武蔵転生記   作:masasoukoku

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第百三十三回 【長城】

ナザリック。

 

「うーむ……。」

 

アインズは玉座で腕を組んでいた。

 

「やはり行くしかないな。」

 

しばらく考え込んだ末、立ち上がる。

 

「よし。」

 

側に控えていたメイドへ命じる。

 

「ナーベに伝えよ。」

 

「『ナーベよ。私と一緒に聖王国へ行くぞ』とな。」

 

「はっ。」

 

伝令はすぐに走り去った。

 

アインズは小さく息を吐く。

 

(武蔵さんを放っておくと、また何が起きるか分からない……。)

 

(今回は直接見に行った方がいい。)

 

その頃。

 

武蔵とターニャは、牧場から救い出した人々を引き連れ、聖王国を守る巨大な長城へ辿り着いていた。

 

延々と続く石壁。

 

見上げるほど高く、左右の果ては見えない。

 

武蔵は感心したように唸る。

 

「これは……。」

 

ターニャも思わず見上げる。

 

(万里の長城か。)

 

(いや、それ以上かもしれない。)

 

武蔵は首を傾げた。

 

「ふむ。」

 

「でかいのお。」

 

「入口はどこじゃ。」

 

周囲を見回しても門らしきものは見当たらない。

 

武蔵はターニャを見る。

 

「ターニャ殿。」

 

「空から探してくれまいか。」

 

「了解です。」

 

ターニャは演算宝珠を起動し、空高く舞い上がる。

 

長城に沿って飛び続ける。

 

数分後。

 

地上へ降り立った。

 

「どうだ。」

 

武蔵が尋ねる。

 

「門はあります。」

 

「ですが……。」

 

「かなり先です。」

 

「この人たちを歩かせるには遠すぎます。」

 

武蔵は後ろを振り返る。

 

救助した人々は疲労困憊だった。

 

座り込み、動けなくなっている者も多い。

 

「ふむ。」

 

武蔵はしばらく壁を眺める。

 

「仕方ない。」

 

「ぶち破るか。」

 

ターニャは目を丸くした。

 

「……え?」

 

「何をするんですか。」

 

武蔵は壁の前へ歩いて行く。

 

「まあ、見ておれ。」

 

拳をゆっくりと石壁へ当てる。

 

呼吸を整え。

 

腰を落とす。

 

「ふん!」

 

鈍い音が響く。

 

ビシッ。

 

壁に細かな亀裂が走った。

 

ターニャの目が見開かれる。

 

(ひびが入った!?)

 

(素手で!?)

 

武蔵は笑う。

 

「もう一回じゃ。」

 

深く息を吸い込む。

 

全身の力を一点へ集める。

 

「ぬぅん!」

 

ドォン!

 

今度は大きな音が響いた。

 

ビシビシビシッ!

 

亀裂は蜘蛛の巣のように広がっていく。

 

石壁の一部が崩れ落ち、人が一人ずつ通れるほどの穴が開いた

【挿絵表示】

 

 

武蔵は満足そうに頷く。

 

「うむ。」

 

「これで通れる。」

 

ターニャは崩れた壁と武蔵を何度も見比べる。

 

「……。」

 

「いや。」

 

「人間、壁って素手で壊せるものじゃないでしょう。」

 

武蔵は首を傾げる。

 

「そうか?」

 

「頑丈ではあったが、壊れぬほどではなかったぞ。」

 

ターニャは額を押さえ、小さくため息をついた。

 

「存在Xも大概ですが……。」

 

「あなたも十分、規格外ですよ。」

 

その時だった。

 

長城の向こう側から鐘の音が鳴り響く。

 

カーン!

 

カーン!

 

「何者だ!」

 

「長城が破られたぞ!」

 

聖王国の兵士たちが武器を構えながら、穴の向こうへ駆け寄ってくる。

 

武蔵は腕を組み、苦笑した。

 

「おっと。」

 

「先に一言断っておけばよかったかの。」

 

---------------------------------------------------------------------------------------------

長城の警鐘が鳴り響く。

 

「敵襲!」

 

「長城が破られたぞ!」

 

鎧をまとった聖王国兵たちが次々と駆け寄り、武蔵たちを半円状に取り囲んだ。

 

槍が一斉に向けられる。

 

隊長格の兵士が一歩前へ出た。

 

「動くな!」

 

「お前たちは何者だ!」

 

武蔵は肩をすくめる。

 

「わしか。」

 

「わしは宮本武蔵。」

 

「リ・エスティーゼ王国の男爵じゃ。」

 

兵士たちがざわつく。

 

「リ・エスティーゼ王国……?」

 

「男爵だと?」

 

隊長は眉をひそめる。

 

「そのような貴族が、なぜ長城を破壊して侵入する!」

 

武蔵は悪びれもせず答えた。

 

「門が遠かったからの。」

 

「連れている者たちが歩けそうになかった。」

 

「それで壁を開けた。」

 

兵士たちは一瞬、言葉を失う。

 

「……。」

 

「……は?」

 

「理由がそれだけか?」

 

「うむ。」

 

あまりにも当然のように頷く武蔵。

 

隊長は頭を抱えそうになる。

 

「こちらの娘は!」

 

今度はターニャへ視線が向く。

 

ターニャは軍人らしい姿勢を正しかけ――

(いや、まずい。)

 

(軍人なんて名乗ったら面倒になる。)

 

一瞬で考えを切り替えた。

 

にっこりと笑い、

 

元気よく答える。

 

「ターニャ・デグレチャフ!」

 

「十一歳です!」

 

兵士たちの空気が少しだけ和らぐ。

 

「十一歳……。」

 

「迷子か?」

 

「いえ!」

 

「旅の途中です!」

 

隊長は武蔵とターニャを交互に見る。

 

どう見ても奇妙な組み合わせだった。

 

さらに視線は二人の後ろへ向く。

 

そこには疲れ切った男女や子どもたち。

 

痩せ細り、怯えた表情を浮かべている。

 

「……その者たちは?」

 

武蔵が静かに答えた。

 

「悪魔どもの牧場に囚われておった者たち。」

 

「助け出して連れてきた。」

 

その言葉に兵士たちの顔色が変わる。

 

「牧場……だと?」

 

「まさか……アベリオン丘陵の……。」

 

隊長は武蔵を真っ直ぐ見つめる。

 

「では、その牧場はどうなった?」

 

武蔵は横に立つターニャを親指で示した。

 

「この子供が。」

 

「空から消した。」

 

兵士たち全員の視線が、一斉に小柄な少女へ集まる。

 

ターニャは気まずそうに頬をかき、

 

「えっと……。」

 

「結果的には、そういうことになります。」

 

とだけ答えた。

 

兵士たちは誰一人、すぐにはその言葉を信じることができなかった

 

 

 

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