―――善とは何か?悪とは何か?誰しも考えた事はあるだろう。そして、言い訳にもしただろう。なら一体何が善で、何が悪なのか?きっとこれだけでは分からない。でも、それでも一つの意見として参考にできるだろう―――
「この世には善と悪っていう概念があるよね。それは当然のように、人間なら皆が知ってる。・・・でもね」
「―――それは人間が考えただけの産物なんだよ」
その言葉に、あかばは目を見開いて困惑する。アルスシアは動じず、さろあは当然だというように何も言わない。
「そ、それって、この世には善も悪も無いってことなの?」
恐る恐る聞くあかば。でも、しろの口から出てきた答えは、あかばが想像していたことよりも少し違った。
「"人間が考える"善と悪はズレてるってだけだよ!!善と悪自体はあるんだよぉ!!」
「そうなの?じゃ、じゃあそれって一体・・・何?」
すると、しろから初めて聞く単語が出現する。
「それはね、"宇宙"にとっての善悪だよ」
宇宙にとって。規模が大きすぎてまるで分からない。思考が追い付けずにいると、順を追って説明してくれた。
「正確に言えばね、宇宙のってよりかは・・・"神が定めた"善悪なんだけど、それは今は分からなくて大丈夫。えーっとね、人間の考える善悪っていうのはね、執着や淀みのせいで、都合の良いものに変わっちゃったんだよねぇ」
それは、あかばにとって、どれもこれも初耳だった。順を追ってくれているので、一生懸命聞いて理解しようとしている。
「じゃあ僕が知ってるような善悪って、あんまり参考にならないってこと?」
「そういうこと!そして次が重要な、"神が定めた"善悪についてだよ!!」
しろが真剣な表情になり、あかばの目を見て話し始める。このタイミングだけは、一切おちゃらけないようだ。
「その善悪はね、"生きれる限り生きること"、"邪魔をしないこと"、"逃げ出さないこと"。この二つのうち、どっちか一つでも破ると、悪になっちゃうんだ。」
「え?ど、どういうこと?」
あかばが疑問を浮かべるのは当然だ。急に何を言っているのか、全く分からないからだ。だが、しろは難しそうな表情になって、こう言った。
「全部教えても、きっとまだ分からないと思うんだ。だから、一個だけ・・・"生きれる限り生きること"を説明するね」
「これは簡単に言うと、"自殺してはいけない"、"心から諦めない"ってことなの。どれだけ辛くても、どれだけ嫌でも、生き続けなくちゃいけないってことなんだぁ。」
その言葉自体はとても簡単だった。でも、生きている環境によっては、とてつもなく苦痛なことなのだと、あかばは考えてしまう。
「なら僕は幸せだな。そんなこと一回も思ったことないから。・・・他の二つは、いつか教えてくれれば・・・ううん、自分で分かってみせるよ」
あかばの感想とも言える言葉を聞いた時、その場の三人には僅かな笑顔が浮かんだ。一歩さろあがあかばに近づき、安心する雰囲気で話す。
「そうだな、自分で分かるようになるならそれでも良い。でも、俺達がいるってことを忘れるな。いつだってお前の味方だ」
「―――っはい!!もちろん忘れないです!!」
こうして、光と闇、善と悪の勉強は、一旦の終わりを迎えた。気が付くと、もう外は暗くなっている。良い匂いが、あかばの鼻を掠める。メイド達が晩ご飯を作ってくれているので、食堂に向かってご飯を食べる。これからこの光景が、日常となって、かけがえのないものになっていくのだろう。
―――時は同じく、見知らぬ場所。
「一体あかばは何処にいったんだい?どこを探しても見つからないじゃないか~」
「しょうがないでしょ?いつの間にか"道の先"がズレたんだから」
今話している二人。"ワカイ"と"セイナ"だ。ここは天使が集う場所のようだが、ここには合計で"五人"しかいない。その中の一人、眼鏡をかけた銀髪の女が、冷淡に喋り始める。
「分かるまで調べれば良いでしょう。この感じ、恐らく道の先に行くはずだった場所のどこかという事が分かります。さろあの事です。このタイミングでの知らぬ場所は避ける筈です」
そして、その女の体の輪郭から、青い光が発生した。どうやらこれが"調べる作業"のようだ。
「そうだねぇ~。でもここまで分からないんだったら、選択肢は絞られてくるよねぇ?」
ワカイがそう言うと、何か確信があるように名を呼んだ。
「道の先の内の特殊世界。"毎回ランダムで座標が変わる場所"、『闇の世界』」
それに対し、女が反論する。
「あり得ない、それでは早すぎるでしょう。あそこに行ったとして、あかばが成長できる地盤が無いのでは?」
女がワカイにどんどん違う可能性を提示する中、セイナがイラつきながら女に言う。
「"前"までのあかばならね。でも、あいつはあのカギリナシの世界で使ったのよ・・・『あの技を』」
セイナの一言は、女の冷たい表情を崩し、驚かせるデータとなった。ストレスがたまった人間のような素振りで、セイナに問いを投げかける。
「あの技って?・・・まさか『
「使ったのよ。なんかアイツ、明らかに成長速度が速い。ま、カギリナシで道の先をズラしたのは、私が行ったからなんだけど。でも我慢できなかったんだから、しょうがないわよね」
反省していないようなセイナの言動に、女は今にも攻撃しそうな勢いだ。そんな中、ワカイが口を開く。
「あかばが『
いつの間にか二人が静かになっていた。ワカイが続ける。
「きっと道の先のズレを誰よりも早く知り、迎えに行ったんじゃないかなぁ?それにさろあも見つからないし、きっと一緒に行っているね~」
「・・・もしそれが本当なら、どうやってあかばを殺すのですか?さろあがいるならば、我々の勝率は一割も無いですよ」
その女の言葉に、ワカイはニヤリと口角を上げる。
「だから君がいるんじゃないか。あらゆる世界を調べる事は君が一番得意だろう?それに、さろあの事は大丈夫さ。だって・・・」
「―――他の世界を滅茶苦茶にすれば、さろあはそっちに行かざるを得なくなるからね~。そのタイミングで行けばいいよ~」
「だから見つけといてね・・・"チサ"」
それは、女の名前だった。チサはそのまま無言で調べを再開する。あかばの知らない場所で、あかばを殺す準備が、止まることなく進んでいるのだ。
これから何が起こるのか、それはあかばの周りだけが狙われる訳ではない。異世界規模で混沌が始まるのだ。