消えたのか増えたのかいまいちわからない、そんな話。
長谷川さんが高校生のころの体験である。
おじいさんが亡くなり、遺品の整理に山梨のおじいさんの家まで行くことになった。
骨董屋をしていたおじいさんは、古いアパートの整理などを頼まれることも多かったらしい。
おじいさんの部屋のなかは、価値があるんだかないんだかわからないものが山づみになっていた。
家族総出で遺品整理に駆り出されることになり、とりあえず壊れやすいものだけ運びだそうということになった。
皿だの提灯だのをリビングにおいた袋に入れて、いちおう保管しておく。
両親は価値のあるものを探そうと、宝探しをしているみたいに楽しそうだったが、長谷川さんは(腰も痛くなるし、さっさと終わらないかな……)と思っていた。
30分ほど作業をして、一息つこうと冷蔵庫の麦茶を飲みに行った時のことだった。
ふと、神棚が長谷川さんの目についた。
(なんだ、あれ………?)
神棚にお供えされた神饌。お酒やお米の容器の置いてある場所に、茶色の細長い物体が鎮座していた。
近寄ってみてみれば、それは木彫りのお地蔵さんだった。
それも、顔が妙に歪んでいる。ムンクの叫びのように口が歪んでいるのだ。
もっと近寄ってみる。
顔に見えたのは、木目の模様だった。
よく見れば頭部の真ん中に優しそうな目と鼻がついている。
不気味に見えたお地蔵さんの正体がただのシミュラクラ現象だったと気づき、長谷川さんは息を吐いた。
(じいちゃん不気味なの好きそうだしな……)
長谷川さんはお地蔵さんを手に取り、表面を撫でた。
つるつるに磨かれていて、ささくれ一つない。
じっと見ていると、顔に見える木目の丸の一番下、つまり口にあたる部分がもぞもぞと動いた。
少なくとも、長谷川さんにはそう見えたらしい。
驚いて動けなくなる長谷川さんに、掠れた声で、
「た、す、け、て」
とお地蔵さんは声を上げた。
それとともに、
「お————い! ちょっと、全員集まれ!!」
とお父さんの声が家に響いた。
長谷川さんはお地蔵さんを床に投げ捨て、弾かれるようにお父さんの所へ向かった。
お父さんはそれなりに怒った様子でキッチンに立っている。
「コンロの火を消し忘れてたぞ! 誰ださっきまでキッチンを使っていたのは!!」
お母さんも長谷川さんも覚えがなく、犯人は見つからずじまいだった。
その後、長谷川さんは「不気味なお地蔵さんがいる」とお父さんに神棚の前まで一緒についてきてもらったが、お地蔵さんはそれ以降見つからなかったという。
それからというもの、実家に戻り生活していると、買った覚えのないTシャツや興味のない本が自分の棚から出てくることがあるそうだ。
「俺の趣味じゃない野鳥観察の本を見るたびに、木目の歪んだ顔を思い出すんですよ。……どこも似てないのに、俺そっくりの顔だってなぜか思っちゃって。俺は一体、誰に助けを乞われたんでしょうか」