人柱力? いいえ違います。ただの超魔王バールの憑代です 作:華洛
神威空間は荒れていた。
もともとこの異空間には、空も大地もない。
あるのは灰色に濁った果ての見えない広がりと、現実から切り離されたような静寂だけだ。
だが今、その静けさは完全に失われていた。
足場となる地面は幾重にも砕け、抉れ、巨大な裂け目が無数に走っている。
ところどころでは空間そのものが水面のように歪み、黒い亀裂が明滅していた。
チャクラと魔力、そして時空間忍術が正面からぶつかり合った余波が、この閉ざされた世界そのものを軋ませているのだ。
その中心に、二つの巨大な影が対峙していた。
一方は、黄金の輝きを纏う武神。
九尾の膨大なチャクラを外殻とし、その上からさらに須佐能乎を鎧のように重ねた姿――威装・須佐能乎。
九尾の尾は荒れ狂う炎のようにうねり、その全身を覆う須佐能乎の装甲は紫紺の威容をもって神威空間の薄闇を押し返していた。
その中心にいるのは、うずまきナルトとうちはサスケ。
忍界最強と呼ばれて久しい二人が、今この場では一つの巨神として立っている。
対するヤヨイの背後にも、異様な力が渦巻いていた。
黒紫の魔力が噴き上がる。
その左右の手には、二本のステッキ。
黒いプリニーステッキと、灰色のプリニーステッキ。
プリニーイタチとプリニーオビトは、すでに魔チェンジさせられ、武器形態へ固定されていた。
愛らしいペンギンの頭部の両眼には、万華鏡写輪眼が浮かんでいる
「……無茶苦茶だな」
威装・須佐能乎の内側で、サスケが低く吐き捨てた。
ナルトも顔をしかめる。
「無理やりすぎるってばよ……」
超魔王バール。
ただ強大というだけでは足りない。
破壊そのものを象徴するような力。
理屈や秩序の上に立つ王ではなく、圧倒的な暴力と災厄の極致。
今ヤヨイの内側で荒れ狂っているのは、まさにそういう力だった。
黒紫色の魔力が二本のステッキへ流れ込む。
中央には、角を生やし赤い瞳を光らせたヤヨイ。 左には、プリニーイタチのステッキ。 右には、プリニーオビトのステッキ。
次の瞬間、三者を中心に膨大なチャクラと魔力が噴き上がった。
まず、黒いプリニーステッキの背後に須佐能乎が立ち上がる。
深い色を帯びた、静謐で鋭い武神。
その輪郭は洗練され、無駄がない。 見る者に冷たい完成度を印象づける須佐能乎だった。
それを見た瞬間、サスケの目がわずかに細まる。
(……やはりイタチだったか)
形だけではない。
チャクラの流れも、須佐能乎の立ち上がり方も、須佐能乎の形態も。
見間違えるはずがない。 あれは兄・イタチの須佐能乎だった。
続いて、灰色のプリニーステッキの背後にも別の須佐能乎が顕現する。
こちらはイタチのものより歪で、どこか空間そのものが捻じれたような不安定さを孕んでいた。
輪郭は明瞭なのに、見ていると焦点がずれるような違和感がある。 神威の性質をそのまま映したような須佐能乎だった。
そして中央。
ヤヨイの背後に立ち上がったのは、須佐能乎と似て非なるものだった。
超魔王バールの力を流し込まれた、巨大な破壊の化身だった。
黒紫色の魔力が柱となって噴き上がる。
その中から現れた巨体は、武神というより災厄そのものだった。
禍々しい角。 異様に発達した上半身。
見るだけで圧迫感を覚える外殻。
須佐能乎のような霊的装甲の性質を持ちながら、その中身はもっと原始的で、もっと暴力的な破壊衝動で満ちている。
「……須佐能乎じゃないな」
サスケが目を細める。
「でも、似てるってばよ。似てるけど、なんかもっと嫌な感じがする」
ナルトの言葉は感覚的だったが、外れてはいなかった。
目の前にあるのは、須佐能乎の延長線上にありながら、明らかに別種の何かだった。
だが、悪夢はそれだけでは終わらない。
ヤヨイが両腕を広げる。
左右のステッキが強く発光した。
空間が鳴動する。
三体の巨人が、互いに重なり始めた。
「……融合するのか!?」
ナルトが叫ぶ。
イタチの須佐能乎が左から。 オビトの須佐能乎が右から。
そして中央の異形の巨体へ、それぞれが溶け込むように接続されていく。
装甲が軋む。
骨格が増殖する。
腕が枝分かれし、顔が左右へせり出す。
須佐能乎同士がぶつかり合っているのではない。
三者の力が噛み合い、一つの巨体として組み上がっていく。
この融合には、確かな術理があった。
かつて、扇子一族は少数であった。
使える術式は限られ、戦いになれば結局のところは数に圧されることもあり得る。
ゆえに扇子一族は、数に負けないために、少数で多数と渡り合うことを考え、万華鏡写輪眼の覚醒者三人が須佐能乎を呼び融合させ、三位一体の戦闘体として扱う術を生み出した。
須佐能乎・三面八臂。
術者は三人必要。
しかも、ただ須佐能乎を出せるだけでは成立しない。
三者の力の位相を揃え、精神とチャクラの流れを強引に接続し、一つの巨体として制御しなければならない。
理論上は圧倒的な出力を誇るが、制御難度が高すぎるうえ、そもそも万華鏡写輪眼に覚醒して須佐能乎まで出せる者は限られていた。
扇子一族は忍界大戦でも傍観に徹していたことから実戦投入されることはなかった。
一体でも森羅万象を破壊するとされる須佐能乎が三体融合した力は、単純に三倍しただけではないほどの力を秘めていた。
今ヤヨイは、超魔王バールの魔力を楔として、その禁術を成立させていた。
融合が完了すると、神威空間の中心に、巨大な異形が立っていた。
正面には、超魔王バールを思わせる禍々しい顔。
左右には、それぞれイタチとオビトの須佐能乎を思わせる副面が張り出している。
三つの顔は完全に同じではない。
中央は超魔王の威容。
左は冷たく研ぎ澄まされた静の相。
右は歪みと虚無を孕んだ不安定な相。
その三面が、一つの巨体に収まっていた。
胴体は中央の異形を核にしている。
だが左右から融合した須佐能乎の装甲が幾重にも重なり、もはや単なる巨人ではない。
神像めいた威容と、怪物めいた異形さが同居していた。
そして腕は八本。
肩口から、脇腹から、背の装甲の隙間から、異なる長さと角度で八本の腕が伸びている。
それぞれの手には武器が握られていた。
剣。
槍。
杖。
斧
銃。
そしてイタチの須佐能乎が持っていた「十拳剣」「八咫鏡」
オビトの須佐能乎が持っていた「神威手裏剣」
どの武器も、それぞれ異なる威圧を放っていた。
イタチ、オビト、そして超魔王バール。
三者の性質が、そのまま形になったかのようだった。
その姿は、もはや忍術の延長ではない。
神話に出てくる戦神。
あるいは、禁忌の果てに生まれた破壊神。
須佐能乎という武神の器に、あり得ないものを無理やり詰め込んだような巨像だった。
ナルトが息を呑む。
「……なんだよ、あれ」
その声には、さすがに隠しきれない圧倒が滲んでいた。
サスケもまた、静かにその異形を見上げる。
写輪眼で見ても、輪廻眼で見ても、理解が追いつかないほどの情報量がそこにはあった。
三つの須佐能乎。
三つの意思。
三つの系統の力。
それらを超魔王バールの魔力が一つに束ね、怪物として成立させている。
「……人が扱っていい力じゃない」
サスケの呟きは、ほとんど断定だった。
対する三面八臂は、ゆっくりと動いた。
立っているだけなら、どこか神像めいた威容がある。
だが一歩踏み出した瞬間、その印象は完全に砕け散った。
八本の腕が、それぞれ別の生き物のようにうねる。
三つの顔がわずかに異なる角度で前を向く。
中央の顔が正面を睨み、
左の顔が冷たく観察し、
右の顔が空間の歪みを舐めるように揺らぐ。
神々しさではない。
怪物だった。
神威空間の足場が、その重みだけで軋む。
空間のひび割れがさらに広がる。
八本の腕に握られた武器が、ゆっくりと持ち上がった。
ナルトが九尾のチャクラをさらに燃え上がらせる。
威装・須佐能乎の尾が大きく広がり、武神の装甲が唸るように震えた。
「サスケ」
「ああ」
短い応答。
それだけで十分だった。
ナルトとサスケの意識が噛み合う。
威装・須佐能乎が一歩前へ出る。
黄金と紫紺の巨神が、異形の三面八臂へ真正面から向き合った。
もはや人同士の戦いではない。
忍と忍の戦いでもない。
術と術の応酬という枠すら、とうに踏み越えていた。
神威空間という閉ざされた異界の中で、二体の巨神が対峙する。
一方は、忍界を守ってきた英雄たちの力を重ねた威装の武神。
もう一方は、超魔王バールとうちはの禁術が結びついて生まれた三位一体の破壊神。
それはもはや、大型怪獣同士の激突と呼ぶほかなかった。
次の瞬間、両者は同時に踏み込んだ。
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