「闇の継承者?」
あかばの表情に驚きが混じる。想定した答えのどれでもない、見知らぬ角度からの目的を告げられたからだ。
「そう、闇の継承者。それに、君がなってほしいんだ」
「な、何で僕が?・・・この世界の人間じゃないし・・・まだ全然意味が分からないよ」
戸惑うあかばを待たず、しろは続ける。
「あかば、君の中には、まだ君の知らない才能が溢れてる。その中で君は、闇に関しては誰よりも才能が・・・いいや、もはや闇そのものみたいな感じでさ。正直君以外の適任はいないんだよね~」
まだやっぱり納得できないという風に、あかばはしろに強く問う。
「君の言いたいことは分かったよ。でも、でもなんでなの?君はまだ生きてて王様なんでしょ?それに、この世界に生まれてない僕が継承者になったとしても、本当にそれで満足なの?」
「・・・そんなこと気にしてたんだね。あかばはやっぱり優しいね」
そしてしろは、真剣な表情からふんわりと雰囲気を戻した。
「そこは気にしなくて大丈夫だよ。重要なのは、闇を理解できるかどうかだもん。・・・それに、この世界は多少複雑なんだけど、その環境も、あかばなら大丈夫なんだ。今は分からなくても、これから絶対知ることになるから」
「で、でも・・・」
あかばは道を見失ったような不安そうな目で、さろあを見つめた。自分一人では分からないのだろう。
「まぁ、いいんじゃないか。一応、まだ教えるつもりは無かったが、いつかは教えるタイミングが来た。それが少し早まっただけの話だ。それに、俺以外にも仲間と呼べる存在は持っておいた方がいいからな」
それは、さろあから答えられた、明確な肯定の言葉だった。あかばは驚いた表情を見せたが、同時に覚悟を決めたような目になる。
「分かりました。さろあさんが言うのなら・・・僕はこの世界で、闇の継承者になります」
さろあに対する絶対的な信頼が見えてくるようだった。あかばの答えに、しろはニッコリと笑みを浮かべた。
「ほんとぉ!?やったやった!ありがとうあかば!!」
しろは興奮したようにあかばに飛びつき、じゃれつくように頬を擦り付けた。
「ちょっ!?ちょっとなにぃ!?」
あかばはビックリして、素っ頓狂な声を上げるも、悪意は感じないので抵抗はしなかった。
しばらくして、しろのじゃれつきが終わって、立ち位置が戻ってから再び話を戻した。
「それでね、闇の継承者の事なんだけどね、別に儀式が必要とかは無いんだよっ。その代わり、今から徐々に闇についての知識をつけていこうね!」
「そ、そうなんだね。僕、頑張ってみるよ。・・・それと、しばらくはこの世界にながら勉強するって解釈で良いの?」
「うんっ!ちなみに私も教えるけど、アルスシアだって十分強くて、闇も才能があるから、二人で教えてあげるね!」
アルスシアが少し自信のなさそうに、それでも真面目に肯定する。
「はい、教えるのはあまり得意ではないのですが・・・私視点の事でしたら、喜んでお教えいたします」
そしてさろあも、あかばの頭を一回ぽんっと触り、心配をさせないように言う。
「大丈夫だ、俺も闇の事は深く知っている。二人に聞いても分からないことがあれば、いつでも聞け」
温かい雰囲気に包まれたあかばの表情から、心配がちょっぴりなくなったようだ。これから、あかばの新しい修行が始まるのだ。
―――次の日、闇の勉強と修行が始まった。といっても、あかばは闇について何も知らないので、一から教えていくようだった。
「じゃあまずは闇についてなんだけど、使う方法がちゃんとあるんだ!魔力は知ってるでしょ?闇は魔力とは別のもので再現することができるの!
「魔力とは別のもの?」
「うんっ!それはね、見てもらった方が早いかも?」
しろは右手の人差し指を立てて、その指先に意識を集中させている。すると、指先に黒くて小さい渦が現れた。これが、"闇の再現"というらしい。
「す、すごい・・・でも、一体どんな力でこれを出してるの?」
そりゃそうだ。本来あかばには魔力は無い。でも、魔力以外の力もまた知らない。
「ふっふっふ、それはね~、自分自身の闇だよ!」
「自分自身の闇?ど、どういうこと?」
しろは一度、闇の渦をふっと消して、再び話し始める。
「まず闇っていうのはね、決して悪いものじゃないの。これはちょっとだけ言ったよね。闇って言うのは、誰の心にもあるもので、それを認識せずに過ごしている人が多いんだ。でも、中には意識できる人もいる。そしてその闇を理解して、この世に解き放ってあげるんだ。それが、闇の再現条件だよ」
つまり、闇の再現には、自己対話・・・自身の闇を認識し、理解し、受け入れてからようやく再現できるという事なのだ。
「僕の・・・闇・・・」
あかばは目を閉じて、意識を自分の体の中へと向けてみた。何も分からない、分かるのは心臓の鼓動だけ。あかばが目を閉じている間は、しろも、アルスシアも話しかけなかった。これが大切なのを分かっているかのように。さろあも、また無言だ。
まだ何も分からない。まるで瞑想状態のまま、じっと感じ続けている。
―――その時だった。
「ん・・・」
無意識になった時、小さな、本当に小さな声が、自分の体から聞こえてきた。
(・・・・・なんで・・・・・)
(・・・・なんであんな・・・・)
(――――――なんであんな事になったんだ!皆死んだ!!目の前で!!――――――)
心の闇が意識に流れ込んでくる!!!
(許せない!許せない許せない!!何で皆が死ななくちゃいけなかったんだ!!!)
その時、しろが叫ぶ
「その声に吞まれないで!どれだけ悪い感情でも、受け入れてあげて!」
その声は、自身の闇と対峙しているあかばの心に、確かに届いた。
(そうだよね、とっても悲しくて・・・辛くて・・・全部恨んじゃうよね)
少しずつ、闇と向き合っていく。闇を晴らすのではない。闇が悪ではないという事を教えられたあかばが、初めて自身の闇を認識し、受け入れていく。
(もう抱えなくて良いよ。頼りになって、助けてくれる人がいる。だからもう・・・一人で闇を背負わないで)
(・・・・・・"きっと大丈夫"・・・・・・)
その瞬間・・・荒れていた心が、まるで救われたかのように静かになった。そしてあかばにあるのは、自身の闇を受け入れたという実感と、迷いのない"闇の使い方"だった。
「ありがとう、ちゃんと声・・・届いた」
あかばがゆっくりと口を開き、言葉を紡ぐ。
「分かったよ、闇の使い方。今だったら、闇を再現できると思う」
その言葉を聞いたアルスシアは驚きを見せる。
「ほ、本当ですか?闇を認識し、受け入れ理解することですら、常人であれば難しい・・・それをこんな短時間で、しかも使い方まで理解したと言うのですか?」
「ねぇねぇ!じゃあ試してみようよ!さっき私がやったみたいに、ちっちゃな渦を出してみて!」
言われた通り、あかばは人差し指を立て、指先に意識を集中させる。そしてイメージし、心の闇をそこへ押し出す感じで渦を発生させる。
「・・・できてる・・・よね?」
アルスシアの表情は更に驚き、しろは満面の笑みで頷く。
「うんっ!完璧だよぉ!!二日はかかると思ったのに、もうできちゃうなんて!やっぱりあかばは闇の後継者にふさわしいよ!!!」
「・・・本当に不思議です。たったの数分で・・・」
あかばの成長は確実なものとなって、新たな力を手に入れた実感が湧いているようだ。でも、それだけでは闇を本当に理解しているとは言えないらしい。
「じゃあ今日はもう一つ教えてあげるね!それはね、光と闇について!!」
しろの楽しそうな声とは裏腹に、さろあの目が、しろを一瞬見つめ、すぐに逸らした。何かあるのだろうか。
「それを今・・・言って大丈夫なのか」
静かに、だが確かにさろあが口を開いた。それはまるで警告のようだった。
「んー・・・やっぱり教えた方が分かりやすいと思うんだ!」
「・・・分かった、問題はないだろう」
さろあは何かを確認できたかのように、あっさりと認めた。
―――そして、これからしろが話す光と闇の話が、しろ本人の秘密にもつながる事になるのだった。