アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡   作:夏川優希

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26話 できないんじゃん♡ざぁこ♡

 

 初めて遭遇した魔法少女は、なんだかちょっとだけ面倒そうな子だった。

 とはいえ、怪人組織襲撃作戦は失敗。

 今後のスキルアップのために魔法の使い方を教えてもらうというのも悪くはないと律は思い直した。

 なにより、セイラから逃げ出すのは怪人を倒すより難しそうだ。

 

 

「で、怪人との交戦経験は?」

 

「まぁ、一応は……」

 

「……ふ、ふうん。もうあるんだ」

 

 

 セイラの顔がにわかに曇るが、それを取り繕うようにして質問を重ねる。

 

 

「どんな魔法を使えるの?」

 

「ええと、ステッキで殴ったりとか、風を吹かせたりとか――」

 

「殴る!? 風!? ププー!」

 

 

 瞬間、セイラは吹き出した。

 その顔にはどういうわけか隠しきれない喜色が滲んでいる。

 

 

「風って、魔力コントロールできてない時に出るんだよ! ステッキで殴るに関してはもう魔法とかじゃないじゃん!」

 

「いやぁ……そうなんですよね……なんか感覚がよく分かんなくて……」

 

「まぁまぁまぁまぁ! 最初はみんなそんなもんよ! これからこれから!」

 

 

 ワハハと笑いながら、セイラは律の頭をポンポンと叩く。

 律の方が小柄であり、ツインテールの髪型などもあってかセイラよりも幼く見える。

 はたからみれば姉妹のようだが、しかし律の中身はアラサー男性。

 

 

(きょ、距離が近い……これはよろしくないのでは……)

 

 

 上司にロリコン呼ばわりされたトラウマから、律はセイラからそれとなく距離を置こうとするも。

 

 

「なに離れてんだよ! 照れちゃってぇ! このこのぉ!」

 

 

 それを察知したセイラは律の脇腹をコチョコチョとする。

 律は小さく悲鳴を上げた。

 コチョコチョが嫌だったからではない。

 ひとけのない事務所で会ったばかりの少女にコチョコチョされる――これが元のアラサー社畜成人男性の自分だったとしたら逮捕ものの状況なのではないかと思い、ゾッとしたのである。

 もちろんセイラの方が勝手にコチョコチョしてきただけであり律の方はセイラと距離を取ろうとしているのだから冤罪もいいとこだが――自己肯定感の低い律はそんなふうに割り切れない。

 

 

(いっそ本当は男だって言っちゃダメなの!?)

 

 

 縋るようにプイプイに視線を送るが、プイプイはゆっくりと首を横に振った。

 律は先日の怪人ヌマブクロ戦を思い出す。

 律が男であるとバラしたことでヌマブクロはとんでもなく取り乱していた。

 あの後プイプイから相手が怪人とはいえ男であることは喋らないよう厳重注意されたし、魔法少女相手であればなおさら言わない方が良いだろうと律も思い直す。

 

 

「アタシの姉ちゃんも魔法少女なんだけどさぁ、姉ちゃんは本当にすごいんだ! 魔法で武器を作って戦うんだよ」

 

 

 律がドギマギしていることにも気付かず、セイラはまるでとっておきの宝物でも見せるみたいなキラキラした顔でそう話し始めた。

 その手を律の脇腹におき、体を密着させながら。

 

 

「どんな複雑な重火器だって再現しちゃうんだよ。すごく高度な魔法制御技術で――」

 

 

 きっと自慢の姉なのだろう。

 セイラは得意げにそう話すが、しかしもうセイラの言葉は律には届いていなかった。

 律の頭はひとつのことでいっぱいだったから。

 

 

(複雑な重火器も再現、だって? ってことは……家電とかも魔法で作れる?)

 

 

 洗濯機、炊飯器、電子レンジ、テレビ。

 キョウゴクが暴れ回ったせいで色々な家電がダメになってしまった。

 引っ越しにあたって生活に必要な最低限のものを一番安い海外メーカー製で買い揃えたとしても数万円は飛んで行く。痛い出費だ。

 しかし魔法でそれらを作り出すことができるとしたら?

 律にはとても手が出せなかった、しかしあると便利な贅沢家電――食洗機なんかも作り出すことができたなら。

 

 

「お、お姉さんに会わせてもらうことってできない?」

 

「え? なに言ってんの、姉ちゃんは忙しいんだからダメだよ」

 

「じゃああなたは? セイラも魔法で家電……じゃなかった、武器とか作れるの?」

 

 

 今度は律がセイラに詰め寄る番だった。

 魔法で武器を作るというのは一般的なのか。律も練習すればできるのか。

 それが知りたかっただけなのだが、律の勢いに気圧されるようにセイラは律の脇腹から手を離して少し後ずさりをした。

 

 今まで小さい声でモジモジ話し、どことなく腰が引けていた小柄な女の子が急に目をギラつかせながら食いついてきた様子に驚いている――というだけではないようだった。

 セイラはバツが悪そうに足元へ視線を落とす。

 その語気があからさまにトーンダウンした。

 

 

「い、いや。アタシは……その、まだ練習中だからさぁ……」

 

「できないんじゃん♡ ざぁこ♡」

 

「へっ?」

 

 

 ハッとして、律は慌てて口元を押さえる。

 

 

(しまった! つい気が緩んで――)

 

 

 と、その時だった。

 にわかに感じる人の気配。

 ひとりじゃない。もっとたくさんのそれが、廊下を歩いているのが分かる。

 瞬間、セイラは律をデスクの下に押し込めた。

 

 

「隠れて!」

 

 

 次の瞬間、ドスの利いた怒声が響いた。

 

 

「誰だコラァ!」

 

 

 それを皮切りに、重たい足音がいくつも事務所に入ってくる。

 ――今度の乱入者は、魔法少女ではなかった。

 

 

「うちの事務所でなにして……っ!」

 

「ま、魔法少女!?」

 

 

 先ほどセイラが蹴破った扉から入ってきたのは、5名ほどの集団。

 いずれも大柄な男性であり、全身から堅気のそれではない独特の雰囲気を醸し出している。

 怪人組織〈ブラッディドラゴン〉の構成員だろう。

 なんらかの理由で事務所に戻ってきたのだ。

 そして。

 

 

「なぁんだ。噂のメスガキじゃねぇのか。残念残念」

 

 

 身を屈め、扉に体を押し込めるようにして入ってきた男が、セイラを見るなりそう呟く。

 怪人の知識が乏しい律にも、それがただの人間でないことが分かった。

 身長2メートルはあろうかという大男。

 しかし大きいのは縦方向にだけではない。

 まるで着ぐるみでも着ているかのような巨大な筋肉の鎧。

 表皮には肥大化した筋肉の線が浮かび上がり、昆虫のような印象を受ける。

 どんなにステロイドを打ってもここまで筋肉が大きくなることはない。

 

 

(ほかの人は人間だと思うけど、この人は……間違いなく怪人だ……)

 

 

 そう律は直感した。

 

 

「俺は〈ブラッディドラゴン〉の怪人・ヒルタ! メスガキ魔法少女のせいで引っ越しなんかさせられて、こっちはムシャクシャしてんだ……サンドバッグになってもらうぜ!」

 

 

 大理石のような白い歯を剥き出しにし、嗜虐的な笑いを浮かべるヒルタ。

 一方、相対する魔法少女セイラは。

 

 

「ののの、の、の、のぞむところだぁ……」

 

 

 最初の覇気はどこへやら。

 セイラは明らかに青白くなった顔で、へにゃへにゃのセリフを口にする。

 

 

(大丈夫かなぁ……でも隠れてろって言われたし……)

 

 

 デスクの下で律はオロオロとしながらも、ひとまずふたりの勝負の行く末を見守るのだった。

 

 

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