魔法少女さやかffマギカ   作:まどマギ中毒

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魔法少女 其ノ參

 

 十メートルは優に超える網目状のフェンスに囲まれた学校の屋上。少し隣には時計塔か見える。

 

 

 青空はただ真っ白な雲を流し、風はどこまでも澄んでいる。そんな空の下でさやかとまどかはお弁当を広げ、昼食を楽しんでいた。

 

 

 

「まどかはどんな願いで魔法少女になったの?」

「私はね…」

 

 

 そう言うとまどかは、フェンスの隙間に手を入れて、校門の方に指を指す。

 

 

「ねこ?」

 

 

 ここからでは遠くてよく見えないが、黒い点のようなものはおそらく猫なのだろう。

 

 

 

「うん、エイミーって言うんだ。車に轢かれてしまったあの子を生き返らせたいってのが私のお願い。」

「やっぱり、まどかは優しいなぁ!」

 

 

 

 このぉ!まどかに抱きついたさやか。まどかは形だけは抵抗するものの、さやかの抱擁を受け入れている。

 

 

 そう…まどかは、誰かのために命を賭けれる人間なんだ。命をかけるほどの願いを、まるで思いつく事さえできない自分と比べて、まどかは全く別の世界にいるのではないかとさえ感じてしまう。

 

 

 今すぐ恭介の腕を治して欲しい?いや、いつかは治るかもしれないのに、命はかけられない。

 

 まどかから感じる温もりも、画面越しに観る絵画のように、どこか現実味を失って…

 

 

 

 

「あっ」

 

 

 風に揺られ、長い黒髪が弧を描く。

 

 抱きつかれたまどかは、屋上に忍び寄る黒い影に気が付き、視線を向ける。さやかもそれに釣られ絶妙な角度で首を後ろに向ける。

 

 

 髪を右手でかきあげて、風に流れる髪をどかす。神出鬼没の転校生、暁美ほむらはいつも通りの仏頂面で屋上に現れた。

 

「あんたは、転校生…」

 

 時計塔よりソウルジェムを光らせて、警戒心を露わにするマミさんをよそに、暁美ほむらは悠然と二人の元は歩き出す。

 

 

 まどかはさやかの一歩前に出て、ソウルジェムに手をかける。

 

 

 

 

「美樹さやか。昨日の話、覚えてる?」

「昨日の…あの今まで通りでいろってやつ?」

「ならいいわ。その忠告が無駄にならないことを祈ってる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃ魔法少女体験コース第一弾。張り切って行ってみましょうか。準備はいい?」

 

 

 

 ファミレスで作戦会議を済ませ、持って来たバット片手に街を練り歩く。マミさん曰く、ソウルジェムの光り方で魔女の残滓をキャッチして追いかけるのだとか。

 

 

 

「間違いない、ここよ。」

 

 たどり着いたのはツタが巻き付く静かな廃墟。ソウルジェムは強く黄色く光を放ち、魔女の気配を伝えてくれる。

 

 

 

「あっ、マミさん!アレ!」

 

 

 

 屋上から飛び出した人の影。マミさんは即座に変身して黄色いリボンで落ちた人を包み込む。

 

 

「魔女のくちづけ。やっぱりね。」

「大丈夫なんですか?この人。」

「ええ、気絶しているだけよ。」

 

 

 魔女が人を襲う。その実感が、今は安らかに寝ている人の狂行から理解できる。

 

 

 

 マミさんのリボンがさやかのバットに巻きついて、おもちゃのような形状で、それでいてマジカルな力を感じる物体に変化する。

 

 

「気休めだけど、これで身を守る程度の役には立つわ。絶対に私たちの側を離れないでね。」

「はい。」

 

 

 

 

 歪な回廊は、ただの落書きのように見えるけれど、そのカケラは少しずつ小刻みに動いている。まるで生き物みたいな世界の中で、不気味なタンポポのような使い魔が、せっせと綿を運んでいる。

 

 

 

 

 

「えい!」

 

 

 

 まどかの弓から放たれる巨大な桃色の閃光は、使い魔たちを蹴散らして、結界全体を激しく揺らす。

 

 

 

「こっちよ。」

 

 

 

 先行するマミさんを追いかけて、階段を登り続ける。外部の建物の大きさとはとても釣り合わないほど長い階段を登った先に、これまた歪んだ木の扉。

 

 

 マミさんは薔薇のツタのようなものが絡まった扉をこじ開けて、マスケット銃片手に走り出す。

 

 

 扉を開けた先にいたのは、頭部は溶け、蝶の羽を持ち、薔薇の生えた歪な怪物。差し詰め薔薇園の魔女といったところだろうか。薔薇に夢中で、こちらに気付いた様子はない。

 

 

 

「それじゃあ美樹さんはここで見ていてね。」

 

 

 そう言うとマミさんが宙を舞い、まどかもそれに追従する。

 

 

 

 空中で引き絞られた魔法の弓が、桃色の質量を持った矢を飛ばす。先ほどのエネルギーの塊のような攻撃とは違い、床に突き刺さって残存している。

 

 

「マミさん!」

 

 

 まどかの矢で誘い出された魔女は壁を這いつつ逃げ惑い、まどかから視線をズラさない。

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!!!」

 

 マスケット銃にリボンが纏わりつき、巨大な砲身に変化させる。そこから放たれる黄色い砲弾は、大気震わす爆音と共に、他所に意識を奪われていた魔女の額を貫いた。

 

 

 

 

 

 空間が蜃気楼のようにぼやけていく。

 

 

 歪んだ世界は初めから存在していなかったかのように消え去って、その場にはさやかと、魔法少女二人が現れた。

 

 日は傾き、空は黄金色になっている。

 

 

 

 マミさんは落ちていた黒い宝石のようなものを拾い上げた。

 

 

「これがグリーフシード。魔女の卵よ。」

 

 

 ウィッチエッグじゃないんだ…。

 

 

 

「私のソウルジェム、ゆうべよりちょっと色が濁ってるでしょ?」

 

マミさんの差し出したソウルジェムは、確かに、昨日と比べるとここなしかくすんだ色をしている。

 

 

 

「でも、グリーフシードを使えば、ほら」

 

 

 

 そう言ってマミさんはソウルジェムにグリーフシードを近づけると、黒いモヤのようなものがグリーフシードに吸われていった。

 

 

 次に、まどかのソウルジェムにもそれを近づけて、同じように浄化する。

 

 

 

「悪いけど、このグリーフシードはもう使えそうにないわ。他を当たってちょうだい。」

 

 

 暗がりから現れた黒い影。

 

「…」

「あっ、あんたは。」

 

 

 見滝原の制服を着たそいつは、危険人物、暁美ほむら。いかにも不服そうな顔でマミさんを睨みつける。

 

 

「ほむらちゃん…その…」

「鹿目さん。キュウべぇが言うには目にも止まらぬ速さで移動するらしいわ。警戒を緩めないで。」

 

 

 

「私は、あなたたちの縄張りを奪うつもりはない。わかってるの?あなたたちは無関係な人間を巻き込んでいる。」

「もう無関係じゃないわ。この子はキュウべぇに選ばれたの。」

 

 マミは一歩前に出て、まどかはさやかの前に立つ。

 

「あなたは、美樹さやかを魔法少女に誘導している。」

「ふうん…そう、あなたも気がついていたの。美樹さんの素質に。」

 

 私に…素質?唖然としたさやかに、ほむらの顔はさらに険しくなる。

 

 

 

「美樹さやか。」

「な、なんだよ。」

「あなたは、そのままの幸せを選べばいい。偽物の選択肢に惑わされないで。」

 

 

 

 

 ほむら、そのまま踵を返し闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 消毒液香る白い廊下。この扉の前に立つと、いつも鼓動が速くなる。

 

 呼吸を整えて、寝癖をチェックして、CDを確認して、笑顔を作る。

 

「うん」

 

 

 最後に決意を固めて風の吹き抜ける病室へ。

 

 

「うん?あっ、やあ。」

 

 

 生けてある花は彩を失っていない。彼の表情もまた、さやかの訪れと共に明るくなる。

 

 

 

「はい、これ。」

 

 

 あまり有名な人ではないが、少し前に音楽業界で一世を風靡した演奏家の決定盤。恭介から聞いて、インターネットで調べて、店員さんに頼んで取り寄せてもらったものだ。

 

 

 

「いつも本当にありがとう。さやかは、レアなCDを見つける天才だね。」

「あははは…そんな、運がいいだけだよ、きっと。」

 

 

 彼のキラキラした笑顔が、さやかの心を明るく照らす。

 

 

「この人の演奏は本当にすごいんだ。さやかも聴いてみる?」

「えっ、い…いいのかな。」

 

 渡される片方のイヤホン。擦れ合う手。呂律が上手く回らなくなって、口が上手く開かない。

 

「本当はスピーカーで聴かせてたいんだけど…。病室だしね。」

 

 

 ピンッと張ったコード。それに気がついた恭介は、さやかに体を近づける。

 

 膝の上に乗せている手からは汗が出て、握っているスカートにシワが寄る。

 

 

 さやかにはもう流れてくる音楽も聴こえない。ただ、その瞳には恭介の顔だけが写されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鹿目まどか。」

 

 

 鳥の刻を過ぎた頃、夕飯を済ませ自室で英単語を学習していたまどか。キーボードを触るまどかの元に暁美ほむらが訪れた。

 

 

 窓から顔を覗かせる姿はさながらストーカーである。

 

 

 

「ほ、ほむらちゃん!?」

『少し、話したい事がある。』

 

 窓越しにテレパシー。まどかはパソコンの電源を落とす。ほむらは立ったまま語り始めた。

 

 

 曰く『自分は未来からやってきた。』

 

 曰く『美樹さやかが契約すると不幸になってしまう。』

 

 曰く『数日後ワルプルギスの夜がやってくる。』

 

 曰く『鹿目まどかに協力して欲しい。』

 

 内容は概ねこの通りだった。巴マミは信じてくれないだろう。特に、護るものがある彼女は敵意すら隠さない。だからこそまどかに声を掛けた。それが今回の行動の理由なのだと言う。

 

 

 突然の情報の嵐を前に、まどかの思考回路はショート寸前。しかし、それでも大切なものは理解できていた。

 

 

 それは友達。

 

 それはこの街。

 

 先輩、家族、先生に子猫。この街には守らなくてはならない。いや、護りたい物が沢山あった。

 

 ほむらの震える声が、まどかの心を動かした。

 

 まどかは窓を開ける。外の少し冷たい空気部屋の中に入り込み、教科書が風に煽られる。

 

 そして、手を差し伸べてこう言った。

 

 

 

 

「よろしくね。ほむらちゃん。」

 

 

 

 理由を色々こねた。けれど、自分の力で誰かを救える。鹿目まどかにとって、その事実以上の動く理由なんて存在しなかったのだ。

 

 

 

 

「ええ、よろしく。まどか。」

 

 

 

 その手を、ほむらは取った。

 

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