作法委員会は個人的に面白いところだった。
あの六年生の立花仙蔵という男はクールな印象だったが、勘が鋭いというか……弱みを握られたら後が怖いタイプだな。
私たちは再び歩みを進めて、次なる目的地、図書委員会へと向かった。
「図書委員会は実に物静かな委員会です。なんせ、委員長がいつも小声で「モソモソ」としていて、何を言っているかわからないほど静かなんです」
ーーモソモソ?
なんだろうか、この限定的な説明は。とりわけ声が小さいと言いたいのだろうか、ただしても、あまりにも雑だった。だが、嫌いじゃない。行けばわかるだろうと思い、そうこうしているうちに、私たちは図書委員会の部室の前へと辿り着いた。扉を開くと、気だるげそうに「こんにちわー」と当番をしているのか、一年の服を着た八重歯の目立つ子がこちらをみる。
「今日の当番はきり丸だったのか」
「んあ?って、庄左ヱ門に彦四郎じゃないか学級委員長が二人揃って何しにきたんだ?」
「きり丸はもう会ってるよね……?僕たち、藤ノ木さんに各委員会の案内をしているんだ」
先ほども食堂で会ったが、どうやら今日は図書委員会の当番のようだ。私はきり丸にひとつ挨拶をしながら、図書室の中をざっと眺めてみた。こじんまりとしているが、本棚にはびっしりと蔵書やさまざまな書籍が所狭しと詰められている。ここまで書籍が豊富なら、しばらくは退屈しないだろう。
「なるほど、来てから暫く経ってますし、そろそろ委員会にって感じすか?」
と言われ私は彼に向き直り、
『そんなところです。ただ、図書委員会には既に五年生の不破雷蔵が在籍しているでしょう』
「そうっすねぇ……、多分二人もいらないと中在家先輩ならいいそうっすもんね」
中在家先輩というのは図書委員会委員長、六年生ろ組の中在家長次という男だ。図書委員会は一年も含めて既に人数は足りているだろう。実を言うと、入るなら図書委員会が良かったのだが、初めて不破雷蔵と顔を合わせた時、彼の自己紹介の中で「僕は図書委員会に入ってるよ」と聞いた時ときから、五年生の枠はないだろうと分かっていたのだ。
「今日は中在家先輩は不在なんだな」
「うーん、なんでかわかんないけど、暫く顔出さないってよ」
なぁんだ、とつまらなさそうな声を出す二人。ーーせっかく藤ノ木さんに、中在家先輩を紹介してあげたかったのになァ、と残念がる彦四郎に可愛げを覚えて、私は『またの機会がありますよ』と不意に頭に手をやって撫でたのだが、驚いた様子で声をも出ず、小さく上がる肩を見て、私は気がつくようにパッと手を離す。
『ーーああ、つい。すみません勝手に』
「い、いえ!すみません」
「……すみません?」と庄左ヱ門。
気恥ずかしそうに下を向く彦四郎との間に地味な空気が流れ始めようとしたが、それを断ち切るように、図書室の戸がガラガラと開かれる。
ボサボサとした髪がよく目立つ藤色の忍装束を着た男だ。高く積んである本の横から、チラリとそのパッとしない面を困らせるように眉を下げ今にも溜息を吐きそうだと言うほどに面倒くさそうな様子で入ってくる。
「鉢屋三郎先輩?」
と彦四郎が言うと、
「その鉢屋三郎に変装されてる方の不破雷蔵だよ」
間違えられても嫌な顔ひとつせず、慣れたようにそう言っては彼は両手に沢山の本を抱えている。その全て返却期限の過ぎた本で、不破は各部屋へわざわざ回収に行っていたらしい。本来なら借りた本人が来るべきなのだが、「忙しくしていて中々返しに行けないなんて皆我儘を言う」と、苦情を溢しながら、雷蔵は隣の机につき本の整理を始めた。
眉間に皺を寄せ、困ったような、悩んだような面持ちでいる彼が面白かったので、私は、『雷蔵くん、私と図書委員会代わってくれたらその悩みも解決しますよ』と揶揄う様に擦り寄ってみると何故か、ーーえぇ、うーん……。と迷い始めるのだ。「そこで悩まないでくださいよ」と、きり丸は笑った。
「不破先輩、結構困ってる感じなんですか?」と、庄左ヱ門。
「困ってるっていうか、ちゃんと返してくれないと、僕たちが怖いんだよ……」
「ああ……」と納得したきり丸
聞くに、本を期限までに返さなかったり、汚れたりすると委員長である中在家がとてつもない笑顔で怒りながら図書委員会作業をするらしい。それが恐ろしくて、本が返ってこないと困るのだとか。
『なるほど、図書委員会も大変のようですね』
「他のところに比べたら比較的平和だと思うんだけど……こればっかりはね」
眉を下げながら、雷蔵はため息を吐いていた。
その後だが、休憩も兼ねてしばらく図書室に滞在し、私は本を借りた。
「ちゃんと期限内に返してくださいよ?」ときり丸に言われたが、もちろんだとも。ここには見たことのない文献が沢山あり、実に興味深かった。