願いの物語シリーズ【河合風香】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
有川さんの料理を全て完食し、コメントを求められたので、マイクに向かって私は口を開いた。
「そうですね。非常に完成度の高いものを食べさせていただきました。有川さんの作品に関して、私の中にある言葉ではどの様な物であろうと全て陳腐なものになるでしょう」
『まぁ、河合風香泣いてたもんな』
『人ってあんな静かに泣けるもんなんやな』
『感動とはそういう事では? 泣きわめくのはキッズだけやで』
『なんか俺も食ってみてぇな! かなり高いけど、ボーナス突っ込んで行くか!?』
『人生最高の瞬間を味わえるぞ(経験者感)』
「また、加藤さんの料理も山瀬さんの料理も非常に素晴らしいものであり、二人には今後も誰かを思った料理を作っていただければと思います」
『おー』
『今回、結構まともだったな河合風香。全体的に』
『まぁ、こういう時もあるわな』
『いや、いつもやれ』
「対決と言っている以上は、優勝者とかを決める必要がある気がしますが、流石に有川さんには「ちょっと待った!!!」ん?」
「誰か忘れてませんこと!?」
「誰か……?」
私はその誰かとは誰だと考えながら腕を組み、首をひねった。
しかし、さっぱり分からない。
誰か居たっけか?
『これだもんな』
『流石は河合風香だと言っておこう』
『いや、テレビ局側、絶対にこうなるって分かっててコメント求めただろ』
『炎上狙いすな』
「私、天才料理人と名高い佐野洋子の事を忘れられては困ります! 私の料理を口にすれば、河合さんも私の店で働きたくなるでしょう」
「はぁ、そうですか」
『一気にテンション下がってて笑う』
『まぁ、有川の後だし』
さんを付けろ。
『実際どうなん? 佐野は美味いんか?』
『知らんが、チェーン店は一度行ったら二度と行かんだろうなって味』
『色々お察しやん』
『いや、不味くは無いんだよ? 不味くはな? ただ、これで、この値段かー! って気持ちになる』
『あー。なんか分かるわ。たまにあるよな。そういう店。中途半端っつーか』
私はコメントを視つつ、目の前に置かれたスパゲッティとスープ、サラダを見つつ、ふむとフォークを手に取った。
とりあえず食べてみんと分らん所もあるけれど、何だろうな。この感覚。
テレビ局側が用意した皿じゃなくて、自前の器に盛りつけました。
盛り付け凄いでしょ? 豪華でしょ? みたいな感じ。
自分ばっかり飾り付けてもしょうがないぞ、友達とトモチケ交換しろ。
いや、ほんと。見れば見るほどやかましいな。
だー! もう!
うるさくね? やかましいわ! って私ならなるんだけど……さて、一般人の反応は。
「あー! これ、テレビで見た事あるぅ。友達も食べて美味しいって言ってました!」
「ばえるねー。やっぱ料理ってさ。見た目も大事だもんね! 有川さんの料理も同じだけど、作品って感じ」
おい。このうるせぇ料理と有川さんの作品を一緒にするな芸人!
駄目だ。芸人とアイドルに期待した私がバカだった。
所詮奴らは四天王の中でも最弱。
おい! 自称料理研究家! お前なら、行けるだろ!?
「そうですね。やはり若い子の間では料理とは見た目だという話もありますからね。これは大変重要な要素と言えるでしょう。佐野さんの料理は素晴らしい。もう芸術と言っても過言ではないでしょう」
過言なんだよなぁ。
ホンマこの研究家。普段何を研究してんねん!
将太君の「あ‥‥」なシーンだけを集めた神経衰弱で遊んでんのか!?
もしくは料理褒める時の語彙探しに漫画でも読み漁ってんのか!?
駄目だ。この研究家、早くなんとかしないと。
いや、もう止めておこう。とりあえず味だ味。食べて美味しかったらこの際作った奴と同じくらい自己主張の煩い皿も無視できる。
よーっし。食ってみるかーい!
ん!
「……」
「美味しい! 凄い美味しいですよ!」
「さくらもー! こんなに美味しいスパゲッティ食べたの初めてー!」
「えぇ、とても洗練された味ですね。口に入れるだけで味の奥深さが伝わってきます」
『全員絶賛してるじゃん』
『こりゃホンマに旨いのかもしれんな。他の番組だとゴチャゴチャ文句言ってる面子だし』
『確かに』
『立花! お前はどうなんだ! お前もコメントしろ!』
私はもぐもぐと口の中を動かしながら立花君を横目で見る。
彼は何とも言えない絶妙な表情をしていたけれど、口をハンカチで拭くと笑顔で答えた。
「晄弘が好きそうな味だなと思いました。私も美味しいと思いますよ」
『大野が好きそうな味……? どういうこっちゃ』
『大野の好きなモンってなんだよ』
『ハンバーグ、カレー、スパゲッティ』
『子供かな?』
『つまり子供が好きそうな味って事では』
『それは美味しいんか? 本当に美味いって思ったんか?』
『立花「子供舌なら楽しめますよ(ニッコリ)」』
『クッソ鬼畜なコメントで笑った』
私は立花君の絶妙なコメントに笑いを堪えながら、水を飲んで口を開ける状態にする。
そして、ここまでほぼ全員が肯定的な意見を出している中、私もそうだろうと謎の確信をしている様な表情で立っている身の程知らずの一般人オバサンを私は見た。
「さ。河合さんはどうかしら?」
「私が感想を言う前に。なんですけど。食べて美味しいと思ったら働け。みたいな話があったじゃないですか。もし、私が働く場合はこのスパゲッティを提供するんですよね?」
「えぇ、そうね。無論メニューは他にもあるけれど。主な商品はそちらになるわ」
「フンフン。なるほどなるほど」
『なんだ、なんだ?』
『河合風香がアップを始めました』
「ではこちらの商品。お値段は364円(税抜き)ですかね」
「は?」
「あぁ、もちろんスパゲッティだけですよ。サラダは、確か私の記憶では255円(税抜き)くらいで、スープは137円(税抜き)ですね? いやー。私、税込みしたらちょうど400円とかのキリが良い数字になるの好きなんですよ。頭良いな。って感じで」
『もしかして、某ファミレス』
『もしかしなくても値段見たら一発だろ』
『はじまったな』
「まぁ、値段を考えれば味も十分に満足できるものですし。私は好きですね。たまに行って色々頼んでますよ。あ、そうそう言い忘れてました。あなたの料理も十分に満足する事は出来る味。でしたよ」
『うぉぉおおお! 流石河合風香だぜ!』
『この言い回し。ホンマに全力で喧嘩売ってて好き』
『マズイとは言ってないぞ。ただ、お前の作ったご自慢の料理は格安ファミレスと同程度だけどな』
『なお、店の値段』
『今調べてきたらさっきのセットで3500円で笑った』
『お値段釣り合ってませんよ!』
私がヤレヤレとでも言うように両手のひらを軽く上げながら、笑うと真っ赤な顔をしたオバサンが怒りのままに口を開いた。
そしてそれに呼応するように、横に座っていたオバサンの料理肯定派も騒ぎ始めた。
さながら害鳥の大合唱である。
「あ、あなた! 失礼ではなくって!?」
「そうよ! 言い方があるでしょ!?」
「佐野さんのお店は全国に何店舗も広げてる凄いお店なのよ!」
「そうだ! 君の居る店なんて、チェーン店は一つも無いだろう! どっちが凄いかなんて言わなくても分かるはずだ!」
ぎゃいぎゃい騒がれると誰が何言ってるか分からないんだよな。
私歴史上の偉人じゃないから。
「失礼って、別に私は美味しくないなんて言ってないですよ。だから言ったでしょ? 満足は出来るんじゃないですか? って。私も貴方の店で食事した事、いっぱいありますし。実質ファンなんですけど」
『だからそこは違う店だと』
『駄目だ腹痛い』
『息をするように挑発するな。この女』
「え? もしかして、このスパゲッティって400円(税込み)じゃないんですか? このスパゲッティに400円(税込み)以上の価値があるんですか? いや、まぁ確かにあの店のスパゲッティは400円(税込み)だと安くて嬉しいな。いや凄いな。って気持ちで食べますけど。流石に800円とかを超えてくると、ちょっとなぁ。って気持ちになりますよね? いや、まぁ結構好きなんで多分食べに行きますけど。それでも食べながら、これ800円(税込み)なんだよな。って気持ちで食べる事になりますよ? 私、確信ありますもん。企業努力でその値段になっている事は分かりますけど、それでも無茶な値段だなぁって商品はあるじゃないですか。まぁ、インスタントラーメンよりは美味しいけど、これで千円かぁ。みたいなラーメンとか。これなら自分で作るわ。みたいな料理ってやっぱりそういうイメージ付いちゃいますよ? ね? だって、私、この商品が千円ですよ。なんて言ったら笑って地面転げちゃいますよ。畑だって耕せちゃいますよ」
『怒涛の煽り』
『今回は煽る相手が一人だから、凄い集約してますね』
『これこそ河合風香の行く道って訳』
「まぁ、何度も言ってますけど、満足感は。得られると思いますよ。こんなのに千円出して喜んでいる人が居るかもっていうのは驚きですけど、良いんじゃないですか? 自分のお金ですし。捨てるも、使うも個人の自由ってね。良いと思いますよ。ま、私は行かないですけど。あなたのお店に、店員としても、客としても。ね!」
この日、私は最後に言いたい事を全部言い、満足して帰宅した。
そして、私は炎上した。