祟り神夫婦の新婚旅行珍道中!!   作:やーなん

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祟りの先触れ

 

 

 

「キョウコ、お前さ」

「はい、なんですか?」

「新婚旅行って言うけど、目的とかあるの?」

「ありませんけど」

「……」

 

 少年は黙った。

 

 

 二人が入り込んだのは、森の中だった。

 鬱蒼とした木々に日光は遮られ、草木の香りが漂う場所だ。

 

 少年は即座に指を鳴らした。

 直後、彼を中心に円形に竜巻が吹き荒れ、地面ごと木々や草を吹き飛ばした。

 

「きゃ、ダーリンったらそんなにスカートの中を見たかったんですか♪」

「馬鹿を言うなよ、僕は虫が嫌いなの知ってるだろ」

 

 少年の暴虐により、草木に隠れていた虫の鳴き声は消え去った。

 空に巻き上げられた草木が遠くに落ちる音がする。

 

「それよりも、上手く人間レベルにスケールダウンできたみたいだ」

 

 少年は極大の神性存在であり、そのまま現世に顕現しようものならそれだけで巨大隕石が衝突したような破壊を撒き散らす。

 その為、自身の存在を縮尺する必要があったのである。

 

 そうでもなければ、新婚旅行どころではなかった。

 

「あ、ホントですね。てか、ダーリン、その仮面なんですか?」

「これかい? 抑制装置に決まってるだろ」

 

 少年は白い目と鼻を隠すタイプの仮面をつけていた。

 黒いローブにフードで頭まで覆っているので、客観的に見れば不審者である。

 

「それに、これは近寄りがたい格好の筈だ。人前に出たらお前が全部対応しろよ」

「相変わらずですね、その人見知りの陰キャは……」

 

 はあ、と少女は肩を落とした。

 

「とりあえず、今日はここでキャンプでもしましょう」

 

 せっかくいい感じの空間が出来ましたし、と彼女は微笑む。

 

「好きにしなよ」

「ほら、準備しましょう。ダーリンも手伝って!! 女の子に全部やらせるつもりですか?」

「……」

 

 少年は無言で指先を動かした。

 手短な場所に生えていた木の樹皮が吹き飛び、切り刻まれ、木材になって急速に乾燥する。

 

 まるで踊るように木材が組み立てられ、椅子になり、焚き木になり、テントの支柱になる。

 

「ほら、これでいいだろ」

「……情緒の無い」

「1から旅先でDIYから始めるつもりだったのか?」

「まあ、キャンプはどこからどこまで文明の利器に頼るかは人それぞれですもんね」

 

 少女は勝手に納得し、しっかりニスまで塗ってある椅子に腰かけ、指先から火の玉を作り出し、焚き木に飛ばした。

 ぱちぱち、と焚き木が燃え始める。

 

「そーれ!!」

 

 そのままリラックスした姿勢のまま虚空から布を取り出すと、横長の布はまるで生きてるかのように支柱に巻き付き、テントになった。

 

「ダーリン、テントに油塗っておいてください」

「お前、面倒な工程は人任せかよ」

 

 少年は呆れたようにぼやいた。

 彼は自分の分の椅子に背を預け、指を鳴らした。

 それだけでテントの表面が油分でコーティングされた。

 こうしないと雨が降った時に大変なことになる。科学繊維は偉大なのだ。

 

「それにしてもお前、テントの張り方とか知ってたんだな」

「前に冒険者ごっこした時にとった杵柄ですよ♪」

 

 少女はたんたん、と地面を足で叩いた。

 すると、その地面が持ち上がり、粘土の塊がせり上がって来た。

 

 粘土の塊は瞬く間にマグカップの形に形成され、一瞬で実用品に姿を変えた。

 

「コーヒーとココア、どっちが良いですか?」

「ココア」

「わかりました。今温めますね」

 

 少女が指を回すと、大気中から水分が集結し、水の塊になった。

 それを直接焚き火で温め始めた。

 

「いや、そこはお湯を生成するんじゃないのかよ」

「まあまあ、これぐらいの情緒はあってもいいじゃないですか」

「はいはい」

 

 少年は無造作に虚空から本を取り出し、読み始めた。

 

「あれ、何読んでるんですか?」

「この世界の観光ブック」

「観光ブックって、分厚い羊皮紙の本で“見聞録”って書いてるんですけど」

 

 それだけで彼らが踏み入れた世界の文化レベルが伺い知れた。

 が、少年はすぐにそれを焚き火に放り投げた。

 

「あれ、全部読まないんですか?」

「東に黄金郷があるってレベルの不正確な内容だったからね」

「世界一周もされてない程度の文明レベルかぁ」

「で、とりあえずどこに行く?」

 

 少年の問いに、少女はうーんと小首を傾げる。

 

「こういう時は、誰か案内人を雇うべきですよ、アニメやラノベでは異世界に転移してすぐに現地民に遭遇するものですし」

「このサブカル脳め」

「と、い、う、わ、け、でッ!!」

 

 少女はパンと手を叩いた。

 

「リアルジュマンジと評判の!! アンズちゃんのダイスロールの時間です!!」

 

 彼女が両手を離すと、十面ダイスが二個握られていた。

 それは、神器。運命の女神たる少女の象徴だった。

 

「よいしょ、と」

 

 そして、もう一つ神器である天秤を地面に置いた。

 白亜の支柱によって支えられたお皿に、彼女はダイスを投じる。

 

 からん、からん。

 少女が天秤の皿を覗き込む。出目は、一と二。

 

「うーんと、この出目は……敵性エネミーとのランダムエンカウントですね!!」

 

 その時だった。

 

「ここだッ、でけぇ音と一緒に竜巻が巻き上がったのは!!」

 

 草木を鉈で搔き分け、どう見ても山賊としか見えない数名の男たちが現れたのは。

 

「なんだ、お前ら――」

「ちょっとストーップ!!」

 

 少女がビシッと手を突き付ける。

 時間が止まる。山賊たちは警戒の表情のまま固まっている。

 

「はあ、しょっぱなからこれって」

 

 少女はがっくりしながら、天秤の皿の上のダイスの出目を弄った。

 十と十。即ち、決定的な成功。

 

「最初からそうしろよ」

 

 少年がツッコみを入れる。

 運命が書き換わり、因果が捻じ曲がる。

 

「さっきの音の出所は、ここか!!」

 

 山賊が来たはずの場所から、別の人間が現れる。

 

 四十代半ばに見える、弓矢を携えたいかにも狩人と言わんばかりの男だった。

 

「……君たちは、何者だ。ここで何をしている……?」

 

 彼は二人を認めると、警戒心を示した。

 

「こんにちわ!! 私達は旅の魔術師の夫婦です!!

 さっきのあれは、実は旦那が虫にびっくりしちゃって。すみません、森を荒すつもりはなかったんです」

 

 少女は台本を読み上げるようにロールプレイを行った。

 

「……そうなのか。森の魔物たちが騒めいている。気を付けた方がいい」

 

 狩人は警戒を解かずに、人懐っこい笑みを浮かべる少女を見やる。

 

「ここに野営をしているようだが、夜の森は危険だ。

 いかに魔術師と言えども、だ。向こうに村があるから、村長に相談して止めて貰った方がいい」

「そうだなんですか、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えようかな!! ね、ダーリン!!」

「……そうだね」

 

 今日はキャンプするって言ってなかったかお前、という視線を向けながら少年は頷いた。

 とは言え、気まぐれでなければ運命の女神になど選ばれない。

 

 狩人は村の位置を二人に伝え、去って行った。

 

 

「お前、信用判定失敗してたぞ」

 

 入れたてのココアに口を付けながら、少年は言った。

 

「え、TRPGじゃ定型文だったんですけど」

「荷運び用の家畜が居ない、旅をしているには荷物が少ない、僕らの見た目が若い、僕がゲームマスターならかなりの出目にマイナス修正をかけるね」

「あちゃー。でも、そんな怪しさマックスの私達を村に招いてくれるなんて、良い人でしたね、あの狩人さん!!」

 

 明確に疑われていたが、それはそれとして旅慣れて無さそうで危なっかしそうなので、村に招いたと言った感じだった。

 誰だって、雪山にサンダルと半袖のシャツで行こうとしている登山客がいたら引き留めるのと同じである。

 

「で、今日はキャンプじゃないのかよ」

「折角の第一村人ですし、厚意は無下にできませんよ」

「まあ僕もこんな虫だらけのところで寝たくないし、キャンプは山に登った時でもいいんじゃない?」

「なるほど、それもそうですね!! キャンプはやっぱり絶景を楽しみながらにしましょう」

 

 ホント計画性ないなこいつ、と思いながら少年は片づけを開始した。

 

 

 狩人に教わった村は、山間にある陸の孤島のような場所だった。

 近くには大きな川があり、山の幸だけなく川の幸にも恵まれた素朴な、この世界この時代のどこにでもありそうな、のどかな村だった。

 

 樹木が並べられた魔物避けの防壁に合間にある門から村に入れて貰った瞬間に、全知全能たる二人は理解した。

 

 ――この村は滅びる、と。

 

 村長夫妻はわざわざ門の前で二人を出迎えた。

 

「お二人共、狩人のラングイットさんからお話は聞いていますよ。

 いやはや、この村に御客人が来るのは久しぶりだ。歓迎いたしますよ」

 

 白髪交じりの初老の村長が、笑顔でそう言った。

 

「ねえねえダーリン、ダーリン。実は稀人を生け贄にするみたいな因習村だったりしたらどうします?」

「そんなことワクワクしながら言うなよ、バカ」

 

 なんの作品に影響を受けたのか、楽しそうにしている少女に少年は呆れた視線を向けた。

 

 とは言え、少年は興味本位で時間を遡るように、視線を向けた。

 神にとって時間とは、箪笥の中身をどの段にしまったか、その程度に過ぎない。

 

「残念だったね、キョウコ。ここは精々川に生け贄を放り投げるぐらいしかしてないよ」

「……いや、それも十分因習村では?」

「得体のしれない御神体とか崇めてないし、邪悪な儀式もしてないだろ」

「それはもうただのカルトですよ……」

 

 少女は何とも言えなさそうな表情をしていた。

 

「どうぞ、お二人共。夕飯の準備ができましたよ」

「わぁい!! ありがとうございます!!」

 

 そんな失礼な会話をしたなどと知らずに、村長宅に招かれた二人は夕食の御相伴に預かった。

 

「う……」

 

 そして、そのメニューを見て少女は固まった。

 

「ちょーっと、ストップ」

 

 少女は思わず時間を止めた。

 

「どうしたんだよ、キョウコ。ご当地グルメは旅行の醍醐味だろ」

 

 少年は半笑いしながらからかう様にそう言った。

 村長宅の夕食のメニューは、こうだった。

 

 黒パン(一週間経過)。

 野菜の酢漬け。

 肉入りのシチュー。

 

 貧乏な村民からすれば、十分すぎるほど御馳走で、村長夫妻は間違いなくこの二人を歓迎しているメニューだった。

 

「でもダーリン、このシチューって、ただの塩ゆで……」

 

 野菜と肉のシチュー。調理過程は野菜と肉を切って、塩を入れて水で煮る。それだけ。

 ハッキリ言って、彼女には肉の臭みがもろに出ていて食欲すらわかなかった。

 

「この世界の文化レベルからいって、まともな食文化なんて大きい街とかに行かないとあるわけないだろ」

 

 少年はけたけたと笑っている。

 

「元日本人として、こんなの料理とは言えません!!」

「フグの毒肝を無理やり食べれるようにしようとするお前ら日本人がおかしいんだよ。こんにゃくの作り方とか、意味が分からないし」

 

 少年は石のように硬いパンをシチューに突っ込んで柔らかくして食べていた。

 

「……ちょっとリメイクしてきます」

 

 少女は若干後ろめたさを感じながら、自分の味覚に合うように調味料やら香草やらを追加して戻って来た。

 

「お、美味しいですー」

 

 時間が動き出し、少女は精いっぱいの笑顔で村長夫妻にそう言った。

 

 

 辺境の村に宿場など有るわけもなく、村長宅に泊まることになった二人は粗末なベッドに一緒に寝転んでいた。

 二人に睡眠など必要無い。そもそも食事ですら、肉体が仮初で必要としない。

 

「ダーリン」

「なんだよ」

「この村、十年以内に三回ぐらい滅びそうなんですけど、どうします?」

 

 災害や人災によって辺境の小さな村が滅びる。よくあることだ。

 

「どうでもいいだろ、こんな村」

 

 それは少年の本心だった。

 

「でもぉ」

「キョウコ。お前は新婚旅行の最中に、お前の趣味の正義の女神ごっこをするのか?」

 

 痛いところを突かれて、少女は口をすぼめた。

 少年に家族サービスを求めておいて、自分はそれをほっぽり出すのか、と。

 

「お前は運命そのもの。お前の無作為は必然だ。

 この村は存続の岐路に居る。だが、たった181人だよ」

 

 二百人にも満たない、寒村がここだった。

 

「滅びようがどうしようが、この世界に何の影響も無い。

 お前のつまらない正義感で救世主ごっこしたいのなら、一人でやれよ。

 その代わり、新婚旅行は終わりだ。いいよな、お前の選択なんだから」

「……わかりました」

 

 少女はうつ伏せになって、毛布を被った。

 

 睡眠など必要の無い少年は、時間を加速させた。

 そして、夜が明ける。

 

「いやぁ、昨日はありがとうございました」

「いえいえ。大したおもてなしもできずに。先日に祭りが終わったばかりで、蓄えも無い有様でお恥ずかしい限りです」

 

 人の良さそうな村長はそう語った。

 

「本来なら村を挙げて歓迎したいところだったのですが……」

「そんな、急に止めて貰っただけでもありがたいですよ!!」

 

 少女が社交辞令を述べていたその時だった。

 

「おい」

 

 少年が、“暴君”が口を開いた。

 その言霊は、世界を凍らす。

 

「じゃあ昨日の歓待は、手抜きだったっていうわけ?」

「あ、いえッ、そういう訳では……」

「僕らは新婚旅行で来ているんだ」

 

 “暴君”は命じた。

 

「祝え。祭りを開け。祝宴を以って、僕ら二人を歓迎しろ」

 

 彼の視線に、村長夫妻は震えあがった。

 村長夫妻はこの時直感したのだ、目の前の二人は自分たちの常識では測れないナニカであると。

 

「そして僕らを満足させなければ、この村に尽きることなき災いが訪れるだろう」

「し、しかし、今、この村には蓄えが……」

 

 少年は手を握り、開いた。

 その手のひらから、湧き出るように砂金が出てくるではないか。

 

「そしてこれはチップだ。僕らは観光客、ただ歓待を貪るだけの恥知らずじゃない」

「は、ははぁ、必ずや、必ずやお二方をご満足させてみせます!!」

 

 積み上がる砂金を前に、村長夫妻はひれ伏すほかなかった。

 これは恩寵ではない。祟りの先触れなのだと理解しているからだ。

 

 少年は、彼の行動に驚いていた少女を見やる。

 

「あー、ごほん。あなた達に十回チャンスを与えましょう。

 毎年、私達を満足させる為の祭りを開き、祝宴を催すのです」

「ははぁ!!」

「僕らはすぐ近くでお前達を見ている。それを忘れるな」

 

 少年はそう告げて、少女と一緒に転移を行う。

 二人は再び、森の中に居た。

 

「ダーリン!!」

 

 少女は彼の腕に抱き着いた。

 

「大好き!!」

「ああそう。あの村がつまらない歓待をするなら、本当に滅ぼすからな」

「うん、うん、わかりました!!」

 

 そうして、少年は時間を加速させる。

 二人にとって一分後も、一年後も、千年後だろうと大した違いは無いのだから。

 

 

 

 

 

 





今作はほのぼのとした作風を目指しております!!

ではまた次回。
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