サツマッチュ転生~地元の島では嫌われている(ファンタジー要素ありIF世界の)島津の戦国四兄弟にあまみんちゅ要素あり竜人として+1されました~ 作:oosima
○皇紀2213年・天文22年(西暦1553年) 日本
「…そういうわけで父上に御爺様、此度の新規のカラクリについて我ら兄弟で纏め上げてきました。これでよろしいでしょうか?」
五兄弟での共同作業より数日後、改良や整理を重ねたその新規の水利道具の設計図と計画書を義久は、島津家現当主貴久と先代である島津日新斎忠良に提出した。
「……ふむ、義久…」
「そして同じく我が孫、忠平、歳久、又七郎、名護丸よ…」
「「「「「…………」」」」」
「民に犠牲が極力出ぬように気を付けよ」
「人員の選定にはこちらも加わる」
「そして、監督役も付ける」
「もしも失敗した場合はその者にそなたらを叱らせる」
「その者の教えの下で細心の注意を払いつつ試し、有効性を証明してみせよ!」
「「「「「…ハ! ハハ!!」」」」」
その図面と計画書をじっくり読み通した後、貴久と忠良はプレッシャーを宿らせた顔で命じ、五兄弟の頭を深々と下げさせた。
「…ふう、危うい所であった。読み通してこれの意味のありがたさを理解した時、齢も忘れて思わず飛び跳ねて小躍りするところであった…」
五兄弟を退室させた後、貴久は少しホッとした。
「儂らがあの者らより少しばかり年上なだけじゃったら、責任はこちらで取るから好きにやってみよと言うたであろうな…」
「…そうですな父上、ですがこの現実にこの乱世では…このようなことまでする余力は限られる」
「そして余力があって始めても、それで豊かになった国の力で自分らの領地を奪われるのではと恐れて足を引っ張る他国もほぼ出てきてしまう」
忠良もホッとしつつも同時に憂いと懸念を隠さぬ顔にして、貴久もまた同じような表情になる。
「…あの五兄弟は儂らの代での家督相続争いのような内輪もめに見舞われないように、教育と制度で色々と工夫をしたつもりじゃったが…」
「一方で、他国ではよくある血族での争いを経験せずに済んだが、それらゆえの警戒心と見抜く力で不安がありますな…」
「此度の機会、それらも身に付けさせるようにすれば…あの五人には悪くない糧となるじゃろう…」
「こちらの仕込みと知られれば恨んでくるでしょうが…」
「それを見抜けるようにまでなれば、この乱世ではむしろ御の字じゃが…」
「次にそれが信じあっていた者同士での内への刃に向けられるのもありますが…」
「そうなりし時のための方法も教えるほかに、自らの頭で考えてその目で見抜けるようにしてゆかねばな…」
そして、貴久と忠良は島津の次代を思うがゆえに、その者達にも非情と思われようとも思われる覚悟をまた決めた。
○日本
忠良と貴久への計画持ち込みから数日後、義久の前世の記憶に基づき、同じ地に築かれつつも前世よりかは数百年早くなったその研究所は一際熱気が高まっていた。
そこには五兄弟を中心として人々がそれまで不可能とされていたことへ挑もうとしていた。
「…なるほど、この方法なら一度建てさえすれば低位の溜池から高地の田畑まで水を楽に上げられるのは、この模型からも分かった…」
そこに住まう技術者や学者に陰陽師など術者たちは此度の計画の有効性を重く感じていっていた。
「…だが、日光の力と熱を、水車を回す力に変える札の術式の方は今までの積み重ねがあるゆえに難しくは無いが…」
「その札は紙であるがゆえに、ましてや水車に取り付けるとなると脆くなるのが速くなりますからなぁ…」
「油紙を用いるという方法もありますが、それも多少は札の寿命を延ばすのが限度…」
「うーーむ…問題というのは一つ解決すればまた二つ出てくるものだがぁ…」
一方で、次から次に出てくる課題も出てきて人々は眉間の皺をますます増やしていく。
「…ん? あれはー…?」
「ああ、あれは正月のために使う紙の準備をしているところですな」
その一人である名護丸が自身のそばを通り過ぎたそれに気づく。
それは和紙作り職人が麻を細かく裂いて洗ったものを薄い板状に広げて板に張り、日光に当てて乾かして紙を作るという作業の途中のものであった。
(…あー、そっか。ここって紙の研究もしてるんだった。前世で言うバナナ…芭蕉は葉がたくさん採れるけどその分にその処理に困るから、前の奄美の昔と同じくここの奄美や鹿児島でも衣服の材料にー…。こちらではほかにも紙の材料にもされるしー…。あれから取れるバナナは小さいけど甘くて美味しいしー…)
そうしたこの世界では衣類や布類等の原料として使われている、前世では島バナナとも呼ばれていた芭蕉を見ていると、名護丸の口元は思わず緩んでしまう。
「おい名護丸、今は芭蕉の実が採れる時期ではないぞ」
そうして弟がよそ見をし始めたことに気付いた歳久が注意する。
「…あ、申し訳ありません兄上。少し気になってー(お、今度はー広い板に戦意を薄く広く張っていって…あんな風に並べて乾かしてる光景…前の地元の発電所のソーラーパネルみたい…!?)」
兄に謝りつつも、芭蕉製品の作業の様子や作業場の形から前世の太陽光発電所を偶々思い出した名護丸だが、そこで彼は新たに通りかかった何かに気付いた。
「!? 歳久兄上! 次に通りすがったあれはー…!?」
「うぉ!? な、何って…あれは毎年の正月に使う術仕込みの注連縄に決まっておろう! あれは運気が良すぎる場所からそれが足りないところへ分けて注ぐためのものだがー…?」
「あれですよ! あの注連縄とあの紙をたくさん張り付けて乾かす板なら解決です!!」
「「「「「?????」」」」」
その驚きをそのまま声に載せて大きくまくしたて始めた名護丸に、周囲は驚きつつも困惑を深めていく。
「札が水車で濡れて振り回されて脆くなっていくのが問題なら! 濡れも動きもしない場所にたくさん貼ってそこで水車を回す力の素を作ってもらえばいいんです!」
「「「「「?????」」」」」
「それで生み出される力を注連縄で水車に繋げて回す力として送り続ければいいんですよ!! 運気とかよくわからないものも伝えられるなら光の熱と力を回す力に変えて水車に伝えるのも出来るでしょ!!」
「「「「「…あーーーーーーー!!!!!」」」」」
故に、名護丸の発案が具体的な形で繋がると、周囲のそれらが驚喜に変わって周囲を震わせるのは当然であった。
○皇紀2214年・天文23年(西暦1554年) 日本
集成館でのひと騒ぎから数週間後、正月も過ぎてその祝い事も終わり、冬場にしかできない水路の手入れなどに人々が取り組む時期の頃、鬼人達の里でもあるそこは普段とは違う賑わいがあった。
「…うう、臭い消しの札があるとはいえ…ここに入ると臭いがきついのう…」
「お、鬼人はその名の通りに鬼みたいな異相で体も大きいのう…」
「鉄砲は珍しいし、あれを作るには器用な手先が必要というのはわかるがー…」
「何で義久様は鉄砲と異人をあんなにも重く見られておるのかー…?」
此度は義久達が信頼できる面子に限定してだが、この世界では
「文武両道で真面目且つ人望熱い忠平様が島津の跡目に相応しいのではー…?」
「し、そのような話は禁句だぞ!」
「で、でもー…家中でも“薩摩の船狂い”とまで言われる有様ではないかー…」
そうした平人の陰口の中には鬼人達への蔑視や、島津家に対する不満や不安も現れていた。
「「「「「……………」」」」」
「堪えるのだ。
「これまで話した方策で行けば、お主たちの立場も強めて対等に近づけられる!」
「わかっております成喜殿に長永殿…」
当然、そういう声が聞こえてしまう鬼人達は面白くないが、親しんでいる面子が宥めることで不満を抑えていた。
「…それでは陣幕を切り落とせい!」
「ははぁ!」
こうして多くの多様な人々が集まっている中で、義久の号令で里の山肌の急斜面の一角を隠していた陣幕が勢いよく下ろされた。
「な、何じゃこれはぁ!?」
「斜面の麓から上の台地まで、まるで棚田のように溜池が連なっておって…?」
「それぞれの溜池には水車が備え付けられている…?」
「それでー水車は注連縄で一繋ぎになってー…」
「注連縄が伸びた先にある開けた土地で何枚もの板にびっしりと張り付けられている灯り札に似た札の群れと繋がっておるが…?」
初見の者達はそれに驚きつつも理解がまだできないという様子で騒めき始めるが、それに鬼人を含めた訳知り顔の者達はニヤニヤとし始める。
「…ねぇ若様そろそろいいですかい?」
「うん、いいよ。やって朱祢さん」
「よし! 名護丸様のお許しも出た! テメエら! 遠慮なく止め杭を抜きな!」
それを影から見ている者達は許しを得ると、水車から次々と杭が抜かれていく。
「…お、おい! あれを見ろ!」
「水車が水の流れもないのに次々と回りだしてー…!」
「う、上から上へと次々と水を汲み上げていっとる!」
「だ、台地の上はどうなっておる!?」
「み、皆様方! 慌てないでくだされ!」
「道はこちらにありますゆえにこちらから上がってください!」
神秘系技術要素があるとはいえ、戦国時代の技術的常識を打ち破るその現象に人々は驚き、色めき立っていった。
「…う、うおおお!」
「う、上の溜池へ次々と水が貯められていっとる…!」
そして、最後に残っていた不安や恐れは、溜池階段の頂上の溜池で溜まっていく水に溶かされるように消えていく。
「皆の衆! よくこの場まで訪れてこれを目にしてくれた! これぞ我が島津家に集った者達が生み出してくれた“
「「「「「!!!??」」」」」
そうして緩んだ人々の鼓膜を、頂上部に設けられた櫓より義久の気勢ある叫びが振るわせて、彼らの注目を集めていく。
「これまで我らが暮らす薩摩の大地の多くは何千年と積もってきた桜島の火山灰で不毛な高台であることを余儀なくされてきた!!」
「「「「「…………」」」」」
「だが! この度に集成館に集いし学者たちの智と鬼人含め異人たちや高台の密林で暮らしてきた者達の技で生まれたこれはそれを間違いなく変える!!」
「「「「「…………」」」」」
「だが! 我らには人手があってもこの灰が降り積もって出来た高台をいかすための技や知恵がない! 逆に異人達にはこの地で生きるための技や知恵があっても人手が足りない!」
「「「「「……………」」」」」
「故に我らがこの不毛の地を豊饒の地とするには協力が必要なのだ!!」
「「「「「…!!??」」」」」
そして、義久が此度の発明の効果を説きつつもそれを最大限に生かすための策を口にすると、この地に集う人々は再び驚愕と躊躇いが生じた。
「あ、あの鬼人と協力せにゃあ今回のすげぇ水車は作れんということか?」
「あ、あんまり他所の平人に来られると…村で仕事がしづらくなるというか…」
「変な病気も流行りやすくなるかも…」
それはこの偏見や迷信が強い時代ではごく当然のことで、双方が互いへのそれを口にしていくのも当然であった。
「皆が不安を覚えるのも当然だ! だが! 我ら島津の祖である頼朝公も嘗ては京暮らしの身でありながら都を追放された先に行きついた縁など無かった北条家と誼を結び! 坂東の地に根を下ろして幕府を開いた!!」
「「「「「!!!!!」」」」」
義久はそれを承知の上で先例も持ち上げて可能性を彼らの中に感じさせていく。
「ただ一人の身で流されて来た頼朝公でもそこまで出来たのだ! それから数百年たって今では頼れる隣人が大勢居る我らに出来ぬ道理などあろうか!?」
「「「「「…………」」」」」
「否! 字も生まれる前の頃より南東からの海の民! 大陸からの渡来の民が混ざり合って生まれた隼人の血を引く我らに出来ぬわけがない!!」
「「「「「…………」」」」」
義久の演説はまるで、彼の遠き先祖とされる頼朝の正室北条正子で焚きつけられた、鎌倉御家人の如き気分に群衆を至らせていった。
「…う、うおお! やってやるぞ!」
「そ、そうじゃ! 生まれだの種だのこの乱世で気に出来る暇などあるか!」
「儂はやるぞぉ!」
「「「「「ウオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」」」
やがてその高まっていく高揚は人々を満たして声を上げさせて繋げて行き、大いなる咆哮の群れへと変えていった。
(…凄い、これが史実で戦国大名と畏敬されてきた人の持つ熱に力…! たとえ叫びの切っ掛けの人がサクラだと知ってても…この熱の上昇気流…乗りたくなる!!)
その裏事情を承知の上で、名護丸はこの光景をなした義久に兄としてではなく主君として、初めて明確な畏敬の念を覚えた。
本作主人公、今回のお話で過去最大に自分の兄が前世では戦国大名と呼ばれていた存在であること、自分がその一族の一員であることを強く覚えましたね。
ちなみに、今回のお話で登場した芭蕉はこちら(https://x.com/kaioosima/status/2081027682175971450)の方に載ってる博物館に色々詳しい紹介や展示がありますので、奄美に行く機会がある方は他の展示物と一緒に楽しんでもらえれば幸いです。