「あかばー!!今日もあそぼー!!」
闇の国では、相も変わらず賑やかな光景が続いていた。闇の勉強を継続中のあかばにくっつくように、しろが四六時中見守っているのだ。しかし、闇の勉強と言いながら、実態は闇を使って遊んでいる程度だった。
「きょ、今日はどんなことするの?」
「今日はね~!闇の出力を上げる為にね!渦をだんだん大きくしていくよ!!」
以前の通りに、まずはしろが手本を見せる。今回は指先からではなく、掌から闇の渦を出現させ、それが渦巻く度に大きさが増していくのが分かる。
「こんなこともできるんだね・・・コツとかってあるの?」
あかばの質問に対し、しろは渦を大きくしながら自慢げに話す。
「一気に大きくするんじゃなくて、ゆっくり緻密に広げていくイメージだよ!!闇は能力とはちょっと違うけど、イメージ力が一番大事だよ!!まあ私は何回もやってるから、大きくする速度が速いんだけどね!」
どうやら意外にもしっかりしているようだ。遊びをしているようで、芯の部分はきちんと説明している。
「段々広げていく感じだね、やってみるよ」
あかばは助言通りに、いきなり大きくするのではなく、まずは小さい渦から出現させた。そしてそれを、本物の渦のように勢いをつけていく。
「本当だ!ゆっくりやった方がやりやすいよ!!」
「おおー!!イメージを言っただけなのに、それだけで自分のものみたいに吸収して、すぐできちゃうんだね!!」
やはりあかばのインプット力は底知れ無い様だ。しろのアドバイスのお陰もあるのだろうが、今この瞬間にも、闇を大きくする方法を習得したのだった。そんな中、さろあが二人の元に現れる。
「さろあさん!さっきまでお部屋にいなかったみたいですけど、どこかへ出かけていたんですか?」
「ああ、少しこの城の外を見てきただけだ。別に何かあった訳ではないが、一応確認しておこうと思ってな」
城の外、今まで城内で過ごしてきたあかばは、すっかり忘れていたどころか、しろからは何も聞かされていなかった。さろあの返答に、しろは「あっ!」と声を上げた。この感じは、話すことをすっかり忘れていたようだ。
「すっかり忘れてたー!!あのね!このお城のすぐ近くにね、他の人が住んでる所があるんだよぉ!分かりやすく城下町って言ったらいいかな?お城とは別で、ここら一体に住んでる人の為に必要なの!」
城下町について、何だか駆け足で紹介されている。そんな中で、あかばはちょっとだけ疑問に思った事があるようだ。
「僕、数日お城の中にいるけど、城下町の人は見た事無いし、僕の事も知らないんじゃ?」
それに対し、しろは慌てたように返答する。
「大丈夫大丈夫!!今はそこまで重要じゃないかなって思ってるだけだし、いつか絶対そういう機会があるから!本当に気にしないで!!」
どうやら何か訳アリなのか、もしくは何かを知っているのか。今は分からないが、あかばは気にしないことにしたようだ。
「よーし!それじゃあ休憩!緩急も大事だからね!!」
何事も決めたら即行動する。迷いなどなく教え、行動するその姿勢は、しろの人柄を表しているのだろう。休憩して少し経った頃、さろあが話し出す。
「あかば、お前がこんなに早くここまで強くなるとは思わなかった。何だか無理やり強化させたみたいになってしまったから、心配だったんだが・・・何事も無いようで良かった」
さろあの口からこんな言葉が漏れるのは、あかばにとっては物凄く心温まることだった。言葉を嚙みしめていると、追加で助言をする。
「とは言っても、まだまだ身体の方が強くない。また今度修行をつけてやろう」
やっぱりさろあは、しっかりとした師匠のようだ。あかばの安全や状態を確認しながらも、将来を確実に見つめている。
「はい!もちろんですよ!!もっともっと教えて欲しいですから!」
誰が見ても微笑ましい光景だ。三人から笑みが零れず、着実に力をつけていく少年を中心に、新たな笑顔が増えていく。そう、誰が見ても微笑ましい。
―――しかし天使は待ってくれない。そして手段は・・・選ばない
「!!!」
「・・・」
突然、さろあとしろの二人が、斜め上を見た。そこには天井しかない筈だ。あかばはまるでさっぱり分からない。ただ、二人は同じ方向を見ている。
「あの、どうしたんですか?何かあったんですか?」
あかばは純粋に聞いているだけだ。でも、二人の・・・特にさろあの表情が険しくなっていく。しろは笑顔を無くし、考え事をするような表情になっている。
そして、さろあが口を開く。
「ここじゃない、別の世界が攻撃された。もっと簡単に言えば、別の星の中が荒らされている」
その声質は、今までで一番低かった。声の感じからして、僅かに怒っている事が分かる。
「こ、攻撃?ま、まさかそれって!」
あかばが何か気づいた時に、さろあはこくりと頷く。
「そう、"天使"だ」
徐々にあかばの顔が青白くなっていく。狙いは自分だけだと思っていて、他のものは狙われないだろうと思っていたからだ。
「そんな!い、今すぐ助けに行かないと!!じゃないと・・・その世界の人達が危ないですよ!!」
「・・・ああ、そうだな」
あかばの言葉はごもっともだ。だが、攻撃された世界は、今のさろあにとって一番都合が悪い場所だったのだ。
「今すぐ行きたいのはその通りだ。だが、お前を連れて行けない」
さろあの口から出てきた言葉・・・"連れて行けない"。あかばが聞いた時、言葉が浮かんでこなかった。頭が真っ白になっているあかばに、手短に説明する。
「今まで行けていた世界はな、俺が元々行った事がある世界だ。でも今攻撃されている世界は、まだ行ったことのない世界なんだ。移動自体はできるんだ。だが、その世界にも文化はある、歴史がある。俺が行ったらどうなるかは想像つくだろう。きっと俺を神と崇めるかもしれない、もしくは黒幕だとも思われる。そうなるとどうなるか?・・・その世界に
これでもきっと、細かな部分は省略して話してくれたのだろう。話している最終も、表情には申し訳なさが滲み出ている。世界移動が決して簡単じゃないという事は初めて聞いたあかばだが、ここまでさろあが焦った様子を見るのは初めてで、従うしかなかった。
「分かりました、さろあさん・・・でも、これだけは約束してください」
そしてあかばが、さろあの目を見て願いを言う。
「時間が掛かっても、その世界を助けてあげてください。そして・・・絶対戻ってきてくださいね!僕、もっと強くなって待ってますから!!」
勢いがあり、魂に響く願いだった。さろあはふっと表情を和らげ、迷いなく返事する。
「当たり前だ。これ自体は何度かやられてるからな、修正作業も慣れている。ただ今回は攻撃されている数が多すぎる。見たところ、ざっと10は超えているな。修正の方が時間が掛かるから、すぐには帰れないな。約束してた修行だが・・・当分先だな」
その言葉を言い終えた後、さろあはポータルを開く。そこに入る一歩前、振り返らずに声を出す。
「ここには闇の王であるしろと、あの剣士がいる。並大抵の敵ではあの剣士に勝てないから心配はいらん。・・・恐らく狙いは変わらずお前だ。これは俺をお前から引き剝がす為の手段だ。きっと天使共が攻めてくるだろう」
そしてさろあは、ポータルに最後の一歩を踏み出す。「死ぬなよ」という言葉を残して。