五年は組の商人   作:ジェーンドェは彼方

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3話

 私が相手をしないのを良いことに堂々と口を開いたのが仇になったようだ。「悪かったよ」と口では言い放ち、バツの悪そうに彼らは一足先に食堂へ行ってしまう。反省の色はあまり見えなかったが、それに納得がいかなかった様子の彼は眉間に皺を寄せていた。

 

「ええッと……ウチんとこの馬鹿がごめんな!」

 

 と、彼は頬をかきながらそう言うが、その目はどうにも泳いでいる。もしかせずとも、あれは衝動的に動いた結果なのだろう。私へどう言葉をかけるか迷いかねているようで、結局、弱々しく手を振って向けると「それじゃあッ」と逃げるように側で見ていた友人の元へ駆けていってしまった。(正義感が身につき始める年頃なのは分かるが、あと先考えず動いてしまう点に関してはまだ甘いな)

 そろそろ嫌気がさしていた頃だったし、ひとつ釘を刺してくれたのは助かったが、今後の奴らの目が少し気になってくるものだ。自分で自分を気の毒に思うよ。

 そらから、私は食堂に入っておばちゃんに注文を伝えると、席が空くまで外で待つことにした。座って食事がとれるのなら何処だって構わなかったのだが、先ほど嫌味をこぼした連中が私を見るなり睨みを効かせるものだから、まあ気味が悪かった。

 どうしても気に食わないのだろうが、その悪辣な態度が回った挙句クラスメイトに叱られたんだ。辱めを受けた腹いせのやり方が何ともねちっこいもんだ。

 私は静かに溜息をこぼしていた。

 すると、

 

「あ、藤ノ木さんだ!」

それは聞き覚えのある声、振り返ればその後ろにもう二人。

 

『おや……ごきげんよう、良い子の皆さん』

 

 純粋無垢な笑みは世に溢れた悪辣な毒も浄化する効果があると私は思う。つまり、この良い子たちは私の前に突如として現れた天使だ。

 

「藤ノ木さん!良い子で纏めてもいいですけど、私たちの名前ちゃんと覚えてます?」

 

 と、癖のある髪に眼鏡を掛けている良い子は怒ったような、寂しそうな様で私へ歩みを勧めてくる。

 

『もちろん覚えてますよ』

 私は目線が合うよに屈んでやると、ひとりひとり目をやって呼びかける。

 

『乱太郎さんに、きり丸さん、しんべヱさんですね』

 と云うと口を揃えて「そうで〜すッ!」と良い子たちは言う、しかし

 

「でも、さん付けはやめてください!私たち下級生なんですよ!」

「なんか、ちょっと違和感あるっすね」

「そうですよ!もっと柔らかくしてください!」

 なんて照れくさそうに言われてしまった。

 

『おっと……つい、これは癖なんですよ』

「そのまんまでも、「くん」でも良いですから、さんだけはやめてください!」

『次からはそうしますから。ね、ほら、早く注文を取らないとお昼が終わってしまいますよ』

 

 私は迫りうる良い子たちに押されながらも、どうにか話題を空そう指を差し、彼らを促す。

「いっけな〜い!」と素直に焦る子らは純粋で愛らしい。

 

「藤ノ木さんは何になさったんですかぁ?」

と、しんべヱ

 

『私はAランチにしましたよ。鰆を昆布で締め、塩と酒で焼いて、大根おろしとポン酢で頂くんです』

「わぁッ!ぼくもそれがいいです!藤ノ木さんって、お勧め上手ー!」

 

 私は良い子たちが元気に注文の呼びかけをしているのを見ていて、どこか微笑ましかった。同時に、羨ましくも思った。

 

(註一)

 これは余談ですが、私は福富しんべヱを随分前から知っていたと言う話でもしておきましょうか。と言っても、福富家と知り合いなの父の方で、私は小耳に挟んだだけでして、この目で存在しているのをはっきりと見たのは、本当にここへきてからのことです。私たち藤ノ木家は江戸より前は北に拠点を持っていたのですが、その頃、やっと大日本帝国に戻ってきたばかりで、まだ一月仕方っていなかったのですが、父が誰かと文のやりとりをしているの知り、それが福富家であることを教えられたのです。

 その縁は随分と長く続いて、挙句には忍術学園の紹介までされまして、ーーそう、ここへ来るきっかけは福富家だったのですよ。紹介状をくれるなんて驚きでしょう。あの父に友人がいたと言うのも驚きでしたが。生きていればこんなこともあるのかと思えば、繋がりは大切にすべきですよねェ。

 

 

 ーーさて、私が食事を終えたあたりから話しましょうか。

 腹を満たした後、私は自室の前の縁側に座って、柱に肩を預けながらぼんやりと過ごしていた。本でも読もうかと思ったが、考え事をし始めたらキリがなくて、集中力がないと諦めてぼうっとすることにしたのだ。

 空を眺めていると、時折強い風が吹きつけて、桜の花びらがどこからか流れてくるのを見ていると、春を感じる。

 江戸を離れ、西を目指していた時も、生い茂る木々の根本に慎ましく生えるつくしや、親鹿の側をピッタリとくっついて離れない子鹿を見かけた時も、同じような気持ちになったのを思いだした。それと同時に『もっと早くここへ来ていたら、私は何の遠慮もなく、同年代と初めから肩を並べることができただろうか』と、胸中にこぼす。(……後ろめたく思うよ)

 邪魔をしたいわけではないが、あのような顔ばかりされていては流石の私も気が滅入る。

 

『一体、何を期待していたんだろう』

 

 ーーよそう。こんな事を考えても仕方がない。そうやって、今の自分には必要のない悩みだと割り切った。

 すーっと、深呼吸をし、その場で立ち上がって一つ伸びをした。午後からは案内の続きだ。こうも暗い顔をしていては一年生に怖がられてしまうやもしれん……と、私は気を落ち着かせる。私は気を引き締めると、足早に学級委員長委員会へと歩みを進めた。

 

 

 委員会活動とは各所忙しいもので、表立って何かしているかと言われたら、そうは見えない委員会が多い。そう言う場合、実際にどのような活動をしているかというと、まあ、見に行けばわかる。

 というわけで、丹後に代わって私に学園を案内してくれるという一年生の良い子……学級委員長の二人が来てくれた。

 

「は、はじめまして!一年は組の黒木庄左ヱ門です!」と、カチカチになりながらお辞儀をする。

「あっ、えっと、一年い組の今福彦四郎です!よろしくお願いします!」とこちらも随分と緊張気味だ。

 

 二人はそうやって元気に挨拶をしてくれた。

学級委員長になってから日は浅いだろうに、なんとも丁寧で良い子たちだ。これから世話になるのは私の方だが、学園内の生徒たちならまだしも、他所からやってきた人を接待すると言うのは難しいもの。そこに丁度よく私がいるのなら、存分に使うべきだ。

 つまりこれは、一年生二人の良い練習になればといった丹後の粋な計らいなのだろう。

 

『初めまして。先日、この学園に編入生としてやって来ました。藤ノ木恋文と言います。こちらこそよろしくお願いします。今福さんに、黒木さん』

 

 目線が合うように膝をつき、私は二人に続いて挨拶をする。恐れ多いと言わんばかりに「さん付けなんてやめてください!」とひとりは慌てるが、世話になるのだからこれくらい当たり前。

 私は二人の目を見て、

 

『これは作法の一つです。世話になる側も、案内をする側も、相手に誤解のないよう正しく伝えるため、時として丁寧語を使うこともあるんですよ』

 

 というと、二人は納得して「なるほど」と口を揃える。物分かりの良いこと。一年生とはいえ、さすが学級委員長なだけある。

 すると庄左ヱ門、

 

「確かに、お互いに丁寧語を話せば会話はスムーズにりますし、相手が丁寧だとわかっていればこちらも丁寧に話せば良いと言うことですね!」

 

「確かにそうだね」と彦四郎は庄左ヱ門の物言いに関心しているようだ。二人はそうやってして気持ちを切り替えると、私に向き直り「今日は頑張って、丁寧にやってみます!」と意気込む。

 二人はこちらを向き直って、はじめに庄左衛門

 

「僕たちはこれから、藤ノ木さんに各委員会の案内をします!」

「学園の生徒は何処かしらの委員会に所属する決まりなのですが、やってきたばかりの藤ノ木さんには、まず各委員会の見学をしていただいて、気に入った委員会があれば是非!と言う感じです」

「ただ、藤ノ木さんは五年生からの編入生なので、最初のうちは各委員会のお手伝いから入っても良い!と、学園長先生からの伝言もあります!」

『なるほど。つまりは体験期間を設けていただいてるんですね』

「はい!その通りです!」

 

 二人は自分たちの説明がうまく伝わったことに嬉しく顔を見合わせている。

 一年生とは天使だ!

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