さろあとしろの会話が、少しだけ重くなる。いや、さろあが少しの圧をかけているような感じだ。
「何故"今"かって?何となく分かってるんじゃない?私に聞かなくてもさー?」
「何となくだがな。だが、お前の口から聞きたいんだよ。何処まで知ってるのかをな」
警戒というより、探り合いをしているような会話だった。そしてしろが語り始める。
「いいよ、あかばとアルスシアは眠ったみたいだし教えてあげる。まずはそうだねぇ、二人の一個前の世界、"カギリナシ"の事が一番大きいかなぁ。今までにない感じだったじゃん?それはさろあも感じてたんじゃない?」
さろあは表情を変えずに、ただコクリと頷いた。
「やぁっぱり!それでね、私はそれがあったから、早めにあの世界を捉えることが出来たの。さろあは知ってると思うけど、"闇は全て知ってる"からね~」
「・・・いや、だからこそなんだよ。流石に早すぎるんじゃないのか」
その言葉に、しろはちょっと考える素振りを見せた。
「うーん、でもあのまま介入しなかったら、良くない気がしたんだよね~。闇の勘ってやつ!」
しろ自身も、これが最適解という確証はなかったという。そして今度は、しろがさろあに質問するようだ。
「ところでさ、さろあは全部知ってるんでしょ?あかばに何処まで話したの?」
その答えを、さろあは無言という形で返した。でも、しろはそれで理解したらしい。
「その感じ、まだ全く話してないね?もぉ!もしかしたら、そんなに悠長にしてられないかもだよ?」
「分かってるさ。・・・お前はどうする、やはり闇の事を話すのか」
「うーん・・・そのつもりだけど?てか今更だけど、私たち初対面の筈なのに、どうしてこんなに知り合いみたいに話してるんだろうねぇ?さろあ?」
しろの言葉は、さろあをからかっているようだった。疑問を投げかけても、その答えを知っているような表情だ。そして、それを言われてもさろあは何も動じない。
「ふん、闇は全てを知ってるんだろ?それが答えだ。俺だって、闇くらい知ってる」
その答えを聞けたしろは、大満足のように大声で笑った。
「あっはは!確かにそうだね!でもやっぱり、こんな展開は初めてじゃない?こんなに早く私たちが関わるなんてさ?」
「・・・ああ、そうだな。"本当はもっと先だったのにな"」
さろあの意味深な言葉を、しろは当たり前のように頷いている。二人の間には、何か共通の繋がりか、それともシナリオがあるのか。
「まぁ今日はもう寝よっか。そろそろメイド長が私たちの事を見つける頃だし」
そして、しろはすんなりと城壁の上から城の中へと下っていく。まるで何もなかったように。さろあも、怪しまれないように後ろをついていく。
そのタイミングで、しろが言った通りにメイド長と出くわす。
「しろ様!やっぱりまだ起きてた!一体どこに行って・・・ん?もしかして、さろあ様を呼びに行ってくれていたのですか?」
「そうそう!あれからどこ行ったか分かんなかったから探してたんだぁ!」
そしてしろは、片目を瞑ってさろあに目配せする。"話を合わせて"と。
「・・・ああ、この城が大きかったもんでな。勝手に見物してたら迷っていたらしい」
「まぁそうでしたか!それはご迷惑をおかけしました!そろそろ夜更けですし、寝室までご案内致しますね!しろ様も、早く寝なきゃダメですからね!」
どうやらメイド長に疑われずに済んだようだ。これもしろの無邪気さあってのお陰か、全く嘘だと思われていないらしい。
―――そしてさろあは寝室へ、しろはあかばが眠っている、しろの部屋へ向かう
「ふふふっ、ちゃんと寝てくれて嬉しいなぁ。心をちょっとでも許してくれてる証拠だしねっ!」
しろはあかばが眠っているベッドに忍び込み、違和感がないくらいに隣で自分も寝始めた。
「明日はちゃんと説明してあげるからね」
そんな言葉を最後に、しろの瞼が閉じていく。
一方さろあは、案内された寝室で横になりながら思考を巡らせていた。
(この先、一体どれだけの脅威が、天使が、どれだけの数が同時に来るんだろうか。いや、そもそもカギリナシのアレが極端なだけで、他は正常なのか?)
考えても考えても、一向に答えは出ない。浮かんでくるのは更なる疑問と、心配な気持ちだけだった。
「いいや、今はあかばをどうにか守る事を考えなくてはな。俺が迷ってたら、きっとあかばも迷ってしまう」
そしてさろあも、ゆっくりと瞼を閉ざしていく。あかばの為にも、決して弱みを見せないという決意を抱えながら。
―――鳥の鳴き声が聞こえる。どうやら朝になったようだ。意識が浮上し、あかばはゆっくりと目を開ける。・・・目の前に飛び込んできた映像は、すぐ隣で、しろが目を開けてニコニコとあかばを見ている様子だ。
「・・・うわぁーーーっ!?」
何も知らないあかばは、びっくりするのも当然である。
「おはよー!先に起きちゃったから寝顔見てたんだ!びっくりさせちゃってごめんね!何も変なことはしてないから、安心して!」
「う、うん・・・」
徐々に状況を呑み込んでいくあかば。二人はベッドから降り、部屋を出ていく。すると、出てすぐにアルスシアが待機していた。
「おはようございます。しろ様、そしてあかば様・・・眠れたようで何よりです」
「うんうん!あかばはちゃあんとぐっすり寝てたよ!」
「・・・しろ様、あまり人の寝顔は覗くのは、良くありませんよ」
アルスシアはちょっとだけ困ったようにしている。多分これが日常なのだろう。
「そうだ!朝ごはん出来てる?あかばの分もちゃんとあるよね??」
聞かれたアルスシアは、スッと雰囲気を整えた。
「はい。先程、メイド達が物凄く張り切っていますので、きっと豪華な朝ごはんでしょう」
すると、アルスシアがあかばとしろを導くように動く。
「さぁ、食堂に向かいましょう。さろあ様も既に待っておられますよ」
そしてアルスシアの案内のもと、食堂へと入っていく。そこには、朝ごはんと言って良いのか分からない豪華な料理や、座って待っているメイド一同、そしてさろあの姿があった。しかも、さろあが座っているのは、三人が座るであろう空いている席の隣だ。
「・・・来たか」
さろあは一言だけ発して、微動だにしない。あかばはアルスシアに案内された席に座る。しろとアルスシアも席に着いた。
「さて皆様、本日も良い一日にしましょう」
皆で手を合わせて声を揃える。
「「「「いただきます」」」」
皆がご飯を食べ始めていく。あかばはどうやら緊張しているみたいだった。マナーについて不安なのだろう。でも見てみると、誰もマナーを気にしてはいないらしい。メイド達でさえも、小さい声だが談笑しながらゆっくり食べている。ようやく、あかばも一口食べる事にした。
「・・・お、美味しい」
その声を聞けたしろとアルスシアの表情が緩む。
「でしょでしょ!もっと食べて良いんだよ!」
「お口に合ったようで何よりです」
一方、さろあはまだ食べ始めていなかった。目を閉じて、ただじっと座っているのだ。
「さろあさん?食べないんですか?」
あかばが心配で声を掛けた。しかし同時に、あかばはとあることに気づいた。
「そういえば、さろあさんがご飯を食べてるところ、見た事無いかも。さろあさんって、ご飯食べない人なんですか?」
そのまま聞いてしまった。さろあは目を開け、あかばの方を見る。そしてゆっくりと口を開く。
「・・・そうだな、食べろと言われれば食べるが・・・俺は食べなくとも生きれるからな」
「えっ!?そうなんですか!?」
驚くあかばは、それでも勿体ないと言わんばかりに料理を見つめている。
「・・・別に普段は食わんが、折角用意してくれたからな。頂こう」
そしてさろあが、料理を口にした。これで全員がご飯を食べている状況になった。とても和やかな雰囲気が広がっている。
―――それから30分程後、全員が食べ終わり、メイド達が片付け作業を終わらせていた。
「食べてくれて良かったぁ~」
しろがニコニコしながらあかばに近づいている。何の警戒心もない仕草だった。
「じゃあそろそろ良いよ。あかば、聞きたいこと・・・あるんでしょ?
突然だった。あまりにも突然、本題に入ったようだった。あかばも気を引き締め、冷静に聞きたいことを整理する。
「・・・じゃあ聞きます。何で僕を、この世界に連れてきたんですか?
その質問を聞いた瞬間、しろの表情が、ちょっとだけ真剣な表情に変わった。
「うんっ。やっぱり一番気になるし・・・これを聞かないと本当に信用してもらえないよね」
そして一歩あかばに近づき、目的を語り始める。
「あかば、君に・・・"闇の継承者"になって欲しいの」
これから語られる内容は、この先重要なものになっていくのかもしれないと、あかばは覚悟しながら言葉を待つのだった。