二本指の下剋上   作:落ちこぼれの3級フィクサー

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マリー・セジェットの断罪

〜渡らずの廊下〜

 

……吐き気がする。この空間に入ってからずっとそうだ。

ここ自体に何らかの仕掛けがあるのか……少なくとも、心を纏い、強く気を保つことを考えないと今すぐにでもぶっ倒れそうだ。

 

今は令状が来た日の翌日の朝。どうやら俺は断罪されるらしい。

……と言ってももう一時間近くここで待っているが何も起きやしないし誰も来ない。

 

「場所を間違えたか?」

 

「いや、合っているぞ。大罪人“スズモリ カエデ“」

 

……音がしなかった。足がすくむ。まるでずっと前から僕の後ろにいたかのように自然に、それでいて気持ちの悪い登場の仕方だ。

冷や汗が背中をつたう。ゆっくりと、後ろを振り向く。

 

「発言を許可する。聞きたいことが多いだろう?」

 

赤髪の若い女だ、20〜30代だろう。アンダーボスは当然として、カポⅣに至るまでには相当の功績を積む必要がある。つまり、それが意味しているのは────

 

「ははあ、ありがとうございます。マリー様」

 

先ずは警戒を解くところからだ。隙をつけばまだ可能性はあるはずだ…!

 

「ふむ、おかしいなぁ。私の予想だと、君は最速でこの首を獲りにくるものだと思っていたのだが……。おおよそ、先手を取れなかったから警戒を解こうとかそんなとこだろう」

 

……全くその通りだ、クソッ。心を読まれているような気がする。なんらかの遺物か?

 

息を吸って心を落ち着かせる。もう、敬語で取り繕う必要はないだろう。

 

「一つ目の質問だ。僕についてどこまで知っている」

 

「目的、行い、存在といった所か……。所属組織だけが不明瞭だが、おおよそ他の指。もっと言えば中指、人差し指を除外して、小指か薬指。行動から推測するに98%ほどで小指だろうな」

 

まあ、要するに全部バレているってことだな。

 

「二つ目。なぜ僕を即決処刑しなかった」

 

「それについては丁度これから話そうと思っていたところだ。他に質問がないのなら私の部屋へ向かおうと思うのだが……」

 

「三つ目。遅刻したの、わざとだろ」

 

マリーの口がにいっと薄気味悪く開かれる。

 

「当たり前だろう。この空間の瘴気(しょうき)程度で気を失う男だったら、私が時間を使ってやる価値もないが故に、殺そうと思っていたのだよ。君が期待どおりで良かった」

 

「質問は以上(イサン)かな。では、向かおう。私の部屋はここのすぐ近くにあるんだ」

 

そう言うと、マリーは軽やかなステップで歩き始める。ついてこいということだろう。

……今、後ろから襲えば殺(や)れるか?いや、辞めておこう。この女には全て見透かされているような気がするのだ。

 

「ここが私の部屋だ。なかなか悪くないだろう?」

 

案内された部屋は広く、豪華に飾り付けられていて、ソルダートとカポの違いがハッキリと分かる。

 

「紅茶を用意しよう。ソファにでも座って待っていておくれ」

 

言われた通り、すぐ隣にあった革製のソファに座ってみる。

……フカフカだ。軽く跳ねてみる、すると弾力で体がはじき返されるのだ。

 

ボフン、ボフン。しばらくそうして遊んでいると────

 

「随分と気に入ったようだね」

 

マリーが紅茶を持って現れた。

 

「気にしないでくれ」

 

「それは無理があるなあ」

 

マリーがソファに座ると、“さて“と前置き、話し始める。

 

「まず、最初に言っておくこととして私が君をここに呼んだのは殺すためではない」

 

まあ、だろうな。これから殺す相手にしては対応が良すぎるし、途中の会話から薄々勘付いてはいた。……しかし、そうすると何だ?こいつも親指に大した忠誠は誓ってないのか?

 

「と、言うと?」

 

「全てを話すとするなら、私の思想や過去が関わってきて冗長になってしまう。……故に、簡潔に、分かりやすく言うなら『私のおもちゃになれ』、だ」

 

……。

は?

 

「ふむ、これでも難しいか。要は私の言うことを全て聞いて、私を常に楽しませ続ける人形になれということだ。これが、私が君に与える断罪」

 

「……それが、分からないって言ってんだけど?」

 

「それは君が気にすることではない。言葉のままの意味だ。人形になるか、ここで死ぬか」

 

懐に括ってある銃剣に手を……あれ?銃剣は……

 

「間違っても反抗しようだなんて考えないでおくれよ。私におもちゃを好き好んで傷つける趣味はないんだ」

 

気が付けばマリー・セジェットの手には僕の腰にあった筈の銃剣が握られていた。

……狂ってる。その力も、思考も。

 

「……もし、僕がそれを了承したら僕は一生お前のパペットとして生きなきゃならないのか?」

 

「ふむ……。愚問だな、カエデ。リミットは君が私より強くなるまでだ。君が私より強くなったら私に反旗を翻せばいい……まあ、下剋上だな」

 

「はっ……。確かにその通りだ」

 

僕が強くなればいい。天罪星刀も取り返して、肉体を強くして、望を完璧に扱えるようにして、こいつを殺し、アンダーボスを殺し、東部親指を崩壊させる。

 

「分かった。今この瞬間から、僕はお前の操り人形として生きよう」

 

手を差し出す

 

「ああ、悪くはしないよ。私の可愛い可愛い人形よ」

 

こうして僕は東部親指カポⅣマリー・セジェットの人形となった。

そして、これを機に僕の運命は大きく変わることになる。

 




UAは増えているのに……くそぅ!
ここが、ズキンとしたんだ。

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