ただっ広い荒野を一台の装甲車が、土煙を巻き上げながらものすごいスピードで走っていた。
『うおおおおおい!スピード出しすぎじゃァ!このままじゃあスリップしかねんぞ!』
「るせえよ!さっさと国があるところに行きてえんだから、このスピードでないと今日中に着かねえんだよ!」
『ああもう!クソッタレが!どうなってもしらんぞ』
そんな喋る装甲車……ラリーと言い争っているのは、そのラリーを運転しているのはソラという名前の小さな少年である。
『その国ってのはどんなところなんだぁ?』
ラリーは、ソラにふと浮かんだ素朴な疑問をぶつける。
だが、ソラもあまり良くわかってないないのか、訝しげな表情だ。
「よくわからん。だがあのクソババアの地図には「とても窮屈な国」って書いてあったぜ?」
『ハア?なんだそりゃ』
「さあな、大方よっぽど狭い……というよりは小さい国なのか、それとも人口密度が高すぎる国なんだろうなあ」
『おいおい、お前は狭っ苦しいのは嫌いじゃあなかったのか?それに、あの婆さんの家からじゃあ、東に行くよりも、南にある国の方が近いだろ?半日でつくだろうし、なんでそんなところに行くんだ?』
ラリーの疑問にソラは肩を竦め、皮肉気味に言う。
「まあ、確かにそうなんだが、やっぱり目指すなら東かなー。と思ってな?」
『……なんだそりゃ?』
「ま、俺の魂に刻まれた白米があるなら東だと思ってな?」
『……ますますもって分からん』
「理解する必要はねえよ。まあ、カンだカン」
『カンってお前なあ……』
ソラの言葉にラリーは呆れたように溜息を吐く。
「ま、大丈夫だ。俺のカンはよく当たるかんな」
『そうかよ……ってうおおおおおおおおぉおおおぉおおおお!?』
「んなああああぉぉあああぁぁッッッッ!?」
ラリーのタイヤが砂に取られて、スリップする。
ギャギャギャギャァ!と地面を削りながら、滑るように車体を振りながらもハンドルを取り、なんとか制御を取ろうとするが、結局は日本社会ならば逮捕待ったなしのスピードで走っていたため、ソラの小さな体は、ラリーの窓から投げ出され、ラリーの車体は転倒する。
ソラは地面を転がり、しばらく転がったところで止まる。
「ああ……クソが!なんでこうなるんだよオイコラ!」
『いやいや!最初に言っただろうがよ、スリップしかねんってなあ!』
「ああこんちくしょう!そういや言ってたな!」
『全く……人の助言は聞いとけよな。それよりもひっくり返った俺の体を元に戻してもらいてえんだが……お前一人じゃあ無理だなコレ』
ラリーの体は文字通り逆さまになっていた。装甲車の車体というのは言うまでもなく、とても重い。普通の乗用車とは違って、装甲がある分、乗用車よりも重い。
普通ならば人間一人の腕力どうのこうのできる問題ではない。
だが、ソラは別だ。神より授かった身体能力がある。
「よっと」
『んなあ!?お前が力持ちなのは知っていたが、ここまでなのか!?』
「ハッ!当然だ、馬鹿野郎!」
ソラは、ラリーを片手で軽々と持ち上げた。
ラリーはソラの力に驚愕するが、ソラは出来て当然だと鼻で笑い、ラリーを投げて元の体制に戻す。
『いてて……いや、サスペンションあるから振動は殆ど吸収されるからあまり痛くないんだが、もちっと優しくしてくれよ』
「るせえ。何をほざいてやがる。さっさと国目指して走るぞ」
『ヘイヘイ……俺のボディどっか凹んでねえよな?』
「アホか?俺が作ったんだ。この程度じゃあ傷一つつかねーよ。ボケナス」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おお、ついたか」
ソラの目の前には巨大な石で組み立てられた城壁。
この城壁の中が「国」となるのだ。そして、ソラは国に入るための手続きをしようと門の前にいる。
「おーい、この国入りてぇんだけど」
「……何か御用でしょうか」
ソラはそう言って詰所の扉を乱暴に叩く。
しばらくして出てきたのは、汚れ一つ無い上品なスーツに身をまとった如何にも上級階級の男性であった。
その男性はソラを見て、一瞬ぎょっとしたが、ソラに優しい声でこういった。
「申し訳ありませんが、そのコーディネートでは我が国への入国を認めるわけにはいきません」
「はぁ?こーでねーとだぁ?そんなもんがあるのか?」
ソラは怪訝な顔をする。ちなみに現在のソラの格好は老婆のところで老婆が洗ったのか、ボロボロのシャツが小奇麗になったものであったが、この国に来る前にラリーの転倒でまた薄汚くなってしまっていた。
「はい、我が国はマナーを何よりも優先的にしておりますので」
「まなー?」
「ええ、健全な心は健全な生活、健全な環境、健全な格好、健全な人……といったように我が国では、健全なるマナーを何よりも大切にしているのです」
「ふーん、で。俺の服がアレだから入国はダメってわけか?」
「ええ、その通りでございます。ついでに言いますと、その言葉遣いもズボラな動作も駄目です。あなたには入国資格はありません」
「へーそうかい……」
ソラの額にビキッ。と筋が入るがソラは何とかこらえて、審査員に問う。
「だったら、どうやったら入国出来るんだァ?俺の見た目は追求のしようがねえが、例え見た目が良いからってマナーが出来るわけじゃあねえだろぉ?そこんとこどうなってんだ?」
「ええ、あなたの疑問はごもっともです。ですので、我が国に入国するには、必要最低限のコーディネート、そして次にテストがあります」
「テストぉ?」
「ええ、マナーについてのテストです。筆記と実技に分かれておりまして、そのテストで合格し、初めて入国資格が得られます」
「へぇ、そうかい。じゃあ俺にもそのテストとやらを受けさせろや」
ソラのコトバに、審査員はふう。とため息をついてかぶりを振る。
「いえ、まずあなたの場合、第一の条件であるコーディネートが満たされておりません」
「わーってんだよ。んなこたぁ。だから服はこれ以外に持ち合わせがねえからこの国で買うってんだよ」
ソラはそう言って懐から袋を取り出した。
その中には金がたっぷりと詰まっていた。
「……なるほど。分かりました。では此方に、あなたの寸借をとります」
「オーケー、オーケー」
ソラは審査員に促され、建物の中に入っていく。
ちなみにお金は、ゴミ山の中で拾ったものが1割、6割が道中襲ってきた盗賊のもの、残りの3割は老婆の家からパチったものである。
……と思ったら、まだかよ……
果たしてソラはマナーテストに合格できるのか!?
次回は……木曜日あたりに別の話を更新します。