世はまさに、大オスガキ時代。
ここは男女比1:7の世界。あらゆる男性は優遇され、尊大で横柄で自己中心的に育ち、オスガキとなって横行闊歩している。
男性による横暴や女性差別は今や社会問題となり、女性活動家はオスガキ規制と罰則強化を目指して戦っている。
そんな世界に生きる僕――
学校で一番友達が多いし、クラスでも男女両方から好かれている。ただし、僕に冷たい態度の女生徒がひとりだけ――。
「明石くん、第一ボタンまで閉めてください。校則違反ですよ」
「え~~~? だって暑いんだもん」
「駄目です。風紀を乱さないでください」
風右木さんは風紀委員だ。真面目な性格と厳しい取り締まりから、氷の女と呼ばれている。
「風右木さん僕にだけ厳しすぎ~」
「明石くんは特に風紀を乱しているので」
僕はしぶしぶ第一ボタンまで閉める。男子高生の嗜みとしてメイクもネイルもしたいが、残念ながら校則と風紀委員の存在によって禁止されている。
といっても、みんなバレない程度にファンデ一体型の化粧下地を塗ったり、薄い色付きリップを使ったりして、可能な限りのオシャレをしている。
僕の席は風右木さんの隣だが、気付かれたことはない。堅物真面目優等生の彼女はファッションに疎いのだ。
「もうすぐ授業が始まりますよ。予習はしてきましたか?」
「え、したことない」
「漢文の授業は白文をノートに書いておかないと駄目です。最初の授業で指示されたはずです」
「え~、あれ授業始まってから急いで書き込むものじゃないの?」
「違います」
風右木さんはノートを広げた。すごく丁寧な字で、授業で扱う白文が全て書き込まれている。
彼女は優等生だ。これまで全ての定期考査で学年一位だった。
風右木さんはいつも勉強ばかりしている。部活もやってないし、恋愛にも興味はなさそうだ。
こんなに真面目に生きてて、人生楽しいのかな。
*
放課後。僕は陸上部の部室へ向かっていると――廊下にペンが落ちているのを見つけた。何気なく拾ってみると『○○中学 風右木吹雪』と書かれていた。
風右木さんのものだ。おそらく中学の卒業記念品だろう。
彼女は放課後に図書室で勉強していると聞いたことがある。僕は図書室へ向かった。まあ、いなかったら、教室に戻って彼女の机に置いておこう。
図書室へ入る。見回すと、一番端の席に風右木さんがいた。珍しくスマホをいじっている。彼女が校内でスマホを触っているところを見るのは初めてだ。
何してるんだろう。
僕は好奇心に駆られ、本棚の陰から回り込んで、こっそりと近づいた。彼女の背後から、画面を覗き込む。
ツイッターの画面だった。
風右木さんは猛烈な勢いで文字を入力している。その内容は――。
『隣の席の男子がエロすぎて今日も授業に集中できなかった。ボタン開けて胸元見せてるの性的すぎるでしょ』
!?!?!?!?!?!?
僕は硬直した。
えっ、隣の席の男子って、僕じゃん。反対側は女子だから、絶対僕のことじゃん。
つまり、えっと……。
風右木さん、超むっつりスケベじゃん。
氷の女とまで呼ばれた堅物風紀委員の、本当の姿。一般的な女子高生がそうであるように、彼女もまた、性欲に支配されたエロ猿の一人だった。
そのことを理解した瞬間、黒い好奇心が湧く。僕は静かに風右木さんへ近付き――。
「こんにちは、風右木さん」
といって、隣の席へ座った。
風右木さんの顔が凍り付く。驚愕し、目を見開き、僕を見ている。
次の瞬間、風右木さんはスマホを隠そうとしたが――ガシッ!と彼女の腕を掴み、無理やりスマホを奪う。
「えっ、ちょっ、明石くんっ!?」
僕は全力で走り出した。廊下へ出て、トップスピードで駆け抜ける。風右木さんも追ってくるが、陸上部の走力に勝てる筈もない。
僕は彼女を撒き、無人の空き教室へ入った。
画面はそのままだ。風右木さんのアカウントが表示されている。
僕は画面をスクロールし、過去のツイートを遡っていく。
『隣の席の男子、シューズ脱いで足ぶらぶらさせてるのエッロ。エロすぎて授業が頭に入ってこない』
『隣の席の男子、二の腕エロすぎる。男子の二の腕と胸板って同じ硬さらしいけど、触って確認してみたい』
『隣の席の男子、喉仏エロすぎ。あれ無料で見れていいの? 喉仏丸出しなのって胸とかチ○ポ見せてるのと同じようなものじゃない?』
うわあ……。
すごぉ……。
これ絶対見ちゃいけないやつだ……。
風右木さん、僕のことエロい目で見てたんだ……。
――胸の中に灯る、奇妙な感覚。
これは、喜悦だ。風右木さんの弱みを握り、彼女を弄ぶ権利を得たという、黒い喜びだった。
僕は自分のスマホで、彼女のスマホを直撮りした。僕に対する欲望の数々が映ったツイート群。もしこの写真が男子グループに流出したら、風右木さんは社会的に終わってしまうだろう。
「見つけた!!!!!」
教室の扉が勢いよく開いた。風右木さんが入ってくる。
彼女はずんずんと歩いてくる。命懸けの場面にいるかのような、必死の形相だった。
「み、見ましたか?」
「何も見てないよ」
「ほ、本当に?」
「うん、風右木さんが『隣の席の男子』をすごい性的な目で見てることしか分からなかった」
「~~~~~~~~ッ!!!!!」
風右木さんの顔がぶわっと赤くなる。瞳は揺れ、体もガタガタと震えている。
「ねえねえ風右木さん、隣の席の男子って誰? 僕気になるなあ」
「うっ……!!! くっ……!!!」
風右木さんは、焦燥と絶望の入り混じる凄まじい表情をしている。
僕は彼女に近付き――鼻先をちょんちょんと突っつく。
「このむっつりスケベ」
「~~~~~~~~ぅッ!!!!!」
風右木さんの体がビクンと跳ねた。彼女の顔が爆発的に赤くなる。
「む、むっつりスケベじゃないです! スマホ返してください!」
「いいよ」
僕がスマホを差し出すと、彼女はバッと奪うように取り返した。
「あとこれも」
ついでにペンを渡す。
「あっ、これ……」
「廊下に落ちてたよ」
「あ、ありがとうございます」
「これ渡そうと思って探してたんだ。そしたら凄いもの見ちゃった」
風右木さんが顔を顰める。最悪だ、という心情がありありと伝わってくる渋面だ。
「あんなに『風紀を乱すな』とか言ってた癖に、僕のカラダに興味津々じゃん(笑)♡」
「ぐうっ……!!! ち、ちがっ……!」
「僕にだけやたら厳しかったの、もしかして好きだから?」
「違いますっ! 風紀を守るためですっ!」
「その風右木さんが僕のカラダ狙ってくるくせに~(笑)♡」
「ね、狙ってません! 私はそんな不埒なこと考えてませんっ!」
「へ~(笑)♡ 僕の二の腕とか胸触ってみたいって書いてたのに?(笑)♡」
「ぐうッ!?!?!?!?!?!?」
風右木さんの表情が歪む。真っ赤な顔がさらに赤々と染まっていく。
僕は彼女に近付き、耳元に唇を近づけ、吐息と共に言葉を吹き込む。
「うそつき(笑)♡」
「ぅ~~~~ッ!!!!!」
屈辱に歪んだ顔。とんでもない羞恥に苦しむ彼女は、今にも倒れそうなくらい顔が赤い。
風右木さんはその苦しみに耐えられなかったのか、後ろを振り向き、バッと逃げ出した。
「あ、さっきのツイート大体撮影して保存したから」
ピタリ、と風右木さんの動きが止まった。なんとも滑稽な後ろ姿だ。
「これ男子グループに共有したら、社会的に終わっちゃうね?(笑)♡」
風右木さんが振り向く。この世の終わりのような、絶望の表情だった。
「そ、それだけは許してください……」
「いいよ、誰にも言わないでおいてあげる」
風右木さんの目が希望を取り戻し、表情が明るくなる。
「その代わり、今日から僕のオモチャ決定ね♡ よろしく、風右木さん♡」
風右木さんは、膝から崩れ落ちた。
**1
夜、自宅のベッドで仰向けになり、私は未来を悲観していた。
私の人生、終わった……。
真面目に勉強頑張ってきたのに。優等生としての地位を築いてきたのに。
それが、砂のように一瞬で崩れ去った。
よりによって、性的な目で見ていた本人にバレてしまった。
死ねる。
普通に死ねる。
「あぁああああああああああッ!」
私は苦悶の叫びを上げながら、ベッドの上で暴れる。
最悪の黒歴史だ。死にたい。
ただ、幸いなのは、あんまり軽蔑されなかったことだ。むしろ、どこか楽しそうですらあった。
――今日から僕のオモチャ決定ね♡ よろしく、風右木さん♡
明石くんの、嗜虐的な笑み。弱者をいじめたくてたまらないという顔だった。
明日からどうなるんだろう。ひどい命令されるのかな。何言われても、絶対逆らえないじゃん。
やばい、学校行きたくない……。人生で初めて仮病使おうかな……。いや、駄目だよね、そんなこと……。
**2
翌日。
「おはよう、風右木さん」
僕が声をかけると、彼女は一瞬ビクッとした。
「お、おはようございます」
僕は隣の席で、わざとらしく第一ボタンを外してみた。彼女はそれを見て顔を顰める。
「……こ、校則違反ですよ」
僕は彼女に近づき、小声で囁く。
「ホントは胸元見えて嬉しいくせに(笑)♡」
「ぐっ……!!!!!」
「あ、でも胸元見えてると授業に集中できないんだっけ?(笑)♡」
「ぐうっ……!!!!!」
風右木さんの顔が羞恥に歪み、頬が赤く染まる。
うわ、やばい。
風右木さん、面白すぎる……!
*
休み時間。僕が水筒で水を飲んでいると、隣の席から視線を感じた。
隣を見ると、風右木さんはバッと顔を逸らしてしまう。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもありません」
僕はもう一口飲んでみる。彼女は顔を前へ向けたまま、横目で僕の喉のあたりを見ていた。
あ、そういえば……。
――隣の席の男子、喉仏エロすぎ。あれ無料で見れていいの? 喉仏丸出しなのって胸とかチ○ポ見せてるのと同じようなものじゃない?
風右木さんは、男子の喉仏に何かしらの性要素を見出す人だった。正直全く理解できない。足とか胸は分かるけど、喉仏は全然エロくない気がする。
ちょっとだけ、純粋な好奇心が湧く。
「ねえ風右木さん、触ってみる?」
「えっ」
「胸とかはダメだけど、喉仏くらいならいいよ?」
「えっ、い、いいんですか……?」
風右木さんの顔が、期待で弛む。口角が上がり、瞳がキラキラと輝いていた。
しかし、彼女は何かに気付いたようにハッとする。
「でっ……でも駄目です。教室でそんなことをするのは、風紀的にいけません」
「今触らないなら触らせてあげないよ?♡」
「えっ……!? うっ……ぐっ……いやでもっ……! 風紀的にっ……! ぐっ、ううっ……! いやっ……あのっ……さ、触らせてください……」
風右木さんは熟考の末、答えを出した。
あの厳しく真面目な風紀委員・風右木さんの信念を曲げさせた、ということに勝利の優越感を覚える。なんか、うれしい。
僕は彼女に席を近づけた。少し顎を上げて、触られる体勢を取る。
風右木さんは辺りを見回してから、おそるおそる僕の喉へ手を伸ばした。
彼女の指が、僕の喉仏に触れる。
「硬っ……!!!」
彼女の指が、喉仏のゴツゴツとした段差に触れる。感触を確認するように、何度も指を行き来させている。
「すごっ……こんな硬いんだ……」
自分の急所を触らせている、というゾワゾワ感がある。
風右木さんは瞳孔をギンギンに見開き、鼻息を荒くしながら、僕の喉仏を触っている。
うわ、風右木さんちょっと顔赤い……。ホントにこれで興奮するんだ……意味わかんない……。
「風右木さん、これ嬉しいの?」
「はい……! 嬉しいですっ……!」
「二の腕とか太もも触るよりも?」
「それは難しい質問です……というか喋ると喉仏動くのアレですね……」
なにがアレなんだろう。エロいとでも言いたいのかな。
どうしよう、風右木さんの気持ちが全然分かんない。
彼女は嬉しそうに、夢中で僕の喉仏を触り続ける。
すると――流石に長く触らせすぎたせいで、異変に気付く人が出てくる。
「おい、見ろよあれ」「え、なんで風右木さんが明石くんの喉触ってんの?」「は、なにあれどういう状況?」「マジで何?」「羨ましいんだけど」「風右木さんが男子にあんなことしてるの初めて見た……」「え、明石くん何したの?」「風紀委員になれば男子の体触れるんですか?」
気付けば教室中の注目を集めてしまっていた。
風右木さんもその声に気付き、慌てて手を引いた。辺りを見渡し、気まずそうな顔をしている。
僕は小声で、風右木さんに囁く。
「気が向いたらまた触らせてあげるよ♡」
「えっ」
風右木さんの口角がみるみる上がっていく。彼女はうつむき、嬉しそうな笑みを我慢していた。
「うわ、ニヤニヤしすぎ~(笑)♡」
「し、してませんっ!」
僕は彼女に顔を近づけ、小声で囁く。
「むっつりスケベ(笑)♡」
「ち、違いますっ……!」
「処女丸出しでかわいい~(笑)♡」
「ぐうッ……!!!!!!!!!」
処女いじりが相当効いたのか、風右木さんの顔がぐしゃりと歪んだ。真っ赤に染まった彼女の表情は、熟れたリンゴより真っ赤だ。
やばい……処女で遊ぶの、楽しすぎる……!
**3
「ちくしょうッ! あんのオスガキッ!」
私はベッドの上でうつ伏せになり、枕に顔を埋めて叫ぶ。
明石くんの、私を下に見る愉悦の表情。あの顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
からかわれて、掌の上で踊らされた。私の処女すぎる反応を見て楽しんでた。
許せない。
あのオスガキを、分からせたい。
家に連れ込んで、組み敷いて、跨って――死ぬほど分からせてやりたい。
でも、無理すぎる。あんなカースト最上位の陽キャ男子と私が繋がれる機会など、万に一つもあるはずがない。もしあるとしたらそれは、人生を犠牲にして行うたった一度の
倫理的に、ありえない。そんなことはしない。
私は、自分の手を見た。喉仏を触らせてもらえた時の感触は、今でも鮮明に思い出せる。
思えば、人生で初めて男子に触れた。しかも、エロいところを。
はぁ……明石くん、エロすぎ……。
もっと触らせてくれないかな……。