私の通っていた高校は、街から離れた場所にありました。
隣を見れば、山々が連なるような田舎具合で、何かと不便な思いをしました。
高校は携帯持ち込みOKでしたが、教室では、なんとか電波が届くほどでして、休み時間に通信ゲームをしようなんて学生はいません。山の方に少し近づけば、いよいよ圏外になる始末。
現代っ子の私ですが、このような環境でも、それなりに学生生活を謳歌していたと思います。
そんな私の高校には、皆が知る怪談がありました。「カナコのWi-Fi」といえば、学校で知らない人はいないほどに有名でした。
「カナコのWi-Fi」は、私が入学する10年程前に在籍していた「志乃佳菜子」という女学生の行方不明事件がもとになった怪談です。
志乃佳菜子とは。
志乃佳菜子の元クラスメイト曰く、彼女は新しい物好きで、珍しいものを教室に持ってきては、自慢する変わり者だったとか。そんな彼女は、行方不明になる数日前から、当時では珍しいスマートフォンとモバイルWi-Fiを学校に持ち込んでいたそうです。しばらくの間、スマートフォンに興味を惹かれた学生達が彼女の机に群がっていたとか。
そして、彼女が行方不明になってから10年近く経過した頃、肌身離さず持っていたスマートフォンとモバイルWi-Fiに関連づけた怪談が広まりました。
『0時過ぎに学校の裏山へ行くと、携帯が「カナコのWi-Fi」に繋がる。
本来なら山中は圏外ではあるが、この「Wi-Fi」に繋がってる間は、電波が受信できるのだとか。
受信した束の間、カナコからのメールが一通届くのだ。
メールには「私を探して」の一文が添えられていた。』
どうでしょうか、馬鹿げた話だと思うでしょう。
当時の私も当然そう思いました。しかし、それでも遊び心に任せて確かめようとするのが、学生の性分なのだと思います。高校一年の夏、私は友人の誘いにのり、共に深夜の裏山に肝試しに行く計画を立てたのです。
肝試しの日、0時きっかりに裏山の前で友人と合流し、懐中電灯のささやかな灯りを頼りに暗い山道に足を踏み入れました。ひとまずのゴールとして、行方不明事件の当時、志乃佳菜子の靴が見つかったとされる小さな滝の近くを目指しました。15分程度歩き、滝が目前に見える場所に到着しました。私たちはしばらくの間、周囲をうろうろと歩きながら、噂の現象を期待して、携帯を逐一確認していました。
けれど、携帯はずっと圏外を示したままです。
30分ほど経っていたと思います。
「飽きたから、もう帰ろ」友人がそう呟きました。その言葉にうなづき、帰ろうとしたその時、LINEの着信音が鳴ります。私の携帯でした。私たちは目を合わせてから、恐る恐る携帯の画面を見ます。私の母からでした。
私は、夜遅くの外出にも関わらず、母に詳細を話さず出掛けていたため、比較的放任主義な母も流石に心配していたようでした。「大丈夫、ちょうど帰る所だから」母にそう伝え電話を切りました。一瞬の緊張から解放され、私も友人も気が抜けたようで、たわいもない会話をしながら、だらだらと山道をくだります。
なぜあの時、圏外であるはずの山奥で、母からの電話を受信できたのか。
その異変に気づいた時には、私はもう自室のベットの上でした。
以来私は、心霊スポットなどには、決して近づかないと決めました。
この手の場所は、その時は何もないからもう安心、とはいかないのです。
なにか悪い気を持って帰ってくる事だってあるのですから。
あの肝試しの夜以降ずっと、私の部屋には「カナコのWi-Fi」がとんでいるのです。