×月×日
アニキはよくよく色々な事を思いつく。芋を揚げて塩を振るだけで、こんなに金のとれる物を作れるとは思わんかった。
海軍で外地だったと言うだけあって、日本ではお目にかかれない様なものも見てきたらしい。焼酎に炭酸と果物を入れると言うのも初めて聞いたし欧州ではビールは常温だとか。常温は遠慮したいが、焼酎は気になる。確か、貰った桃があったと思う。試してみよう。
×月×日
アニキと風呂に行った。まだまだ筋だけだったが上半身と膝上まで彫るそうだ。「昔っから興味はあったんだとねぇ〜」と言っていたが、そんなに身近なものだったのだろうか。そう言えば生まれはどこなんだろう。話してみれば見るほど気になる事が増えていく。
×月×日
広能の兄貴が土居を殺り損なって、おやっさんは随分と機嫌が悪かった。アニキはおやっさんに意見して灰皿を投げつけられた。額を切った様で、結構な血が出ている。みんな諌めたものの、アニキのおやっさんを睨みつけるあの目は忘れられない。誰相手でも退かず物を言うアニキは、器用に物事を考えられるのに行動は直線的だった。どこか危なく見えてしまう。
×月×日
カシラの帰参祝いをした足で、カシラと若杉のオジキの二人と一緒に飲みに行くことになった。アニキは用事があるとかで、昨日から事務所にも顔を出していない。珍しいことだ。義理事は欠かさないアニキが、よりによってカシラの帰参祝いを欠席とは。飲み直していたら串焼きを抱えたアニキが来た。あれはアニキが贔屓にしてる店の串焼きだ。やっぱり義理堅いと思ったが、アニキにビールを注ごうとした時に気付いた。アニキの右手から火薬の臭いがする。アニキはチャカを使った。こんな時期に使う相手は決まってる。神原しかいない。額の脂汗は走ってきたのが理由じゃないんだろう。明日、オジキに相談しよう。
×月×日
大きくなったシマを管理するために、皆がそれぞれ組を持つことになった。愚連隊だった頃の子分に声をかけてみよう。まだふらついてる奴らに心当たりがある。アニキは組を持たないのに自分が組を持たせてもらうのは気が引ける。その件についてはオジキにも叱られてしまった。出世は男の本懐、覚えておこう。
×月×日
ポンの件で揉めた。シマ内にポンが流れているのは知っていたが、こんなに酷いとは思っていなかった。そして、アニキが上納金を削れと言い出した。腹が冷える。最近、アニキは効率を求めすぎてないだろうか。遠慮なくおやっさんや兄さんたちに物言う。もう反目きかせていると言っても過言ではない。飲んでる時はよく笑うし、へべれけになるアニキだがシラフの時は少し怖い。そして、やっぱり神原はアニキがやったんだ。
×月×日
山方の兄さんが殺された。河岸に転がっていたと。新開の兄さんの子分の有田だ。アニキはポンの出所は有田だったというのも知っていた。アニキは動くんじゃないだろうか。山方の兄さんと広能の兄さんは仲が良かった。それを知っているアニキが何もしないはずがない。なんとか出来ないだろうか。
×月×日
やっぱり新開と有田は殺された。警察や新聞はよくわからん事を言っているが間違いない。アニキだ。アニキのいない間に決めてしまったが、しばらく旅に出てもらう事になった。事務所に突然きたアニキは私物を預けにきた。内容は伏せておく。この日、アニキに懐中時計を買って貰った。いい男になれって。人目というか、道の真ん中で泣いてしまった。大切にしよう。
×月×日
最近、シマ内からの上がりがいい。アニキは村岡組にしばらく預けられることとなった。しばらく静かにしていてくれるといいんだが…そうもいかないだろうか。いてもいなくても話題性のある人だと思う。不思議な人だ。
×月×日
村岡組長から若頭の松永とアニキで、兄弟盃をしたいという連絡があったそうだ。松永弘といえば今の村岡組の勢いを作ったと言っても過言ではないやり手と聞こえている。預かりの身なので一応、オヤジさんに確認をした様だ。なんでも時森と揉めていて、大友勝利が村岡のシマで賭場を開いていたと。その揉め事に割って入った上に、啖呵切って血を流さずに収めたという。大友勝利と言えばテキ屋の大友連合会の息子だが、随分の暴れ者と聞く。どうやったら血が流れないのか。本当にアニキはすごい。
×月×日
広能の兄さんの出所が決まったそうだ。最近、カシラとオヤジさんが上手くいっていないせいで、組の中の空気があまりよくない。広能の兄さんとアニキも帰ってくる。なんとか取りなして貰えないだろうか。自分ではもうどうにも出来ない状況だ。矢野の兄さんとカシラもよくない。昔みたいに戻れないのか。
×月×日
遂にアニキが帰ってきた。オヤジさんの言いつけで迎えに行ったが、相変わらずだ。いつも通りの飄々とした感じは健在だ。これであの大友勝利に啖呵切って、松永弘と兄弟になったというんだから人は見た目によらないと言える。しかも、随分と稼いできた上に、村岡のシマの屋台は継続するらしい。博徒で経営者で…器用な人だ。さすがはアニキだ。
×月×日
アニキは広能組の若い衆になった。意外だった。広能の兄さんを慕っていたのは誰もが知るところだが、子分になるとは予想できなかった。アニキが一家を構えたら、自分なんかと比べ物にならない大人物になっただろうに。生意気かもしれないが勿体無い。
×月×日
どういう経緯かはわからないが、カシラがおやっさんに斬りかかろうとしたらしい。何があったのか。しかもアニキが、カシラを宥めて帰したとか。そこまではいい。アニキはおやっさんに引退を迫った。アニキは難しい立場なのに物言いは変わらない。アニキは広能の兄さんをアニキと呼ぶが普段はオヤジさんと呼んでいるのだろうか?
×月×日
おやっさんが跡目に矢野の兄さんを指名した。話しが違う。これではカシラは早晩、激発してしまう。山守組が割れる。どうしたらいいかもわからない。まとまりを欠くなんて物ではない。抗争になる。これは覚悟するべきか…もう戻れないのか。
×月×日
遂に始まってしまった。カシラと矢野の兄さんで小競り合いがあって、オジキが刺されて広能の兄さんも怪我をした。アニキはもうどこにいるか分からない。何を考えているかも聞かされていない。アニキはどっちに着くのだろうか。そう言えば、アニキの通っている彫屋のオヤジを連れてスーツを勝手に作らせて貰った。三つボタンのシングルだ。みんなダブルのスーツを着ているが、アニキはシングルの方が似合うだろう。
×月×日
矢野の兄さんが行方不明になった。時森は死んで、矢野の兄さんは行方知れずでおやっさんは引退、広能の兄さんはおやっさんに盃を返した。オジキは引退して事は終わった。なんの実りのない抗争だった。身内の争いごとはやはり虚しい。アニキは最近、どうも塞ぎ込んでいる様に見えて仕方ない。神戸の会社と組んでホテルを呼び込もうとしていたのも、お流れになって流石に堪えているに違いない。
×月×日
カシラが殺された。アニキはその場にいたという話しだ。どういうことか全然わからないが、その晩の内にアニキはおやっさんのところに来て何かしら話し込んで帰った。アニキの涙を初めて見た。
×月×日
最近、揉めることもなく、過ごせている。アニキは山守組の手代として組を手伝ってくれている。広能組は組長の広能の兄さんが逮捕されて若頭を水上にしたそうだ。アニキは相変わらずただの若い衆らしい。気力がなくなってしまったんだろうか?
あまり生気を感じなくなってきた。だが、商才は変わらない。土地の売買でおやっさんは随分と稼いだし、自分も土地の売買に誘われている。
×月×日
アニキはあっちこっちに行っている様だ。時々顔を合わせはするが、また元気になってくれたのでいい。どうも、屋台の玉ねぎは淡路の方から取り寄せてるとか。相変わらずいい耳を持ってると思う。軍隊経験というのは、そうも見識を広くしてくれるのだろうか。
×月×日
アニキが博徒大友組の大友勝利と五分の盃を交わしたそうだ。羨ましい気もする。そして、アニキが若い衆を連れていた。新しく広能組にきた部屋住みだと。アニキの時計をしていた。遂にアニキも誰かの面倒を見る気になったんだろうか。これでいつかアニキも組をもってくれるだろう。なにせ出世は男の本懐だと言っていたからだ。
×月×日
おやっさんにアニキと距離を取る様に言われた。この前の岩国の件が、アニキの絵図だったのに気付いたんだろう。アニキは微妙な立ち位置に立たされてしまった。助けられないものか。
×月×日
アニキが山守組を除名になった。その場で広能の兄さんは破門、松永の兄さんは組をアニキに預けて引退すると言い切ってしまった。何かが壊れてしまった。
×月×日
おやっさんに呼び出された。明石組と喧嘩になる。アニキをとって来なければならない。自分がとらなければならない。他に任せたくない。
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少し突いてみた。アニキはまだ生きてる。入院先に花は出してみた。何してるんだ。
×月×日
アニキが事務所に来た。泣いていた。朝まで二人で飲んだ。懐かしかった。誰にも見られることなく盃を貰った。本当に兄弟になった。
×月×日
産廃処理場で爆発事故が起きた。が、大方アニキの仕業だろう。やる事が派手で、しかも効果的だ。さすが俺のアニキだ。やっぱり凄い人だ。