一通りの説明が終え、しろはメイド達に「戻って良いよ~!」と言うと、メイド達は綺麗にそれぞれの場所に戻っていく。多くはキッチンや部屋に戻っていったようだった。
「さてさて、これで大体今日のやることは終わったよ!あかばが聞きたいことはいっぱいあると思うけど、また明日にしてほしいな!じゃああかばが寝る部屋を案内するからね!アルスシア、頼んだよ~!」
そしてしろは、先に走って扉を開けて、恐らく違う部屋に移動したらしい。アルスシアはというと、すぐにあかばを寝室に案内しようと動く。
「あかば様、お身体もまだ休み足りないでしょう、すぐにお連れ致します」
アルスシアはあかばをエスコートするように案内する。しかし向かう場所は先程しろが出て行った後ろの扉ではなく、この王の間の奥だった。あかばが見ても、玉座一個しかみあたらないが・・・
「あかば様、こちらです」
その言葉を聞いたあかばは、アルスシアが示す玉座の先を見る。
そこにあったのは、壁の色と重なってよく見えないが、確実に人が余裕で通れる扉だった。
「驚かれましたか?玉座はこの部屋を正面から隠すフェイクのように配置してあります。ここは、基本的には王の部屋です。ベッドだけでなく、作業する時の為に机や椅子、その他諸々の家具等が置かれています。」
アルスシアの説明に、あかばは当然の疑問を投げかける。
「え?じゃあ、あの子が使うんじゃないの?」
やっぱり質問されたか、というアルスシアの表情。しかし当の本人もあんまり分かっていない様子だ。
「そうなのですが・・・しろ様本人が、"あかばの部屋はここね!"とおっしゃっていましたので・・・」
詳細は分からないが、きっと何か事情があるのだろう。あかばはひとまずここの扉を開け、アルスシアと共に部屋に入る。言われた通りの物が配置されているのが目に入ってくる。
「もう夜も更けてきました。本日は何の予定もありませんので、ここのベッドでお眠りください。罠ではありませんので、ご安心を」
そうしてアルスシアが部屋から出る時、一瞬止まった。そしてあかばを振り返ることなく、話しだす。
「あかば様、目的の為とはいえ、あんな事をしてしまい、申し訳ありませんでした。本当はあなたを傷つけたくなかったのですが・・・想像以上にお強かったので、少々手荒にならざるを得なかったのです」
そして振り返り、あかばに向かって頭を下げる。
「私にできる事ならば、何でも申してください。そして・・・ご無礼をお許し頂きたいのです」
それを聞いたあかばは、キョトンとしていた。何故自分に謝るのか、確かに気絶させられたが、それでもここに来てから悪いことは一つもされていない事も事実だ。今はただ、この人達を少しずつ信じているのだ。だからあかばは、もう怒っていないし、謝罪なんてものも頭になかった。
「か、顔を上げてください!確かにあれはちょっと急だったし、ちょっと怖かったけど・・・少なくとも今のあなたに敵意は感じないですし、それどころか丁寧に案内してくれて・・・だからもう怒ってませんし、何もしなくても許してますから。だからその・・・これから仲良くしていきましょう?」
あかばの言葉は、アルスシアにとっては意外なものだったのかもしれない。何故なら、顔を上げたアルスシアの表情は、驚きと感激で変な表情をしていたからだ。
「わ、私をお許しになると言うのですか?し、しかも何も無しで?・・・貴方は・・・貴方というお方は・・・」
少しだけ顔を下に向けた。あかばには分からなかったが、嬉し涙を必死に堪えていたのだ。
(似ている・・・しろ様と同じように、無礼を無礼と思わず、罰や仕置き等を一切好まない感じが。まさかしろ様はここまで・・・)
アルスシアが考えに耽っている時、ふと我に返って、再び顔を上げてあかばの顔を見る。そこには涙一つ感じさせないさっきまでのアルスシアそのものの表情だったが、うっすらと柔らかくなった感じがする。まるで重荷が取れたように。
「失礼致しました。お許しいただき、誠に有難うございます。それではあかば様、明日の朝にまた、ここに参ります。よい眠りを祈っております」
そしてアルスシアは、今度こそ部屋を出て、扉を音を立てずに閉めた。そしてアルスシアも、自分の部屋へと戻っていく。
「そういえば、しろ様は一体どこへ・・・いや、今日は確かあかば様を案内した後は寝るように言われていましたね。心配ですが、メイド長に一応しろ様がまだ寝ていないかもという事を伝え、睡眠を取ることにしましょう」
独り言を呟きながら、メイド長を探して心配事を伝え、部屋に戻っていくアルスシア。彼女の一日はこれで終える。
しかしその頃、当の本人、しろはというと―――
「やぁっと見つけたよぉ。やっぱりここにいたんだね」
しろがいたのは、城の中から少し出た城壁の上、そしてそこに同時にいた人物・・・
「お話しようよ、あなたも二人きりで話したいからここに来たんでしょ?・・・"さろあさんっ?」
「・・・」
さろあはゆっくりとしろの方を向く。あかばを案内している間、どうやらさろあも色々この城を見ていたようで、最終的にここで待機していたらしい。まるでしろが来る事が分かっていたように。
「・・・そうだな、色々聞こうか、闇の女王しろ。まず聞きたいのは一つだ」
そして、さろあの雰囲気が少しだけ重くなる。
「"何故"今"、この世界に連れてきた?」
この世界は、思っていたより複雑で、深い深い闇が隠れている。これはまだ、入り口に過ぎないのだ。