───...何か聞こえる。女の人の、声?
「起きてくださいませ...!」
いやいや、煩わしい残業を終えて久しぶりの休日だよ?
もう少しゆっくり寝かせてほしいなあ。
「どうか、どうか起きてくださいませんか...!」
あれいや待て?うちは家政婦さんとか雇ってない。
恋人も妻もいない僕の部屋に女性の声だなんておかしい。
茶釜さんボイス目覚ましとも違う声色だよね?誰ええ!?
恐いよ、目を開けたくないんですけどもお!?
「起きてくださいませ、アルカード様...!」
......アル、カード?そうだ、昨日は確か《ユグドラシル》にログインして...疲労で寝落ちしたんだっけ。
それならどうしてアルカードの名前が聞こえる?
まさかサーバーダウンの日付を勘違いした、のかな。
とりあえずは恐いけど起きたほうがいいかなあ...(泣
ああもう!アルカードのポリシーは優雅に美しく、だよ。
わからないなら見てみればいいだけの話しじゃないか!
「アルカード様っ...お、お加減はよろしいでしょうか...」
「ゆ、ユリ...アルファ...?」
とても見慣れた、眼鏡をかけた美しいメイドだった。
心配そうな表情だ。僕が起きたと確認したのか一歩引いてすっと一礼をする。
「はい。戦闘メイド『プレアデス』のまとめ役を務める、ユリ·アルファでございます。紅玉卿アルカード様」
いつも見慣れていた、ノンプレイヤーキャラクターの
行動ではないと困惑する。無機質さはないし表情がある。
『命令』のコマンドではありえない自律行動。何より...
会話をしている。唇が動いている。
僕は夢でも見ているのかな、と一瞬考える。
「至高の41人のお一人であらせられる紅玉卿様。ナザリック地下大墳墓へのご帰還、心より感謝申し上げます」
凛とした表情を保ちながらも、伏せた目からぽろぽろと
雫が流れ落ちている。まるで生きているみたいだ。
いやユリはたしかアンデッドだから生きてはいないなあ、なんてバカげた思考はやめよう。こほん、と喉を整える。
一応、紅玉卿の姿だ。ロールプレイは継続しなきゃね?
「出迎えありがとう、ユリ·アルファ。まだ状況がつかめていませんが、起こしていたということは何か事情を?」
セバスやデミウルゴスみたいに優雅で紳士的な礼を返す。
あっ、寝癖とか大丈夫かなあ。格好つかないもんね。
「はい。我々もまだ把握してはおりませんが、第六階層
円形闘技場にて...────」
我らが主である、モモンガ様がお待ちです
ああ、よかった やっぱり貴方は
最後まで残っていてくれたんですね
◆◆◆
「アルカードさん!」
「ああっ...モモンガさん!」
ついハグしちゃったよ。大の大人が恥ずかしいなあ。
大まかに話しを聞くと、システムコマンドやGMコールは起動しないみたいだ。話しかけてくるNPCに困惑しながらも命令を出し、執事のセバスが周辺を偵察。プレアデスが各階層を見回っていた中で僕を発見したみたいだ。
アルベド、アウラ、マーレの三人で各階層守護者を呼び、1時間後ここに集結させるらしい。
まだ時間はあるし、色々と話しておかないと。
「ユグドラシルは、サーバーダウンしたはずですよね。
私の勘違いで昨日ではなかったとか、延期したとか...」
「いえ、アルカードさんも見たでしょう?NPCたちが自律行動しているのを。アップデートの線も考えたんですが」
モモンガさんがそっと近付いて小声になる。
あっ、骸骨の顔すごく恐い。見慣れてるはずなのにな。
「その、実験といいますか。あくまで!実験でアルベドに触れてみたらですね?触れちゃったんですよ、胸」
......ツッコミ待ちか、いやセクハラで訴える方かなあ?
アルベド。たしか守護者統括のサキュバスでタブラさんの創造したNPCだね。美人でなかなかの大きさをしてたって思うけどさ。
「18禁の規定はかなり厳しいのは俺達も知っての通り。別のゲームになった可能性もありましたが、匂いや脈まで感じ取れた。彼女たちは今、キャラクターじゃなく自我を持って存在しています」
モモンガさんの困惑したような声が現実味を引き立てる。
僕の見たメイドのユリも同じような状態、なのかな。
あっ、触りたいとかじゃあないよ。ホントニホント。
「モモンガさん。残ったのは、僕ら2人だけですか?」
わかりきっていたことを聞いてしまった。
モモンガさんは寂しそうにうつむいた。
「はい、ギリギリまでヘロヘロさんがいましたけど。気分がすぐれないみたいで、早めにログアウトしてました」
「また噂の絡み酒上司でしょうね。僕のほうもギリギリまで残業でしたよ。おかげでログインしてすぐ寝落ちしちゃいまして」
ははは、と乾いた笑い声で伝える。恥ずかしさから目線を反らしていると、同じく気まずそうな苦笑いで返された。
「アルカードさんが残業で遅れていたら、この妙な状況に巻き込まれてなかったでしょう。運がいいのか悪いのか...」
「いいえ、幸運でしたよ」
「え?」
「最後の日に間に合わないなんて、後悔どころじゃありません。みんなで築き上げた、僕らのギルド、『アインズ・ウール・ゴウン』のことなんですから。たとえ寝落ちちゃったとはいえ、ログインできて幸運でした」
アルカードさん、と小さな呟き声。おそらくだけど、僕とモモンガさんはこの《ユグドラシル》に、このギルドに、似たような想いを持っていたんだろう。
「だってこのナザリックは、『アインズ・ウール・ゴウン』は...僕らの、唯一の居場所ですから」
「アルカードさん...ありがとうございます!ここに帰って来てくれて!」
◆◆◆
沈静化によって昂ぶった感情を抑え込まれたモモンガさんは、煩わしそうな(少なくともそう思えた)表情で額に手を当てため息をついた。
「俺と似た...いや、同じ感性のアルカードさん居てくれて助かりました。一人ぼっちだったら、自我を持ったNPC達にどう対応していこうかと...」
「あれ?でもさっき、守護者達に集まるよう命令したって言いませんでした?それと同じように話せば...───」
あっ
「まさかやっちゃったんですか。支配者ロールプレイ」
「なんか雰囲気にノセられて...つい」
ロールプレイする僕が言うのもなんだけど。
どこか抜けてるんだよねえ、モモンガさんてさ。
「あれ、それってつまり僕もしなきゃならないんじゃ...」
書いてて気がついたけど紅玉卿って
すごく言い難い呼び名ですよね。
こうぎょくきょう
ソウマにはどこかで一度くらい噛んでもらおうかな
でも格好つかないよなあ
あっ、ちなみにアルカード(ソウマ)はナルシストでは
なくただの美しいものコレクターです。
自分の容姿も仕上げたい完璧主義なだけです。