願いの物語シリーズ【河合風香】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
『料理の鉄人対決』
なんて書かれた紙を、私は鼻で笑いながらテーブルの上に滑らせた。
正面に座っている師匠は私の行動にどこか不満気である。あるが、直接文句を言うつもりは無いらしく、私の言葉を待っている様に見えた。
「師匠は興味あるんですか?」
「ない」
「でしょうねぇ」
バカらしい話だ。
確かに私たち料理人はお客さんにご飯を食べて貰って、喜んでもらう仕事だ。
だから美味しいか美味しくないかの判定はお客さんで良い。むしろお客さんが良い。
でも、それはあくまでその料理がその人の舌に合っているかどうか、だ。
私と師匠の料理を食べてどちらがより優れているかなんてくだらない話を比べる為のものじゃない。
そもそもどうやって判断するつもりなんだろうか。その自信はどこからくるのか。疑問は尽きない。
「まぁー。視聴者を喜ばせるため、料理評論家辺りに作れって言うんなら私が行きますけどね。バカが喜ぶ希少な食材使った分かりやすいお子ちゃま向けの味で出しますよ。師匠がわざわざ行く意味も無い」
「いや、この企画。俺たちは審査員として招待されているんだ」
「……はぁ?」
「審査員だよ。風香」
「いや、意味が分からないんですけど。どういう立場で私たちは他人の作った料理を判断しないといけないんですか? 間違いなく待っているのは戦争ですよ?」
「だろうな」
「そこまでのリスクを背負って、何か意味あります?」
「だから、無い」
私は頭を押さえ、天井を見ながら考える。
じゃあ、なんで師匠はこの話を私に持ってきたのか。
「風香。お前、前にも似たような番組に出てただろ?」
「……別に出たかった訳じゃ無いですけどね。まぁ、出てましたよ自称料理人の料理を食べて文句言う番組」
「まぁ、企画者は文句を言って欲しかった訳じゃ無いだろうがな」
「そうですか? 私結構炎上してましたけど。参加依頼がバンバン来てましたからね。分かりやすいヒールが欲しかったんだと思いますけど」
「お前は、嫌じゃないのか?」
「別に。どうでも良いですね。知らない人に何を言われても何も感じませんし。私よりも言いたい放題世間に言われている友人も居ますしね」
「……立花の坊主か」
「アレに比べればマシですよ」
「確かにな……ふむ。ならちょうど良いかもな」
「何がです?」
「そろそろ先へ進まねぇといけねぇだろ。立花の坊主も。まぁ、その相手がお前で良いのか、俺には分からんが、選ぶのは坊主だ……だから、風香。お前、この番組に出ろ」
「はぁ。何だかよく分かりませんけど。師匠が言うなら良いですよ。出ましょうか」
「おう。まぁ盛大に燃えてこい」
「なんで燃える前提なんですか!! まったくもう!」
私は師匠に文句を言うが、笑われて終わってしまった。
何もおかしくはない!!
私だって炎上せずに終わらせる事が出来るって所を見せてやろうじゃないか。
なーんて言ったけれど、正直炎上せずに終わる事が出来るか不安になってきたゾ。
何せ今日の審査員には、私の他に過去何度も言動で批判を集めている芸人と、アイドル。そして、自称料理評論家。
終わりだ。
勝てないよ。こんなの。どうやれば勝てるんだよ!!
もう番組ごと燃えるのは分り切っているし、こういうメンバーで集まっている以上、私に求められている役割も自ずと見えてくるというものだ。
つまり過激な発言をして燃やせという事だろう。
炎上は誰も幸せにならない。彼らがそれに気づくのはいつなのだろうか。
プロデューサー。悲しいね。
なんて私は今日無事で終わる事を諦めつつ、スタジオに入り、挨拶をする。
「ども。河合風香です。よろしく」
「あ、河合風香!」
おい、芸人。いきなり人を指さすな。最低限のマナーだろ。
失礼とかそういう言葉を天元突破してんだわ。
「なんでしょうか」
「ハハーン。今日貴女が来たって事は、結構マジで料理上手い人が集まったんだね」
……。
……は?
え? ごめん。本気で意味が分からないんだけど。え? なに? どういうこと?
「まぁ芸能界イチ舌が肥えてる私と、同じくらい味が分かるアイドルのさくらさん、それに料理研究家のミチプロさん。そして河合風香。間違いないわ。今日はマジな番組なんだわ」
帰りたいなぁ。
もう帰りたい。
何なら、家でもう寝たいわ。
「あ、山田さーん! おはようございますっ!!」
「さくらさん! おはよう。今日は良い番組にしましょうね」
「はい!」
おーおー。いいねいいねー。
是非私以外でそれをやってくれ。
と言いたいが、番組のプロデューサーらしき男がイヤーな笑いを浮かべながら頷いている。
最悪や! どうせ料理作る奴もロクな奴じゃ無いぞ! コレェ!
「こんばんは。河合風香さん」
最悪な状況に、フウカおうちかえりゅという気持ちになっていた私は、いかにもな雰囲気でやってきた着物姿の女に目を向けた。
うーん。駄目そう!!
クソみたいなプライドがすっごい高そう!!
おっと、いかんいかん。先入観と第一印象で全部を決めるのは良くないぞ。
「あー、どうも。はじめまして? ですかね。河合風香です」
「お久しぶり! ですね。河合風香さん」
「はぁ。どうも」
「ふ、ふふ、貴女はもう忘れてしまったみたいね。まぁしょうがないかしら? 貴女にとってはどうでも良い事だったのかもしれないけどね! 私は」
はぁー。早く始まんないかな。
さっさと終わらせて帰りたい。
「見て、ミチプロさんと河合風香が話してるわ。きっと番組の事を話してるのね」
「ホントだー! やっぱりプロの人って凄いんですねぇ」
はぁー。帰りてぇ。
もうこの目をギラギラさせてる猛禽類みたいな人らで十分なんじゃないですか?
私まで必要あります?
要らないですよね?
むしろ、これ、番組が途中で強制終了されちゃうかもしれないけど、その辺り大丈夫なんですかね?
あ、生放送? なら安心か。
ははは。
何が起きても放送は出来るって訳ね。
ははは。
おもしろっ!!
「聞いてますか!? 河合風香!!」
「ん?」
すぐ横で騒がしいオバサンが騒いでいる中、私はスタジオ内の空気が変わった事に気づいた。
今までのどこか緩んだ空気から、ピリッとした緊張感の溢れた空気に変わってゆく。
そしてその辺はオバサンもそして芸人とアイドルも気づいたらしい。
「ね、ねぇ。まさか本当に来るのかな」
「私もチラっとは聞きましたけど、もしかしたら」
なんだ?
何が来るって言うんだ? どっかの国の大統領とか国王とかが来るんだろうか。
疑問を浮かべながら私は、スタジオの入り口に目を向けた。
そして、その衝撃に目を見開く。
「おはようございます。本日はよろしくお願いしますね」
「……た、立花、光佑」
「ちょっと、河合風香! 人を呼び捨てなんて失礼ですよ!」
「あーん。立花さんも参加されるんですか? もしかして、お料理を作られるとか!?」
「いや、さくらさん。俺は審査員の方だね。まぁ、人の料理を審査する様な立場じゃないけど」
「いえいえ! 立花さんはご自身で料理もされておりますし。適任ですよ! 是非今日はよろしくお願いします!」
「あぁ、山田さん。本日はよろしくお願いしますね」
芸人とアイドルが雌の顔をして、群がっている。
そして、私の横で喚いていたオバサンも年を考えず立花くんに突撃していった。
なんておぞましい光景なんだろう。
哀れ。
「強く生きろよ」
流石に立花くんが可哀想だなと感じて、ボソッと呟いたのだが、当然の様に聞かれ、笑顔で睨まれるのだった。
ひぇ。ゆるして、ゆるして。