ナザリック。
「うーむ……。」
アインズは玉座で腕を組んでいた。
「やはり行くしかないな。」
しばらく考え込んだ末、立ち上がる。
「よし。」
側に控えていたメイドへ命じる。
「ナーベに伝えよ。」
「『ナーベよ。私と一緒に聖王国へ行くぞ』とな。」
「はっ。」
伝令はすぐに走り去った。
アインズは小さく息を吐く。
(武蔵さんを放っておくと、また何が起きるか分からない……。)
(今回は直接見に行った方がいい。)
その頃。
武蔵とターニャは、牧場から救い出した人々を引き連れ、聖王国を守る巨大な長城へ辿り着いていた。
延々と続く石壁。
見上げるほど高く、左右の果ては見えない。
武蔵は感心したように唸る。
「これは……。」
ターニャも思わず見上げる。
(万里の長城か。)
(いや、それ以上かもしれない。)
武蔵は首を傾げた。
「ふむ。」
「でかいのお。」
「入口はどこじゃ。」
周囲を見回しても門らしきものは見当たらない。
武蔵はターニャを見る。
「ターニャ殿。」
「空から探してくれまいか。」
「了解です。」
ターニャは演算宝珠を起動し、空高く舞い上がる。
長城に沿って飛び続ける。
数分後。
地上へ降り立った。
「どうだ。」
武蔵が尋ねる。
「門はあります。」
「ですが……。」
「かなり先です。」
「この人たちを歩かせるには遠すぎます。」
武蔵は後ろを振り返る。
救助した人々は疲労困憊だった。
座り込み、動けなくなっている者も多い。
「ふむ。」
武蔵はしばらく壁を眺める。
「仕方ない。」
「ぶち破るか。」
ターニャは目を丸くした。
「……え?」
「何をするんですか。」
武蔵は壁の前へ歩いて行く。
「まあ、見ておれ。」
拳をゆっくりと石壁へ当てる。
呼吸を整え。
腰を落とす。
「ふん!」
鈍い音が響く。
ビシッ。
壁に細かな亀裂が走った。
ターニャの目が見開かれる。
(ひびが入った!?)
(素手で!?)
武蔵は笑う。
「もう一回じゃ。」
深く息を吸い込む。
全身の力を一点へ集める。
「ぬぅん!」
ドォン!
今度は大きな音が響いた。
ビシビシビシッ!
亀裂は蜘蛛の巣のように広がっていく。
石壁の一部が崩れ落ち、人が一人ずつ通れるほどの穴が開いた
武蔵は満足そうに頷く。
「うむ。」
「これで通れる。」
ターニャは崩れた壁と武蔵を何度も見比べる。
「……。」
「いや。」
「人間、壁って素手で壊せるものじゃないでしょう。」
武蔵は首を傾げる。
「そうか?」
「頑丈ではあったが、壊れぬほどではなかったぞ。」
ターニャは額を押さえ、小さくため息をついた。
「存在Xも大概ですが……。」
「あなたも十分、規格外ですよ。」
その時だった。
長城の向こう側から鐘の音が鳴り響く。
カーン!
カーン!
「何者だ!」
「長城が破られたぞ!」
聖王国の兵士たちが武器を構えながら、穴の向こうへ駆け寄ってくる。
武蔵は腕を組み、苦笑した。
「おっと。」
「先に一言断っておけばよかったかの。」
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長城の警鐘が鳴り響く。
「敵襲!」
「長城が破られたぞ!」
鎧をまとった聖王国兵たちが次々と駆け寄り、武蔵たちを半円状に取り囲んだ。
槍が一斉に向けられる。
隊長格の兵士が一歩前へ出た。
「動くな!」
「お前たちは何者だ!」
武蔵は肩をすくめる。
「わしか。」
「わしは宮本武蔵。」
「リ・エスティーゼ王国の男爵じゃ。」
兵士たちがざわつく。
「リ・エスティーゼ王国……?」
「男爵だと?」
隊長は眉をひそめる。
「そのような貴族が、なぜ長城を破壊して侵入する!」
武蔵は悪びれもせず答えた。
「門が遠かったからの。」
「連れている者たちが歩けそうになかった。」
「それで壁を開けた。」
兵士たちは一瞬、言葉を失う。
「……。」
「……は?」
「理由がそれだけか?」
「うむ。」
あまりにも当然のように頷く武蔵。
隊長は頭を抱えそうになる。
「こちらの娘は!」
今度はターニャへ視線が向く。
ターニャは軍人らしい姿勢を正しかけ――
(いや、まずい。)
(軍人なんて名乗ったら面倒になる。)
一瞬で考えを切り替えた。
にっこりと笑い、
元気よく答える。
「ターニャ・デグレチャフ!」
「十一歳です!」
兵士たちの空気が少しだけ和らぐ。
「十一歳……。」
「迷子か?」
「いえ!」
「旅の途中です!」
隊長は武蔵とターニャを交互に見る。
どう見ても奇妙な組み合わせだった。
さらに視線は二人の後ろへ向く。
そこには疲れ切った男女や子どもたち。
痩せ細り、怯えた表情を浮かべている。
「……その者たちは?」
武蔵が静かに答えた。
「悪魔どもの牧場に囚われておった者たち。」
「助け出して連れてきた。」
その言葉に兵士たちの顔色が変わる。
「牧場……だと?」
「まさか……アベリオン丘陵の……。」
隊長は武蔵を真っ直ぐ見つめる。
「では、その牧場はどうなった?」
武蔵は横に立つターニャを親指で示した。
「この子供が。」
「空から消した。」
兵士たち全員の視線が、一斉に小柄な少女へ集まる。
ターニャは気まずそうに頬をかき、
「えっと……。」
「結果的には、そういうことになります。」
とだけ答えた。
兵士たちは誰一人、すぐにはその言葉を信じることができなかった