令和のモリアーティ(旧版)   作:オッパッピー

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第二十二話 名探偵の空席(後編)

放課後。

 

帝丹高校の職員室。

 

小西は採点を終えた答案を整え、静かに立ち上がった。

 

「失礼します」

 

周囲の教師へ一礼し、黒いスーツの襟を整える。

 

その横へ椎名が歩み寄る。

 

「先生、本日の仕事は終わりました」

 

「ああ、帰ろう」

 

二人は校門へ向かって歩き出した。

 

夕日に照らされた校舎には、生徒たちの笑い声が響いている。

 

どこにでもある放課後だった。

 

---

 

校門前。

 

蘭と園子が帰宅の準備をしていた。

 

「小西先生!」

 

蘭が笑顔で声を掛ける。

 

小西は立ち止まり、振り返った。

 

「どうした」

 

「今日はありがとうございました」

 

「数学、ちゃんと理解できました」

 

「そうか」

 

短い返事だった。

 

すると園子が笑いながら口を挟む。

 

「先生って本当に数学しか興味ないんですね」

 

「恋愛とか全然興味なさそう」

 

椎名が小さく苦笑する。

 

「鈴木さん」

 

「先生はとてもお忙しい方なんですよ」

 

「教師という仕事は思っている以上に大変なんです」

 

「なるほどねぇ」

 

園子は納得したように頷く。

 

蘭も笑顔を浮かべた。

 

「先生、お仕事頑張ってください」

 

「ああ」

 

小西は軽く頭を下げ、その場を後にした。

 

---

 

帰り道。

 

住宅街を歩きながら、椎名が静かに話しかける。

 

「先生」

 

「毛利さんは、本当に先生を信頼されていますね」

 

「教師として接しているだけだ」

 

「それ以上でも、それ以下でもない」

 

椎名は微笑む。

 

「それでも、生徒さんから慕われるのは先生のお人柄ですよ」

 

「買いかぶりだ」

 

小西は淡々と答える。

 

「僕は教師として当然のことをしているだけだ」

 

しばらく沈黙が流れる。

 

やがて椎名が少しだけ真剣な表情になった。

 

「先生」

 

「江戸川君の件ですが」

 

小西は歩みを止めない。

 

「今日もこちらを観察していました」

 

「ああ」

 

「だが、以前ほどではない」

 

「赤井秀一や安室透も同じだ」

 

「直接こちらを追うより、組織そのものを探る方向へ切り替えた」

 

椎名は頷く。

 

「つまり、先生を黒の組織と結び付ける証拠が見つからないのでしょうか」

 

「そうだ」

 

小西は静かに答える。

 

「推測だけでは人は裁けない」

 

「それは警察も、探偵も同じだ」

 

「だから私は生きている」

 

---

 

その頃。

 

工藤邸。

 

地下室では赤井秀一がコーヒーカップを手に資料へ目を通していた。

 

対面にはコナンが座っている。

 

「赤井さん」

 

「やっぱり小西先生を尾行するのは無意味かな」

 

赤井は静かに頷いた。

 

「ああ」

 

「奴は痕跡を残さない」

 

「監視すればするほど、こちらの手札だけを読まれる」

 

コナンは拳を握る。

 

「でも放っておけば、また誰かが犠牲になる」

 

「分かっている」

 

赤井は資料を閉じた。

 

「だから今後は」

 

「コニャック本人ではなく、奴が動かした結果を追う」

 

「その方が勝機はある」

 

コナンは静かに頷いた。

 

「……分かった」

 

「俺も焦るのはやめる」

 

「必ず証拠を掴んでみせる」

 

---

 

同じ夜。

 

マンションの一室。

 

小西は窓の外の夜景を眺めながら、静かにコーヒーを口に運んでいた。

 

椎名が隣へ立つ。

 

「先生、何かお考えですか」

 

「探偵たちは成長した。以前のような尾行はしない。無駄だと学習したからだ」

 

椎名は小さく笑う。

 

「それでも諦める方々ではありませんね」

 

「ああ」

 

小西は夜景から視線を外さない。

 

「だからこそ面白い」

 

「証拠だけを信じる人間は、証拠が存在しない相手には永遠に届かない」

 

そう呟くと、小西は静かに伊達眼鏡を外した。

 

ツリ目と三白眼の鋭い視線が夜の街を見つめる。

 

(江戸川コナン)

 

(確実な証拠もなしに、子供を手にかけたくはない)

 

(だが、お前が工藤新一である証拠を掴んだその時は——)

 

部屋は静寂に包まれる。

 

誰もその続きを口にすることはなかった。

 

探偵と犯罪者。

 

互いに決定的な証拠だけを求める冷たい戦いは、まだ終わる気配を見せていなかった。

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