アーシェの無事を外に報告したり、逆にウォースラの進捗をアーシェに報告したりといった伝書鳩をしているうちに数日が経った。いよいよ事が動く局面だ。
ウォースラたちの侵入経路だが、ビュエルバのオンドール候と連携し、ウォースラはジャッジの一人に扮して。そしてバッシュたちは、檻から逃げ出した重要人物として捕縛という形でリヴァイアサンに乗り込んでくる。
バッシュに対しての扱いだが、これはオンドール候のダメコンだろう。候からすれば、自分の弱みと言えるバッシュを帝国にさっさとお返しすることで、帝国に対して恭順の意を示すことができる。ウォースラを送り込んだことに疑惑が及んでも、この特大の材料を軸足に、煙に巻く方針……と、僕はそう読んだ。
そんなこんなで捕らえられたバッシュと……後はガラムサイズ水路で出会った三人組、ヴァン、バルフレア、フランが帝国兵に拘束され、リヴァイアサンへとやってきた。一行はそのまま、艦橋へと連れてこられる。
艦橋にはジャッジマスターギースとアーシェが一行を待っていた。
「バッシュ……!」
バッシュの姿を一目見たアーシェが声を上げる。が、その反応はギースにとって予想外のものだったようだ。
「……? 如何されました、アーシェ殿下。目の前の男は父王の仇でしょう?」
「……私の仇は帝国だけです」
「やれやれ。少し当てが外れましたな。もっともそれはそれで些末なことですが……」
大方ギースは、アーシェがバッシュのことを裏切り者だと断じて食って掛かるさまを鑑賞したかったのだろう。別にバッシュを知っているだろうアーシェに、連行されてきた男の身元を証明させようとか、そういう戦術的な狙いがないことは確かだろう。
「バッシュ将軍は生かして連れ帰れと、ヴェイン閣下は仰っていますからな。貴殿は実に運がいい……」
「……」
「……ふん。つまらんな、せいぜいもう少し喚けばいいものの」
バッシュもこれといって反応を返さなかったことに、つまらなさそうに鼻息を鳴らしたギースは、周囲の兵たちに命じる。
「この者たちを連行せよ。アーシェ殿下は別の部屋へ」
……その後の展開はと言えば、まぁずっと黙って捕まっている訳もなく。バッシュはバルフレアたちと共に帝国兵の隙を突いて拘束を外し、自分たちを連行する兵士たちをあっさり倒してみせた。
帝国兵を難なく片付けたバルフレアは袖を軽く払って、バッシュへと視線を向ける。
「さて。約束、忘れた訳じゃないよな?」
「あぁ」
バッシュが頷くと、こちらを見上げる……あぁ、そういうこと?
「僕の姿なんて見たところで、何か変わることもないだろうに」
どうもバッシュは、バルフレアに僕の姿を見せることを約束していたみたいだ。まぁでも、ガラムサイズ水路で彼と出会ったタイミングでは、こっちは姿を隠したままアーシェが虚空に話しかけ続けていて、露骨に怪しかったからなぁ。単純に気になるという気持ちはとても良く分かる。
「彼はギルヴェガンから来た、オキューリア族のザルヴァという。殿下に力を貸してくれている」
しれっと姿を現した僕に、一行は驚愕の表情を示した。……一人を除いて。
「……あっ!お前、まさかあのときアーシェの傍にいたのか!?」
「ご名答だ。ヴァン少年」
ヴァン少年はどちらかと言うと、驚愕より好奇心の方が勝っているみたいだ。フランも言葉こそ発さないものの、こちらの様子を興味深そうに観察している。敵対的でないのはありがたい。
「……この話を知ってるのは、あんたと?」
「他には、ウォースラという男も知っている。ダルマスカの旧臣だ」
「……亡国の王女に得体のしれない影、ね。ダルマスカの国民も災難だな」
一方で、敵意を隠さないのがバルフレアだ。そりゃまぁ、うん。僕でもこの状況を外から見たら、そんな感想を抱くかもしれないけども。
「ザルヴァとか言ったな。ここを脱出したあと、聞きたいことがある。逃げるんじゃないぞ」
「逃げないさ。ひとまずアーシェを救い出してから聞こう」
バルフレアが聞きたいこと……なんだろうね。態度からして金目のものの話では無さそうだから、もしかしてヴェーネスと因縁があったりするのかもしれない……それはちょっと考えが飛躍し過ぎかな。
「——ずいぶんと賑やかだな」
そんな話を廊下でしている僕たちに、声をかけてきたジャッジの鎧を纏った男——ウォースラ。彼は場の状況を見て、すぐに事態を察したようで、視線をバッシュへと向ける。
「ウォースラ」
「バッシュ。ザルヴァの存在を明かしたのか?」
「……彼らは信用に足る。そう判断した」
「まったくお前という奴は……」
ウォースラは頭を抱え、渋い面持ちで息を吐いた。
「まぁ僕の存在なんて、どこに証拠が残るでもなし。誤魔化そうと思えば幾らでも誤魔化せるだろう」
「……それもそうかもしれないが、お前たちはいささか緊張感に欠ける所がある。俺たちの目的を忘れるな」
「そうだね……経路はこっちだ、皆ついてきてくれ」
アーシェが捕まっている部屋を知っている僕が先導し、一行を引き連れる。とはいえ僕は帝国兵からは見えないし、僕は戦闘には介入できないから、帝国兵との戦闘は皆に任せることになる。ということで、皆の戦闘ぶりを見学するのだが——
(……ヴァン少年、腕っぷしは間違いないな)
そんな印象を抱いた。ヴァン少年がなんか強い。この前ガラムサイズ水路で出会った時より格段と強くなっている。もちろん他の面々も以前会ったときより強くなっていたのはそうなのだが、ヴァン少年だけは強さのバックボーンなど特にない村人Aのはずなんだけれど。これがアニメかゲームなら、中盤から終盤に隠された出自がオープンされるポジションだったりするのだろうか。
そんなこんなで偶発的に遭遇した帝国兵を綺麗に薙ぎ払っていった一行は、アーシェが捕まっている部屋まで到達した。
「ザルヴァ!」
扉が開くとほぼ同時、アーシェが立ち上がった。
「準備は整った。行こうか」
「えぇ。早くここを出ましょう」
「待てって。俺はパンネロを助けにここまで来たんだ」
一人異論を唱えたのは、ヴァン少年だった。
「パンネロ?」
「ヴァンの幼馴染だそうだ……色々偶然があって、この船にいるらしくてな」
バルフレアが説明してくれるが、それっぽい人については心当たりがある。むさくるしい黒鎧ばかりが乗るこの飛空艇内で、場違いな少女が一人、ラーサー皇子に連れられているのを見かけていた。
「……確かラーサー皇子の連れている女の子が、確かそんな名前だったかな」
「お前、パンネロの居場所、知ってるのか!?」
「あ、あぁ。退路の確保をしてからがいいだろうけど、ラーサー皇子の部屋にも案内するよ」
そう言ってやると、ヴァン少年は屈託ない笑顔を見せた。つくづく物怖じしない少年である。それはそうと、ラーサー皇子……つまりヴェインの弟に接触するのであれば、1つ注意しておかねばならないことがある。
「ちなみに言っておくけど、ラーサー皇子には流石に姿を見せたくないから、間違ってもこっちに話しかけないでね」
「分かってるって、ザルヴァ」
ヴァンが軽い調子でそう答えた。本当に分かってるのかなこれは……? フリじゃないぞ、フリじゃないからね?