季節は晩秋から冬へと移り、早くも日が沈みかける放課後。
「グリーングラス君。」
教室を出ようとしたところでスラグホーン先生に呼び止められた。
「今夜少し時間はあるかね。」
「はい。」
「結構。では七時に私の執務室へ来たまえ。」
先生はそれだけ言うと、上機嫌に鼻歌を歌いながら廊下の向こうへ消えていった。
その様子を見ていたエイブリーが肘で僕を小突く。
「お、ついにか。」
「何がだい?」
「スラグ・クラブだよ。」
なるほど。
そういえばルクレティア先輩が紹介してくださると言っていた。
約束の時間、執務室の扉を叩く。
「どうぞ!」
中から陽気な声が返ってきた。
扉を開けると、お菓子のバターの香りと紅茶の湯気がふわりと漂う。
執務室というより、小さな応接間のようだった。
パチパチと音を立てる暖炉の前にはソファが並び、小さなテーブルにはサンドイッチやスコーン、糖蜜パイ、砂糖漬けの果物が所狭しと並んでいる。
そこには見覚えのある顔も多かった。
エイブリーにリドル。
ルクレティア先輩。
ヴァルプルガ先輩。
それに他寮の上級生が数人。
「やあ、グリーングラス君!」
スラグホーン先生は満面の笑みで僕を迎えた。
「待っていたよ。」
「こんばんは、先生。」
「さあ、皆も知っているだろうが、改めて紹介しておこう。スリザリンのケイロン・グリーングラス君だ。優秀な一年生でね、成績は常に申し分ない。」
先生はそう言って、その太い手で僕の肩をぽんと叩いた。
「聞けばもう自分の研究を始めているそうでね。確か…魔法理論だったかな?」
「魔法理論?」
レイブンクローの男子生徒が興味深そうにこちらを見る。
「珍しいね。」
「ええ。」
僕は軽く頷く。
「まだ趣味の域を出ませんが。」
「謙遜しなくてもいいわ。」
ルクレティア先輩が紅茶を口に運びながら微笑む。
カップをソーサーに戻すチリンという音が響く。
「一年生で研究を始めるなんて十分立派よ。」
「ありがとうございます、ルクレティア先輩。そう言っていただけると安心します。
先輩に推薦していただいた以上、ご期待には沿いたいと思います。」
席に着くと、自然と話題はそれぞれの興味へ移っていく。
有名人とのコネ。
箒。
日々のニュース。
魔法省。
将来の夢。
皆、自分の好きなことを楽しそうに話している。
思っていたよりずっと気楽だ。
不思議と寮はばらばらのようなので僕はレイブンクロー生たちの輪に混ざり、それぞれ好きな学問について話し合っていた。
「グリーングラス君。」
スラグホーン先生がこちらを見る。
「君は魔法理論の何を研究したいのかね。」
近くにいた生徒の視線が集まった気がした。
一拍おいて__
「そうですね…魔法そのものについてです。」
「それは現代的な魔法の?」
「それも含めて、ですかね。」
言葉を選びながら続ける。
「魔法がどういう理屈で成立しているのか。昔と今で何が変わったのか。
そういった概念的なことに興味があります。」
「ほう。」
先生は嬉しそうに頷く。
「では将来は研究者かな?」
「できれば。」
思わず笑みがこぼれる。
「もちろん家は継ぎます。
…その頃には先生のお好きな砂糖漬けパイナップルと、上質な蜂蜜酒くらいはご用意でき るようになっていたいですね。」
悪戯っ子のような気持ちで微笑む。
先生は上機嫌になって「みんな、聞いたかい?彼は将来有望だ」と言いふらしている。
どうやら正解だったようだ。
「惜しいなあ、君がレイブンクロー生ならどれほど楽しかったか。」
話していたレイブンクローの上級生が肩をすくめながら笑う。
「君になら教えたがる先輩が山ほどいただろうね。」
「ちょっと。」
ヴァルプルガ先輩がわざとらしく眉を寄せる。
「彼はスリザリンよ。勝手に引き抜かないでちょうだい。」
「いやいや、彼は成果より真理を追うタイプだ。レイブンクロー向きじゃないか。」
「けどそれも一つの野心じゃない。
「知りたい、辿り着きたい、解き明かしたい――それも立派な野心と言えるのではなくて?」
その言葉に僕は少し驚く。
野心。
そういう見方もあるのか。
「それを言うならレイブンクロー生はみんなスリザリン生になってしまうよ。」
「あら、それは困るわね。」
二人は顔を見合わせて笑った。
どうやら寮が違っても、こうして軽口を叩けるほど親しいらしい。
——スラグ・クラブとは、そういう場所なのだ。
僕もこんなふうに他寮の人たちと親しくなれるかもしれない。
気づけば、帰りの時間のことを覚えていなかった。
ふと顔を上げる。
スリザリン生の輪の中でリドルは静かに紅茶を飲んでいた。
エイブリーはハッフルパフやグリフィンドールの生徒たちと賑やかに話している。
リドルと目が合う。
彼はいつものように変わらず穏やかに微笑んでいた。
いよいよ冷え込みが厳しくなり、窓から吹き込む風が頬を刺す頃、僕は西塔の最上階にあるフクロウ小屋にいた。
クリスマス休暇には帰省する、という家族宛ての手紙を書き終え、引き出したフクロウの足に手紙をくくり付け終えたところだった。
今週の宿題は、羊皮紙1フィートほどのレポートが一本きり。ありがたいことに、僕は早々に片付けることができていた。
もっとも、ここから談話室へ戻れば、話はまったく別になる。
「ケイロン、ちょっと手伝ってくれよ!」
まだ宿題に手を付けていない同級生たちに捕まれば、自分の時間など消し飛んでしまうに決まっている。
そういう面倒な役目は、完璧な優等生ことリドル君にでも任せておけばいいのだ。
だから僕は、地下の談話室を抜け出し、幾つもの動く階段を上ってここまでやって来た。
ちらりと階段に目を向ける。
以前から視界の端に映っていたけれど、ホグワーツの動く階段の縁には、青白い光が川のように走っている。
いや、正確には階段の動きの「痕跡」か。
階段が動くたびにその流れは組み替えられ、新たな道筋へと姿を変えていく。
改めてまじまじ見るとその複雑な美しさに息を呑む。
魔法そのものが魔法を再構築しているのだ。
これほど高度な、しかも千年前の術式が、今もなお壊れることなく機能し続けている。
やはり四人の創設者は、真に伝説と称されるべき魔法使いだったのだろう。
ふと、この城内はどのように魔力が流れているのか、その構造を知りたい、という好奇心の渦が胸に広がってくる。
そうだ、地図にして書き込めばいい。
…もちろん、一日でホグワーツのすべてを網羅するのは到底不可能だ。では今日は小手調べにこの西塔から、スリザリン談話室へ戻るまでの経路に限定して記録してみよう。
いや、もしかしたら日によって魔力の流れは違うかもしれない。
まだ誰も見つけてない仕掛けが眠っているかもしれない。
これは検証に何年もかかるぞ。
湧き上がってくる衝動的な興奮を形にするためカバンから羊皮紙を広げ、素早く見取り図の骨組みを描く。
眼下に続く無限の階段は今や立派な研究施設だった。
さあ、ホグワーツの魔力を辿る最初の一歩だ。
フクロウ小屋から7階に下るための螺旋階段には青白い魔力の流れが上へ下へと通っている。しかし、よく目を凝らしてみるとその魔力は一本ではなく、何十何百もの細い流れが巻き付くようにしてひとつの大河を形成しているようだった。
その流れは石壁の奥に吸い込まれるようにして霧消し、また現れては形作る。
まるで心臓のように城の中で絶えず魔力という血液が循環しているようだった。
「ホグワーツは生きている」、そんな話を聞いたことがあるがあながち間違いでは無いのかもしれない。城は常に呼吸をするように動いているのだ。
そうして7階まで後数段というところで魔力の流れが変わっているように感じた。
いや、別に特段おかしなことはない__のだが、明らかに魔力が踊り場の方へ流れている。
ただ流れているだけではない。幾筋もの魔力が絡み合い、巨大な何かを形作るように渦巻いている。
もしかすると何かホグワーツの秘密を見つけたのではないか。心臓が早鐘を打ち、体が沸騰するように熱くなる。
ここだ、ここが一番強い場所だ。
期待して見上げると__そこにあったのは一枚の絵画。
それも魔法使いがトロールにクラシック・バレエを教えようとして棍棒で殴られているところだった。
確かバカのバーナバスだったか…もっと壮大な「何か」かと思えばこんな馬鹿げた絵画…
残念なような、なんとも言えない徒労感に襲われる。しかしどうやら膨大な魔力はバカのバーナバスの絵画自体ではなくその奥に収束しているようだった。
この絵画の奥に何かあるのだろうか。そう思った時には、杖はいつの間にか手の中にあり…
「レベリオ」
囁くように唱えたが何も起きず、思いつく他の呪文を幾つ試してもその絵画はうんともすんとも言わなかった。
もしかすると本当に何もないのか、はたまた僕ではまだ見つけられない何かなのか。
少なくとももう一度調査する必要があるのは間違いないようだった。
「7階:巨大な魔力の渦,原因不明,隠し部屋でもあるのか?」
7階、6階と下っていくにつれ、僕の目は城の魔力をより細かく、鮮明に捉え始めていた。数本からなるの青白い魔力の大河…絶え間なく流れる古の魔力の痕跡。
しかし目を凝らせばそれだけではなく、淡い赤や緑、金色といった細い魔力の糸がいくつも飛び交っているのが見えた
おそらくこれらは比較的新しい時代に重ねがけされた魔力のもしくは魔法の痕跡…
誰かがここで呪文を使った跡なのか、あるいは城の機能を補うために後から付与されたものか。
そんな仮説を頭の中で転がしながら6階の廊下を進んでいた時、
「なんだ、これは…」
目の前にある「ボケのボリス像」の左側4つ目のドアの周囲に青白い、つまりもととなる魔力をかき消すほどの金色の__それは美しい魔力が無数に飛び交っていた。
この奥は確か監督生専用の浴室だったはずだ。
そしてそこに入るには、特定の「合言葉」が必要になる。
つまり、この過剰なほどの金色の光は、合言葉という魔法族が放つ「特定の言葉」に魔力が反応し、固定されている証拠ではないか。
単に言葉が鍵になっているわけではない。言葉を発するという行為そのものに、何らかの魔法的な制約を生じさせるシステム…。
なるほど。もしかするとその本質は、「破れぬ誓い」のような、強力な契約魔術の術式にも通じるところがあるのかもしれない。
「6階:言葉による魔力固定,合言葉に伴う魔法的制約が原因と思われる」
興奮で字が少し震えているのは御愛嬌ということで。
5階に降りると図書室がある。図書室自体にも濃密な魔力の痕跡が漂うが、それ以上に奥の奥、おそらく禁書庫と思わしき場所にはそれを凌駕するほどの濃い魔力が放たれていた。
それは単なる立ち入りを禁じるための保護魔法ではない。いや、それもあるのだろうが、その奥から滲み出ようとするのはドス黒い__いわゆる闇の魔術とされるものだろう。禍々しく、それでいてどこか妖しい雰囲気で僕の好奇心を擽る。
気にはなる、気にはなるが今の僕が立ち入った所でどうせ入れはしない。
大きくなってからの辛抱だ。そう言い聞かせてさっさと4階に進んだ。
4階の階段のすぐ側には隻眼の魔女の像が佇んでいる。この像もどうやら合言葉がいるらしく、数こそ少ないがちらほらと金色の光が舞っている。
しかし、この像の奥はどうもおかしい。魔力の流れが綺麗さっぱり途切れ、ぽっかりと穴が空いている__つまり無が広がっているのだ。城の血液たる魔力が、そこだけ完全に途切れている。こんな不自然なことがあるだろうか。
しかしそれ以上に僕の目は「別の光」に吸い寄せられた。
廊下の先から怒涛のように溢れ出る、丸い銀色の光。それらはフワフワと天井へ向かって昇り、弾けては消えていく。
光の源に誘われるように扉を押し開けると、そこはトロフィー室だった。
部屋一面に所狭しと飾られているカップや盾、賞杯に像。
ホグワーツ出身の偉大な魔法使いや魔女を知りたいならここに行け、と言われるだけのことはある。
ちらりと比較的新しい棚を見るとダンブルドア先生の名前が刻まれたカップもあった。
ここで僕は1つの仮説を思いついた。
この部屋を満たす銀色の光は、人々の記憶であり、思いであり、軌跡なのではないかと。
授業で放たれた呪文。
誰かが口にした言葉。
肖像画が喋り、鎧が歩く。
その全ての瞬間。
そして人々の描く思いや願い。
生徒や教師が日々積み重ねるささやかな魔法が、細い光となって城へ流れ込み、やがて大河のように溶け込んでいく。
千年前の魔法だけではない。
今日という一日もまた、ホグワーツを作りあげているのだ。
3階と2階を繋ぐ回転階段は相変わらず不規則に動いているが、今の僕の足取りは飛ぶように軽い。今日得られたものはどれも興味深いものだ。寝室に持ち帰って、整理して、また見直して…成果とやりたいことを思い浮かべるだけでホクホクした気持ちになる。
そういえば、入学したばかりの頃はこの気まぐれな階段にみんなして随分苦しめられ、その度に授業に遅れては減点、ということがよくあった。
しかし入学してから3ヶ月、皆こんなものには慣れ、談笑しながらでも流れるように階段をわたり切ることができる。
大掛かりに掛けられた魔法を書き留めながら悠々と2階へ、そして1階へと降りていく。
ここまで来るともう迷うなんてことはない。
なんせすぐそこには魔法薬学の教室が、そのすぐ下にはスラグホーン先生の私室を兼ねたオフィス、つまりあのバターと紅茶の香り漂うスラグ・クラブが開催される場所があるからだ。
地下へと続く廊下は迷路のように複雑で長かったが、僕の足に迷いはない。この階段を降りて左に真っ直ぐ、そうすればスリザリンの談話室__という所で僕はいつもとは違う雰囲気の魔力を感じ取った。
今まで一度も感じたことのない、異質な魔力。今日1日中、城の魔力の痕跡に目を凝らしていたからこそ、この些細な気配に気がつけたのかもしれない。
吸い寄せられるように、ゆっくりと足が右方向へ動く。薄く、細く、油断すれば霧のように消えてしまいそうな魔力の糸。
今まで見たことのない魔力の性質だ。…いや、近いものがあるとすれば図書館の奥、禁書庫からにじみ出ていたあの黒い靄のような…。
左へ、右へ、さらに右へ…誘われるまま細い魔力の糸を辿って進むと、やがて荒削りな石造りの壁に行き当たり、そこを最後にその魔力の痕跡は完全に途切れてしまった。壁の奥に吸い込まれたのか、あるいはここで消されたのか。
__やはりホグワーツには何かがある。そしてその何かは10や20どころではない。100いや、1000を超える仕掛けや秘密が眠っていても不思議ではない。
今日だけでこれほど見つかったのだ。偶然とは考えにくい。
カッと顔が熱くなる。危険な興奮と悔しさのような、してやられたという感情が脳を支配していく。
先程の魔力はいったい何だったのだろう。もし、闇の魔術に関係するものなら途切れたことがある意味幸運だったと言える。
しかしそれで終わりたくない。危険だったとして、困難な道程だったとしてそこに隠された「何か」があるのなら__知りたい。
全部知りたい、理解したい、見つけたい。
__他の誰でもないこの僕が、僕が見つけたい。
__オーケー、少し頭を冷やそう。地下だから物理的にはもう冷えているけど。
冷静な思考を取り戻して周りを見渡すとそこは地下の、見たこともないほど暗く、不気味な廊下だった。
冬の地下特有の凍えるような寒さが肌を刺し、吐き出す息は地下の空気を真っ白に染め上げる。
はて、どうやってここまで来たのやら。
しかたなくローブから杖を取り出し、暗闇に向けて一振りの軌跡を描く。
「
囁いた呪文に応じて僕の歩んできた足跡が金色に輝きながらポツポツと浮かび上がる。
これで帰り道の問題は解決した。やはり知識は力なのだ。
しかし今は何時だ?窓もなく、光も差し込まない地下だからかそのあたりの感覚がどうにも掴めない。おそらく日は暮れてるだろうが、もしかすると夕食の時間も過ぎてるかもしれない。それは大問題だ。屋敷しもべ妖精に頼めば個別に食事は出てくるけれど、やっぱり大広間で皆と温かい料理を囲みたい。
金色の足跡を追う僕の足は、来たときの倍以上の速さで地下を駆け抜けていた。
残念なことに大広間へ向かった頃には食事は綺麗さっぱり片付けられ、殆どの生徒はすでに寮に戻っていた。
僕は屋敷しもべ妖精に頼みあったかいキッシュととろ~りと溶けたチョコレート・ガナッシュにありつくことができた。
そんな僕を見て同室の友人、エイブリーを始めとしたカーマとウィルクスに夕食の間どこで何をしてたんだと軽く問い詰められてしまった。
「ちょっと散歩をしていただけだよ。」
…僕の答えはあまり信用されなかったらしく、彼らは揃って訝しげな顔をした。
「ところで3人ともレポートは終わったのかい?」
僕が話題をそらすと3人は一転して満面の笑顔を浮かべ、
「当然さ、ティータイム前には終わってた。それにトムが手伝ってくれたんだ。期待以上の評価は確実さ」
…当のリドル君は君たちの後ろで随分と呆れた、というより疲れた顔をしているけどね。
まあ何があったかは想像に難くない。
話は次々に広がり、僕が頼んだはずのチョコレート・ガナッシュはあっという間に彼らの口の中へと消えていった。
そうして僕たちの夜は更けていく…はずだった。
部屋中に誰が始めたかわからないゴブストーンの玉が割れた腐乱臭が立ち込め始めた頃、僕とリドルはそういう悪趣味な騒ぎはゴメンだと、示し合わせたわけでもなく寝室から退散した。
…あの夜からリドルとは必要以上の会話をしていない。だから二人っきりになるのは随分久しぶりのことだった。
「…あー、リドル」
リドルらしい、彼の落ち着いた声が重なる。
「昼間はどこに行ってたんだい?」
「皆に話した通りさ。」
「散歩、だったね?」
リドルは僕の目を見て微笑む。
「__で、城のどこを歩いていたんだい?」
「ホグワーツ中だよ。上から下まで。全部。」
「そうか。…何か興味深いものはあった?」
そう来たか。まあ成果主義の彼らしいといえば彼らしいけど。
「まあね、それなりに。」
「それはいいね。君が興味深いと思うんだ。僕も知りたい。」
「そうだね、ホグワーツは僕たちが思う以上に神秘と魔法に満ちている。
先生方でさえ知らないような秘密がまだまだたくさん眠っているはずだ。」
リドルの目がキラリと光る。それはあの夜の暗く濁った瞳ではなく、純粋な好奇心に基づく輝きに見えた。
だから少しくらいなら言ってもいいかなって思ってしまったんだ。
「例えば、所々で渦巻く膨大な魔力や、新旧入り混じった魔法の痕跡。」
「学術的な面で探るなら言葉が魔法を固定する仕組みとか、人の思いや記憶が城に残る現象なんかは特に面白かった。」
地下で見つけた奇妙な魔力については口をつぐむ。あれが何なのか自分でも説明できない。説明できないものを人に話すのは、研究をする者として気が進まなかった。
「言葉による魔法の固定…それに記憶、か。」
リドルは僕の言葉をなぞるように呟き、キュッと目を細めた。その表情は極上の知識を得たと言わんばかりの愉悦に満ちている。
「君には、人が見落とすものが見えているんだね。」
「そこまで称賛されることじゃあないよ。僕はただ見えるものを並べただけだ。」
「やっぱり見えるんだね。いや、謙遜はいらない。特に言葉が魔法を固定する、という着眼点は素晴らしい。
…言葉を鍵として魔法で縛る。すると言葉自体が魔力を持つ、ということかな。
つまりその言葉を知る__選ばれた者だけが進めるということだ。」
リドルはそう言って一息つくように壁にもたれかかった。
彼の横顔はいつもの穏やかな優等生そのものだったけれど、その声には、隠しきれない熱を微かに孕んでいた。
僕は、特定の言葉にしか反応しない魔法は創設者たちが遺した強固な防壁なのだろう、と考えていた。
けれどリドルは違うようだ。
彼はそれを「守る仕組み」ではなく、「選ぶ仕組み」として見ている。
それもまた一考の余地がある解釈だ。
「僕も、君の探索に同行してもいいかい?君1人では調べきれないだろう?」
「…気が向いたらね」
僕はそう言って微笑み返した。
「そうか。」
リドルも小さく笑った。
「ホグワーツは広い。一人より二人の方が見つかるものも多い。」
守る仕組みと、選ぶ仕組み。
ひとつの現象に対して、僕たちはこれほど違う視点を持っている。
彼との探索は、僕の予想以上に「面白い」ものになるかもしれない。
秘密、神秘、真実__その甘美な響きは、僕たちを同じ方向へ歩かせるには十分だった。
フロアは「はじめてのハリー・ポッター よんで あそんで 魔法とであおう 探検 マップ」を参考にしているので原作や映画と違うかもしれません。
アパレ・ヴェスティジウム(足跡現われよ)はファンタスティック・ビーストで登場した呪文です。ハリー・ポッターシリーズでは出てきていないはずですので、ご留意ください。
監督生の浴室で合言葉の魔法が見えるならスリザリン寮に入る時に見えるはずだろ、と思われるかもしれませんが設定として合言葉は2週間で変わること、また毎日見ているため慣れてしまっているというふうに考えています。