ペルソナX訂正版   作:keimei

26 / 26
第26話 ベルベットルーム

――カチッ。

 

 時計の針が噛み合う音が静寂へ響く。

 

 ――カチ、カチ、カチ……

 

 無数の時計が、それぞれ違う時を刻んでいる。

 

 知はゆっくりと瞼を開いた。

 

「……ここは。」

 

 見渡す限り、青い時計。

 

 壁一面に掛けられた大小様々な時計は、どれ一つとして同じ時刻を示していない。

 

 天井からも、床の近くからも、青く輝く時計が静かに時を刻み続けていた。

 

 そこは現実とも境界とも違う、不思議な空間だった。

 

 知はゆっくりと立ち上がる。

 

「俺は……確か、シャドウに……。」

 

 腹へ手を当てる。

 

 あれほどの衝撃を受けたはずなのに、不思議と痛みは消えていた。

 

 辺りを見回した、その時だった。

 

「うぅ〜……重たいでありんす……。」

 

 可愛らしい声が静寂を破る。

 

 知が声の方へ目を向けると、小柄な少女が大きな木箱を必死に引きずっていた。

 

 陽の光を受けて輝く銀色の長髪。

 

 青い簪でまとめられた髪。

 

 藍色を基調とした着物。

 

 この幻想的な空間にも不思議と溶け込む少女だった。

 

「大丈夫か?」

 

 知は慌てて駆け寄り、木箱へ手を添える。

 

「あっ、ありがとうでありんす!」

 

 二人で力を合わせると、重そうだった木箱はすぐに運び終えた。

 

 少女は嬉しそうに微笑み、ぺこりと頭を下げる。

 

「助かったでありんす。」

 

「困っている人を放っておけないから。」

 

「ふふっデジャブでありんすね。」

 

 知が笑うと、少女もつられて笑みを浮かべた。

 

 その時。

 

 コツ……

 

 コツ……

 

 コツ……

 

 杖を突く音が静かに響く。

 

 奥の闇から、一人の老人がゆっくり姿を現した。

 

 長い鼻。

 

 細身の身体。

 

 青い瞳。

 

 老人は知の前で立ち止まり、穏やかに一礼する。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ。」

 

 知は聞き慣れない名前に眉をひそめた。

 

「ベルベットルーム……?」

 

 老人は静かに頷く。

 

「ここは夢でも現実でもない。精神と精神、その狭間に存在する特別な場所でございます。」

 

 老人は杖を軽く鳴らした。

 

「私の名はイゴール。この部屋の管理人を務めております。」

 

 知は部屋を見回す。

 

「精神の狭間……。」

 

 すると、先ほどの少女が知の隣へ歩み寄る。

 

「あっ、そうでありんした。まだ名乗っていなかったでありんすね。」

 

 少女は着物の袖を揃え、丁寧に頭を下げた。

 

「わっちは神楽と申すでありんす。どうぞ、よろしくお願いするでありんす。」

 

 知も軽く頭を下げる。

 

「知です。よろしく。」

 

 イゴールは満足そうに頷いた。

 

「知様。あなたは試練を乗り越え、新たな資格を得ました。」

 

「資格……?」

 

「ええ。仲間との絆を、さらなる力へ変える資格です。」

 

 知はその言葉へ静かに耳を傾ける。

 

 神楽は知の腰に装着されたアビスギアへ視線を向けた。

 

「知殿。そのアビスギアは、まだ本当の力を眠らせたままでありんす。雷斗殿や小田上殿がお持ちの勾玉。その勾玉をアビスギアへかざすことで、新たな武器へと姿を変えるのでありんす。」

 

 知は思わず息を呑む。

 

「武器に……変わる?」

 

「はい。その力の名を――コネクトウェポンと申すのでありんす。」

 

 知は無意識にアビスギアへ手を伸ばした。

 

「コネクトウェポン……。」

 

 神楽は優しく微笑む。

 

「どのような武器となるかは、勾玉に宿る想いと、知殿ご自身の心が導いてくれるでありんしょう。」

 

 知はゆっくり拳を握る。

 

「俺の心が……。」

 

「はい。そして、その力を真に引き出せた時、仲間との絆はさらに新たな力を呼び覚ますのでありんす。」

 

 知は神楽を見つめる。

 

「新たな力?」

 

「はい。その名を――コネクトアーツと申すのでありんす。」

 

 部屋に静寂が流れる。

 

 イゴールは杖を静かに鳴らした。

 

「その力は、一人では決して完成いたしません。仲間を信じる心、そして己を信じる心。その二つが重なった時、初めて真価を発揮するでしょう。」

 

 知は静かに目を閉じる。

 

 雷斗。

 

 小田上。

 

 ミロク。

 

 三人の姿が脳裏へ浮かぶ。

 

 自然と口元が緩んだ。

 

「……信じてる。」

 

 イゴールは静かに微笑む。

 

「その答えこそ、あなたがここへ招かれた理由です。」

 

 神楽も優しく笑みを浮かべる。

 

「皆さんがお待ちでありんす。そろそろお戻りになる時間でありんすよ。」

 

 知は二人へ深く頭を下げた。

 

「ありがとうございました。」

 

 その瞬間。

 

 部屋中の時計が一斉に青白く輝き始める。

 

 ――カチッ。

 

 一つの時計が、大きく時を刻んだ。

 

 青い光が知の身体を優しく包み込み、その意識は再び境界へと導かれていった――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。