アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡   作:夏川優希

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25話 リツに恐れをなして逃げたのかな♡

 

 律の体調不良の原因はやはり疲れではなかった。

 怪人・ヌマブクロの視界ジャックを解いて以降、律を悩ませていた頭痛は綺麗さっぱり治ってしまったのだ。

 体調は絶好調と言って良い。

 

 

「――ほ、ほんとうプイ? 本当に不調や疲れはないプイ? ウソはダメプイよ」

 

「ウソじゃないって。全然元気。やっぱり子供の体力ってすごいねぇ」

 

「あれだけの連戦を経て、ダメージも魔力の消耗もない……!? 子供がどうとかってレベルじゃないプイ。超人的というか……信じられないプイ……」

 

 

 驚愕――というより、若干引いているプイプイをよそに、律は熱心にスマホを見ている。

 ヌマブクロを倒したばかりなのに一向に休む気配がない。

 

 

「うーん、やっぱり効率的に稼ぐなら怪人組織を狙ったほうが……」

 

「ま、まだ戦う気プイ!? もう少し休んだほうがいいんじゃないプイ?」

 

「十分休んでるよ。3食たべる時間もあるし、毎日ちゃんと睡眠時間がとれてる。こんなにゆっくり休めてるのは学生の時ぶりだ」

 

「ええ……」

 

 

 ブラック企業社畜基準の労働時間にプイプイは言葉を失った。

 そして――翌日。

 8時に起床した律は身支度を済ませキッチリ9時に始業開始。

 つまり。

 

 

「今日も怪人をぶっ倒して、いっぱいお金を稼ぐぞー!」

 

「ほ、本当にいくプイ……?」

 

 

 律は張り切って宿泊しているホテルを出て魔法少女に変身。

 周囲の人間に見つかって騒ぎになる前に地面を蹴り、あまり乗り気ではないプイプイと共に空へと飛び上がる。

 

 向かう先は怪人組織〈ブラッディドラゴン〉の事務所。

 

 ネットで調べて住所が出てきた怪人組織の事務所の中で一番ホテルから近い。ここを選んだ理由はそれだけだった。

 見えてきたのは、都内のある繁華街にそびえる4階建ての古い雑居ビル。

 〈黒き森〉の巨大な新築ビルに比べればかなりショボいという感想を抱かずにはいられないが、ここがショボいというよりは〈黒き森〉の所有していたビルが異常なのだ。

 

 そして律は急降下し、〈ブラッディドラゴン〉が事務所を構えるというビルの2階の窓を覗き込んでみる。

 しかし――

 

 

「あれ?♡」

 

 

 律は思わず声を上げた。

 覗き込んだ窓の奥は確かに怪人事務所のようだったが、しかし、誰もいなかったのだ。

 試しにそっと窓に手をかけてみる。

 鍵はかかっていなかったようで窓はすんなりと横にスライドし、「さぁどうぞ」とばかりに事務所への入り口ができた。

 あまりにも簡単に入れてしまいそうで、かえって侵入を迷ったものの。

 

 

「え、あの魔法少女って……」

 

「リツちゃんじゃない?」

 

「えっ、待って待って待って! 本物!?」

 

「うお! メスガキ魔法少女じゃん!」

 

「サイン! サインちょうだーい!」

 

(うわっ、ヤバい! 人が集まってきた!?)

 

 

 会社をやめてすっかり曜日感覚が鈍っていたが、今日が休日だったことを律は思い出した。

 繁華街は昼とはいえ人通りが多く、すでにビルの前は足を止めてスマホを構える人が狭い道を塞ぎ始めている。

 このままでは騒ぎになる。

 そう考えた律は慌てて窓に体を押し込め、事務所の中に足を踏み入れた。

 さすがに騒ぎをききつけて誰か出てくるだろうと思ったが、一向にその気配はない。

 外の喧噪と裏腹に、事務所の中は静まりかえっていた。

 

 

「誰もいないのぉ?♡ おーい♡ ざぁこ♡」

 

 

 律の煽りに反応する者はなく、その声は事務所の壁に吸い込まれるようにして消える。

 あちこち見てみたがどうやら本当に事務所には誰もいないようだった。

 たまたまみんなが留守にしている――というわけではない。

 

 事務所は酷く荒れていたのだ。

 とはいっても誰かが暴れたとか、ここで戦闘があったという感じではない。

 まるで慌てて荷物を纏めてみんなで夜逃げしたみたいな。

 

 部屋に並んだデスクの引き出しは無造作に開かれ、床には書類がブチまかれたみたいに散らばっている。

 壁際に並んだ棚やロッカーの中身もめちゃくちゃだ。

 

 

「なにこれ♡ 夜逃げしたみたいにもぬけの殻なんだけど♡ リツに恐れをなして逃げたのかな♡」

 

「多分そうだプイ」

 

 

 その発言はいつものメスガキビッグマウスだったのだが、プイプイはアッサリと頷いてみせた。

 

 

「魔法少女リツが〈黒き森〉を壊滅させたっていう話は怪人の間でもきっと話題になってるんだプイ。事務所を移してる怪人組織は多いと思うプイ」

 

(そ、そんなぁ……)

 

 

 律は内心でガックリとうなだれた。

 ネットで住所を調べればいくらでも怪人事務所が出てくるから幾分安心していたのに、これで怪人狩りの難易度がグッと上がってしまった。

 

 

(クソッ! これからどうすれば……)

 

 

 万一、このまま怪人を見つけることができず所持金がゼロになってホテルの宿泊代が払えなくなったら一体どうすれば良いのか。

 橋の下で段ボールに包まり、野垂れ死に寸前になったメスガキの姿が律の脳裏をよぎる。

 思わずブルリと身震いをした、そんなときだった。

 

 

「おい! 誰かいんのか――」

 

 

 と、聞こえてきたのはぶっきらぼうな怒鳴り声。

 とはいえそれが怪人や怪人組織構成員のものじゃないのはすぐに分かった。

 必死にドスを利かせているものの、それが少女の声であることは明白だったからだ。

 体重が軽いことが分かる軽やかな足音を響かせながら、ドアを蹴破って廊下から飛び込んできたその少女を見て律は目を見張った。

 目を惹く鮮やかな赤のワンピースに、快活そうな赤髪のショートカット。そして手には星を模したステッキ。

 

 

(あれは――魔法少女?)

 

 

 その少女もまた、律たちを見るなり同じように目を見張った。

 

 

「あれ? プイプイじゃん」

 

「セ、セイラ。帰国してたプイか?」

 

「ああ。姉ちゃんだけに怪人退治やらせるわけにはいかないからな。それより……見慣れない顔だけど、あんたも魔法少女?」

 

 

 赤髪の魔法少女、セイラは律に怪訝な視線を向ける。

 他の魔法少女と接するのは律にとって初めての経験だ。

 どうしたものか、少々悩んだ。

 

 

(しまった。先輩への挨拶回りとか全然考えてなかった。まずはそれを詫びて……いや、でもこの状態で下手に話すと逆に……)

 

「アンタ、なんでこんなとこにいるんだ?」

 

 

 答えを出すより先に、セイラが律に詰め寄る。

 セイラはどうやら律と〈黒き森〉の騒動を知らないらしかった。

 

 

「張り込みは私の仕事だろ。命令書を見てないのか?」

 

 

 怪人事務所にいる理由を訝しんでいるというよりは、自分の仕事を奪われることを警戒しているといった意味が強いように律は感じた。

 セイラの口ぶりから察するに、魔法少女たちはチームを組み、役割分担をして怪人たちを倒しているのだろう。

 とはいえ、先述の通り律が魔法少女と接触するのは初めてのこと。命令書なんて知る由もない。

 なんと言っていいか悩んでいると。

 

 

「おい、黙ってないでなんとか言えよ」

 

(……ヤバい!)

 

 

 セイラの言葉に反応して律の口が自動的に開く――より前に、律は大慌てで変身を解いた。

 

 

(あっっっぶなかった。怪人ならともかく、仲間の、しかも事情を知らない初対面の魔法少女にメスガキ語なんか使ったら印象悪すぎるよね……)

 

 

 魔法少女の変身を解けば、ある程度はメスガキ煽りが出ないよう踏ん張ることができる。

 しかし当然、セイラには律が変身を解いた理由が分からず困惑の視線を向けてくる。

 

 

「おいおい。ここは怪人組織の事務所だぞ。怪人が戻ってくるかもしれないのに変身を解いたらダメだろ」

 

「こ、この子は初心者魔法少女なんだプイ!」

 

 

 セイラの指摘に、プイプイは慌ててフォローを入れる。

 

 

「まだいろいろ勝手が分からないんだプイ。許してあげてほしいプイ!」

 

「……ふーん、初心者か」

 

 

 そう呟くセイラの声に、どこか嬉しげなものが混じっていることに律は気がついた。

 とたんに怪訝な表情が和らぎ、手に持っていたステッキを消して律の顔を覗き込む。

 

 

「アタシはセイラ! アンタ、名前は?」

 

「あ、えっと、リツ……です」

 

 

 律はメスガキ煽りが出ないよう慎重に言葉を口にする。

 そのせいで声は小さく、どことなくたどたどしい口調になってしまった。

 はたから見ると気弱そうに、あるいは初めての魔法少女活動に緊張しているように見えるかもしれない。

 そのことにセイラはますます気をよくしたようだった。

 

 

「魔法少女になったのはどれくらい前なんだ?」

 

「ええと、1週間くらい前……だったかな……」

 

「おいおい! “だったかな……”じゃないよ! ちゃんと覚えてないと!」

 

 

 セイラはガハハと笑って律の背中をバシバシと叩く。

 

 

「なんか心配な子だなぁ! よし、アタシが先輩として魔法の訓練してあげるよ!」

 

「あ、いや、その……」

 

「遠慮すんなって! ちょうど暇してたし!」

 

 

 セイラのやや強引な申し出に、律は思わず苦笑した。

 “年下の先輩”どころの話ではない。

 10代半ばくらいであろう目の前の少女にどんな風に接したら良いのか、30歳の律は大いに戸惑っていた。

 

 

(多分悪い子じゃないんだろうけど……なんか面倒なことになりそうだな……)

 

 

 

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