亡き神思ふ神物語   作:星零

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未開の章
【未開の章第一話 ―未知―】


―――ポータルを潜り抜けた先にいた場所は大きな丘の上だった。そしてその先に見えたのは、眼前に広がる高いビル群だった。この世界で、一体何をするのだろうか?それはまだ、さろあだけが知っている。

 

「あかば、この世界はな...人間が科学を使って発展してきた世界だ。だから一応、能力っていうのを知らないし使えない人々が暮らしているが、そこはあまり気にするな」

 

さろあが説明してくれた通り、この世界は能力や魔力といったものを知らずに人々が生活している。代わりに、科学力だけは高く、住居や小物など多種多様な物が日々進化しているのだ。

 

「この世界の名は、"カギリナシ"。その名の通り、限界など存在しないといった精神のもと、この世界に住む者が付けた名前だ」

 

この世界の名をあかばに聞かせた後、さろあは丘の上からひょいと飛び降りる。

 

「えっ!?さろあさん!?」

 

あかばは当然驚く。目の前でさろあが急に身投げのようなことをしたのだから。・・・でもその驚きは丘の先っちょから下を見たときに安堵に変わる。さろあが空中に留まっていたのだ。

 

「すまんな、驚かせたが、これも俺の能力の一つだ」

 

そしてさろあがあかばに向かって手を差し出す。

 

「ほら、降りるぞ」

 

そのままさろあの手を取ったあかばは、さろあの緩やかな空中移動のおかげで、あっという間にビル群の中に着地した。

 

「やっぱりさろあさんは凄いです!空も飛べちゃうなんて!」

 

あかばは大興奮の様子で、キラキラとした目でさろあを見つめる。するとさろあは、少しだけふっと笑い、あかばにこう言ったのだ。

 

「実は空を飛ぶのは、固有の能力がなくても出来るんだ。今から少し教えてやろう」

 

それを聞いたあかばは嬉しそうにさろあの言葉を待つ。さろあはビル群の中をゆっくり歩きながら話し始める

 

「前に能力の話をしただろう?実は能力には、五能(うのう)分能(さのう)の他に、基能(きょうのう)っていうものがある。これは、習得すれば誰でも使える能力なんだ。空を飛ぶ能力も、この中に分類される」

 

あかばが頷きながら説明を聞いている。さろあは更に話を続ける。

 

基能(きょうのう)っていうのは、イメージ力が大切なんだ。空を飛ぶ力も、ただ飛んでいるんじゃなくて、どんな感覚か?移動の際の空気抵抗は?そういったこともイメージすると成功率が上がる。慣れてしまえば、無意識で出来るようになる」

 

ここで、ふとあかばが疑問を抱く

 

「それって、魔力とか使わなくて良いんですか?」

 

そんな単純なようで大事な質問を、さろあはふっと笑って答えた。

 

基能(きょうのう)っていうのはな、本来誰でも使える筈だった能力なんだ。使えないと心で思っていたり、忘れていたりすると、そりゃぁ常識から外れる。だから、魔力でも何でも使わなくて良いんだ。さっきも言ったが、大切なのはイメージ力だ」

 

さろあの言葉は、あかばの常識を揺るがすものだったが、さも当然かのように言っているさろあの様子は、再びあかばに確かな学びを与えた。そうして、あかばは「僕も・・・」と実践してみようとした時だった。二人の前に、一人の男が近づいてくる。

 

「あれ?あんたはもしかして...さろあさんじゃねぇですか!?」

 

どうやらさろあは、この世界の人とも繋がりがあるようだった。その男は、久しぶりの再会に嬉しさが込み上げているようだったが、さろあと話している途中で、あかばの存在に気付いた。

 

「おや?そちらの少年は...さろあさんのお連れですかい?」

 

「これはこれは失敬した。久しぶりにさろあさんに会えたもんですからつい...」

 

男は一度、あかばと目を合わせ、礼儀正しく名乗った。

 

「ワシは"ダイン"と言う名じゃ。とある集落の長をしておる。お主の名は?」

 

「は、はい!僕はさろあと言います!」

 

互いの自己紹介を終えた後、ダインは再びさろあに体を向ける。

 

「にしても、さろあさんは、何かこの世界に御用がおありですか?特に特別なことは無いようですが...」

 

聞かれたさろあは至って平然と答える。

 

「いいや、別に何かヤバいことがあったわけじゃないさ。まぁ、あかばの修行兼、休憩と言ったところか」

 

「そう言えば、最近何か変わったことは起こっていないか?」

 

さろあは目的ついでにダインに聞いてみる事にした。するとダインは、少しだけ困ったような表情をし始めた。

 

「実は...最近妙な事が起こっておりましてな。簡単に申しますと、『変なカルト宗教が作られた』ということです」

 

さろあはそれを聞いて、少し深刻な表情をする。

 

「へぇ、この世界でまだ、新しく宗教が作られるもんなのか...でも、もう誰も見向きもしないんじゃないのか?」

 

さろあのその的を得た疑問は、ダインの困った表情を更に深まらせる事になる。

 

「ワシも最初はそう思っとったんですが、何やら変な噂が流れてくるんですわ。それが...『奇跡の力』を使う教祖がやっている宗教というのです」

 

"奇跡"という言葉に、さろあは一瞬反応した。それにあかばも、少しだけ勘づいたようだ。

 

「あの...さろあさん、もしかしてその教祖って」

 

「ああ。まだ確定はできないが、天使の可能性があるな」

 

あかばの勘は、さろあも感じていたようだった。そしてさろあは、さらに踏み込んだことを聞く。

 

「その宗教が何か怪しいってことは分かった。それはお前のところの情報網にも何か引っかかっているのか?」

 

「あかばに説明しておくと、このダインという男は、お前が知る言葉で言うなら、忍術を扱う一族でな。裏で暗躍する忍者の集落の長をしているんだ」

 

さろあがダインに関しての説明を終えると、ダインはさろあに聞かれたことを正確に答える。

 

「うちの情報網からは、その教祖が何かしらの非科学的な力を使っていると、報告を受けておりますぞ」

 

ここまでの可能性を考えると、さろあの思う、天使がこの世界で何かをしているという可能性が高くなったようだ。そうしてさろあが、まずはその宗教を調査しようと動き出す瞬間だった。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

という音と共に、地響きが発生する。並の人間では立っていることがやっとで、近くに見える一般人の中には、重い荷物を落として地面に手をついている姿も。

 

「これは...ただの地震じゃないですぞ!」

 

ダインがそう叫ぶのと同時だった。ブツブツとマイクが接続されるような音が聞こえてくる。ビル群の中にある、緊急公共放送だった。・・・でも、そこから発せられる声は、想定しているよりも全く違う言葉だった。

 

「―――アーアー・・・聞こえるかな?私の名前は"セイナ"。今からこの世界を救ってあげる『天使』だよっ―――」

 

スピーカーから聞こえてくる声は、間違いなく言っていた。自分の事を『天使』と。

あかばは、さろあの表情を窺う。しかしその顔は、あかばの想像していたものではなかった。

 

『・・・何で、この世界にアイツがいるんだ?』

 

さろあの額に初めて見る冷や汗が伝っている。それに瞳孔も少し開いているように見える。

 

「あかば!ダイン!今すぐ戦闘態勢だ!いつ攻撃が来るか分からない!気をつけ―――」

 

言葉が途中で途切れた。それは当然だった。なぜなら、さろあの腹部にレイピアが突き刺さっていたからだ。そしてそれを刺した存在・・・長い金髪をなびかせながら狂気的に笑っている女だった。背中には翼が生えている。

 

「アハハハハ!!動きにキレが無いじゃない!お荷物二人を守ろうとするからよ?ねぇ?さろあ?」

 

いつの間にかあかば達の目の前にいる存在の言う言葉で分かった。この女はあかばの命を狙う天使の一人だ。やはり、さろあのことを知っているようだ。

 

「...ふん」

 

さろあは何事もないかのようにセイナに蹴りを入れようとして、セイナは回避するためにレイピアを抜いて横に飛ぶ。その瞬間に、さろあは自分の腹の貫通した穴に手をかざし、緑色の光を発した。すると、ものの数秒で穴が塞がり、傷が一瞬で回復した。

 

「さ、さろあさん!?」

「な、なんと!?そのようなことまで出来るのですか!」

 

あかばとダインは、さろあが今の一瞬でやった事に驚きを隠せない。しかしセイナは驚きもせず、狂気的な笑みのまま、さろあを見つめる。

 

「やぁっぱりアンタは相変わらずね、まだまだ強さの底が知れないなんて、殺しがいがあるじゃない?」

 

 

さろあ達三人は、セイナと本格的に対峙する。だが、今回の世界にこれから起きる戦いは、まだまだか弱いものだと、三人はまだ知らない。

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