大蛇との戦いはまず、あかばの動きによって始まった。剣の持ち方、構え方はさろあに教えられたもので、初めて実戦で使う。
その為、少なからずぎこちない動きになってしまうが、あかばはさろあに教わった事を思い出しながら大蛇へと突進する。
「やぁっ!」
大蛇が目の前に大きく映る。もちろん恐怖はあるが、それを押し殺し、あかばは剣を横に振るった。
ザクッ!と大きな音が聞こえると、大蛇の腹の部分に切り傷が現れていた。
「よかった!ちゃんと効いてる!」
あかばは束の間の安堵を感じるも、大蛇はまだまだ倒れるわけではない。
「や、やばっ!?」
大蛇の体がうねり、鞭のような攻撃があかばに襲い掛かる。
「うぐぅ!」
あかばは身を捻って避けたつもりだったが、大蛇の体はしなやかに動き、あかばの腹を捉えてしまったのだ。
「い...痛い」
あかばは攻撃が当たった腹に片手を添え、痛がっている。このままでは大蛇に更に隙を晒してしまうことになる。
「まだだ...さろあさんに教わった構えを乱さないように...」
あかばは腹の痛みを堪え、もう一度剣を構えて大蛇に立ち向かう。一方大蛇は先程から動きが少し鈍くなっているようで、大蛇の腹に与えた傷が広がっているように見える。
ここに勝機を見出したあかばは、勇気を振り絞り大蛇の腹の傷目掛けて追い打ちの一閃を放った。
あかばの放った一撃で、大蛇はその場に倒れ、「ギァァァ!!」と叫びを上げながら目を閉じた。
「や...やった!初めてだったけど、何とか倒せた!」
あかばは疲れも忘れてしまう程喜んだ。しかし喜びの束の間、またすぐに草むらからガサッと音が聞こえた。
「ま、また!?」
あかばは再び警戒態勢を取っていると、今度は敵意をむき出しにしてくる存在ではなかった。
「あれ?こんなところで何をしているんですか?」
あかばの前に現れたのは、この世界に住んでいるであろう人間の女性だった。あかばは一瞬キョトンとするも、すぐに我に返って状況を説明した。
・・・「なるほど、たまたまここに来たら大蛇に襲われたと...確かにこの場所には危険な大蛇が多数生息していますが、まさかあなた一人で?」
その質問にあかばは頷いて返事をした。するとその女性は、とりあえずここにては...ということで、近くにある村に同行させてくれる事になった。
その村に着くと、門の近くに目が付きやすい位置に看板があった。『さなぎ村』と書かれている。どうやらこの村の名前のようだ。
「あなた、もしかして遠くから来た人?ここら辺では見ない服装なので、びっくりしちゃいました」
女性があかばに対して積極的に会話を広げてくれている。
「は、はい...遠く、というよりは...その...」
あかばは"実は違う世界から来ました"なんて素直に言えなかった。
しかし次の瞬間女性から返された言葉は驚くものだった。
「あら?その反応、遠くじゃないなら..異世界から来たのですか?」
その言葉を聞いたあかばは、目で分かるくらいにビックリしてしまうも、女性は優しく説明してくれた。
「この世界には、よく別の世界から来る人がいるんですよ。この村にも何人か来ましたが、最近は一人も来なかったので、ちょっと寂しいくらいでした」
その優しい言葉を聞いて、あかばは内心ホッとした。
話している間に、門をくぐって村の中に入った。そこには木で出来た家や工房がいくつか建てられていて、決して豊かとは言えなかったが、村に住む人は笑顔があふれていた。
「ここはどんな村なんですか?」
あかばが素朴な質問を女性に投げかける。すると女性はまた笑顔で答える。
「このさなぎ村は、昔ながらの自然や感覚を大切にしている村です。それに加え、一人一人の能力を引き出すという事ができるんですよ」
あかばは女性の口から"能力"という単語が出てきたことに、少し驚いた。話している感じで分かったが、ここに来る前、さろあが言っていた"能力"と同じものだろう。
「ほ、本当に能力を引き出せるんですか?」
あかばは興味と期待の眼差しを女性に向けた。女性は微笑みながら「もちろんできますよ」と頷いた。
丁度その時、あかばの隣に突然ポータルが現れた。しかしすぐに、それがさろあのものだという事が分かった。
「さろあさん!?大丈夫でしたか!?」
あかばが不安そうに聞くも、さろあは至って普通に
「問題ない、お前こそ無事にここまで来れたんだな」
と、あかばの体を気遣ってくれた。
そんな中、あかばの隣に移動した女性が
「あなたは以前来てくれた...さろあさんですね。また来てくれてうれしいです」
とさろあに挨拶する。どうやらさろあは以前からここに来たことがあるようだった。
「あぁ、今回はこいつが今使える能力を引き出させてやってくれ」
さろあが女性に頼むと、早速村の中央にある大きな木に案内された。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は真琴と申します」
それに返すように「僕はあかばって言います!」と元気に名乗った。そして木の下まで来ると、その場でリラックスして、目を閉じてと言われ、あかばはそのように従った。
目を閉じて十秒程過ぎた頃、真琴に手を握られ、そこからあたたかい光や力を感じる。
すると、頭の中に自分の能力の情報が流れてくる・・・いや、眠りから覚めたように呼び出されていると言った方が正しいだろう。あかばが目を開くころには、初歩的にだが、使い方を思い出したように理解していた。
「これが、僕の能力...何だか封印が解かれたみたいな感覚です。すんなりと思い出したような...不思議な感じです」
そのあかばの言葉を聞いていたさろあは、能力について説明しきれていなかった部分を話し始める。
「能力っていうのはな、生まれつき誰しも持っているものだ。まぁ、自我を持つにつれて忘れてしまうことが多いんだが...」
さろあの補足に、あかばは何となくだが理解できた。さろあの説明に加え、真琴が能力以外の事も色々と話し始めた。
「いいですか?能力を使うには、魔力というものが必要になるんです。魔力というのは、"魔法のような意識の力"を略して魔力と呼んでいます。中には魔力を使わないで能力を使用する方もいますが、その詳細は分かっていません。」
真琴が魔力について教えてくれた後、さろあがオマケのように
「お前は魔力を持っていないけどな」とあかばを見て言った。あかばも真琴も驚きの表情を隠せなかった様子だ。
あかばが「それじゃあ僕の能力って魔力を必要としないんですか?」と聞くと、さろあは何も言わずに頷いた。
隣の真琴はと言うと
「魔力が無くても能力が使えるのなら、良かったですね。ちょっと羨ましいかも...」と興味を持ち始めた様子。
「魔力じゃない力があるんだよ、まぁ、今は教えてやらないが」
さろあはほんの少しだけ口元に笑みを見せてあかばに教えた。まだまださろあしか知らないことが多いようだ。
「これからもっと学ばせて頂きます!」とあかばはますます信頼と尊敬を寄せている。その光景を真琴も自分事のように笑顔で「さろあさんは物知りですね~」と言っている。
この世界に来て、そしてこの村に来て良かったと思うあかばであった。・・・一方で、一同の知らない所で、別の人物がこの世界に足を踏み入れていた。
「さてと、早めに終わらせて帰ろっと」
この人物の存在が、一体どんな事を引き起こすのか・・・