世はまさに、大オスガキ時代。
ここは男女比1:7の世界。あらゆる男性は優遇され、尊大で横柄で自己中心的に育ち、オスガキとなって横行闊歩している。
男性による横暴や女性差別は今や社会問題となり、女性活動家がオスガキ規制と罰則強化を目指して戦っている。
そんな世界に生きる私――
給金は高く、福利厚生も良い。高校卒業から二年間ここで働いているが、高卒としては恵まれた生活だと思う。
ただ、問題がひとつ。私が仕えるのは、とんでもないオスガキなのだ。
「あれれ~?(笑)
「もっ、申し訳ございませんっ! つくし様っ!」
髪色は限りなく白に近いベビーブルー。青い瞳はラピスラズリのように、華々しく煌めいている。
整ったルックス。ほどよく肉感的な肌。顔と体だけは最高の男だ。
私は彼に対し、頭を下げる。視界には、床に向かって垂れ下がる私の髪と、粉々に砕けた皿が映る。
「もう、今月何枚目~?」
「申し訳ございませんっ……!」
「早く片付けなよ~」
私は箒で割れた皿を片付けた。すると、つくしはニヤニヤと笑いながら――。
「明渡、正座」
と、命令してきた。
私は「はい……」と力なく返事をして、床に膝を突く。
私を見下す眼差し。
能力がない女。立場が低い女。
そんな、圧倒的格下を見るような、侮蔑の色濃い視線だ。
「こんなに物壊してたら、お母さんからクビにされちゃうよ?」
「……はい」
「注意が散漫なんじゃないの? 火を使う時と壊れ物を運ぶ時だけは集中しないとダメでしょ? 大人なのにそんなことも分からないの?」
「ぐっ……ぅ……」
年下の男。裕福な家の息子。社会の厳しさも知らない未成年に、説教されている。
けれど、言い返せない。彼は雇用主の息子だから、機嫌を損ねればクビにされてしまう。
「明渡って、年上なのに危なっかしくて見てられないんだけど。ほんとに情けないね」
握り込んだ手に、爪が食い込む。
惨めだ。心の内側から悔しさが溢れて身体中に満ち満ちる。
「だから処女なんだよ、明渡は」
「なっ……!? そ、それは関係ないじゃありませんかっ……!」
私はつくしを睨みつけるように抗弁する。けれど――。
「あるでしょ、女として弱いから男と付き合えないんだもん」
「っ……!」
「高校、共学だったんでしょ? 男子と仲良くなれた? 何人と連絡先交換した? 彼氏はできた?」
男女比1:7。高校のクラスでも、男子が五人で、女子が三十五人だった。倍率は高いが、決して可能性はゼロではないはずだった。恋人はともかく、男友達くらいなら作れる筈だった。
けれど私は、男子とほぼ会話することなく卒業してしまった。
勇気が出なかった。ルックスが良いわけでもなく、コミュ力もなく、胸も小さい。こんな私が男子から相手にされるとは思えず、話しかけることができなかった。
大人なのに、男と手すら繋いだことがない。男友達すらいない。処女であることは、私にとって最も触れられたくないコンプレックスだ。
「明渡、一生処女のままなんだろうなあ」
つくしの言葉に、心の奥深くを抉られる。
一生、処女。
男に触れることなく、死ぬ。
男とS○Xすることなく、死ぬ。
限りなく実現可能性が高く、かつ私が最も危惧している未来を突き付けられ、絶望的な気分になる。
すると、つくしは私に一歩近づき――妖しい笑みを湛えながら見下ろしてくる。
「ねえ、僕が明渡の処女もらってあげよっか?」
「えっ?」
一瞬、頭が真っ白になった。
「えっ、あ、あのっ、マジですか……?」
処女、捨てたい。
女として、早く大人になりたい。
S○Xしないまま終わる人生なんて嫌だ。
一回限りの戯れでもいい。彼の気まぐれで一晩共にできるだけでもいい。それで処女を捨てられるなら、私は大きく成長できる。劣等感に溢れた人生から脱却できる。
「したいなら、土下座してよ」
私は、すぅ――と息を吸い込み、勢いよく頭を下げた。
恥も外面も勢いよく放り投げた。ここだけは、恥ずかしさやプライドよりも優先されるべきものがあるという確信があった。
「お願いします。私の処女をもらってください、つくし様」
数秒の沈黙の後――パシャリと、撮影音が聞こえた。
「えっ?」
私は顔を上げる。ニマニマと悪童のような笑みを浮かべたつくしが、スマホを構えながら私を見下ろしていた。
「あははっ!(笑) 処女の土下座ウケる~!(笑) これクラスの男子にも見せてあげよ~!(笑)」
「えっ、ちょっ」
「処女捨てさせてあげるとか、ウソに決まってるじゃん(笑)」
――冷や水をぶっかけられたかのように、心が冷え込む。
え、ウソ……?
私は騙されて、土下座までさせられて、ただ笑われただけ?
「なに本気にしてるの?(笑) 明渡が僕みたいな美少年とえっちできるわけないじゃん(笑)」
つくしの青い瞳が、私を見下ろす。格下の女を弄ぶのが楽しくて堪らないという愉悦を宿す眼差しだ。
「ワンチャンあるとか思ってたの?(笑) いや、ムリムリ(笑) ムリだから(笑) 期待させちゃってごめんね?(笑)」
「っ……くッ……! ちっくしょうッ……!」
怒りが噴き出す。
脳味噌が熱く沸騰し、血管が数本ブチギレそうだ。
このオスガキを、分からせたい。めちゃくちゃにレ○プしたい。
でも、指一本、触れることすら許されない。男性保護法違反だ。許可なく男の手に触れるだけでも不同意わいせつ罪が成立した判例がある。
そもそも、雇い主の息子なのだ。何をされても、言われても、受け入れるしかない。私は、どれだけつくしに弄ばれても、決して抵抗できないのだ。
「面白かったよ、じゃあね明渡(笑)」
つくしは笑いながら去っていく。
私は怒りに震えながら、思いきり拳を握り締めた。爪が掌に食い込んで痛む。
くそッ……! くそッ……! あんのオスガキッ……!
*
休日、私は二人の友達とカラオケで遊んでいる。
二人は高校時代のクラスメイトであり、どちらも私と同じく処女だ。片方は大学へ進学、もう片方は地元の企業へ就職したが、今でもたまに集まって遊ぶ仲だ。
私は、つくしから受けた仕打ちについて愚痴をこぼすと――。
「美少年に処女イジられた上にお金貰えるの? なんだそれ羨ましいんだが?」
「おい明渡、そこ代われ」
ダメだこいつら、精神がマゾすぎる。
「冷静になってよ。毎日すごい屈辱と劣等感を味わうんだよ? 同じ経験してみれば分かるけど、絶対耐えられないからね」
「いやこっちは毎日自宅と会社を往復するだけで、男との会話すらないんだが? 駅のホームで見かける男子しか癒しがないんだが?」
「大学は男いるけど、みーんなイケメン彼女いるし、私もほぼ男絡みないよ。それに比べて、美少年と同じ家で暮らして、しかもいじめてもらえるとか最高じゃん」
「いやいや……あれほんとにキツいから。実際に体験してないから分かってないだけだよ」
本当にフラストレーションが溜まるのだ。二人にはそれが分かっていないのだ。
「明渡は、その男の子好きじゃないの?」
「えぇ? 好きというか……分からせたいという気持ちしかない」
私の日々のオ○ズは、つくしだ。毎日三回くらいしている。もし一日でもオ○ニーを欠かしたら、たちまち私の性欲は限界を迎え、彼を襲ってしまうだろう。
それほどに、毎日燃えるような激情に苦しんでいるのだ。
しかし、どれだけ日々の苦しみを熱弁しても、結局二人には理解してもらえなかった。
*
翌日、私が屋敷の窓ガラスを拭いていると、つくしが話しかけてきた。
ガラス越しの陽光に照らされたベビーブルーの髪が、真っ白に輝いている。
「昨日いなかったけど、どこか行ってたの?」
「ええ、カラオケへ遊びに行っていました」
一瞬、つくしの表情が翳る。
「……男?」
「いえ、高校時代の女友達です」
すると、つくしは眩しい笑みを浮かべた。
「まあそうだよね~(笑) 明渡に男の友達なんていないもんね~?(笑)」
私はうつむき、怒りに肩を震わせる。
否定できなかった。事実、私には男の友達どころか知り合いすらいない。
その後も、つくしは私にくっついてきて、からかい続けてきた。なんでいっつも私に構ってくるんだろう。そんなに処女で遊ぶのが楽しいんだろうか。
*
夜、雇い主に呼び出された。彼女はつくしの母親であり、御菓子堂の社長である。
「よく来たわね、明渡」
ああ、ついにクビか――と確信した。
食器を割ったり、調度品を壊したり、いろいろ失敗をしすぎた。そろそろマズいとは思っていたのだ。
はぁ……次の勤め先考えなきゃ――。
「あなたには、つくしを分からせてほしいの」
「……。……はい?」
「あの子の横暴さと悪ガキっぷりは目に余るわ。このままだといつか大きな失敗をして、御菓子堂の看板に泥を塗ることになる。だから、その前に矯正しなければいけない」
「な、は、なにを仰って……」
「あの子にはいい加減、荒療治が必要なの。あなたもつくしの人間性に問題があることは分かっているでしょう?」
「ええ、まあ……社長のご令息にこんなことを言うのも憚られますが……酷いとは思います」
この屋敷に来てからの二年間、毎日虐げられてきた。バカにされ、処女をいじられてきた。何度ぶち犯してやりたいと思ったか分からない。
「明渡、これを受け取って」
そういって社長が差し出したのは、鍵だった。
「この鍵はあの子の部屋のものよ。夜這いして、二度と生意気な言動をできないように、女の怖さを教えてあげてちょうだい」
私は硬直する。常軌を逸した提案だった。
「い、いやいやいや! 無理ですよ! そんなことしたら、つくし様に被害届出されて、私が捕まっちゃいます!」
「それはないわ。あの子、あなたのこと好きだから」
「えっ……?」
「一目惚れだったのよ。二年前、つくしがどうしてもあなたをメイドにしたいって言い出してね」
私がこの屋敷に来た経緯は、御菓子家からの指名だった。当時は「なぜ新人の私に?」と思ったが――今まですっかり忘れていた。
「にわかには、信じがたいのですが……」
「本当よ、つくしはあなたのことが好きなのよ」
う、うそぉ……。だって、私だよ? 暗くてキモくて貧乳でいいところないし。
……でも、つくしがずっと私に引っ付いてからかってきたのは、私のことが好きだったから? 女子小学生みたいな「好きな子をいじめたくなる」性分だから?
ま、マジで……?
「これは、あなたにしか頼めない仕事よ」
社長は、真剣な面持ちで私を見つめる。
「あの子を、分からせてちょうだい。思いっきりやっていいわよ」
あのオスガキへ報復の機会を授けてくれた偉大な主へ、感謝の意を込め――私は深く頭を下げた。
「謹んで、承りました」
*
「つくし様、明渡です。よろしいでしょうか」
「いいよ~」
夜――つくしが入浴を済ませた直後を狙い、彼の寝室を訪れた。社長からもらった鍵を使うまでもなく、あっさり中に入れてしまった。
つくしはキングサイズベッドの縁に座った状態で、こちらを見ている。冷感素材でできた薄い生地の、黒いベビードールだ。うっすら透けて肌色が見えている。エッッッロ。
私は、部屋の内部から、内鍵を掛けた。
「え、な、なんで鍵閉めるの?」
つくしは不安そうな顔を浮かべた。
ええ、そう。その通り。
今あなたが危惧したことは、現実になる。
私はつくしに近付く。彼の顔が緊張を帯びる。
「あなたの言動は、少々度が過ぎました」
「えっ?」
「分からせの時間です。覚悟しなさい」
「なにいって――うわっ!?」
私は、つくしの両脇に手を入れ、強引にキングサイズベッドの中央へ移動させた。
「なんなのっ! 離してっ!」
「いいえ、離しません」
私はつくしを押し倒した。巨大なシーツの上で、仰向けになった男。さながら、俎上で食べられるのを待つ魚のようだ。
「こんなの絶対お母さんに言いつけるからっ!」
「残念ながら、これはそのお母様からの指示ですよ」
「えっ」
「あなたの言動が目に余るから、分からせてほしいと頼まれたのです」
「そっ、そんなっ!?」
つくしのベビードールをぐいっと捲り上げ、強引に脱がせて放り投げた。
上下ともに、緻密に織り込まれた黒薔薇柄の、淫靡な下着だった。
エッロぉ……!!!!!!!!!!!!!
初めて見た、つくしの下着姿。煽情的な下着に包まれた、肉感的な身体。目が離せない。この体を一晩好きにできるなんて、この一夜に命を懸けていい程の名誉だ。
「やめろっ……! 見るなよっ……!」
つくしは藻掻くが、所詮は非力な男だ。まったく私を押し返せない。
暴れて千々に乱れたベビーブルーの髪。涙に潤み、ひと際目映く輝く、青い瞳。
相変わらず、顔と体だけは最高の男だ。
「つくし様、社長からお聞きしたのですが、私のことが好きって本当ですか?」
「なっ!?!?!?!?!?」
つくしが大きく目を見開いた。
「なんで、それをっ……!」
「一目惚れだったそうですけど」
「なんで言うのお母さんのバカッ!!!!!」
つくしは、綺麗な顔を羞恥に歪ませ、そういった。
マジか。
マジなんだ。
つくし様、本当に私のことが……。
「そんなに私のこと好きなのに煽ってたってことは、実は分からされたかったってことですよね?」
「ちがっ……んひゃっ!」
私は、彼の下着の上から胸を撫でた。すると――信じられない硬さの突起にぶつかった。
「えっ、乳首コリコリにしてるじゃありませんか」
「してないしっ!!!!!!!」
「へえ……」
私は服の上から、つくしの乳首を狙い、人差し指でカリカリと引っ掻く。
「んっ!♡ あっ!♡ ばかっ!♡」
「うわ声エッロ!!!」
「んああっ!♡ さわんなっ!♡ あっ!♡ んんっ!♡」
つくしは嬌声を上げながら、ぶんぶんと頭を振る。最上級の美少年が感じている姿。なんてエロい光景なのだろう。世の女が死ぬほど見たくて羨ましがる、極上のオスの痴態だ。
「こんのっ……! 処女のくせにっ!」
つくしが涙に濡れた瞳で、私を睨みつける。
ああ、もうダメだ。
エロすぎる。ガマンできないっ……!
「このカラダっ! 全部私のものっ!」
「ちょっ、力つよっ……! 鼻息荒っ!」
「もう絶対許さないっ……! 朝まで犯すっ!」
私はつくしの下着に手を掛け、強引に引ん剥いた。
獣欲を、目の前のオスへとぶつける。
今まで散々処女いじってくれた分、たっぷりお礼をしてやる。
*
二十年間の人生で、最高の夜だった。
バカにされ、虐げられ、処女をバカにされてきた年月。溜まりに溜まり積もりに積もったフラストレーションが、一気に解放された瞬間の、天上にも昇る悦楽。最高のカタルシスだった。
オスガキを自分の手で分からせたことが、嬉しくて仕方ない。
窓からは、朝日が射し込んでいる。ベッドへ並んで横になっている私とつくしは、共に裸のまま毛布をかぶっている。
「それにしてもあなたザコすぎでしょ。途中からうるさすぎて鼓膜なくなるかと思ったし」
「ザコじゃないっ!!! というかメイドなんだから敬語使えよっ!」
「気持ちよかったよ、つくし」
「こいつッ!!!!!」
私はカノジョ面をして、つくしの頭を撫でる。
彼は心底悔しそうな顔で、ぷいっとそっぽを向いた。
「これに懲りたら、女を下に見るのはやめることです。いいですね、つくし様?」
「……貧乳へたくそ女」
――カチンと来た。燃え切ったはずの怒りが再燃する。
あれだけお仕置きしてあげたのに、まだ分からないとは。
私は毛布の中で、つくしの上に跨り、彼の肩をがっしりと抑えつける。
「えっ、ちょっ、待って! うそうそっ! ごめんって! もう死んじゃうからっ!」
「許しません。あなたが