放課後。
帝丹高校の職員室。
小西は採点を終えた答案を整え、静かに立ち上がった。
「失礼します」
周囲の教師へ一礼し、黒いスーツの襟を整える。
その横へ椎名が歩み寄る。
「先生、本日の仕事は終わりました」
「ああ、帰ろう」
二人は校門へ向かって歩き出した。
夕日に照らされた校舎には、生徒たちの笑い声が響いている。
どこにでもある放課後だった。
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校門前。
蘭と園子が帰宅の準備をしていた。
「小西先生!」
蘭が笑顔で声を掛ける。
小西は立ち止まり、振り返った。
「どうした」
「今日はありがとうございました」
「数学、ちゃんと理解できました」
「そうか」
短い返事だった。
すると園子が笑いながら口を挟む。
「先生って本当に数学しか興味ないんですね」
「恋愛とか全然興味なさそう」
椎名が小さく苦笑する。
「鈴木さん」
「先生はとてもお忙しい方なんですよ」
「教師という仕事は思っている以上に大変なんです」
「なるほどねぇ」
園子は納得したように頷く。
蘭も笑顔を浮かべた。
「先生、お仕事頑張ってください」
「ああ」
小西は軽く頭を下げ、その場を後にした。
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帰り道。
住宅街を歩きながら、椎名が静かに話しかける。
「先生」
「毛利さんは、本当に先生を信頼されていますね」
「教師として接しているだけだ」
「それ以上でも、それ以下でもない」
椎名は微笑む。
「それでも、生徒さんから慕われるのは先生のお人柄ですよ」
「買いかぶりだ」
小西は淡々と答える。
「僕は教師として当然のことをしているだけだ」
しばらく沈黙が流れる。
やがて椎名が少しだけ真剣な表情になった。
「先生」
「江戸川君の件ですが」
小西は歩みを止めない。
「今日もこちらを観察していました」
「ああ」
「だが、以前ほどではない」
「赤井秀一や安室透も同じだ」
「直接こちらを追うより、組織そのものを探る方向へ切り替えた」
椎名は頷く。
「つまり、先生を黒の組織と結び付ける証拠が見つからないのでしょうか」
「そうだ」
小西は静かに答える。
「推測だけでは人は裁けない」
「それは警察も、探偵も同じだ」
「だから私は生きている」
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その頃。
工藤邸。
地下室では赤井秀一がコーヒーカップを手に資料へ目を通していた。
対面にはコナンが座っている。
「赤井さん」
「やっぱり小西先生を尾行するのは無意味かな」
赤井は静かに頷いた。
「ああ」
「奴は痕跡を残さない」
「監視すればするほど、こちらの手札だけを読まれる」
コナンは拳を握る。
「でも放っておけば、また誰かが犠牲になる」
「分かっている」
赤井は資料を閉じた。
「だから今後は」
「コニャック本人ではなく、奴が動かした結果を追う」
「その方が勝機はある」
コナンは静かに頷いた。
「……分かった」
「俺も焦るのはやめる」
「必ず証拠を掴んでみせる」
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同じ夜。
マンションの一室。
小西は窓の外の夜景を眺めながら、静かにコーヒーを口に運んでいた。
椎名が隣へ立つ。
「先生、何かお考えですか」
「探偵たちは成長した。以前のような尾行はしない。無駄だと学習したからだ」
椎名は小さく笑う。
「それでも諦める方々ではありませんね」
「ああ」
小西は夜景から視線を外さない。
「だからこそ面白い」
「証拠だけを信じる人間は、証拠が存在しない相手には永遠に届かない」
そう呟くと、小西は静かに伊達眼鏡を外した。
ツリ目と三白眼の鋭い視線が夜の街を見つめる。
(江戸川コナン)
(確実な証拠もなしに、子供を手にかけたくはない)
(だが、お前が工藤新一である証拠を掴んだその時は——)
部屋は静寂に包まれる。
誰もその続きを口にすることはなかった。
探偵と犯罪者。
互いに決定的な証拠だけを求める冷たい戦いは、まだ終わる気配を見せていなかった。