五年は組の商人   作:ジェーンドェは彼方

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6話

 ーーさて、話は飛び。私は現在進行形で生首フィギアの造形を手伝わされている。

 何故このような趣味の悪そうなものを作らされているか?ーー話は少し遡る。私たちは次なる委員会へと歩みを進めていた道中、一年生の制服を着た子らが、学級委員長の庄左ヱ門、彦四郎を見かけるなり駆け寄ってきたのだ。

 

「あー!彦四郎!なあ彦四郎!」

「伝七、どうしたんだよ」

「た、た、頼みごとをしたいのに、い組のプライドが邪魔して頭が下げられないッ!」

「え、あ?え、っと、がんばれ伝七!」

 

 伝七と呼ばれた子は困った様子でプライドがどうだのブツブツと唸っていた。

 

「兵太夫、何か困りごとがあるのか?は組の学級委員長として、お前のことは見過ごせないよ」

 

 そう庄左ヱ門が言うと、兵太夫と呼ばれた一年は目を輝かせた。

 

「庄左ヱ門……!それがね、三年の浦風藤内先輩が自主トレをしていたら……!迷い癖のある、同じく三年の次屋三之助先輩が突然飛び出してきて……!驚いて後ろに下がると、近くにあった塹壕に落ちて怪我をしてしまい……!いま保健室にいるんだッ!」

 

 それを聞いた学級委員長の二人はまるでお決まりのように「え〜ッ!?」と驚いた声を上げる。

 

「一体どこで自主トレをしていたんだ?」

「校庭だったと思う……」

 

 なぜ校庭に塹壕があるかはさておくとしよう。

 

「つまり、人手が足りなくて困っているんだな?」

「そうなんだよ!」

 それを聞くと彦四郎は、

「なんだ、それなら最初から人手が足りないと言ってくれればいいのに、伝七!ぼくにお願いしてよ!」

「〜ッ!!彦四郎!お前はい組の学級委員長なんだから、頼らせろ!」

「もちろんだよ!」

「それなら僕も手伝うよ、同じ学級委員長だしね」

「ありがとう庄左ヱ門!」

 

 かく言うわけで、ただの見学ではなく、お手伝いという形で私たちは作法委員会にお邪魔することとなった。

 

 ーー私たちは作法委員会の部室に足を踏み入れる。すると、目の前には生き血を抜かれたように真っ青な生首そこにはあったのだ!……なんてミステリーは、残念ながらこの書き留めには出てこない。入って正面に立っている男の、ちょうど顔の位置に生首が重なっていたのだ。

 私は先ほどのようなデジャヴを感じた。お決まりのように、学級委員長の二人はそれを見た途端、またとない悲鳴をあげた。

 

「なんだ、お前たち」

 と、その手に持った生首を横にずらすと、凛とした色白の男が顔を出す。

 

「立花仙蔵先輩ッ……お、驚かさないでくださいよ」

「これくらい作法委員会では日常茶飯事だ。お前たちが見慣れていないだけだろう……全く、入って来て早々失礼な奴らだ」

「えぇ……」と口を揃えて

 

 二人に同情はするが、先ほどから無駄にリアクションが大きいのは確かに気になっていた。

(が、触れないでおこう)それから、私たちがここへきた経由を話すと、「手伝いたい?気持ちは嬉しいが、これは難しいぞ。三年の浦風ならまだしも、まだ入りたての一年のお前たちにやらせることはできない」と言われてしまったのだ。

 学級委員長として責任感で手伝うことを申し出た二人は、がっくしと肩を落とす。

 

「ごめんな、伝七……僕はやっぱり、頼りない学級委員長だ……」

「あ、謝るなよッ……なんかモヤモヤする」

 

 しかし、彼は言う。

 

「そこの編入生の君なら話は別だ」

 

 ーー作法委員会委員長、六年い組の立花仙蔵と彼は名乗った。

 何を言い出すかと思ったら、私に手伝えだと?私は思わず拍子抜けした声で『へ?』声をこぼす。

 

『私が手伝うんですか?』

「他に誰が適任だと言うんだ」

「あの、四年い組の綾部喜八郎先輩は……?」

「喜八郎には別の仕事を頼んでいるため不在だ」

 

 一年は細かな調節が効かず、物の扱いが不器用なのはわかるが、入りたてというの私も変わらないぞ、と言ってやりたかったのを抑え、

 

『お手伝いするのは一向に構いませんが……』

「無理強いはしないが、手伝ってくれるのなら相当助かる」

「お願いします藤ノ木さん!」

「お願いします!」

 

 そう言って私の服の裾を掴み、目を潤ませる学級委員長。薄々気づいていたが、いや気づかないようにしていたのだが、私は年下に絆されやすいようだ。子犬のような目で見られると余計に困ってしまう、こんな子犬を誰が蹴り飛ばすというのだ?

 

『……わかりました。お手伝いしましょう』

「本当か?では早速こちらに来てくれ」

 

 立花は分かっていたようにニヤリと目元を細めだ。そうして、私に着いてくるようにいって、道具がしまってある奥へと案内をする。使うものをいくつか手に取るとそれらを私に持たせ、作りかけの生首フィギアを棚から取り出すとそれを持って作業台へと戻った。何故このような生首フィギアを大量に作っているかというと、首実検に必要だからだ。精巧に造られたリアルな首の断面は見るに耐えない物々しさがある。これを見て怖がらない一年はいないだろう。

 

「そういえば名を聞いてなかったな」

 その言葉でハッとし私は口を開く。

 

『ご挨拶が遅れましたね。藤ノ木恋文と申します』

「やはり、噂の編入生だったか。では、藤ノ木にはこれをやってもらうとしよう」

 

 ーーそうやってして、道具を手渡され作業は始まり、そして今に至るというわけだ。

 

「思った通り、手先が器用のようだな」

『やはり気づかれていたましたか、目の付け所が違いますね』

 

 と、立花は私の手の……中指に残っていた筆の癖、それから爪の長さから「ある特徴」を見抜いたらしい。

 

「噂には聞いていたが、本当に商人をやっていたのだな」

『ハハ……ここの人たちは本当に噂好きですね。 ええ、おっしゃる通りですよ』

 

 筆を取る人間は中指に跡や癖がつく、それから私の場合は物を傷つけないように爪を短くしているため、そこで判断したようだ。

 

「まあ噂はされて当然だろう、この時期の編入生は珍しい」

『それもそうですね』

 

 商人であったことを決して隠しているわけではないが、噂ばかりでは私が面白くない。

 

「藤ノ木は、江戸でどんな事をしていたんだ」

 

 と、聞いてくれる方が私は嬉しかったりする。私たちは作業を熟しつつ、学園内のことや互いの得意分野についてどことなく話していた。他、一年生たちは四人は仕掛けの作り方など、教え、教えられといった様子で和気藹々としていて、私にはそれが、以前も見たような景色と重なって、何故いま思い出すのかわけもわからず、この後、立花に言われた言葉に反射的にも皮肉めいた返しを思わずしてしまったのだ。

 

「ああやって組関係なく交われるのも、一年生のいいところだな」

『ーーそうですね。若葉は純粋無垢で遠慮がありません。若葉のうちに肩を並べておけば、それぞれ綺麗に咲いくのでしょう。あれは、尊い時間ですよ』

「……お前は、編入生だからと皆に遠慮しているのか?五年生は、他学年と比べ、比較的穏やかな方だと思うが」

『……さァ、自分でもわかりませんね。……心配なさらずとも時を重ねていけば、いずれ慣れますよ』

「ッフ、そうだな。せいぜい頑張ると良いさ」

 

 立花は私の腹を探るような真似はしなかったが、勘の鋭そうな男だ。私たちはこれ以上のことは話さなかった。そうやって暫くして、「失礼しまァす」と気の抜けた声がし、部室の戸が開かれた。綾部喜八郎と呼ばれた男が買い出しから帰ってきたようだ。然し彼は、立花の向かいに座る私を視るなり、訝しげに、「誰ですかぁ?貴方は」と私の方にズンとやってくる。

 

「喜八郎、彼は先日やってきた編入生だ」

「編入生?そんなの聞いてないですよ」

『お会いするのは初めての方ですね。藤ノ木恋文です』

 

 私がやって来てから暫く日は経っているが、どれだけ噂話が好きな連中でも、まだ話が行き届いていない人がいて当然とえば当然か、などと呑気に考えていたが、綾部はご立腹な様子で「それ、僕が立花先輩に頼まれていた物なんですけど」と、物申してきたのだ。

 

「すまない喜八郎。私が頼んだのだ。帰ってきてすぐに別の仕事を任せると、お前の負担になると思ってな」

「別にいいですよ……」

 

 綾部は眉間に皺を寄せ、拗ねたように視線を逸らすと奥へと行ってしまった。こりゃ不貞腐れたな。立花も「しまった」と言わんばかりの様子だ。こうも言ってはなんだが、い組はプライドが高いという話を耳にした覚えがある。決めたことは最後までやり遂げたいと言う責任感があるのだろう。

 私はその役割を奪ってしまったというわけだ。これは相当彼のプライドを傷つける行為だったか。ーー責任感のお強いこと、などと他人事のように思うてしまったが。

 

『立花さん、彼には別の仕事を任せてはいかがでしょうか。これを塗り終えたら私たちはもう行きますから』

「気を遣わせてしまってすまない、委員長である私の責任だ」

『お構いなく。こだわりが強いのは悪いことじゃありませんから』

「ああ……そうだな、藤ノ木の言う通りだ。喜八郎には別の仕事を任せてくる」

 

 そうやってして、私たちはキリの良いところで手伝いを終えると作法委員会を後にした。

 

 

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