自らを『天使』と言った人物ムクロとの戦いに、あかばは能力の存在を思い出し、恐怖を振り払い反撃に出ようとしている。ムクロは全然余裕を崩さないままだ。
「いい加減に早く消えてよ」
ムクロが面倒くさそうに光の槍をあかばに向け、確実に終わらせようと構えている。そして地面を蹴り、光の槍があかばの心臓目掛け突き刺さると思った・・・その瞬間だった。
「ハァァ!」
あかばの気合の入った声がした。その場面には、ムクロの光の槍が空を斬り、あかばのパンチがムクロの腹をめり込んでいた光景が映っていた。
「かっ...は?...何が起きて...」
ムクロは突然の為に思考が追い付いていないようだ。そこに更にもう一発、あかばが思いっきりストレートにパンチをして、ムクロを少し吹き飛ばしたのだ。
「ぐ...ぅ」
ムクロはやっと気を取り直して、殴られた腹を右手で抱えながらあかばを睨みつける。
「で、できた...これが、能力の使い方...」
あかばが自分でも驚くように、ムクロを殴った右手を見つめている。
能力を使用したあかばは、"目の色が赤色に輝いていた"。そして明らかに、強さが一瞬で上がっている。
「あーもー...もっと面倒くさくなったじゃないか」
そう呟くのは他でもないムクロだ。彼の中でのあかばの強さが見直され、すぐに終わる雑魚とは思われなくなったのだろう。
「今の...何?なんか急に倍速になった感じなんだけど...」
ムクロはあかばの能力を探ろうとしている。しかしあかばは答えるつもりはなく、ただ目の前のムクロただ一人を見つめている。
しばしの沈黙が続いた時、ムクロが一つため息を吐いて顔を俯かせた。そして顔を上げたムクロは、あかばを本気でウザがる目で見つめた。
「もういい。屍を村の外から襲わせてるから数は減るけど、これ以上面倒くさいのはごめんだし、能力を使ってあげよう。癪だけどね」
そう言ったムクロが光の槍を地面に突き刺すと、そこに影が発生した。そしてそこから、10体程のガイコツが出てきた。ここからが、ムクロとの本当の戦いなのだろうと、あかばは肌で感じ取った。
「もう分かってると思うけど、僕の能力は"屍を操る"ものさ。果たして君に僕を倒せるかな?」
ムクロがあかばに能力を明かした。しかし明かしたとしても何も変わらない。このガイコツを倒さなければ、あかばの命は無い。
「――
ムクロが何かを詠唱した。するとムクロの周りにいる10数体のガイコツが、全て一気にあかばに向かって突っ込んだ。統率性は無い。ただ個々が同時に来る為、避けるには難しかった。
「これ...やばっ――」
あかばはもう一度能力を使用し、目を赤く光らせて動きが素早くなる。全てのガイコツの突進を回避した時、ムクロがそれに合わせて光の槍で突きを放つ。
「...」
あかばは声も出せない程に集中してどうに突きを躱した。一旦距離を取って再び睨み合いになる。
(さっきの...何か詠唱した?――もしかして...本当は必要なものなんじゃ?)
ここであかばが気付いたことは間違いではない。あかばの能力はこの村に来て、真琴のおかげで解放できた時に、"思い出したように"能力の使い方を理解した。そして丁度その時、あかばは能力の詠唱も同時に思い出していたが、ついさっき初めて能力を使った時に詠唱は使わなくて使えていた。
しかしムクロが詠唱したことにより、詠唱をした方が良いのか?と疑問を浮かべているのだ。
「いつまでこうしてるつもりなのかな?」
痺れを切らしたムクロが、一人あかばに突進した。それにあかばは腰にある剣を鞘から抜き、剣と光の槍の打ち合いになだれ込む。
「...やっぱり面倒くさい。この感じ、さろあに教えられたな?」
ムクロとあかばの力の差は、まだムクロの方が上だ。しかし、あかばは防御に全ての意識を割いているので、攻撃は何とか剣で受けれていた。
「――
攻撃の中でムクロが詠唱する。今度はガイコツが四方八方に立ち、剣と光の槍で打ち合っている二人のところへ目掛けて同時に突っ込む。ムクロは先に地面を蹴って空中に飛んだ。行動が遅れたあかばは一瞬の思考の末、能力を使用して回避する。
「――
あかばのめが赤色に光り、そして上に飛ぶ。その瞬間にガイコツが下でぶつかって一度バラバラになる。しかし空中には先にジャンプしていたムクロがいる。待ってましたと言わんばかりにムクロが光の槍をあかば目掛けて突き刺す。
本来であればそれは確実に死に至る攻撃だった。しかしあかばは何とか身体を動かし、胸ではなく、左肩に光の槍が貫かれた。
「うおおおおお!」
そしてあかばが雄叫びと同時に、剣を持っている右腕を使い、思いっきりムクロの胸を斬りつけた。
「ガハッ!?――動きが速いだけじゃっ!?――」
あかばの能力、それはただ動きを早くするだけでは無かった。その能力は、『身体能力を三倍にする』というものだった。だからムクロの一撃をズラせたのだ。
――二人が地面に着地する時、あかばは左肩から、ムクロは深く切り裂かれた胸から大量に出血していた。
「はぁ...はぁ...」
「く...そ」
ムクロが仰向けに倒れた。もう力が出せないようで、あかばの左肩を貫いていた光の槍も光の粒となってすぐに消えた。
「あーくそ...こんなことなら、最初から面倒くさがらなきゃ...よか...た.......」
その言葉を最後に、ムクロは最後の時を迎えた。それと同時、さろあが一瞬で転移のような力であかばの隣に現れた。ムクロが死んだことにより、村を襲っていた屍も消えたのだろう。気が付いたら、戦っているときの10数体のガイコツと、ムクロの死体が光の粒となって宙に消えていた。
「大丈夫か!」
さろあがあかばを見てすぐに血まみれの左肩を見る。そこに右手を当てて、ゆっくりと手から緑色の光をぽわぽわと出す。
「良かった、ムクロを倒せたんだな。お前に任せてすまない...だが、よくやった。」
さろあがあかばに謝罪と賛美をかけて数秒すると、もうあかばの左肩の怪我は完全に治っていた。これもさろあの能力なのだろう。
「ありがとうございます。あの...村は...」
そのあかばの心配は、すぐに無くなった。さろあがあかばの後ろに指をさす。そこには戦いの前のままの村の姿があった。
「安心したか?俺は村の外を囲っていた屍を抑えて。村への侵入は防いだからな。 村の被害はゼロだ。」
その言葉を聞いて、あかばはふっと全身の力が抜けた。さろあはしっかりとあかばを支え、無理をさせない。そんな中、こちらに急いで近づいてくる人影が・・・真琴だった。
「お二人とも!大丈夫でしたか?お怪我の方は?」
真琴は心配そうな顔で二人のことを気遣うも、どこも怪我してないようで安堵の表情に変わった。
「村を守ってくれて、ありがとうございます。今はお体を休めてください」
あかばとさろあを気遣い、真琴は村の宿に二人を連れて行った。そこで宿の一室に入ると、あかばは疲れが一気に押し寄せたのか、すぐに眠ってしまった。その間、さろあは休まず、村の人たちに今回の事を説明しまわった。
「俺たちがここに来なければ、この村は怖い思いをしなかった」
と言って、さろあは頭を下げて回った。村の人たちは怒るでもなく、さろあとあかばを許した。それどころか、お礼を言われる始末だ。さろあは村の人達の温かさを素直に受け取り、これ以上変に言う事は無かった。
こうして"天使ムクロ"との戦いは終わりを告げたのだった。