武蔵転生記   作:masasoukoku

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第百三十一回 【天より落ちる】

武蔵は倒れた悪魔の襟首をつかみ、周囲の悪魔たちへ向けて静かに問いかけた。

 

「ひとつ聞きたい。」

 

「ここの人間は、何のためにいる。」

 

悪魔たちは顔を見合わせると、大声で笑い始めた。

 

「そんなことも知らねえのか!」

 

「こいつらは材料だ!」

 

「人間の皮は上質なスクロールの素材になる。」

 

「そのために飼ってるんだよ!」

 

「お前たちも捕まえたら、同じように使ってやる!」

 

牧場の中に不気味な笑い声が響く。

 

武蔵は一瞬だけ目を閉じた。

 

「……そうか。」

 

その声には怒鳴り声も殺気もない。

 

ただ、静かな失望だけがあった。

 

ゆっくりと刀を抜く。

 

「ならば。」

 

「もう問うことはない。」

 

次の瞬間。

 

銀色の刃が閃いた。

 

先頭にいた悪魔が武蔵の一太刀を受け、その場に倒れる。

 

武蔵は悪魔の装備や身体を一瞥すると、小さく首を振った。

 

「なるほど。」

 

「人の皮が欲しいと言う割には、お主ら自身の身体は素材としては役に立ちそうもない。」

 

悪魔たちの笑顔が消える。

 

隊長格と思われる悪魔が前へ出た。

 

「人間風情が……!」

 

「やれ!」

 

「二人まとめて始末しろ!」

 

十数体の悪魔が一斉に武蔵とターニャへ襲い掛かる。

 

ターニャは一歩前へ出る。

 

「武蔵さん。」

 

「右を受け持ってください。」

 

「左は私が制圧します。」

 

武蔵は口元をわずかに緩める。

 

「よかろう。」

 

「好きに暴れい。」

 

「了解。」

 

ターニャは演算宝珠を起動し、空中へ舞い上がった。

 

「空から制圧射撃を開始。」

【挿絵表示】

 

 

魔力弾が正確に悪魔たちの足元へ着弾し、その隊列を大きく乱す。

 

「なっ!」

 

「飛んだだと!」

 

その混乱を逃さず、武蔵が地を蹴る。

 

「遅い。」

 

一振り。

 

二振り。

 

流れるような太刀筋が悪魔たちの攻撃を切り崩していく。

 

地上では剣豪が圧倒し、

 

上空では幼女の姿をした帝国軍中佐が冷静に戦場を支配する。

 

二人の連携は、初めてとは思えないほど噛み合っていた。

 

その頃、牧場のさらに奥では、この異変を伝えるため一体の悪魔が全力でデミウルゴスのもとへ飛び立とうとしていた

 

----------------------------------------------------------------------------

ターニャが短く言う。

 

「武蔵さん。」

 

「あの人たちを連れて遠くへ避難してください。」

 

「お主はどうする。」

 

「ここを消滅させます。」

 

武蔵は一瞬だけ空を見上げ、すぐに頷いた。

 

「よかろう。」

 

武蔵は周囲の人々へ向き直った。

 

「皆、わしについて来い。」

 

「ここから離れるぞ。」

 

ターニャに

 

「死ぬでないぞ。」

 

「善処します。」

 

ターニャは地面を蹴る。

 

魔力が身体を包み込み、一気に天空へ駆け上がった。

 

千メートル。

 

二千。

 

三千。

 

さらに高度を上げる。

 

やがて五千メートル。

 

地上の牧場は豆粒ほどの大きさになった。

 

「……時間がない。」

 

「長時間の使用は危険だ。」

 

九五式演算宝珠

 

青白い光が脈打つ。

 

「またこれを使うのか。」

 

嫌悪感が胸をよぎる。

 

存在Xへの祈り。

 

最も嫌いな行為。

 

だが、最大火力を引き出すには避けられない。

 

ターニャは小さく舌打ちした。

 

「まったく。」

 

「気に入らない。」

 

それでも照準を地上へ合わせる。

 

静かに祈りの言葉を紡ぐ。

 

「去ね、不逞の輩よ。」

 

「信心無き輩に主の僕らが侵されるのを救いたまえ。」

 

「主よ、我が敵を撃ち滅ぼす力を与えたまえ。」

 

「哀れな羊たち。」

 

「主の恵みを信じよ。」

 

「主よ、彼らは自分が何をしているのか解っていないのです。」

 

「運命を嘆くなかれ。」

 

「おお、主は我々をお見捨てにならず。」

 

「遥か道の果て、我らは約束された地に至らん。」

 

演算宝珠が眩く輝く。

 

魔力が極限まで収束した。

 

「では――。」

 

「おさらばです。」

 

引き金を引く。

 

一条の光が天から一直線に降り注いだ。

 

牧場全体を白い閃光が包み込む。

 

次の瞬間。

 

轟音。

 

地面が大きく震え、衝撃波が丘陵を駆け抜ける。

 

監視役の悪魔たちは逃げる間もなく光に飲み込まれた。

 

異変を知らせるため飛び立とうとしていた悪魔もまた、光の中へ消えていく。

 

牧場を囲んでいた柵も建物も、跡形もなく崩れ落ちた。

 

遠く離れた丘の上。

 

避難した人々を連れた武蔵は、その光景を静かに見つめていた。

 

やがて巨大な土煙が空高く立ち上る。

 

武蔵は腕を組み、感心したように呟く。

 

「ほう……。」

 

「これがお主の戦か。」

 

「刀では届かぬ天より、一撃で戦場を終わらせるとは。」

 

その隣では、救出された人々がただ呆然と、消え去った牧場の跡を見つめていた。

 

そして空では、魔力を大きく消耗したターニャが、小さくため息をついた

 

「……まったく。」

 

「存在Xの力を借りるのは、何度やっても気分が悪い。」

 

----------------------------------------------------------------------------

轟音が止んだあとも、大地はなお震えていた。

 

かつて牧場があった場所には、巨大なクレーターだけが残されている。

 

立ち上る土煙は雲を突き抜けるほど高く昇り、灰色の空へ溶け込んでいった。

 

やがて――

 

ぽつ。

 

ぽつ。

 

冷たい雫が武蔵の頬を打つ。

 

「……雨か。」

 

だが、その雨は黒かった。

 

灰と土砂が混じったような黒い雨が、辺り一帯へ静かに降り注ぐ。

 

救出された人々は空を見上げ、不安そうに身を寄せ合う。

 

武蔵は雨粒を指先で受ける。

 

「黒い雨とは。」

 

「初めて見るの。」

 

そこへ、ふらつきながらターニャが降下してきた。

 

「……魔力切れ寸前です。」

 

「大丈夫か。」

 

「死ぬほど疲れましたが、生きています。」

 

ターニャは黒い雨を見て顔をしかめる。

 

「爆風で土砂や灰が巻き上がったのでしょう。」

 

「この雨は浴びない方がいい。」

 

「全員、近くの木陰へ。」

 

軍人らしく即座に避難を指示する。

 

武蔵も頷き、人々を誘導した。

 

その頃。

 

少し離れた森の影。

 

シャドウデーモンが、その光景を震えながら見ていた。

 

『ひ……。』

 

『ひぃぃ……。』

 

全身が震えて止まらない。

 

遠くに残る巨大なクレーター。

 

黒い雨。

 

完全に消え去った牧場。

 

シャドウデーモンは青ざめた。

 

デミウルゴスから受けた命令が頭をよぎる。

 

『武蔵が聖王国方面へ向かったら、すぐに報告しなさい。』

 

「……。」

 

「……あ。」

 

『連絡。』

 

頭を抱えてその場に崩れ落ちる。

 

想像しただけで体が硬直する。

 

泣きそうな顔で、シャドウデーモンはナザリックへ向けて全速力で飛び去るのだった

 

 

 

 

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