書いていて作者もどこを目指しているのかわからなくなりそうだったので、作品の一番最初にプロローグなるものを追加しました。まだ読んでいない方は是非お読みください。
ただし読まなくても作品は楽しめます!!
評価、コメント、アドバイス、なんでもお待ちしております!!
「うっ…モモちゃん相手かぁ。かなり手強い相手だなー…」
モニター室で抽選結果を確認した青山優雅は、密かに息を吐き捨てた。
一方ペアの芦戸三奈は、
「青山と一緒でよかったー!絶対勝とうね!!」
とやる気を見せているが、青山優雅はそれどころではない。
こちらがヒーロー側で、あちらはヴィラン側。
これが逆だったらどれだけよかっただろう、と心の中でこっそりと呟く。
峰田の拘束力としては随一の個性『もぎもぎ』と、どんな罠でも構え放題の個性『創造』の前では、現役プロヒーローでもタジタジだろう……と思ってしまうのだ。
幸い、こちらにも攻めに強い個性『酸』と、一応、氣による索敵が可能な『ネビルレーザー』といった、ヒーロー側に必要な最低限の能力があるのが救いか、と考え直し気持ちを立て直す。
開始位置に着くまでに、芦戸と少しでも時間を有効に使えるよう打ち合わせを行う。
幸い自己紹介はもう済んでいたので、まずは互いの個性の把握からだ。
「本当に思いつきなんだけどさ……
芦戸さんの個性って、……ってことできる?」
「さんづけじゃなくて、呼び捨てでいいよ。
中学の時みんなそう呼んでたし。
そうだねー……できると思うけど、何に使うの?」
「それはね――」
一方、その頃八百万・峰田ペアは―――
「おい(血涙)!!!
青山と芦戸が!
イチャイチャローションプレイしてるんだが!!!
あいつ!許せん…そこ変われ、いやそれよりもぶち殺すのが先か…」
峰田は憤怒した。かの邪智暴虐の青山を除かなければならぬと決意した。
峰田は変態である。エロを求めて暮らしてきた。だからこそ、峰田は人一倍エロに敏感であった。
「峰田さん、少し黙ってくださいませ…」
しかし、その峰田も口をつぐむほかなかった。
隣にいた、般若のように顔を顰めた八百万が目に入ったからだ。
その声色だけは逆に落ち着いているというのだから恐ろしいことこの上ない。
峰田は叫びたい気持ちを堪え、
「はい…」
と頷くしか無かった。
なぜ、峰田たちは青山らの状況を捉えれているのか。
それは、オールマイトがあまりルールを詳しく設定しなかったことを逆手に取り、開始のブザーが鳴るより前に小型ドローンを飛ばして様子を監視していた。
ただし、流石に気づかれるため音声までは拾えなかったものの、八百万お手製のドローンは鮮明にその光景をリモコンのモニターに映し出すことに成功した。
峰田に操縦は任せ、八百万本人は策を考えていたため詳しい前後の経緯は分からないが、なぜか状況を端的に表すと青山が芦戸を押し倒す形で床ドンをしている。
顔と顔はとても近く、今にもキスしてしまいそうな位置にあった。
芦戸の酸の個性によるものだろうか、
二人の体はヌメヌメとしており、どこかエッチな雰囲気を醸し出していた。
(優ちゃん…純愛だったとしても流石にみんなの前では許しません…!!)
八百万も激怒した。かの淫乱大魔獣と化した青山を除するために。
そのためにも、今は必ず勝てる策を考えねば……。
訓練開始のサイレンが鳴り響く。
青山と芦戸の二人は、ヴィラン側の陣取るビルへと足を踏み入れる。
「ねね、青山ー。正面から入るのー?どこに二人がいるかは分かっても、核の位置は分からないんでしょー」
「いや、モモちゃんと峰田くんの個性的に罠を張って本人たちは核の場所で待ち構えているという戦法の方が一番いいはずだ。今、気配としては動き回っている人が一人と、じっと待っている人が一人。多分峰田くんがその小柄な体格を生かし、斥候として活躍。モモちゃんは逆に冷静に判断を下すブレインとして部屋に残ると思うんだ」
「おー!なるほど。じゃあ…」
「ああ、正面突破だ!」
二人は罠が仕掛けられているであろう入り口をスルーし、静かに外周を移動する。
芦戸の個性で壁に穴を開ければ即席の梯子ができ、簡単に三階まで登ることができた。
「ここだ。――頼む」
「おっしゃ、任せて!」
青山の指示通り、芦戸が外壁に向かって強力な酸を放つ。
分厚いコンクリートが一瞬にして溶け落ち、巨大な穴が穿たれた。
正規ルートを完全に無視した破天荒な突入。
敵の配置とトラップを無力化する極めて合理的な奇襲だ。
しかし、相手が悪かった。
青山が小声で、
「モモちゃんはきっと隣の部屋だ。このまま乗り込むぞ――」
と言い、壁の煙を押し分けて室内に跳び込んだその瞬間。
「――させませんわ!!」
凛と響く声がしたと同時に、機械の駆動音が部屋に響く。
慌てて声のする方向を見ると、そこには複数のドローンを横に連れた八百万百が立っていた。
どうやらこの侵入方法は読まれていたらしい。
三階フロアには大きな柱を除いた、壁という壁が破壊されていて、とても見通しが良くなっていた。
(おいおい、ずいぶん脳筋な解決策だな…)
しかし、そんなことを悠長に言っている場合でもない。
八百万のもとに控えているドローンには確保用テープが結ばれていて、その先端には『もぎもぎ』がつけられている。
(当たったら一発で終わりじゃん!!)
「残念でしたわね!授業中の淫らな行為、反省してください!!」
そう言うと、ドローンが一斉に発進された。
俺も芦戸も慌てて体をひねるが、追尾機能までついているらしい。
これは避けられない―――
「やりましたわ!!」
ただ残念。モモちゃん、俺が『もぎもぎ』の対策を何もしてこないと思うかい。
俺と芦戸の体に『もぎもぎ』が当たった瞬間、『もぎもぎ』は当たったのが嘘のことのように体に沿って通り過ぎ、俺たちの背後の壁にひっついてしまった。
「なんですって!!」
モモちゃんの叫びが聞こえる。
そんなこともあろうかと、芦戸さんに頼んで、『酸性度が低く、かつ滑りがいい酸』を出してもらい全身に塗ってたんだ!!
まあ、本当にそれだけでモギモギを無効化できるかは運もあったし、そのせいで思わずこけて、芦戸さんを押し倒しちゃうってハプニングはあったけどね!
「で、でも――それでもその策は監視していましたわ!!」
そう言ってモモちゃんは次なる手を打ってくる。
モモちゃんが手に持っていた、目を凝らさないと見えないほどの細い糸を引っ張ると、天井から降ってくる白い粉末が室内で激しく舞い散る。
「きゃ!?なにこれ、粉…っ!?」
「くっ、これは……!」
俺はその粉の苦味や周囲の状況からなんとなく正体のあたりをつける。
「炭酸水素ナトリウム!重曹ですわ。中学の科学の時間でやりませんでしたか?!」
俺たちの足元に絡みついていた、潜入するときに使用した強力な酸が重曹と反応し、強烈な泡を立てて中和されていく。
さらに、煙の向こうから八百万が姿を現した。
その手には、表面に隙間なくアルミニウムを貼り付けられた巨大な『鏡面反射の盾』が握られている。
「芦戸さんの『酸』は化学反応で無力化させていただきました!
そして青山さん、あなたの『ネビルレーザー』もそのアルミ盾で完全に反射します!
もう少しで斥候に出していた峰田さんも帰ってきます。そうなれば持ち直せますわ!」
完璧なカウンター。
個性の弱点を的確に突いた八百万の作戦に、芦戸は「えっ、嘘でしょ!? 酸が効かない!?」と完全に焦破していた。
八百万の視線が、酸を失って隙だらけになった芦戸へと向けられる。
(まずは芦戸さんを捕縛し、多対一の構図を作り出す——!)
だが、八百万が踏み出そうとしたその一瞬。
彼女の眼前に、風を切る音とともに青山の影が肉薄していた。
「——なっ……!?」
(速い……!? 芦戸さんを庇うのではなく、私へと間合いを詰めて……!?)
八百万は咄嗟にアルミ盾を構え直す。
レーザーを撃たせる隙を与えず、盾で押し潰す構えだ。
しかし、青山は最初からレーザーを撃つ気など微塵もなかった。
「……撃たなければ、反射も意味をなさない」
青山の低い呟き。
彼は盾の開口部、八百万の極めて狭い死角へと滑り込むと、鍛え抜かれた体幹から伝わる「気」を一点に集中させた。
中国武術の代表――寸勁。
――ガァンッ!!!!
「くはっ……!?」
衝撃波が盾を介して八百万の胸元へと突き抜ける。
個性に頼らない純粋な格闘技術と踏み込みの威力により、八百万の手からアルミ盾が吹き飛ばされ、彼女の身体が浮き上がった。
「八百万!! 今助けるぞ——!!」
声の方を見ると階段から、峰田が息を切らしながらも駆けつけていた。その手には『もぎもぎ』の弾を大量に握りしめている。
「青山ぁぁ! お前だけにいい格好はさせねぇぇ!!」
「うるさいよ、峰田くん」
背後からの奇襲に対し、青山は振り返りもしない。
ただ、腰のベルトを少しいじり、通常のネビルレーザーではなく、一枚フィルターを重ねることで変化させた光を全方位へと一気に解放した。
『――トゥインクル』
「ぎゃああああああああっ!? 目がぁぁぁぁぁっ!???」
白銀の猛烈な閃光が室内を包み込む。
個性の応用による強烈な目くらましを直撃させた峰田は、視界を完全に奪われ、そのまま青山に意識を刈り取られる。
静寂が戻る。
たった数秒の出来事だった。
化学薬品による中和も、物理的なレーザー対策も、青山の圧倒的な実力の前に全て叩き潰された。
床に膝をつき、茫然と息を整える八百万の首元へ、青山は優雅に、だが極めて冷徹に捕縛テープを巻きつける。
「……僕たちの勝ちだ、モモちゃん」
「……見事ですわ、青山さん。私、自分の甘さを痛感いたしました」
捕縛テープを巻かれながら、八百万は悔しそうに、けれどどこか嬉しそうに目を細めた。
その瞳に宿っているのは、偽りのない純粋な「尊敬」と「好意」だ。
(……やめてくれ)
青山は心の中で悲鳴をあげる。
完璧な自分としての偽りの笑みを顔面に貼り付けたまま、胸の奥が焼きちぎれるような激痛に苛まれていた。
昨日、自分は何をしていた?
AFOと公安に全生徒の個性把握テストの結果を報告したばかりだ。
(俺はヒーローじゃない。だから…そんな目で僕を見ないでくれ)
八百万の澄み切った瞳に映る自分が、あまりにも醜い偽物に思えて吐き気がする。
彼女が自分を信頼し、尊敬してくれればくれるほど、自分の胸に刺さる罪悪感の刃は深く、鋭くなっていく。
「あ、ありがとう、モモちゃん。モモちゃんの対策も本当にすごくて、思わず肝を冷やしたよ!」
声が震えないよう、喉の筋肉を絞り出すようにして答える。
モニター室へ戻る道中、クラスメイトたちから「圧倒的だった!」「かっこよかったぞ青山!」と歓声が上がるたび、青山は自分が「雄英高校ヒーロー科」という温かい光の世界から、どんどん遠ざかっていくような強烈な疎外感を覚えていたのだった。