終末世界の迷惑在庫(ゾンビ)は即廃棄!〜人でなしお嬢様とモブ後輩は、世界が滅んでも甘いものが食べたい   作:オカノヒカル

15 / 20
第15話 甘いものは、隠すと信頼が腐りますわ

 

 榊先生に案内されたのは、校舎一階の空き教室だった。

 

 低学年用なのか、机も椅子も少し小さい。今はそれらが教室の端へ寄せられ、真ん中に大人用のパイプ椅子がいくつか置かれていた。

 

 壁には、まだ学校だった頃の掲示物が残っている。

 

『きれいな手で給食を食べましょう』

 

 丸い文字で書かれたその言葉を見て、私は少しだけ息を詰めた。

 

 きれいな手。

 給食。

 食べましょう。

 

 どれも、今となっては遠い言葉だった。

 

 手を洗う水は貴重で、給食はもう出てこない。食べるものがあっても、それが安全かどうかを疑わなければならない。

 それでも掲示物だけは、昨日までそこに学校があったみたいな顔で壁に残っていた。

 

 教室に入ったのは、私とそよぎ先輩。

 榊先生。戸倉さん。岡部さん。長谷川さん。

 由良さんは、廊下側に残った。

 戸倉さんは、まだ金属棒を持っている。

 東門でのことが、頭から離れていないのだと思う。

 

 私だって、離れていない。

 

 ゾンビがほどけた音。

 残された古い靴。

 東門に落ちた沈黙。

 由良さんの「あれ、前から?」という小さな声。

 

 そして、ポケットの中で握ったままだった飴。

 

 私の方は、まだバレていない。

 

 飴を口に入れていない。

 結界も張っていない。

 ただ、握っていただけだ。

 

 でも、それがいつまで続くのかは、わからない。

 榊先生は、椅子に座らず、教卓の横に立った。

 

「まず、確認させてください」

 

 声は落ち着いていた。

 

 けれど、その落ち着き方が、さっきより少し硬い。

 

「戦技さん。今のは、何をしたんですか」

 

 そよぎ先輩は、椅子に座るでもなく、窓際の机に軽く手を置いていた。

 

「期限切れを、少々片付けただけですわ」

 

 榊先生は、すぐにはうなずかなかった。

 

「期限切れというのは、あれが、もう人ではないという意味ですか」

 

 教室の空気が、少しだけ冷えた。

 長谷川さんが、視線を落とす。

 戸倉さんは、金属棒を握る手に力を入れた。

 

 そよぎ先輩は、少しだけ首を傾ける。

 

「少なくとも、残しておく価値のある状態ではありませんでしたわ」

「価値って」

 

 戸倉さんが低く言った。

 

「人だったものだろ」

「ええ。人だったものですわ」

 

 そよぎ先輩は、淡々と答えた。

 

「だからこそ、今の状態で残しておくのは、誰にとってもあまり美味しくありません」

「美味いとか、そういう話じゃない」

「比喩ですわ」

「わかりにくい比喩を使うな」

「わかりやすい比喩ほど、味が薄いですもの」

「今、味の話をしてるんじゃない!」

 

 戸倉さんの声が大きくなる。

 榊先生が、軽く手を上げた。

 

「戸倉さん」

 

 それだけで、戸倉さんは口を閉じた。

 でも、納得した顔ではなかった。

 榊先生は、そよぎ先輩に向き直る。

 

「もう一度、できますか」

「条件が合えば」

「条件、ですか」

「邪魔で、期限切れで、残す価値がないもの。そうでないと、手を出す気になりませんわ」

「気分の問題なのか?」

 

 戸倉さんが言う。

 

 そよぎ先輩は、今度は戸倉さんを見た。

 

「気分は大切ですわ」

「こっちは命がかかってるんだ」

「だから、雑に扱わない方がよろしいのでは?」

 

 また空気が重くなる。

 

 この二人を真正面から話させると、絶対にどこかで衝突する。

 

 私は少しだけ前に出た。

 

「先輩、言い方を柔らかくしてください」

「柔らかくすると、意味まで柔らかくなりますわ」

「今は意味より角を取ってください」

「角があるから刺さるのですけれど」

「刺さなくていいです」

 

 岡部さんが、疲れたようにこめかみを押さえた。

 

「あなたたち、いつもこんな感じなの?」

「だいたい、こんな感じです」

 

 私は正直に答えた。

 

 長谷川さんが、小さく息を吐く。

 笑ったわけではない。けれど、少しだけ緊張が緩んだ気がした。

 

 榊先生は、話を戻した。

 

「距離は関係ありますか?」

 

 それに答える前に、戸倉さんが身を乗り出した。

 

「門の外にいるうちにできるのか?」

 

 さっきから、戸倉さんはそこばかり気にしている。

 

 門の外にいるうちに。

 

 近づく前に。

 腕がバリケードの内側へ入る前に。

 顔や声が、こちらへ届く前に。

 

「近い方が、状態は見やすいですわ」

「遠くからは無理なのか」

「無理とは言いません。けれど、見えないものは味見できません」

「味見じゃないだろ」

「観察、と言い換えても構いませんわ」

 

 戸倉さんは歯を食いしばった。

 

「何体でもできるのか?」

「一度に処理できるのは1体までですわ」

「じゃあ、何回まで使える?」

「その時の状態によります」

「曖昧だな」

「曖昧な世界で、明確な保証を欲しがる方が危険ですわ」

 

 戸倉さんが言い返そうとしたが、榊先生が先に口を開いた。

 

「つまり、確実にいつでも使えるものではない」

「そう受け取っていただいて結構ですわ」

 

 榊先生はうなずいた。

 

 その顔は、少しだけ疲れていた。

 でも、情報を整理しようとしている顔でもあった。

 次に、長谷川さんが口を開いた。

 

「生きている人にも、効くんですか」

 

 その声は、静かだった。

 でも、教室の中で一番冷たく響いた。

 

 私は思わず長谷川さんを見た。

 

 彼女は、そよぎ先輩ではなく、机の上を見ていた。

 見たくないことを、でも聞かないわけにはいかない、という顔だった。

 

 発熱者。

 隔離教室。

 まだ人かもしれない人。

 もう戻らないかもしれない人。

 

 長谷川さんが何を考えているのか、少しだけわかった気がした。

 そよぎ先輩は、いつもよりほんの少しだけ静かに答えた。

 

「試したことはありませんわ」

「試すことは?」

「趣味ではありません」

 

 私は、胸の奥で小さく息を吐いた。

 そこだけは、本当に試さないでほしい。

 

 冗談でも、実験でも、確認でも。

 

 長谷川さんは、そよぎ先輩の答えを聞いて、ゆっくりとうなずいた。

 

「……わかりました」

 

 たぶん、わかってはいない。

 

 でも、これ以上聞いても答えは出ない。そういう意味の「わかりました」だった。

 

 岡部さんは、ここまでほとんど黙っていた。

 物資ノートを胸に抱えたまま、そよぎ先輩と榊先生を交互に見ている。

 能力そのものより、この人をどう扱えばいいのかを考えている顔だった。

 

 そよぎ先輩が、ふと口元を緩める。

 

「皆様、同じものを見たはずなのに、欲しがるものが違いますわね」

「先輩」

 

 嫌な予感がした。

 

「榊先生は、説明できる安全。戸倉さんは、門の外で終わる距離。長谷川さんは、生きている人にも効くのかという恐怖。岡部さんは、わたくしを動かすための値札」

 

「先輩、人間を棚卸ししないでください」

「棚卸しは大切ですわ。何がどこにあり、何が足りず、何が並べてはいけないものかを知るために」

「だから人間でやらないでください」

 

 私はそう言いながら、少しだけ納得してしまっていた。

 嫌だった。

 

 そよぎ先輩の見方は冷たい。人の事情をラベルみたいに貼っていく。

 

 でも、貼られたラベルが、妙に外れていない。

 

 榊先生は、避難所の人たちに説明できる安全が欲しい。

 戸倉さんは、ゾンビが門の内側へ入る前に処理してほしい。

 長谷川さんは、あの力がまだ生きている人に向く可能性を怖がっている。

 岡部さんは、そよぎ先輩を動かすために何を出せばいいか考えている。

 

 そして、その全部が、たぶん間違っていない。

 間違っていないのに、少しずつ嫌な形をしている。

 

 廊下側から、由良さんが顔を出した。

 

「森原さん」

「あ、はい」

「ちょっとだけ案内するよ。ここ、初めてでしょ」

 

 榊先生がうなずいた。

 

「お願いします。こちらはもう少し話します」

「わかりました」

 

 私はそよぎ先輩を見た。

 

 先輩は、行ってもいいというように軽く手を振った。

 

「迷子にならないように」

「避難所の中ですから」

「甘味のない場所ほど、人は道を見失いますわ」

「そんな格言はありません」

 

 私は由良さんについて廊下へ出た。

 教室の外に出ると、体育館とは違う匂いがした。

 古い校舎の匂い。湿った廊下。消毒液。閉め切った教室。どこかで誰かが作った薄いスープの匂い。

 

 由良さんは、小声で説明した。

 

「水はあっち。ポリタンクに分けてある。あるにはあるけど、自由には飲めないよ」

「あるのに、ですか」

「あると今度は、“なんでもっと出せないの”って言われるから」

 

 その言葉は、妙に現実的だった。

 

 水がなければ困る。

 でも、水があれば、それをどう分けるかで困る。

 

「寝床は体育館。さっき見たところ。寝る場所はあるけど、寝られるかは別」

「人が多いですもんね」

「いびきもあるし、泣く子もいるし、誰かが声を出すとみんな起きるし、わりと神経質にはなる」

 

 由良さんは、苦笑いした。

 

「子ども用のところは?」

「あそこは……遊ばせる場所っていうより、静かにしてもらう場所かも」

 

 廊下の先には、子ども用スペースが見えた。

 

 絵本とぬいぐるみが置かれている。折り紙もある。けれど、楽しそうな場所というより、静かにしてもらうための場所に見える。

 

 由良さんの言葉は、私が思ったこととほとんど同じだった。

 

 さらに奥の教室の前で、由良さんは足を止めた。

 

 扉には紙が貼ってある。

 

『体調不良者用』

 

 由良さんは、その扉には近づかなかった。

 

「隔離教室。熱がある人とか、様子見の人はあそこ」

「中は」

「見ない方がいい」

 

 由良さんは、少しだけ目を伏せた。

 

「見ても、何もできないから」

 

 その言い方は冷たくなかった。

 普通に怖くて、普通に疲れていて、普通に何もできないことを知っている声だった。

 

 私は、少しだけ安心した。

 避難所には、大人がいる。ルールがある。水がある。寝床がある。

 

 でも、全部が解決するわけではない。

 由良さんは、それを知っている。

 

「戻ろっか」

「はい」

 

 私たちは空き教室へ戻った。

 教室では、話が協力依頼へ進んでいた。

 

「門の周りだけでいい」

 

 戸倉さんが言っていた。

 

「さっきみたいに、外にいるうちに片付けられるなら、かなり助かる」

 

「確実にできるとは、言っておりませんわ」

 

 そよぎ先輩が返す。

 

「それでも、いないよりは違う」

 

 戸倉さんは、少しだけ声を落とした。

 

「中に入られてからじゃ遅いんだ」

 

 その言葉は、東門のバリケードに伸びた腕を思い出させた。

 榊先生も言う。

 

「明日以降、外へ出る必要が出ます。物資の確認も続けなければなりません。危険があった時、今日のように対処できるなら、助かります」

 

 長谷川さんは、すぐには口を挟まなかった。

 ただ、最後に小さく言った。

 

「外で怪我人や体調不良者が出た時、混乱が減るだけでも、違います」

 

 みんな、言っていることは正しい。

 

 避難所を守るためには、たぶん必要なお願いだ。

 でも、正しい願いが集まるほど、そよぎ先輩が何かの道具に見えてくる。

 

 それが嫌だった。

 

 岡部さんが、迷ったように小さな袋を机の上に置いた。

 

「もし協力してくれるなら、少しですが出せるものがあります」

 

 袋の中には、割れた乾パン、粉末ココアの半端、羊羹の切れ端が入っていた。

 そよぎ先輩の顔が、すっと真顔になる。

 

「わたくしを便利に使う対価が、この程度で?」

「今は、甘いものだって貴重なんです」

 

 岡部さんの声が硬くなる。

 

「子どもにも毎日は出せないの。大人だって我慢してる。これでも、出せるだけ出してるつもりです」

「岡部さん」

 

 榊先生が止めようとした。

 けれど、そよぎ先輩は笑わなかった。

 

「報酬は、それを映す鏡ですの」

「何を?」

「相手に、何を頼もうとしているのか。その価値を、どの程度に見積もっているのか」

 

 教室の空気が、また重くなった。

 岡部さんは唇を結んだ。

 そして、少しだけ迷ってから、廊下へ出ていった。

 

 戻ってきた時、彼女は別の箱を持っていた。

 蓋を開ける。

 

 未開封の非常食羊羹。

 小さな缶詰みかん。

 小袋のチョコ。

 保存用のケーキバー。

 

 思ったより、甘いものがあった。

 

 そよぎ先輩の目が、ほんの少しだけ変わる。

 私はそれを見て、嫌な予感がした。

 

 その時、廊下側から小さな声がした。

 

「それ、まだあったの?」

 

 子どもだった。

 

 扉の隙間から、さっき羊羹を食べていた子とは別の子が、箱の中を見ていた。

 

「この前、もう甘いのないって言ってたのに」

 

 岡部さんの顔が強張った。

 

「これは……何かあった時のために取ってある分で」

 

 たぶん、それは本当だった。

 子どもが泣き止まない時。外回り班が疲れ切って戻ってきた時。体育館の空気が悪くなった時。

 甘いものは、きっと役に立つ。

 

 でも。

 

 子どもに「もうない」と言っていたものを、そよぎ先輩への交渉材料として出した。

 その瞬間、甘いものの意味が変わった。

 岡部さんが悪い人ではないのは、わかる。

 

 でも、嫌な気持ちになった。

 

 そよぎ先輩が、静かに言った。

 

「甘味は隠すと腐りますわ」

 

 岡部さんが、そよぎ先輩を見る。

 

「味ではなく、信頼が」

 

 誰もすぐには言い返さなかった。

 榊先生が、子どもの方を見た。

 それから、箱の中身を見て、短く息を吐く。

 

「出したものは、戻せません。子どもたちにも少し配りましょう」

「榊先生」

「今ここで戻したら、もっと悪くなります」

 

 榊先生の声は静かだった。

 でも、決めた声だった。

 

 岡部さんは何か言いたそうにしたが、結局うなずいた。

 非常食羊羹が、子どもたちに少しずつ配られた。

 そよぎ先輩と私にも、協力の礼という形で一本ずつ渡された。

 細い袋に、商品名が印刷されている。

 

『備えのひとくち羊羹 抹茶味』

 

 常温の羊羹だった。

 

 派手な匂いはない。きらきらした見た目でもない。苺もクリームもない。

 でも、封を切ると、あんこの甘さが少しだけ立った。

 そよぎ先輩は、真剣な顔で一口食べた。

 こういう時だけは、本当に真剣だ。

 

「味だけなら、七十一点」

「ちゃんと採点するんですね」

「当然ですわ」

 

 先輩は、もう一口食べる。

 

「香りは控えめ。舌触りも特別なものではありません。水分が欲しくなる甘さですわね」

「非常食ですからね」

「ですが、これは味だけで測るものではありませんわ」

 

 先輩は、体育館の方を見た。

 子どもたちが、小さく羊羹をかじっている。

 大人たちは、その様子を見ないふりをしながら見ている。

 

「保存できる。分けられる。子どもを黙らせるのではなく、少しだけ落ち着かせる。避難所の空気を一瞬だけ柔らかくする」

 

 そよぎ先輩は、残りを少しだけ口に入れた。

 

「機能込みなら、八十二点ですわ」

「ずいぶん上がりましたね」

「甘味は、場所で点が変わりますもの」

 

 私も羊羹を食べた。

 しっかり甘い。

 水が欲しくなるくらい、舌に残る。

 苺ショートみたいに胸が浮く甘さではない。アイスみたいに冷たく広がる甘さでもない。

 でも、飲み込むと、ほんの少しだけ息がつけた。

 甘いものは、嘘も作る。

 

 もうないと言われた甘味が、実は箱の中に残っていた。

 

 でも、静けさも作る。

 

 子どもが少し黙る。大人が少し安心する。体育館の空気が、ほんの少しだけ柔らかくなる。

 それが、厄介だった。

 

 羊羹を食べ終えたあと、榊先生が改めて口を開いた。

 

「明日、外回り班を出します」

 

 戸倉さんが地図を広げる。

 

「北町通りの店舗を確認する予定だ。水、缶詰、紙皿、ラップ、乾電池。使えそうな燃料も見たい」

「燃料ですか……」

 

 そよぎ先輩は、あまり興味のなさそうな声を出した。

 

「貴重な物資です」

 

 榊先生が言う。

 

「わかっておりますわ。大事なものほど、味気ないというだけで」

「味気の問題ではありません」

「だいたいの問題は、味気に帰結しますわ」

「しません」

 

 私が言うと、榊先生が少しだけ困った顔をした。

 戸倉さんが地図を指で押さえる。

 

「危険があった時、今日みたいに対処できるなら助かる。もちろん、無理にとは言わない」

「無理にとは言わない、けれど断れば困る。便利な言葉ですわね」

 

 そよぎ先輩が返す。

 戸倉さんが何か言いかけたが、榊先生が先に口を開いた。

 

「だから、お願いです」

 

 その言葉は、さっきより少しだけまっすぐだった。

 

「戦技さん。あなたを強制するつもりはありません。ただ、明日同行してもらえれば、助かります」

「わたくしは避難所の備品ではありませんわ」

「わかっています」

「在庫でもありません」

「はい」

「甘味でもありません」

「それは、わかっています」

「本当に?」

「……どういう意味でしょうか?」

 

 榊先生が真面目な顔で言うので、私は少しだけ変な声が出そうになった。

 そよぎ先輩は、それを少し気に入ったようだった。

 それでも、まだ乗り気ではない。

 

 危険。

 物資。

 燃料。

 

 どれも大事だ。

 

 でも、そよぎ先輩を動かすには弱い。

 榊先生は、それを見ていたのかもしれない。

 少しだけ間を置いてから、言った。

 

「北町通りに、ケーキ店があります」

 

 そよぎ先輩の目が変わった。

 ほんの少しだけ。

 でも、私はすぐにわかった。

 

 終わった。

 

 この人は、もう行く気だ。

 戸倉さんが、地図の端を指で押さえた。

 

「たしか、パティスリー・ミモザだったか」

「ミモザ」

 

 そよぎ先輩が、ゆっくりと繰り返す。

 

「春の気配を名にした店ですわね」

「店名だけで判断しないでください」

 

 私はいつものツッコミ。

 

「店名は入口の味ですもの」

「そういう採点基準があるんですか」

「ありますわ」

 

 そよぎ先輩は、少しだけ笑った。

 

「よろしいですわ。話だけは聞いて差し上げます」

 

 話だけ。

 

 絶対に話だけでは終わらない。

 私はそう思った。

 

 そして、たぶんこの教室にいる何人かも、同じことを思ったに違いない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。