空間の割れ目から現れた謎の人物は、なんとそのまま空中で浮いたまま、ゆっくりと目を開けた。そして口が開き、あかばとさろあを見下ろしながら言った。
「やぁ、やっとここへの道を開けれたよ~。」
呑気で覇気のない喋り方だった。しかしそんな中、あかばは隣にいるさろあの方を見ると、眉間に皺を寄せながら警戒態勢になっている。
「...目的は何だ」
さろあは空中の人物に少し圧を込めて聞いた。するとその人物はゆらりと地面に着地し、こう答えた。
「おや?君は知ってる筈だが...あぁ、隣のその子の為にもまずは自己紹介からが良いかな?」
そしてその人物はあかばを目で捉えながら名乗る。
「ボクはワカイっていう名前なんだ、覚えておくと良いよ~。」
あかばに自己紹介をしたワカイは再びさろあに目を合わせる。
「それで、目的は何か...だったっけ?」
少しとぼけたようにさろあの質問に戻った。ワカイはまだその場から動こうとしないで、さろあへ言葉を返す。
「そんなの決まってるじゃないか、隣のその子だよ~。」
あかばは何で自分が、と思っていた。しかしその答えはすぐにワカイによって判明することになる。
「さぁ、その子を渡してもらおうか、さろあ?」
その言葉を聞いたさろあは直ぐに「断る」と拒否したが、あかばは何一つ状況が呑み込めていない。それもそのはず、急に来た知らない人に、いきなりそんなことを言われれば誰だってそうなるだろう。
返答を聞いたワカイは全然動じることがなく、むしろ想定内のように振舞っている。
「やっぱりそうだよねぇ~、君からすれば渡したくないに決まってる。」
この言葉を言った直後だった。ワカイは雰囲気を崩しちゃいないが、明確な敵意を纏い始めた。
「じゃあ、力ずくで連れて行くよ~。さろあにその子を守れるかなぁ~?」
ワカイがその言葉を言った直後だった。あかばへと一瞬で距離を詰め、手を伸ばしている。その手には何か黄色い光が纏われており、あかばの眼前まで迫る。しかしその手があかばに届くことはなかった。
「...させるかよ」
警戒態勢だったさろあが、ワカイの攻撃を防ぐように間に入り、あかばを少し後退させて安全圏を作り上げる。その状況にワカイは面白がっている。
「へぇ~、やっぱり通じないかぁ。流石と言ったところだね」
ワカイは後ろに飛び、さろあと少し距離をとった。もちろんまだ敵意は消えておらず、さろあは次の攻撃に備えている。
その時、さろあが先に動く。
「...ヤバくなったら逃げろってさっきお前に言ったが...予定変更だ。今すぐここから離れるぞ」
さろあがワカイから目を離さずにあかばに伝えた。そしてあかばもこの状況を理解しているようで、内心悔しいが自分では足手まといだと思ったのだろう。
あかばは「はい」と頷き、さろあの行動を待っている。
しかしそれを素直に許すワカイでもなく、新たに距離を詰めて今度はさろあに直に襲い掛かる。
「それをさせるとでも?甘いんじゃないかな~」
ワカイは余裕そうにさろあに攻撃して妨害する。
だがそれは、さろあにとっては想定内だった。さろあはワカイの攻撃を受け流しながら、どうやったのか一瞬の時間であかばの後方に別世界へのポータルを作った。
そして目配せするようにあかばに「先に行け、その先はまだ安全だ」と少し早口で伝えた。
「はっはい!」あかばはさろあを信じ、直ぐにそのゲートに飛び込んだ。
「そう簡単にいくと思ってるのかな~?」
ワカイがさろあへの攻撃の合間を縫うようにポータルに向かって光の遠距離攻撃を放つ。その攻撃があかばに届く直前にさろあがそこに一瞬で移動し、攻撃を蹴りで相殺するとともにポータルを閉じた。
ポータルが無事に閉じ、あかばが別の世界へ逃げ込んだのを目にしたワカイは、一気に敵意を消した。
「はぁ~つまんないの。もうあの子が逃げちゃったら今ここで無駄に戦う必要なんてなくなっちゃうよ」
そう言ってワカイは何故か談笑の雰囲気になってしまう。
「ねぇさろあ、キミは確かに強いけどさ、それだけじゃあの子、守り切れないよぉ~?まぁ、ボクは狙う側だけど」
その煽りのような言葉を聞いてもさろあは動じることはない。
「ふん...余計なお世話だ。それにあいつはこれからどんどん強くなる。」
それを聞いたワカイは、ぷぷっと笑いをこらえられなかった。
「あはは!面白いことを言うね~!そんな確信どこでついたんだい?まぁ、せいぜい頑張りなよ~。」
そう言ってワカイは笑いながら後ろの空間に割れ目を作り、そこから何処かへ帰ろうとしている。
「ま、いいや。あの子を見るっていう目的は達成したし、しばらくは他のやつに任務はやらせればいっか。」
そして空間の割れ目に入る前、さろあの方を振り向いた。
『果たしてどこまで出来るか、楽しみにしてるよ~』
そう言い残して、空間の割れ目が閉じるとともにワカイは消えた。さろあはまだあかばと合流しようとしない、ただワカイが消えた場所の空間をじっと見つめて何か考え事をしているようだ。
一方その頃・・・あかばはポータルを抜けた先で新しい世界に来ていた。あかばが着いた場所は、完全な森の中だった。周りのどこを見ても木や草で、どこを進んでも迷子になりそうだ。
「ここ、絶対下手に動いたら迷うやつだ...でもさろあさんがすぐに来る保証は無いし...」
あかばがここから動くべきか悩んでいると、近くで草を踏み抜く音が聞こえた。
「だ、だれ!?」
あかばはびっくりたのか、声を大きめに出してしまった。音がだんだんとあかばに近づいてくる。そこで出てきたのは、あかばにとって良い存在...というわけではなかった。
草むらからその姿が出てくる。
「ギャォオオ!!」
大きな咆哮を上げてあかばに敵意をむき出しにするその存在は、人を丸ごと呑み込める程に大きな大蛇だった。あかばの今の装備はさろあに貰った剣一本のみ。
「に、逃げられる状況じゃないし...や、やってやる!」
あかばは恐怖を胸の内に押し込み、剣を取り出して大蛇と対峙する。あかばにとって、初めての戦いが始まる。