大心を宿して   作:はんたー

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今日は2026年京王杯2歳ステークスの日ですね
どんな馬が勝つか今から楽しみ


重賞制覇、その後……

 ゴール板を駆け抜けた後、俺達はゆっくりと速度を落とす。

 

『はあ……はあ……』

 

 ビチャビチャと音を立てながら静かに減速。歩くたびに泥がはねてくる。

 今日のレースは本当に疲れた。この雨の中、泥濘で死ぬほど悪いこの足場をよく走ったものだと自分で感心する。

 

「……勝った……よね?」

 

 由紀さんが不安げな表情で周囲を見渡す。すると、何頭かの馬がこちらに駆け寄ってくる。

 

「おめでとう! すごいね!」

 

「よく頑張った!」

 

「あ、ありがとうございます……」 

 

 幾人かの騎手が馬の上で由紀さんを祝福する。由紀さんは唖然としながらもそれに答えている。

 

『……今回はアンタの勝ちだ。おめでとう』

 

 騎手だけじゃない。大半は正直不満げに見えるけど、中には俺のことを祝福してくれる馬もいた。ゴールドアグリはそれだけ言うと、くるりとその場をあとにする。

 

「……取り敢えず、行こっか」

 

 由紀さんの合図に従い、俺はゆっくりと進路を変える。

 その途中、観客席から聞こえてきたのは、割れんばかりの歓声だった。

 

 ワァァァァァァァァァァァッ!!! 

 

 思わず足を止めそうになるほどの大歓声。俺と由紀さんは、ゆっくりと視線を横に向けた。そこにあるのは電光掲示板。

 一着には確かに俺の馬番8の文字が表示されている。

 

『京王杯2歳ステークス! 勝ち星を挙げたのは8番マグナアニマ! ラストクロップのマグナアニマが、父ナリタタイシンに初の中央重賞タイトルをもたらしました!』

 

 実況の言葉に俺は少し反応する。

 

(中央重賞初制覇……? それって、たくさんいるナリタタイシンの子どものなかで俺が初めてってことなんだよな!?)

 

 正直驚いた! ナリタタイシンはウマ娘化するほどの馬なんだし、正直子どもも重賞結構勝ってるもんだとばかり思ってたわ!

 

(ああ……でも、なんか納得してしまう)

 

 正直疑問には思ってた。なんでナリタタイシンの産駒が舐められているのか。G1勝つほどの名馬の子どもだというのに、何故期待されてる様子がないのか……。

 そうか……ナリタタイシンの産駒には、今まで重賞を獲った馬がいなかったのか。

 正直、皐月賞を勝ったナリタタイシンほどの名馬の子供が何で走らないのかが疑問だが、世間の総評的にはいい印象を持たれてなかったのかもしれない。

 競馬はブラッドスポーツだってどっかで聞いたことあるんだけどな……何でだろ。

 

『そして!』

 

 そんなことを考えていると、実況さんが叫んでいる。声からもすごい取り乱しているのが分かる。

 

『そして、由紀心華騎手! 外国人女性騎手ローレン騎手に続き、日本人女性騎手として史上初のJRA重賞制覇です! 歴史に名を刻む快挙に、スタンドからも大きな拍手が送られています!』

 

 日本人女性騎手の重賞初制覇!? そうなんだ……確か、競馬の歴史って戦前にまで遡るんじゃなかったっけ? 天野さんがたまにやる過去馬解説でそんな話を聞いた気がする。

 つまり、最低でも70年近くの歴史があるなかでの初制覇の称号を由紀さんが手に入れたことになるのか……そりゃ、実況さんも取り乱すわ。

 

「……やったねマグちゃん! 勝ったよ私達!」

 

 ぼんやり考え事をしていると、ポンポンと由紀さんが首筋を叩く。その表情からは隠しきれない喜びが感じられる。

 

(ああ、そうか……勝ったんだな……重賞……っ!)

 

 徐々に……徐々に実感が湧いてくる。

 そうか……俺はなったんだ! 鶴田さんの厩舎における四頭目の現役重賞馬に!

 

 ワァァァァァァァッ!

 

 周囲から鳴り響く拍手や賞賛! 俺の名前や由紀さんの名前を叫ぶ人もいる。

 やべえ、すげえ嬉しい! まだ、G2レースなのに滅茶苦茶誇らしい気持ちになってくる! 

 

『やったぜ!!』

 

 ヒィィィンッ! 

 

 まだまだジュニア期のG2一つ勝った程度。クラシックやシニアもまだ先。それはわかってる。

 それでも、喜びのあまり、思わず俺は嘶いた!

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

「おめでとう! マグナアニマ……っ! よく、よく勝ってくれた……!」

 

 検量室にくると、馬主の森沢さんが涙を流しながら駆け寄ってきた。天野さんもその目に少し涙が滲んでるようだ。

 

「おめでとう、よく頑張ったな……」

 

 鶴田さんも誇らしげに俺をポンポンと叩く。そうこうしているうちに、馬体検査が行われる。血を採取したり、異常がないかを入念に確かめるのだが、なかなか慣れないな。三回目だというのに、結構大変だ。

 

「本当にありがとうね、マグちゃん……」

 

 由紀さんも俺の背から降りて俺を労ってくれている。それを見た森沢さんは由紀さんに向き直り、手を差し出してお礼を言う。

 

「ありがとうございます、由紀騎手……中央の重賞勝ってくれて……本当に、ありがとうございます」

 

「こちらこそ、ぶれくんに引き続き、こんな凄い子に乗せてくれて本当にありがとうございます……」

 

 由紀さんは差し伸べられた手を握り、固い握手を交わした。

 そういえば、由紀さんと森沢さんは地方競馬からの付き合いがあるってどっかで聞いたな。

 由紀さんは地方……高知だったかな? とにかく、そこでナリタタイシンの子どものぶれくんとやらに乗って、高知二冠をとったことがあるらしい。そのぶれくんの馬主が森沢さんだったそうだ。

 地方の三冠と中央の三冠の違いはよくわからないけど、シングレの笠松に東海ダービーなるものもあったから、多分その類なんだろうな……。

 

「……で、乗ってみた感触はどうだった?」

 

 鶴田さんの言葉に由紀さんは顔を引き締める。

 

「……今回はこの子の能力と頭の良さ、勝負根性。あと、馬場もか……そういったものが重なって勝てましたけど、正直1400mは短いかなと思います。未勝利で走った1800mのほうが手応えが良かったので、たぶん本質的には中距離が適正なのかな? って感じです」

 

 由紀さんの言葉に俺も少し頷いてしまう。正直、距離短いなとは感じてた。確かに相手も強かったけど、今回は馬場が激ヤバで他の馬が対応できてないから伸びきれないってのもあったと思うしな……実際問題、もしももっといい天気の中で走ってたら、そこら辺がもっと浮き彫りになってたのではないかと思う。

 そうなったら……本当にマイネルレーニアやゴールドアグリに勝っていたのだろうか? 

 

「思ったとおりだな……とはいえ、1400mから1800mで十分戦えることは証明された。重賞を勝った今、次はG1に挑戦するだけの実績もできた。状態に問題がなければ、次のレースは予定通りだ」

 

「……中央G1、朝日杯フューチュリティステークスですね」

 

 ……ついに出たか。ウマ娘でもお馴染みマイルのジュニア期G1「朝日杯フューチュリティステークス」。G2を勝ったわけだし、出るとしたらここかホープフルステークスのどっちかだと思ってたけど、正直こっちで助かった。

 ……え? ホープフルステークス*1の方が2000mの中距離だから、距離適性的には合ってるだろって? そんなことは知ってるよ。

 俺がこのレースにでたかったのは距離適性とかそんな理由じゃない。

 実馬のことはわからないけど、ウマ娘の目標レースが史実に沿ってるってことくらいは知ってるんだよ。つまり、朝日杯にはアイツが出るってことなんだ……。

 

『絶対にリベンジしてやる……待ってろドリームジャーニー!』

 

 ウマ娘のドリジャの2歳の目標レースは朝日杯だ。つまり、この世界でも絶対にアイツは朝日杯にやってくる。

 

「みなさん、そろそろ表彰式に向かいますよ」

 

 そこにスタッフさんがやってきて、話し込んでいた由紀さんたちに声かけをする。

 表彰式? そんなのあるの? 

 そう考えていると、何やら巨大な布らしきものをスタッフさんが俺にかぶせようとする。赤い布だ。キラキラしてて、何やら大きな文字が書いてある。

 

 第42回京王杯2歳ステークス

 

 その布にはそんな文字が記されていた。ひょっとして、優勝トロフィー的な何かなのかな? 

 それを背に被せたのを確認した皆は口縄を引いて俺をウィナーズサークルに誘導しようとする。 すると────

 

 パチパチパチパチパチパチッ! 

 

 すごい人数の観客達が拍手で俺を迎えてくれた! 

 すげえ……何だこれ!? 未勝利で勝った時はここまでの人数いなかったぞ? 

 

「おめでとー!」

 

「すごかったぞー!」

 

 観客達はそんな感じの称賛を俺に投げかけてくれる。改めて重賞を勝つことが凄いことだということが実感できるな。

 

(……G2でこれなら、G1取ったらどうなるんだ?)

 

 体感してみたい……G1の景色を。見てみたい……スイープ師匠や、偉大なる父親(ナリタタイシン)と同じ景色を……。

 

「撮りまーす」

 

 そうこうしているうちに写真撮影が始まる。由紀さんは涙ぐみながらも満面の笑みを浮かべて俺のゼッケンを掲げている。森沢さんも天野さんも鶴田さんも皆幸せそうにしている。

 今は、みんなと一緒にこの勝利を喜ぼう。でも、ここがゴールじゃない。もっと先に、見たい景色がある。

 みんなが笑みを浮かべる中、俺は次のレースに向けて俺は闘志を燃やしながら、静かに鼻を鳴らすのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 レース後インタビュー

 

 

 

 

「それでは、見事京王杯2歳ステークスを制覇した由紀心華騎手です。おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「由紀心華騎手はJRAではローレン・ロケット騎手に続く2人目、日本人としては史上初の快挙となる女性騎手での重賞制覇となりました。今のお気持ちをお聞かせください」

 

「えっと、はい……本当に嬉しいです。正直、地方からこっちに移籍して3年くらい経ちますけど、2年目あたりから徐々に勝ち星減ってきて、ここ最近は本当に全然勝ててなくて……乗せてもらえる馬も少なくなってて……そんな中、森沢さんの厚意でマグナアニマに乗せていただいて、勝たせてもらって、本当に感謝してます」

 

「本日は馬の雰囲気などはどのように感じてましたか?」

 

「そうですね、マグナアニマはレースが始まる前からやる気満々という感じでしたね。重馬場でのレースは初めてで不安もありましたけど、とても頭がいい子なのでこちらが思ってた意図を汲み取ってくれて、そのおかげで勝つことができたと思ってます」

 

「序盤は後方からのレースとなりましたが、アレは作戦通りだったのでしょうか?」

 

「そうですね。マグナアニマ自身、前に行きたがらない性格なんですけど……末脚は本当にすごいので、この重馬場でもそれを発揮してくれると信じて脚を溜めてました」

 

「ゴールした瞬間はどんな気持ちでしたか?」

 

「正直、本当に勝ったのかが不安でした。今まで勝ててなかったのもあって、勝った! という気持ちと本当にそうなのかって気持ちがごちゃまぜで……でも、先輩方が駆け寄ってきて「おめでとう」って言葉をかけてくれて……その時に「ああ、勝ったんだ……」って感じで嬉しい気持ちが込み上げました」

 

「では、今回レースを制したマグナアニマ号にかける今後の期待や思いについて教えてください」

 

「はい。マグナアニマはまだまだ上を目指せる馬だと思ってますので、この馬と一緒にG1の舞台を制覇したいと思ってます」

 

「最後に、ファンの皆様へメッセージをお願いします」

 

「はい、本日は応援してくださりありがとうございました。これからも、マグナアニマを応援していただければと思います」

 

「ありがとうございました。京王杯2歳ステークスを制した、由紀心華騎手でした」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

*1:
2006年当時はラジオたんぱ杯2歳ステークスという名称のG3レース。主人公はウマ娘知識しかないのでそのことを知らない




券種組み合わせ払戻金額
単勝8 マグナアニマ7,080円
複勝8 マグナアニマ
11 マイネルレーニア
4 マイネルフォーグ
1,450円
160円
520円
枠連5-62,480円
馬連8-118,640円
ワイド8-11
4-8
4-11
2,380円
3,760円
620円
馬単8→1120,480円
3連複4-8-1118,760円
3連単8→11→4128,640円
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