委員会は全部で九つある。そのうちの学級委員長委員会は、委員会と名ついているが誰でも入れるわけではない。学年と所属の組ごとに一人だけ学級委員長が選ばれ、選ばれた人が学級委員長委員会に所属するので、具体的には入るのではなく役割を与えられるのだ。……とまあ特殊な面もあるが、他の委員会も大雑把に名前だけ並べておこう。
一、会計委員会
二、作法委員会
三、図書委員会
四、体育委員会
五、保健委員会
六、用具委員会
七、生物委員会
八、火薬委員会
(と、九、学級委員長委員会だ)
と言った感じだ。一、から六、までの委員会には六年生がそれぞれ一人所属しており、その六年生が委員会の委員長を務めるらしい。
「第一に、委員会活動をする上で、最も重要なのは予算です!その要を担っているのが『会計委員会』となります!」
丁寧な説明をしてくれる庄左ヱ門。
私は生徒が先生へ質問するように、『はい』と軽く手を挙げる、「な、何でしょう!」と庄左ヱ門。
『会計委員会は各委員会で使う予算の管理をしている、ということでしょうか』
「は、はい!その通りです!」
「えっと……今の時間なら会計委員会委員長の潮江文次郎先輩がいらっしゃると思います」と彦四郎は言う。
そうやって各委員会の案内の道すがら、事前に説明を受けつつ、先ほど言った会計委員会の所まで向かったのだが、目的地へ近づくにつれ、学級委員長の二人はなぜか重たい表情で、きょろきょろと目を泳がせては胸を上下に忙しく撫で始める。その様子を暫く見ていれば、庄左ヱ門と目が会い、気まずそうにそっぽを向いてしまう。聞くべきなのだろうか、と少し思い止まったが、こうも蟠りがあっては二人が満足に案内をできないのではと考え、『どうかされましたか?』と、声をかけてやった。
二人はもじもじとしながらも、互いに目を合わせると小さくため息を吐き、「潮江委員長が怖くって」と吐露をこぼした。
ーー怖い?と、言葉を繰り返すと、二人はその理由を話し始めた。
顔が怖い。目が怖い。威勢が良くて怖い。ギンギンで怖い。と、まるで連想ゲームのように交互に言い合っては、うんうんと頷いている。私は何一つ共感はしてやれないのだが、と気持ちばかり置いて行かれて、兎に角、なんとなく話を聞いていれば、二人は思ったことを次々口にして、気が済むと、「なんだかすっきりしたね」と納得した様子で、私に向き直り「もう大丈夫です!」と言って、歩みを進めて行った。
何一つ解らなかったが、私たちは無事に会計委員会の部室に着いていた。着いたはいいのだが、どこか殺伐とした空気が部屋の外に漏れ出ているような気がする。
「ゴクリ……いま、入っても大丈夫なんでしょうか」
「丹後先輩から案内があるって聞いてないのかな」
「どうだろう……この案内はそもそも学園長先生の突然の思いつきだから、知らない可能性がある」二人は困った様子だ。
『とりあえず声を掛けてみましょう。邪魔をしてしまった時はその時です。お二人は学園長殿の指示の元、私を案内しているのですから、自信をもって行きましょう?』
励ましになるかは分からないが、私は二人に堂々としていてほしく、そう声をかける。二人は顔を見合わせて頷き、うんうん、と口揃えては、「失礼します!」とそれぞれ名乗ると、先ほど言っていた、六年生の、会計委員会委員長であろう低い男の声が返ってくる。
「では行きましょう!」
と庄左ヱ門は戸を開く。そこは驚くべき光景……と言っては失礼なのだが、中は散乱としていて書類だらけ、窶れた様子の人間がいち、に、さん……全員と言ってもいいだろう。入ってきた私たちの奥に、対面するように歳の割には老けた面持ちの男が、こちらを睨みつけるように顔をあげる。それをみた一年生……庄左ヱ門、および彦四郎は大きな声をあげて「ひぃーッ!」と、私を盾にするように隠れてしまった。
「〜ッ!!今福彦四郎!黒木庄左ヱ門!人の顔を見て悲鳴を上げるとはッ!どうッ言うことだぁッ!!」
男は声を上げるのだが、憤怒の矢は全て私に刺さっている。
全身の血の気が引きそうだ……初対面の人間にこうも怒る様を見せられると近寄りがたいったらありゃしない。渋い顔をした男は「眩しい!閉めろ!突っ立って居ないで入れ!」と苛立ちを隠さずにいる。
産まれたての子鹿のようにプルプルと足を振るわす一年生を優しく引っ張って私は中へ入って歩みを進める。
「ッたく……は?お前、誰だ?」
そう言って私の顔を見るなり、彼の渋そうな顔が崩れていった。
(人の顔を見てなんだその反応は!)
目の前にいる男は品定めをするかのように警戒した様子で私をジロジロと見ている。それは、他の委員会メンバーもだが、目の前の男ほど警戒する余裕はないようで、「誰ぇ……?」と気の抜ける声をあげるばかり、
「藤色の忍装束と言うことは……。なるほど、編入してきたと噂の五年生か。学園長から話は聞いている」
『であれば話は早いですね。仰る通り、私がその噂の編入生です』
「名は何だ?」
『藤ノ木恋文と申します』
「ほう。組は何処だ」
『は組です』
「……ほう。は組らしさを感じないが、まあ良い。俺は六年い組、潮江文次郎だ。会計委員会委員長でもある」
(は組らしさ、とはなんだ?)
ーーいいや、それはさておくとし。この男が潮江文次郎のようだ。目の下に隈を作っているのを見るに、会計委員会は余程忙しいのだろうか?
「悪いが会計委員会は忙しい。要件は手短に頼む」
『学園長より、各委員会の活動を見学するように言われております。そこで学級委員長委員会のお二人に案内をお願いしたのですが……』
私は言葉を途中で切って、先ほどから感じていた違和感に目を向ける。ーー庄左ヱ門、彦四郎に足をがっしりと掴まれており、二人はビクビクと怯えながらそっと顔を覗かせているようだ。そういえば、彦四郎が「普段は優しいんです……優しいんですけど、その……潮江先輩は怒ると本当に怖くって」と言っていたのを思い出す。
『……その前に誤解を解かねばなりませんね。
先ほど、この二人が大声を上げたのは、潮江さんが睨みを効かせてしまったのが要因だと思います』
「は、はぁ?ーーああ、扉が開かれたと思ったら眩しくてだな……、そうか、驚かせてしまったのならすまなかった。だが、嗚呼も大きな声を出さなくたッていいだろう」
「も、申し訳ございません!」
「こちらこそすみませんでした!!」
二人は前へ立って頭を下げる。誤解も解けたことだし、話を戻すとしよう。
『では、案内の続きを頼めますか?』
私は屈んで再び二人の顔を見ては言う。
「もちろんです!」
「任せてください!」
二人はそう言って、会計委員長の彼に向き直るとわけを話し、少しだけ時間をくれないかと交渉をした。答えは「学園長の突然の思いつきを断ることはできない」だった。
二人に教えられていた通り、会計委員会は主に学園内の委員会活動で賄われる予算や、学園内の催事における予算といった、帳簿計算の仕事をしている。それから初めて耳にしたが、この委員会には10キロ算盤というものがあるらしい。これを使って日々鍛錬をすることもあるという謎の説明も受けた。
「会計委員会はとてもギンギンなんです」
「うちの委員長は学園一ギンギンに忍者してるだけありますよ」
「会長は調子がいいとギンギンになるんです」
皆口を揃えて、ギンギン、ギンギン、と言う。どうしてそのような口癖が生まれるのかはわからなかったが、会計委員会がとても忙しいのはよく分かった。
『なるほど……ちなみに、今はどのような仕事を?』
「今は各委員会の予算会議にて決定した予算の振り分けをしていたのですが……何故か数字が見合わなくて、漏れを炙り出しているところです」と、答えるのは四年生の田村三木ヱ門。
それから続くように、
「どれだけ計算しても出てこないんです…こんなに自信があるのに」と、三年生の神崎左門
「自分の字が汚いせいで計算が合わない!」と、一年生の加藤団蔵
「量が多すぎて捌ききれないッ……!」と、一年生の任暁佐吉
どうやら、会計委員会は仕事の量が多い割に人が足りていないようだ。この忙しさを前にして入ろうと思う生徒は少ないだろう……委員長はやたら怖いし。
「会計委員会に入るならば歓迎するぞ、この俺が直々にギンギンに鍛えてやる」それに、矢鱈ギンギンを誇張してくる。
『……各委員会の見学を終えてから検討します』
「そうか、では仕事に戻る!」
そうやって私たちは会計委員会を後にした。