「「個性把握テスト!?」」
体操着に着替えてグラウンドに集まった俺たち1年A組は、相澤先生から「個性把握テスト」の実施を告げられていた。
中学までの個性使用禁止な体力測定とは違い、個性を存分に使える。その事実に数人のクラスメイトが「流石ヒーロー科」「個性を思いっきり使えるなんて楽しそう!」と、どこかお気楽な声を漏らした瞬間、相澤先生の目が鋭く、冷徹に光った。
「楽しそう…か。ヒーローになるための三年間を、そんな甘い気持ちで過ごすつもりか?……ならトータル成績最下位の者は見込みなしと見なして、即刻除籍処分とする」
「「「ええええええっ!?」」」
グラウンド全体が激震した。
入学初日に除籍。そのあまりにも理不尽な宣告に、クラスメイトたちが次々と抗議の声を上げる。
だが、相澤先生はそれを冷酷な一瞥で黙らせた。
「自然災害、大事故、そして身勝手なヴィランたち……日本は理不尽に満ちている。その理不尽を覆していくのが、ヒーローだ」
「雄英は三年間、君たちに試練を与え続ける。生徒の如何は俺たち教師の自由だ……放課後にマックで談笑したいなら余所に行きな」
絶望と動揺が広がる中、俺は一人静かに拳を握りしめていた。
【波動先輩】:『相澤先生って私と天喰が一年の時の担任だったんだけどねー……すっごい合理主義者で、ちょっとでも見込みがないって思ったら容赦なく除籍しちゃうんだよ!』
【波動先輩】:『緋色なら大丈夫だと思うけど、気を付けてね』
(波動先輩が言ってた通りだ。おかげで心の準備はできてた……だったら、今俺がやることは一つだ)
俺は手を叩いて大きな音を出す。
皆の視線が集まったのを確認した俺は、動揺が広がっているクラスメイトたちに向けて不敵な笑みを浮かべて大声を張り上げた。
「皆、下を向くなよ!理不尽を覆すのがヒーローなら、今ここで覆してやろうぜ! 相澤先生の予想を遥かに超える結果を全員で叩き出してさ――『お前たちを舐めていた。すまない』って、あの先生の度肝を抜いてやろうぜ!」
その瞬間、クラスの空気がガラリと変わった。
「……! そうだ。ここで怯えていては、ヒーロー科の名が泣くというもの!」
「おう!やってやろうぜ!」
「そうね。折角これたんだから、ここで終わるなんてごめんよ!」
「ハッ、言われなくてもトップは俺だ!」
「緋色ちゃんがそう言うなら、私はどこまでもついていくわ」
「うん、緋色君と一緒に、絶対に生き残る……!」
飯田君が眼鏡をキラーンと光らせ、切島君も拳を合わせるのを筆頭に、重苦しかった空気が一瞬にして『打倒・相澤先生』への熱い闘志で一つに纏る。
「……フン、言ったな。見せてもらおうか」
その様子を、相澤先生は不敵な笑みを浮かべて眺めていた。
◇◇◇◇
【第一種目:50m走】
審判ロボの合図に合わせて、二人ずつ測定していく50m走。
今のところ暫定1位は、エンジンの個性を有する飯田君の3秒だ。
三奈ちゃんや梅雨ちゃんも飯田君には及ばないものの良い結果を叩き出しており、お茶子ちゃんも服や靴の重さをゼロにして去年よりは良い結果を出せたようである。
そして迎えた俺の番。俺の隣のレーンで走るのは、瀬呂範太君だ。
「50m走なら、こいつを使うか」
携帯しておいた手鏡にカードデッキをかざし、Vバックルを実体化させる。
その光景を見たA組の面々は驚く。
「えぇ!?空中からなんか出た!?」
「あれはベルト……でしょうか?」
相澤先生の横やりで中断させられた個性解説だったが、口で説明するよりも目で見てもらった方が丁度良い。
そう切り替え、クラスメイトの視線が俺に集中しているのを感じながら叫んだ。
「変身!」
Vバックルにカードデッキを差し込むと、いくつもの鏡像が俺の身体に重なり合い、仮面ライダー龍騎へと変身させる。
変身した姿を見たクラスメイトたちが、一斉に驚きの声を上げる。
「ひ、緋色君……へ、変身してもた!?」
「あの姿は一体……」
「なんだあれ!滅茶苦茶カッケェ!!」
「まさに騎士のような風貌!」
お茶子ちゃん、ポニーテールの少女――俺と同じく推薦入試で入った八百万百さん、切島君、鳥のような顔立ちの少年――常闇踏陰君が各々発言する。
「しゃあっ!」
そんな中俺は、仮面ライダー龍騎こと城戸真司のように拳を握り気合を入れていた。
『位置について、よーい……』
自分のレーンで審判ロボの合図を待つ緋色と瀬呂君。
妙な緊張感が辺り一体を支配し、皆はスタートの瞬間を固唾を呑んで見守る。
『ドン!』
合図が出されると、俺は勢いよくスタートを切った。
推薦入試の時と比べてコントロール出来るようになった龍騎の脚力で地面を蹴り、そのままグングンと加速し、あっという間にゴールした。
『2秒50!』
審判ロボの機械的な電子音声が、圧倒的なトップタイムを叩きだした事を発表する。
「すごーい! 流石は私のヒロ君! 走る姿も最高に格好良かったよ!」
「ええ、緋色ちゃんのあの太ももの筋肉、とても素敵だったわ」
「うんうん、緋色君の背中、ずっと追いかけていきたいな……!」
変身を解いて息を整えていると、飯田君が負けてしまった事に悔しがっているのが見えたので俺はどうだ!とどや顔を送る。
その傍ら、三奈ちゃんは肌を上気させて拍手を贈り、梅雨ちゃんはじっと俺の下半身を見つめ、お茶子ちゃんも拳を握りしめている。
「なあ上鳴、峰田……あの女子三人の視線、何だか熱烈を通り越して執念深くねえか?」
瀬呂君がさっき絡んできた金髪の人――上鳴君と髪型がブドウっぽい人――峰田君に頬を引きつらせながら耳打ちする。
上鳴君も同意見なのか、若干の怯えを顔に浮かべながら頷いていたが、峰田君は「あのイケメン、後で呪ってやる……!」と血涙を流していた。
【第二種目:握力】
体育館に移動した俺たちは、測定器を手に各々個性を交えて握力を測っていた。
「すげー!!540キロって、あんたゴリラ!? いや蛸か」
「蛸ってさ……エロいよね」
障子君の結果に感嘆の声をあげる瀬呂君と、よく分からないコメントを残す峰田君。
俺も負けてられないなと気合を入れ、この場に最適なモンスターを呼び出す。
『ADVENT』
「頼むぜ!マグナギガ」
手鏡から現実世界に現れたマグナギガは、左腕のギガハンドで測定器を握りしめる。
ギギギギギギギギギッ!!
怪しい音を響かせる測定器の画面に表示された数値は、なんと50t。
「壊れてるだろそれ!」と異様な測定結果を見た上鳴君がツッコミを入れるが、でもあれ……と俺が指さしたほうを見て言葉を失う。
俺が指さした先では、同じ推薦合格者の八百万さんが万力で握力測定を行っており、測定不能と言う規格外の結果を叩き出していたのだ。
【第三種目:立ち幅跳び】
「来い!ダークウイング」
レーンに立った俺の背中に、漆黒の蝙蝠型モンスター――ダークウイングが合体しマントのような姿に変わる。
そしてジャンプすると同時に、ダークウイングが巨大な黒い翼を広げて一気に大空へと舞い上がった。
「砂場飛び越えた……どころかもはや飛んでんじゃねえか!!」
「空も飛べるとか有りかよ!?」
「あ~……筒美、着地したら直ぐ戻ってこい。∞扱いにしとく」
体力測定で∞は有りなのか――審議が必要そうなことを相澤先生が言うが、個性有なこのハチャメチャな体力測定なら有りなのだろう。
そう考えて俺は、グラウンドの端に着地して急ぎ足で戻った。
【第四種目:反復横跳び】
これはモンスターの力を借りるような種目でもないため、普通に生身の身体能力でこなした。
結果は至って普通だった。
【第五種目:ボール投げ】
爆豪君の『705.2m」を筆頭に、お茶子ちゃんが個性で『
「よし……行くぞドラグレッダー!」
『STRIKE VENT』
右腕にドラグレッダーの頭部を模した手甲『ドラグクロー』を装着。投擲ではなく、放り投げたボールに向けて、赤き竜の炎を纏わせた強烈なストレートパンチを叩き込んだ。
爆音と共にカッ飛んでいったボールの飛距離は『600m』。
すっげえ!!とクラスメイトが湧きかけるが、上鳴がすぐに頭を抱えた。
「すげえ……すげえんだけどさ! 前の3人が頭おかしすぎて、600mっていう大記録がめちゃくちゃ普通に見えてくる恐怖は何なんだよ! 麻痺するわ!」
「贅沢な悩みだな、おい!」
切島がツッコミを入れ、周囲に笑いが起きる。
実際俺自身もそんな気がしており、苦笑いした。
【第六・七種目:上体起こし&長座体前屈】
これも特に個性の使い所がないため、普通の数値に落ち着いた。
【第八種目:持久走】
最後の種目のため、出し惜しみなしと決めた俺は迷う事無く再び龍騎に変身する。
「変身」
50m走で数秒しか使っていなかったため、活動限界までの残りの時間はまだたっぷりとある。
龍騎の驚異的なスピードで、グラウンドのトラックを猛烈なペースで進んでいく。これなら1位は確実かと思われた、その時。
ブロロロロロロ……!!
「え?」
後半に入り、ペースダウンした龍騎のバイザーの視界の端を、排気音と共に何かが追い抜いていった。
見れば、八百万さんが『創造』の個性で生み出したガソリン式のスクーターに跨り、涼しい顔でトラックを爆走していた。
(
心の中で盛大にツッコミを入れながら、必死に足を動かして彼女を追った。結果、1位は八百万、俺は2位となった。
個性であれば何でもアリと相澤先生は言っていたが、流石にそれはずるいと思う。
~~~~
全ての種目が終わり、相澤先生がホログラムで総合順位のランキングを発表した。
俺の最終順位は、いくつかのトップ成績と平均的な数値が合わさり、総合2位。
「さて、除籍の件だが」
最下位に『緑谷出久』の名前があるのを確認し、クラス中に緊張が走る。緑谷君は絶望に肩を震わせていたが、相澤先生はスマホの画面を消すとニカッと不気味に笑いながらあっさりと告げた。
「除籍は嘘だ。君たちの実力を極限まで引き出すための合理的虚偽だ」
「「「はあああああ!?!?」」」
「少し考えれば分かりますわ」
お茶子ちゃんや三奈ちゃんたちが大声を上げて驚く中、八百万さんだけが澄ました顔で言っている。
俺はというと、その場にガクッと膝をつき両手で顔を覆っていた。
「嘘……だろ。じゃあ俺、入学初日から担任の先生に向かって『度肝抜いてやろうぜ!』とか失礼な大口叩いただけじゃん……恥ずかしすぎる」
本気で凹む俺に、相澤先生は呆れ顔でため息をつきつつフッと目を細めた。
「気にするな、筒美。お前のあの鼓舞で、クラス全員が限界以上の力を出したのは事実だ。初日の段階であの空気を作れたのは、結果として非常に“合理的”だった。気に病むな」
「あ、ありがとうございます……」
先生の一応のフォローを貰い、胸を撫で下ろしたのだった。
◇◇◇◇
緋色たちが相澤先生から個性把握テストの結果を聞いていた頃、校舎の物陰でマッスルフォームのオールマイトがひっそりとグラウンドを見つめていた。
彼は知っていた。相澤消太という男が、本当に見込みのない生徒を容赦なく除籍する男だということを。
(本当は、最下位の緑谷少年を本気で除籍するつもりだったのだろう? 相澤君。だが……あの筒美少年の鼓舞と、それに触発された生徒たちの『輝き』が君の予想を狂わせ、除籍を撤回させたんだ。面白い少年だね!)
◇◇◇◇
個性把握テストが終わり、放課後の教室。
相澤先生の横やりで中途半端になっていたミラーモンスターについての解説を再開しようとしたその時、ポケットの中でスマホが振動した。
画面を見ると、波動先輩からのLINEだった。
【波動先輩】:『体育館借りられたから、放課後一緒に特訓しない?(´ω`)』
(特訓か……そうだ!体育館なら広いし、モンスターの説明をするのに絶好の機会じゃないか?)
そう考え、『クラスメイトも何人か連れていっていいですか?』と返信する。すぐに『良いよー!』と快諾の返信が来た。
「皆、先輩の計らいで体育館が借りられた。ミラーモンスターの実物を見せながら説明したいんだけど、一緒に行く?」
呼びかけに、A組のほぼ全員が乗っかってきた。
色めき立つクラスメイトを引き連れ、体育館へ向かう。
重い体育館の扉を開けると、そこには波動先輩だけでなく通形先輩と、そして相変わらず壁を向いて佇んでいる天喰先輩も揃っていた。
「あ! ひーいろーーー! 待ってたよーー!!」
俺を見つけた瞬間、波動先輩は弾けたような笑顔で新幹線のような速度で駆け寄って来た。
そして、俺の制止が間に合うよりも早く――。
ギュウウウウッ!!!
「ぶふぇっ!?」
波動先輩が俺の身体に全力で抱きついてきた。
しかも、体操着越しであっても隠しきれない豊満な着脱不可式胸部搭載型マシュマロが、俺の顔面にこれでもかと完璧に押し付けられる。
「ちょ、波動先輩っ……!近い、近いです! 離れてください!」
視界が圧倒的な柔らかさで埋め尽くされ、息ができず大慌てで先輩の肩を押して引き剥がそうともがく。
その光景を目撃したクラスメイトから、凄まじい殺気が沸き上がった。
「おいコラ筒美ぃぃぃ!!何先輩に抱きつかれてんだテメェ!!代われ!今すぐそこを俺と代われぇぇ!!」
「死罪だ死罪! 羨ま死刑だこの野郎ぉおおお!!」
上鳴君と峰田君が、血涙を流しながら大絶叫する。
だが、殺気の出どころは彼らではなかった。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
俺の後ろに立っていた三人の少女と一人の少年の瞳から、同時にハイライトが消失した。体育館内の気温が瞬時に5度ほど下がったかのような凄まじい怨念と嫉妬の冷気が充満する。
「へえ……ヒロ君、あんな大きな胸の人が好きなんだ。じゃああの胸、酸でドロドロに溶かして平らにしたら私だけを見てくれるのかな? じゃあ早く溶かさなきゃ……」
三奈ちゃんが指先からシューシューと怪しい煙を出しながらブツブツと呟く。
「緋色ちゃん…説明して欲しいわ。あの人、ちょっと距離感がバグってるわね。私の舌で、あの世まで引っ張ってあげようかしら……」
梅雨ちゃんの大きな目が、獲物を定める爬虫類のそれへと完全に変貌している。
「あはは……どういう関係なのかな?緋色君をたぶらかす泥棒猫は、全員無重力で宇宙のゴミにしてあげる……」
お茶子ちゃんの手がギチギチと音を立て、周囲の空間が歪み始めているような錯覚が生じる。
「…………」
そして障子君に至っては、無言のまま複製腕の筋肉を異常なまでに膨張させ、波動先輩をいつでも圧殺できるような構えを取っていた。
四方向から押し寄せる尋常ではない殺気に気付き、さすがの通形先輩も冷や汗を流していた。
~~~~
「皆出てこい!!」
『ADVENT』
なんとか波動先輩を引き剥がし、気を取り直した俺は全てのモンスターたちを呼び出す。
俺の声に応えるように体育館の窓の鏡面が金属音と共に歪み、障子君と波動先輩に預けていた『デストワイルダー』と『ブランウイング』を含めた11体のモンスターが一堂に会した。
「うおおおおっ!? すげえええええ!!」
「圧巻だ……! これだけのモンスターを使役しているなんて!!」
息を呑むような圧巻の光景に、クラスメイトたちの目が輝き殺伐としていた空気も一気に吹き飛んだ。
「よし! ここから俺の個性の詳細を説明する!」
咳払いをし、モンスターたちと自身の能力の仕様について解説を始めた。
「まだ波動先輩たちにしか見せていない龍騎への変身なんだけど……これには、致命的な弱点があるんだ」
「弱点?」
「変身した状態での活動可能時間は9分55秒。この制限時間を過ぎると、自動的に変身が強制解除されて9時間55分は再変身不可能になってしまうんだ。」
「なるほど…だから競技ごとに変身したり解いたりしていたのか」
「じゃあ、長期戦になったら圧倒的に不利ってことか!」
個性把握テスト時の不可解な行動の理由が分かった飯田君が驚愕の声を上げ、切島君も顔を険しくした。
「そして、各能力にも一度使うと9分55秒のリキャストタイムが発生する。龍騎に変身してる間ならこれら全部使えるけど、生身ではモンスター1体につき一つだけだから、むやみやたらには連発できないんだ。モンスターたちも意思を持っているから、俺の指示と連携を取る訓練が必要で――」
俺の説明が終わるまでの間、緑谷君は猛烈な勢いでブツブツと呟きながら、ペンを走らせ始めた。
「つまり筒美くんの個性は、一見すると11体もの強力なモンスターを操る万能型に見えてその実変身時間の短さと、生身での制約という明確な『隙』が存在するんだね!だからこそ、限られた時間内でどの能力をどのタイミングで切るという、高度な戦術的思考と一瞬の判断力が求められる『超・玄人向け』の個性なんだ……! 凄い、凄すぎるよ筒美くん!」
「お、おう……そこまで分析してくれるとはありがたいな」
緑谷君の圧倒的な考察力に引きつつも、俺は苦笑いした。
「じゃあ説明も終わった事だし、特訓始めようか」
説明が終わったタイミングで、通形先輩の呼びかけでA組クラスメイトも交えた特訓が始まる。
個性把握テストを乗り越えた俺の雄英生活初日は、頼もしい先輩たちとの特訓、そして背後から注がれる女子+障子君のどこまでも重く、歪んだ視線に包まれながら更けていくのだった。
テスト開始前に相澤先生の除籍宣言に啖呵切ったシーンは、漫画で読んだ時に一人くらいはクラスメイトを鼓舞する人がいても良いんじゃないのかと思ってたので入れました。
あとミラーモンスターたちが一堂に会したシーンは、『RIDER TIME 龍騎』で城戸たちがミラーワールドで初変身した時をイメージしています。