——澱が積もっていく。
呪霊自体はなんてことはない低級の呪霊だった。取り込む価値すらなさそうなそれを嚥下して、村の人に案内されるがままに進む。
……村の様子がおかしいことに気がついた。それは、その村人たちが何かに怯えてる様子からも明らかだった。案内された家に向かって、怯えつつも、憎悪と、怒りを持った感情の視線が向けられている。
——澱が積もっていく。
「…………なんですか? これは」
「◾️◾️◾️(なにとは? この二人がこの一連の事件の原因でしょう?)」
「違います」
「◾️◾️◾️!(この2人は頭がおかしい! 不思議な力で村人をたびたび襲うのです!)」
「事件の原因は私がもう取り除きました」
「◾️◾️◾️!(私の孫もこの2人に殺されかけたことがあります!)」
案内されてその家の中に入ると、そこにいたのは牢に入れられた小さな二人の女の子だった。理子ちゃんよりも小さな、小さな女の子。まだ五歳、六歳といった程度の女の子たちが怯えたように二人、抱きしめ合って震えている。
「それはあっちが——!」
「◾️◾️◾️!!(黙りなさい化け物め!!)」
「◾️◾️◾️!!(貴女たちの親もそうだった!! やはり赤子のうちに殺しておくべきだった!!)」
反論さえも許されない。まだ小さな子どもの二人があまりにも無惨で、残忍で、乱雑な扱いを受けている。こんなに酷なことがあるだろうか。
指先から呪霊を呼び出してみせる。すると、彼女たちは怯えた顔をしながらも、救いを求めるような、そんな視線を私に投げかけて。
その瞳が、あの子と重なった。
呪霊を祓うことができる術師、強者たちは。呪霊に害されるだけの非術師、弱者を守ることが仕事だ。責務だ。それが、私たち力を与えられた人間たちに課されたものなのだ。
——澱が積もっていく。
そう、思ってきた。
——澱が積もっていく。
だが、この術師というマラソンゲームの果てに、この醜い猿たちを守った先にあるのが、私たち強者の屍であるなら、私たち強者が虐げられる結末に至るのならば。それならば、非術師なんて、そんなもの。
——澱は、高く、降り積もる。
「少し、外に出ましょうか」
猿なんて、駆除してしまう方がいいに決まっているのだから。
ここまで案内した村人二人を外に出す。村にいる人間の総人口は確か200に満たない。
なら、ここから始まるのは間引きだ。世界が、私たちにとっての世界へとつくり変わるための第一歩。まずはここから始めよう。
私は呪霊を呼び出した。目の前の間抜けな猿二匹には見えていないようだけれど、それで構わない。この村を襲っていた呪霊よりも階級が上の呪霊、灰原を殺した呪霊と同じ特級呪霊。
「蹂躙しろ。なるべく、苦しむように」
それはまさしく鏖殺だった。
【担当者(高専3年、夏油傑)派遣から3日後】
猿の鳴き声が村中に響き渡る。大きく、大きくこだまする声は、人間ではなくて、猿であることを示すような甲高い悲鳴。人間を辞めて、猿に生まれ堕ちた無様で哀れな存在たちを呪霊たちが痛めつける。
そうして最後は各々の好きなように殺害する。殺す。
神隠しなんてものじゃない。残穢を撒き散らして、全てを飲み込んで、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。
【旧◾️◾️村の住人112名の死亡が確認される】
もう、後戻りはできない。
それでいい。それが、私の選んだ道。
猿は嫌い。吐き気を催すほどに。猿が憎い。気が狂いそうになるほどに。
【全て呪霊による被害と思われたが、残穢により、九条詩刀子準特級術師が夏油傑の呪霊操術であると断定】
それが私の選んだ本音。
呪霊に村人を殺し尽くしてもらう。そうして、殺した後に私は先ほどの家のドアを開けた。怯えるように震えている少女たちの牢のドアを開けると、彼女たちに合わせて視線を落とす。しゃがんで目線を合わせると、オドオドとした様子の彼女たちは様子を伺うように声を漏らした。
「あ、あの……」
「あぁ、怖がらなくていいよ。私は君たちを助けにきたんだ」
「……みんなは?」
「私が殺した」
「!」
「君たちは選ばれた人間なんだ。あれらは選ばれなかった猿」
私の言葉に少女たちが聞き入る。

「これからは私が家族だ。君たちの名前を教えてくれるかい?」
「美々子……」
「菜々子……」
「そうか、美々子も菜々子も今日から家族だ」
「……貴方の、名前は?」
「私かい? そうだね。言ってなかった」
私はここ最近で一番の笑顔を彼女たちに向けた。
「夏油傑。それが私の名前だよ」
猿は嫌いだ。だけど、私は一人じゃない。
親友も、先輩も捨てて新しい道を歩き出す。それが、私の選んだ道。
二人を解放して家を出る。夜の帷はどこまでも闇の中で、猿の血で鉄臭いこの場から離れるように森に入った。
最後に、もう、人のいない村を振り返る。
『またあとで!』
後ろ髪を引くように、そんな声が聞こえた気がした。
【夏油傑は逃走。呪術規定9条に基づき、呪詛師として処刑対象となる】
× × ×
慣れ親しんだ家を出る。家の庭で待っていて貰った美々子と菜々子はどうやら蝶を追いかけていたようで、しばらく追いかけてから私に気づいたのか嬉しそうに寄ってきた。そんな二人と手を繋ぐ。私と出会ってからはこうして手を繋がないと私がいなくなるんじゃないかと不安になるらしい。
そうなるほどまでに追い込んだ猿どもは憎いが、もう死んでしまった猿に気を取られてしまっても仕方がない。だから、これからこの二人をどれだけ幸せにしてあげられるのかということに意識を割いた方がよほど建設的だ。
「それじゃあ、二人とも、行こうか」
「はい!」
「……うん」
二人と一緒に家を出た。そのまま次の目的地に向かって歩いていく。処分できるものは処分したし、今必要そうなものはとりあえず準備できた。あとは私のしたいことに合わせて積み重ねていくだけ。
「夏油様」
「うん? どうしたんだい、美々子」
私は裾を引っ張りながら声をかけてきた幼い少女のために振り返ってみせた。おどおどとした様子ではあるものの、最近は私にも少しは懐いてくれたのか甘えたり話しかけてくれることが増えた。……夏油様、と呼ばれるのは少し気が引けるが、初めはパパだったのでそっちの方が問題でやめてもらった手前強く変えるよう言い出せない。
「ねぇ、さっきの家の人は誰?」
「……知り合いだよ」
「そうなんだ」
「あぁ、そうなんだ」
二人と手を握ってちょっとした畦道を歩く。美々子は心配そうにこちらを覗っているが、菜々子はそんなこともなく、ぼんやりも歩く道を見つめていた。
「じゃあ」
「うん?」
「どうしてそんなに悲しそうなの?」
「…………」
『最近笑えてないよ』
つい最近、とある先輩に言われた言葉が脳内をリフレインする。その言葉を聞いて私は困ったように微笑んでしまった。
聡い子だ。この子たちが苦しむ未来なんてあってはならないと思うし、あるべきではないと思う。そんな世界も未来も捨て去るのが正解なのだろう。
だから、私は猿を滅ぼすことにした。
自分の決めたことをしっかりと遂行する私のことを、あの人たちもきっとわかってくれると思うから。
どうもこんにちは。波間こうどです。
ここまでこの作品は毎日投稿を続けてきましたが、ちょっと今マジで忙しくて厳しいのと、クオリティと文字数が担保できないという理由から毎日投稿を断念しようかなと思ってます。ごめんなさい。
引き続き、この物語自体は書いていくつもりですので、応援のほどよろしくお願いします。感想も、評価もお気に入りも、全部嬉しいので是非してくださいね。
懐玉・玉折以降の原作展開に突入するべき?
-
懐玉・玉折以降の原作展開へ突入する。
-
綺麗に終わるなら懐玉・玉折で終わり。