緋色は誰とペアを組む羽目になるのか・・・
あと、今作の轟君はB組です
個性把握テストの狂乱から一夜明け、雄英高校ヒーロー科一年A組は平和な――あるいは嵐の前の静けさとも言える朝を迎えていた。
午前中は英語をはじめとする一般科目の授業。どんなに凄まじい個性を秘めていようと、高校生である以上は勉強から逃げることはできない。
前世はしがない小市民だった緋色にとっても、雄英のハイレベルな授業内容は久々の脳の体操となった。
そして昼休みを終えた午後、生徒たちが最も心待ちにしていた授業が始まる。
「――私が!! ドアから普通に入って来た!!!」
ド派手な効果音が聞こえてきそうな勢いで教室の扉を開けて入ってきたのは、アメコミみたいな渋い画風に
「私が担当するのは『ヒーロー基礎学』!それはヒーローの素地をつくるため、様々な訓練を行う科目!1番単位の多い科目でもあるぞ!早速だが、今日やってもらうのは戦闘訓練だ!!」
オールマイトがリモコンを操作すると、壁から1年A組全員の出席番号が書かれたアタッシュケースが現れる。
「入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた
「「「はいッ!!」」」
着替えたら順次グラウンドβに集まるように。と言って先に向かったオールマイトを追うように、各々自分の番号が記載されたケースを持って更衣室へ向かう。
~~~~
『14』と記されているケースの中に入っていた
「おお筒美、結構カジュアルな格好なんだな!」
切島君が緋色のコスチュームを見て声をかけた。
緋色が身に纏っているのは、鮮やかな赤を基調とした
彼の個性の本質は『龍騎への変身』、あるいは『ミラーモンスターの召喚・使役』である。そのため、変身後に覆い隠されてしまう派手な
さらに言えば、事件現場において
「見た目は普通の服っぽいけどさ、防弾・防火・防水加工は完璧だし、伸縮性も最高でめちゃくちゃ動きやすいんだよ」
「へえ、実用性重視ってワケか! 渋くて男らしいな!」
「ありがとう。切島のは必要最低限って感じだな……個性の関係?」
「応よ!俺の個性は『硬化』だから、俺自身が防護服みてぇなモンだからな!」
そんな会話をしながら角を曲がろうとした、その瞬間だった。
ポスッ。
「っと……あ、悪い!」
向かい側から歩いてきた何者かと正面衝突した。
とっさに倒れそうになった相手の体を支えようと、緋色は両手を差し出す。すると、その両手に驚くほど
「……え?」
感触の形を確かめるように無意識に数回、キュッと指先を沈めさせてしまった緋色。
しかし、目の前には誰もいない。空中に浮いているのは、水色の手袋とベージュのショートブーツだけ。
「…………あ」
緋色の手が掴んでいるのは、空気ではない。
クラスで唯一『透明化』の個性を有している女子生徒の透明化が適用される範囲――すなわち、葉隠透の
「……やぁん♡ どこ触ってるの、筒美君……♡」
甘い声が空中に響いた瞬間、緋色の顔面からサーッと血の気が引き、一瞬で真っ青になった。
「ッッっっ本ッ当に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!」
音速の土下座。
コンクリートの床に勢いよく額を叩きつけ、緋色は全力で謝罪した。
「おいコラ筒美ぃぃぃ!? 女子の胸を両手で鷲掴みとか何やってんだお前えええ!!」
「死刑だ!逮捕だ!爆発しろ!!」
背後で峰田と上鳴が血の涙を流しながら叫び散らす。
「ふふっ、冗談だよ~。でも驚いたな~…筒美君の手、温かかったな~……もう私、お嫁に行けないよ~♡」
手袋を頬に当ててモジモジと照れて見せる葉隠。――だがその背後に立つ女子陣の空気は、冗談で済むものではなかった。
「………………」
芦戸三奈、蛙吹梅雨、麗日お茶子の三人は、完全にハイライトの消えた瞳で無表情のまま葉隠透を見つめていた。
(あの破廉恥女……事故を装ってヒロ君に触らせたね……絶対に殺す……)
(緋色ちゃんの純潔が……汚されたわ……)
(許さない……絶対に、許さない……)
言葉には出さないが、背後から立ち上るドロドロとした暗黒の憎悪が、廊下の気温を凍りつかせていた。
~~~~
紆余曲折あってグラウンドβに到着した一同に、オールマイトから今回の授業内容が発表された。
ビル内に隠された核兵器(
くじ引きにより、A~Jの10チームが決定した。
注目の第一試合は、ヒーロー組・チームA(緑谷・麗日)VSヴィラン組・チームD(爆豪・飯田)。
爆豪の狂気的な執念と爆炎、そして緑谷のダメージを顧みない捨て身の一撃。
激闘の末、緑谷の決死のアシストによってお茶子が核兵器へ飛びつき、Aチームが勝利を収めた。
しかし、モニター室で観戦していた生徒たちの中で、八百万百が冷徹な分析を口にする。
「この戦いにおいてのMVPは飯田さんですわ。爆豪さんは私怨からくる暴走。緑谷さんは体への負荷を考慮しない無計画な大技。麗日さんも途中で気の緩みが見られました。Aチームの勝利は、あくまで『これは訓練である』という甘えに救われたものに過ぎません」
完璧すぎる講評。
(すごすぎるぞ八百万少女……!私が考えていた以上の改善点を的確に突いてくるとは!)
オールマイトは内心で滝のような汗を流しながら、彼女の恐ろしいほどの慧眼に舌を巻いていた。
そして迎えた第二試合。
ヒーロー組・チームB(筒美・障子)VSヴィラン組・チームI(尾白・葉隠)。
「よろしく障子君。頼りにしてるよ」
「……ああ。こちらこそ、よろしく頼む」
障子目蔵は緋色と顔を合わせる事なく応じていたが、複製腕の先端にある「目」で緋色の姿を全角度から網羅するように見つめていた。
その頃のビル内の最深部、核兵器が置かれた部屋。
「尾白君……私、本気出すからね!」
葉隠透はそう宣言すると、身につけていた手袋と靴をその場で脱ぎ捨てた。これで彼女は文字通り
(葉隠さん……ヒーローとして正しい判断なんだけど、女の子としては間違っている気がする)
隣に立つ尾白猿夫は、視線をどこに向けるべきか困惑しながら苦笑いを浮かべていた。
一方、ビルの1階入り口。
障子は自身の『複製腕』を幾重にも展開し、耳を複製してビル全体の振動と音を拾っていた。
「4階北側の広間だ……二人とも籠城している。一人は足音が聞こえるが、もう一人は……微かな衣擦れの音の後、足音が完全に消えた。おそらく、衣服を脱いで待ち伏せているんだろう」
「流石だね、障子君。完璧な索敵だ」
緋色は感心しながら、ポケットから一枚のカードを取り出した。
漆黒の蝙蝠――ダークウイングのカード。
「作戦なんだけど、ダークウイングを先行させてナスティベントを仕掛けようと思う。超音波で二人の動きを封じている間に、俺と障子君で同時に突入して一気に捕縛する……これでどうかな?」
考えうる限りの安全かつ確実な作戦を立てた。
だがそれを聞いた障子の複製腕がピクリと異常な反射を見せ、静かに首を横に振った。
「いや、筒美……作戦を変更させてくれ。まず先に、俺が一人で部屋に突入する」
「え……一人で?相手は二人だぞ…二人で突入した方が安全だし」
「いや、俺が行く。……俺一人で十分だ」
障子の脳裏に、凄まじい速度で不快感が駆け巡る。
(葉隠は全裸だ。姿は見えない。見えないが……衣服を纏っていない破廉恥な女が、筒美と同じ空間に存在し、万が一にでも筒美の身体に触れるようなことがあれば――)
そこまで考え付いたところで、障子の心奥にあるドス黒い独占欲が急速に鎌首をもたげた。
(許せない。透明とはいえ、そんな不浄な存在が筒美の視界に入る環境そのものが我慢ならない。筒美の清らかな瞳を、そんな女の存在で汚させるわけにはいかない……!)
障子から放たれる尋常ではないレベルの殺気と独占欲。
「お、おぅ……分かった。じゃあ、障子君に先陣を任せるよ」
ただの作戦提案とは思えないその圧に気圧された緋色は、冷や汗を流しながら引き下がるしかなかった。
「でも無理はしないでよ。ピンチになりそうだったら、すぐに助けに入るからね」
「ああ……行ってくる」
緋色の優しさに障子はマスクの下で歪な歓喜の笑みを浮かべ、猛然と4階北側の広間へと駆け出した。
~~~~
4階北側の広間。
扉が激しく蹴り破られ、障子目蔵が突入してくる。
「来たね!」
葉隠が障子の死角から組み付こうと音もなく接近する。しかし、障子の
「そこか――不浄な者が!!」
「キャッ!?」
障子は迷うことなく何もない空間へ腕を伸ばし、そこにいた葉隠の腕を強引に掴むと、そのまま床へ容赦なく叩きつけ組み伏せた。
加減はしているものの、その動きには一切の躊躇も女子に対する遠慮もなかった。ただひたすらに、緋色に近づけさせないという執念のみがそこにあった。
「葉隠さん!?」
相棒の危機に、尾白が尻尾を振りかざして障子へ飛びかかろうとした瞬間――。
「そこまでだ!」
『ADVENT』
広間の外から緋色の声が響くと同時に、漆黒の蝙蝠――ダークウイングが鋭い鳴き声を上げながら尾白へと襲いかかる。
その強靭な翼と脚で尾白の身体をがっちりと拘束し、身動きを完全に封じ込めた。
「くっ、動けない……!」
「ナスティベントは使わずに済んだな。筒美、今だ!」
障子の呼びかけに応じ、廊下から駆け込んできた緋色が尾白たちの横を通り抜けて核兵器(模型)へと手を触れた。
『ヒーローチーム、WIN!!』
オールマイトの豪快なアナウンスがビル内に響き渡り、試合はヒーローチームの完全勝利で幕を閉じた。
「やったね障子君!完璧な突入だったよ!」
「……ああ。お前のサポートのおかげだ、筒美」
緋色の純粋な賞賛の笑顔を浴びながら、障子は胸の奥で深い充足感に浸っていた。
(良かった……あの女がこれ以上筒美の目に触れる前に、完全に処理できた。筒美の世界に、あのような穢れは必要ない)
◇◇◇◇
第一試合と異なり、あっという間の決着だった。
モニター画面を見つめるA組の生徒たちが感嘆の声を上げる中、女子更衣室でお互いに滾らせた憎悪を向け合っていた三人――芦戸三奈、蛙吹梅雨、麗日お茶子は静かに視線を交わしていた。
モニターに映っていた障子目蔵のどこか狂気を孕んだような容赦のない戦い方。そして、緋色に向けるその異常なまでの執着の眼差し。三人は、瞬時に全てを察知していた。
「……あのタコ男、完全に私たちと同類じゃん。ヒロ君を独り占めしようとしてる」
三奈が低く呟く。
「ええ…間違いないわね。憎たらしいライバルが、また一人増えたということね。ゲコ」
梅雨ちゃんが冷たい声を漏らす。
「本当…目障りな男」
お茶子もまた、おぞましい笑みを浮かべながら画面の中の障子を睨み据えていた。しかし、お茶子はふと息を吐くと、少しだけ声を和らげた。
「でも……あの破廉恥な透明女を、緋色君の視界に一瞬たりとも入れさせなかったことだけは評価してあげてもいいかな?」
それはそうねと、梅雨ちゃんが頷く。
「ヒロ君に変な虫がつくのを未然に防いだのは、グッジョブと言わざるを得ないよ。今回だけは、あのタコのファインプレーってことにしてあげる」
三奈も不承不承ながらも同意した。
敵対心を激しく燃やしながらも、緋色の『心の純潔』を守った障子の行動にだけは、一定の評価を下すヤンデレ少女たち。しかし――だからと言って、障子の存在を認めたわけでは断じてない。
(でも男の癖にヒロ君に馴れ馴れしくベタベタ触って……不愉快ね)
(緋色ちゃんを独占しようだなんて、身の程をわきまえなさい)
(そうだよ……緋色君の隣に立つのは、私だけでいい)
三人にとって、障子目蔵という存在は『自分が緋色と結ばれるまでの弾除け』に過ぎなかった。
ボロ雑巾になるまで使い潰し、用が済めばポイする程度の存在であり――『いつか緋色と同じ墓に入る日に、小指の骨くらいは特別に一緒に入れてやっても良いレベル』というのが、彼女たちの障子目蔵に対する冷酷な評価だった。
一方――。
模擬戦を終え、モニタールームに戻る緋色たち一同。
リラックスした様子の緋色たちに対し、障子目蔵は胸ポケットに入ったデストワイルダーのカードを愛おしそうに撫でながら、カメラのレンズを真っ直ぐに見つめていた。
(見ているんだろう……お前たち)
カメラの向こうにいるであろう、あの三人の女子たち。そして、昨日緋色に抱きついていたあの三年の先輩。
障子の瞳には、幼少期に自分を差別し、暴力を振るってきた村の大人たちにすら向けた事のない漆黒の敵意が宿っていた。
(性別がどうした。立場がどうした。……俺は、お前たちになど絶対に負けない!)
あの日、絶望の淵にいた自分に手を差し伸べ、君は良い人だと言ってくれた少年。
世界中が自分を拒絶しても、あの少年だけは自分を受け入れてくれた。
(筒美は……緋色は、俺だけの光だ!)
監視カメラ越しに交錯する、決して交わることのない歪んだ執着と情念。
無自覚に愛を振りまく少年・筒美緋色を中心に、雄英高校1年A組の人間関係は、更なる深淵へと落ち込んでいくのだった。
「おーい、皆! ただいま!!」
なお、当の本人は何も知らずに爽やかな笑顔でモニタールームへ戻ってきたのだった。
緋色のラキスケハプニングは、ガンダムSEED DESTINYのシンとステラが初めて会ったシーンをイメージしてください