レッドキャップ:エンドゲーム   作:WhatSoon

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サノスによる大虐殺から、5年。

ニューヨーク。

 

月が上る中、私は日課に励んでいた。

 

日課、とは……散歩や、昼寝、料理、なんてものじゃない。

そんな穏やかな日々は、既に過去へ置いてきたのだから。

 

私はマスクを被り、アーマーを身に付けていた。

ヴィブラニウムとアダマンチウムの複合アーマーだ。

 

それは私を、闇夜に紛れ込ませるような漆黒だ。

荒んだ、元の持ち主が居なくなって管理もされていないアパートの屋上で、私はしゃがみ込んでいた。

 

マスクの中で、目を瞑る。

 

 

『……はぁ』

 

 

息を吐き出して、視線を落とす。

 

アパートの下。

そこには黒いアタッシュケースを手に持つ男達がいた。

片方はフランクな服装、もう片方は黒いビジネススーツ姿だ。

どちらも共づれがいて、全員で……8人いる。

 

 

『…………』

 

 

確認した私は、アパートから飛び降りた。

そして、落下速度を抑えるために壁へ、爪を立てる

ガリガリと煉瓦が爆ぜる音を鳴らす中、地面へ着地する。

 

騒音に、彼等の目が私へ向いた。

 

 

「てめぇっ、なにもん──

 

「また貴様か!自警団気取りめ!」

 

 

フランクな服装の、柄の悪い男が声を上げるより早く、ビジネススーツ姿の男が怒声をあげた。

その剣幕に、フランクな服装の男が驚くほどだ。

 

 

「殺せ!生かして返すな!」

 

 

ビジネススーツの男が怒鳴れば、どちらの陣営からも銃口が私へ向いた。

 

 

『随分と嫌われたものだな』

 

 

彼が居なくなってから、口に出すようになった軽口を叩きつつ、私は構えた。

 

フランクな服装をした奴らは、ニューヨークの外から来た麻薬の密売人……ギャングだ。

ビジネススーツ姿の男達は、ニューヨークを根城とするハンドの配下であるヤクザ達。

 

彼等の取引を止めるのが、私の目的だった。

 

 

「死ね!」

 

 

怒声と共に、彼等が発砲した。

まばらに飛んでくる弾丸を、私の反射神経は確かに感じ取っていた。

 

 

『…………』

 

 

スローモーションな世界の中、私は腕のアーマーにあるアダマンチウムの部位で弾丸を弾く。

 

 

「がっ!?」

 

 

弾いた弾丸は、彼等の手足に命中していく。

ヴィブラニウムは耐衝撃性が強いため、強く弾く事ができない。

アダマンチウムだからこそ、出来る芸当だ。

 

跳弾で3人、行動不能にさせる。

 

それを見たギャングとヤクザは、発砲を躊躇った。

瞬間、私は地面を踏み抜いた。

 

老朽化したコンクリートの破片が散る中、彼等へ肉薄する。

 

 

「まっ──

 

「ぎゃっ!?」

 

「あがっ!?」

 

 

肘鉄、回し蹴り、ストレート。

大の男が宙を舞う。

 

1人、2人、3人……ヤクザのリーダー格以外を昏倒させる。

 

 

『お前で最後だ』

 

「チッ……!いつも邪魔しやがって……俺達がお前に何したってんだよ!」

 

『何も』

 

「ふざけた野郎だ!殺してやる!」

 

 

男はそう言いつつ、腰から刀を抜いた。

そう、刀だ。

銃ではなく、刀。

 

そのことから、彼がただのヤクザではなく……忍者集団、ハンドの構成員であることを察した。

 

 

「しゃあッ!」

 

 

独特な声を共に、ヤクザが私へ刀を振るった。

あの刀は……特殊合金か?

ただの金属ではあるまい。

 

私は肘の先のパーツである、アダマンチウムで受け止めた。

 

ギャリギャリという音を立てて、火花が散った。

 

 

「なっ、大業物だぞ!?」

 

 

何だか知らんが、相当な武器らしい。

実際、アダマンチウムとぶつかって折れていないのだから。

 

であれば、油断せずに対処すべきだろう。

 

 

『鈍だな』

 

 

しかし、口では挑発する。

悪党の神経を逆撫でして、彼等の脳に“逃走”の二文字を失わせる。

 

 

「ほざけ!」

 

 

誇りを傷つけられた男が刀を振るった。

その場で、私は片足を引いて、刀を避けた。

 

 

「しゃッ!しゃあッ!!」

 

 

しかし、勢いは止まらない。

私は剣身の側面を叩いて、受け流す。

 

そして、その勢いのまま──

 

 

「しぎゃ、あっ!?」

 

 

顔面をぶん殴った。

ヴィブラニウムに覆われた拳は、ヤクザの顔面の中心を正確にぶちぬき、鼻をへし折り、吹き飛ばした。

 

 

「あ、が……が、ぁ……」

 

 

地面に転がり、痙攣している。

死んではいないだろうが、行動不能だろう。

 

 

『さて、と……』

 

 

私は地面に落ちていたアタッシュケースを手に取る。

それを開けば……白い粉がみっちりと詰まった、ビニール袋が目に映る。

 

これはチャイニーズマフィアが作った麻薬だ。

人体への害は少ない。

代わりに依存性が凄まじい。

熱に弱い代わりに、証拠の隠滅が容易い。

 

昨今、ニューヨークではこれが高値で流通している。

街を蝕む、病魔のような存在だ。

 

私はアパートの側面にあるゴミ箱に隠しておいた、液体燃料の入ったポリタンクを手に取った。

それをアタッシュケースに振りかけて、ライターをを取り出す。

 

そして、火を付けてライターごと投げ込めば……ビニールごと、麻薬が燃え始めた。

これで再利用は不可能となる。

 

アタッシュケース内の量から、市内での流通価格は数千万ドルになりそうだが……そんなことは気にしない。

 

そうして燃やしていると、背後で物音がした。

 

 

『…………』

 

 

流石はハンドの構成員か。

顔面を殴った程度では気を失わないということか。

 

襲い掛かってくると同時に反撃しようと、敢えて気付いていないフリをすれば──

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

悲鳴が上がった。

 

振り返れば……ヤクザの肩に弓矢が刺さっていた。

その姿に焦る事なく、私はヤクザに回し蹴りを放った。

 

 

「あばっ!?」

 

 

そのまま宙を回転して、空になったゴミ箱に落ちた。

彼等の寝床に相応しい場所だろう。

 

そうして私は、矢の刺さった角度から……視線を上げた。

矢を放った犯人は、非常階段の踊り場に立っていた。

 

 

『ホークアイか』

 

「違う。今はローニンだ」

 

 

黒いフード、黒いスーツ。

深い緑色の小手、悪鬼のごとき仮面。

背中に弓包、手にはコンパウンドボウ、腰には刀。

 

確かに、過去のホークアイとは姿が違う。

それでも、彼の中身を私は知っている。

だから、ホークアイと呼んだのだ。

 

 

『何の用だ』

 

「大体は、お前と同じ用だ。レッドキャップ」

 

『……ローニンと呼んで欲しいなら、私の事もナイトキャップと呼べ』

 

 

悪態を吐きつつ、私は壁にもたれ掛かった。

同時に、ローニンが側面の踊り場から飛び降りて、私の前に立った。

 

以前までなら、私と彼の間に交流など無かった。

だが、今は違う。

 

互いに、自警団として認識している。

『S.H.I.E.L.D.』に頼まれた訳でもなく、所属すらしていない。

ただただ、私怨で悪党を排除する自警団だ。

 

こうして、現場で相対する事も少なくない。

面識も出来るというもの。

 

協力関係ではないが、顔見知りの同業者。

それが私とローニンの関係だ。

 

 

「この男はハンドの構成員か」

 

『そうだ。一端のヤクザが、こんな刀を持つと思うか?』

 

 

地面に転がっていた刀を手に取り、ローニンへ投げ渡した。

 

 

「……違いない。これは業物だな」

 

『その業物というのは何だ?』

 

「ハンドが管理している妖刀だ。過去に特異な能力を持った刀鍛冶が鍛えたそうだ……素材からはあり得ないような切れ味と、硬度を持つ」

 

『なるほどな……折った方がいいか?』

 

「いや、俺が持っておこう。役に立つ」

 

 

ローニンは刀を鞘に納めて、腰へ刺した。

これで、元々持っていた刀を含めて二刀流だ。

 

 

『しかし、どうやって、この場に辿り着いた?取引の現場を知ったのは、どうやって?』

 

「……お前が情報を流した訳じゃないのか?情報屋が知っていたぞ」

 

『そんな回りくどい事はしない』

 

「チッ、拙いな……誰かの策略だろう。俺達をこの場に集める為のな」

 

 

そうローニンは言いつつ、コンパウンドボウを再展開した。

私も意識を周囲に割いた……と同時に、物音を耳にした。

 

ローニンも気付いたようで、そちらへ弓を向けたのだが──

 

 

「ようやく、見つけたわ。二人とも」

 

 

聞き覚えのある女の声に、私とローニンは警戒を解いた。

 

 

「ナターシャか」

 

 

ナターシャ・ロマノフ。

つまり、ブラックウィドウがそこに居た。

いつものスパイスーツではなく、コート姿のオフな格好だ。

 

 

「クリント、ミシェル。話があるの」

 

『…………』

 

 

その言葉にクリント・バートンことホークアイ、いや、ローニンは腕を組んで少し距離を置いた。

私も話は聞きつつ、警戒する。

 

私達は非合法な活動をしている。

公権寄りの彼女からすれば、私達は捕縛対象でもある。

 

そう警戒する私達に、ナターシャはため息を吐いた。

 

 

「そう警戒しないで。話があるだけ。別に貴方達のヒーロー活動を咎めようって訳じゃない」

 

 

そんなナターシャの言葉に、クリントは首を振った。

 

 

「これはヒーロー活動じゃあない」

 

『同感だな』

 

 

私も否定した。

私に行動は、尊敬する……愛する人の行動を真似ただけのものだ。

自分が忘れないために、彼を忘れられたくないために、行動しているだけに過ぎない。

 

こんなもの善性の行動ではない。

だから、ヒーロー活動ではない。

 

しかし、ナターシャはあまり気にしていないように見えた。

 

 

「あらそう。でも、それは重要じゃないわ。話を聞いてくれたら、いいだけ」

 

『…………』

 

 

そう口にして、ナターシャは私とローニンを交互に一瞥した。

 

 

「失ったものを取り返したくない?」

 

『どういう意味だ?』

 

「貴女は恋人や友人を。クリントは家族を」

 

 

その言葉に、私はピーターの姿を……グウェンや、ネッド、ハリーの姿を思い出していた。

5年も経って、色褪せつつある記憶だ。

それを、取り戻せる?

二度と戻ってこないと思っていたものを?

 

不可能だ。

そう切り捨てるのは簡単だ。

 

この言葉を口にしたのが、知らない奴なら切り捨てていた。

だが、目の前にいるのはナターシャ・ロマノフ。

 

信頼できてしまう。

故に警戒していると、ローニンが首を振った。

 

 

「そんな夢物語を語るために、ここに来たのか?」

 

「夢物語じゃないわ。話を聞いて」

 

「なんだ。サノスは死んだ……だが、石はもう無い。消えたものを呼び戻せない。そう話したのは、お前だろう」

 

 

ローニンの言葉に、私は頷いた。

 

サノスによる大虐殺。

そこから二年後、アベンジャーズはサノスが居る惑星を突き止めた。

 

だが、サノスは既に死んでいた。

砕けて力を失ったインフィニティ・ストーン達を握りしめながら、死んでいたのだ。

 

インフィニティ・ストーンで消えたものは、インフィニティ・ストーンがあれば取り戻せる。

その理屈は、ブルース・バナーが語っていた。

故に、信憑性のあるものだった。

 

だが、逆に言えば、『インフィニティ・ストーンに消されたものは、インフィニティ・ストーンがなければ取り戻せない』ということだ。

そしてインフィニティ・ストーンは……もう、この世に存在しない。

 

 

「……それが、取り戻せるとしたら?」

 

「やめろ……今更、希望なんて騙るな」

 

 

ローニンはマスクを付けたまま、顔を逸らした。

対して、私はナターシャに一歩近付いた。

 

 

『……取り戻せるのか?』

 

「可能性は低い。上手くいく保証もない。だけど、何もせずには諦められない……でしょう?」

 

 

その言葉に、私はマスクの中で目を閉じた。

 

陽の光の下、荒廃していないニューヨーク。

喫茶店、砂糖のいっぱい入ったコーヒー。

映画の感想を口にして、夕食の話をする。

並んで、夕焼けの中。

 

帰りたい。

会いたい。

 

私は目を開いて、マスクの側面にあるボタンを

に触れる。

順に押していけば……真っ黒なマスクが開いた。

 

 

「話を聞こう、ナターシャ」

 

 

素の声で話せば、ローニンが私に視線を向けた。

マスク越しだが、驚いているように見えた。

 

 

「……正気か?」

 

 

その言葉に頷く。

 

 

「正気じゃない。だからこそ、足掻いてみたい」

 

「……いいだろう。俺も付き合おう」

 

 

ローニンもマスクを脱いだ。

そこには、実際には始めて見るクリント・バートンの素顔があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナターシャが用意していた車、その後部座席に私とクリントは乗っていた。

ナターシャは、希望について語らなかった。

 

ワシントンD.C.にある『S.H.I.E.L.D.』の拠点に、ヒーロー達の生き残りが集まっているらしい。

そこで、どうやって消えた人々を戻すか……計画が語られるらしい。

 

ナターシャは無駄話をしなかった。

私達の存在を知りながら、彼女は接触してこなかった。

世界中の人間の半数が消えた……アベンジャーズ達も忙しかったのだろう。

個人に労力を割く余力も無かったのかもしれない。

 

負目があるのだろう。

少なくとも私は、気にしてなどいないが。

 

 

「…………」

 

 

私は視線を、隣にいるクリントへ向けた。

 

 

「……なんだ」

 

 

クリントは視線に気付いたようで、私に視線を向けた。

 

 

「いや、こうして素顔で話すのは初めてだな、と」

 

「そうか……俺は驚いたぞ。ナイトキャップが女だったとはな」

 

 

ああ、マスクを外した時の驚きは、私がナターシャに同意したことに対する驚きもあったが、私の素顔に対する驚きもあったのか。

 

 

「悪いか?」

 

「いいや……」

 

 

否定しつつ、クリントは精神的なダメージを受けているようだった。

恐らく、消えてしまった彼の家族に関する郷愁だろう。

きっと、私と娘を重ねているのだ。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

沈黙。

話すことが見つからない。

少し気まずく思っていると、ナターシャが口を開いた。

 

 

「ミシェル、貴女は何があったの?もう随分、長い間、家に帰ってなかったみたいだけど」

 

 

彼女の言う家とは、アベンジャーズ・マンションのことだ。

私がこの、ニューヨークの悪党を排除する活動を始めてから帰っていない。

 

 

「帰るつもりはない……帰っても、辛いだけだ」

 

「そう?なら引っ越す?」

 

「……そういう話じゃない」

 

 

安眠できる寝床などない。

胸の中にある漠然とした喪失感と怒りが、消えはしない。

 

 

「そうやって自分を傷付けてばかりいることを、誰も望んではいないわ」

 

「知っている。だが、仕方ないだろう?私はそういう人間だ」

 

 

私の言葉に、運転席からため息が聞こえた。

 

 

「というか、昔のような喋り方はしないの?」

 

「昔の?どういう意味だ」

 

「昔はもっと違ったでしょ?今は……そう、堅苦しいし、威圧的」

 

 

ナターシャの言葉に、私は顔を顰めた。

 

 

「時間が経った。人も変わる。喋り方なんて、その最たる例だ」

 

「そうかしら。私には……仮面(マスク)を脱ぐ機会を失っただけに見えるけど」

 

「そうだとしても、なんだ?何が言いたい」

 

「せめて、私の前でぐらい、そう張り詰めずにマスクを脱ぐべきだって……そう言いたいだけよ」

 

 

馬鹿馬鹿しい。

私は腕を組んで、視線を窓の外へ向けた。

 

寂れたニューヨークを出れば、治安も戻ってくる。

それでも夜中、出歩く人はいない。

 

サノスによる全人類の半分が消えた時、世界は混乱の渦に叩き込まれた。

幾分かマシになったとはいえ、悪いものは悪いままだ。

 

職を、家族を、家を、日常を失い、人も街も荒れ果てていた。

 

 

「無理だな。こんな世界で、私だけ穏やかに生きられる筈がない」

 

「そう……なら尚更、消えた人達を助けなきゃね」

 

「…………」

 

 

そう言われると、黙るしかない。

どうやって消えた人を助けるのだろうか。

インフィニティ・ストーンはもう無いというのに。

 

不思議に思いながらも、私は車に揺られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車に揺られること、数時間。

私達はワシントンD.C.に存在する、『S.H.I.E.L.D.』の研究施設に到着していた。

 

一度、コテージで着替えたため、私もクリントも私服姿だ。

 

 

「ここが今、私達の拠点よ」

 

「……そうか」

 

 

クリントと私は車から降りて、ビルを観た。

中々に巨大なビルだ。

そう思いつつ、ナターシャの後ろを追っていると──

 

 

「……ナターシャさん、この人達は?」

 

 

タコスを食ってる男が話しかけて来た。

玄関前でベンチに腰掛け、覇気もなく、見るからに一般人だが、この場にいるということはヒーローだろう。

 

そんな彼を見て、ナターシャは気怠そうに頷いた。

 

 

「クリントとミシェル。クリントの方はホークアイって言えば分かるかしら」

 

「ああ、ホークアイ!知ってるよ、よろしく」

 

「…………」

 

 

男がクリントに握手を求めたが、クリントは黙って通り過ぎた。

昔の彼なら握手ぐらいしただろうが、今の彼は荒んでいる。

 

男はその様子にショックを受けたようで、落ち込みつつもナターシャに視線を戻した。

 

 

「ホークアイってあんなに無愛想だったか?」

 

「色々あったの」

 

「そっか……まぁ、色々あったもんな。それで、ミシェルだっけ?よろしく」

 

 

気を取り直して、男が私に手を向けてきた。

それを無碍に出来るわけもなく、私は手を握り返した。

 

 

「よろしく。それで、そちらの名前は?」

 

「ああ、言ってなかったか……俺はスコット。スコット・ラング……アントマンだよ。知ってる?」

 

 

名乗りに、私も理解した。

そして、頷いた。

 

 

「知っているとも。前に一度、会った事もある」

 

「そうなのか?何処で?もしかして、アイスクリーム屋?」

 

「マドリプールだ」

 

「……あー、そこね。あれ?本当に会った事ある?俺、記憶力には自信があるんだけど」

 

「あの時は、レッドキャップと名乗っていた」

 

 

私の言葉に、スコットは驚いたような顔をした。

 

 

「それ本当か!?いや、本当なんだろうな……嘘を吐く理由もないし。いや、こんな別嬪さんだとは知らなかったよ」

 

 

その言葉に眉を顰めた。

アントマンことスコットがお調子者なのは分かるが、露骨なお世辞というのは耳障りがよくないものだ。

 

そんな私を見て、ナターシャがため息を吐いた。

 

 

「スコット、それセクハラ」

 

「え!?いや、そんなつもりじゃ……ごめんよ」

 

 

スコットに頭を下げられて、私は首を振った。

 

 

「いや、いい。別に傷付いた訳じゃない」

 

「そ、そっか……なら良かった」

 

 

スコットは安堵した。

そんな彼の肩を、ナターシャが叩いた。

 

 

「ミシェル。こんな所で道草食ってる奴なんか無視して、ミーティングルームに行くわよ」

 

「え、いや、食べてるのは道草じゃなくてタコスなんだけど……」

 

「あっそ」

 

 

食べかけのタコスを掲げるスコットを無視して、ナターシャがビルへ入っていく。

慌てて、私もスコットを無視して後ろを付いて歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーティングルームに到着すれば、既にクリントが入っていた。

クリントは知己であるバナーと話していた。

 

部屋に入ってきたナターシャと私には気付いていない。

そんな中、一人……いや、一人?

一匹のアライグマが私に近付いてきた。

二足歩行で、服を着たアライグマだ。

 

 

「おうおう、新参か?誰で、何者だ?」

 

 

しかも、言葉を喋っている。

驚きだ。

 

 

「ロケット、彼女はミシェル。『S.H.I.E.L.D.』のエージェントよ」

 

 

その様子にナターシャは驚く事もなく、落ち着いて反応していた。

対して、私は首を横に振った。

 

 

「元、だ」

 

「あら、解雇した覚えはないけど。休職扱いじゃないかしら」

 

 

顔を顰めていると、ロケットと呼ばれたアライグマが笑みを深めた。

 

 

「気の強そうな嬢ちゃんだな……俺はロケットだ。よろしくな」

 

「……ミシェルだ。よろしく」

 

 

膝を折って目線を合わせて、私はロケットと握手した。

毛はゴワゴワしていたし、肉球は硬かった。

 

そんな私達に対して、一人の男が近付いて来た。

 

 

「驚かないんだな、ロケットを見て」

 

 

トニー・スターク……アイアンマンだ。

今はハイテクなスーツを身に付けておらず、シャツとGパンというラフな格好だ。

……まぁ、私も人のことは言えない。

シャツとチノパン、スニーカーだから。

 

 

「充分、驚いているよ。スターク」

 

「……君は随分と変わったな?僕の方が驚いてるよ」

 

「変わったか?」

 

「ああ、僕の知ってる君はもっとこう……自信がなかった」

 

「なら今は自信があるように見えると?」

 

「……いや、気を悪くしないで欲しいんだけど……こう、強がっているように見える」

 

 

スタークの言葉に、私は顔を顰めた。

 

 

「……色々あったからな。こうもなる」

 

「それは納得で、同感だ。君が前みたいに戻れるよう、僕も努力するよ。君の彼氏さんの件もね」

 

 

スタークとピーター……どちらかというと、スパイダーマンは交流があった。

悪魔によって私と同様に、一度記憶は消されてしまった筈だが……元々、彼等は交流があったらしい。

ピーターは正体を明かして居なかったそうだが、それでもヒーロー活動中に顔を合わせる事は多々あった。

 

その時に私のボーイフレンドだと話した事があった。

……今はその話をして欲しい訳ではなかったが。

 

 

「……まぁいい。それで、どうやって消えた人々を戻すつもりだ?」

 

「タイムトラベルだ」

 

「……タイムトラベルだと?」

 

「そうだ」

 

 

私は眉を顰めた。

素っ頓狂で、おおよそ科学者であるスタークから出て来ないであろうSF用語が飛び出したからだ。

 

SFとは、サイエンス・フィクション。

つまり、フィクションの世界だ。

 

時間旅行なんて、科学より魔法の領域だろう。

スタークじゃなくて、ドクター・ストレンジが口にした方が納得できる。

 

 

「バック・トゥ・ザ・フューチャーの見過ぎじゃないか?」

 

「そうじゃない。確実な理論を元に存在する理屈だ」

 

 

そう言い切るのならば、確かに実現できるのだろう。

だが、時間旅行が出来るとして、どうやって消えた人々を戻すのか?

少し考えて、私は口を開いた。

 

 

「……過去でサノスの妨害をして、指パッチンをさせなくするということか?」

 

「いいや、違う。ブルース、少しいいか?」

 

 

呼ばれたブルース・バナー博士が近付いて来た……のだが。

何故か、肌が緑色だ。

 

 

「なんだい、トニー」

 

「彼女に今回の『石泥棒』計画をご教授願いたい」

 

 

何だか身長も大きい。

2メートルぐらいあるんじゃないか?

ハルクとブルース・バナーの中間……そんな気がした。

 

 

「どうも、初めまして。僕はブルース・バナーだ

 

「ミシェル・ジェーン……よろしく」

 

 

握手してみると、やはり力が強い。

彼は今、バナー博士のようだが、ハルクの力もあるのだろう。

私の知らない間に随分と変わったようだ。

 

 

「今回の作戦に関して、過去は変えない。(ストーン)を借りてくるだけさ」

 

「……先程の作戦は取れないということか?それこそ、過去でサノスを殺したり、とか」

 

「できないんじゃない。意味がないんだ」

 

「どういうことだ?」

 

 

私が問うと、バナー博士はホワイトボートに絵を描き始めた。

 

 

「左が過去、右が未来だ。この間にある線が時間……右にいる僕達が、左で何か改変をしたら?」

 

 

そして、未来の下にIFと書かれた図を増やして、時間軸の線を分岐させた。

 

 

「過去を改変しても、未来は変わらない。世界が分岐するだけだ。だから、過去に影響を及ぼす事は意味がない……別の未来が出来るだけだから」

 

 

その言葉に、私は納得した。

 

 

並行世界(マルチバース)理論か?」

 

「そう!つまり、過去を改変しても意味がない。だけど、過去から何かを借りて未来で活かすことができる」

 

「……サノスが(ストーン)を壊す前に回収して、この時間軸で消えた人々を復活させる?」

 

「そうだ!よく分かってるじゃないか……全てが終わったら、僕の授業を受けてみないかい?大学で教授をやっているんだ」

 

「……考えておこう」

 

 

バナー博士は何が面白いのか、少し興奮しているようだ。

そんなバナー博士から目を逸らして、スタークを一瞥した。

 

 

「それで、私の役割は?」

 

「君は楔だ」

 

「楔?」

 

 

意味の分からない言葉に首を傾げると、バナー博士が頷いた。

 

 

「君の目は特殊だ。並行世界、過去や未来を観測できる。その目を介して、万が一の場合はタイムマシンの装置を強制起動させて、過去に飛ばした人達を回収して欲しいんだ」

 

「私が?そんな重要な役を?」

 

「君にしか頼めない。なに、そうトラブルは起きない筈だからね。過去に飛ぶのも僕達だけだ」

 

 

ここで断る事は出来る。

だが、断っても彼らは作戦を決行するだろう。

私がいれば成功率が上がるとしても、居なければ実行しない理由にならないからだ。

 

私は保険だ。

あれば嬉しいが、なくても死にはしない。

 

であれば、どうすべきか。

 

私の脳内には友人と、恋人達が映ってた。

あれから、五年も経った。

すっかり、彼らより歳上になってしまった。

再開しても、前のような関係を続けられるか不安だ。

 

それでも……みんなには、幸せになって欲しい。

 

 

「分かった。手伝おう」

 

 

だから、私は頷いた。

正義感ではなく、ただ、自分のために。

 

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灰被りの蜘蛛(作者:BNDに脳を焼かれたやつ)(原作:スパイダーマン)

▼2012年、ニューヨークが襲撃を受けて。▼救命士だった私の叔父、ベン・パーカーは。▼良き隣人として、誰かを助けようとして灰になりました。


総合評価:7032/評価:8.96/短編:12話/更新日時:2026年09月12日(土) 02:28 小説情報

【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話(作者:WhatSoon)(原作:MARVEL)

マーベルコミックの世界に転生してしまったスパイディオタクな元男の話。▼悪役(ヴィラン)になってしまった元男の少女がスパイダーマンを追っかけたり、ピーター・パーカーと仲良くなったり、曇ったり、曇らせたり、死にかけたり、殺したり……。▼各実写映画版や原作コミックとは関係のない平行宇宙の話として書いています。▼主にスパイダーマン関係が主軸です。▼※原作未視聴/未読…


総合評価:46338/評価:9.22/完結:151話/更新日時:2026年08月13日(木) 18:00 小説情報

エセ・スパイダーマンがノー・ウェイ・ホームに参戦する話(作者:マッキーガイア)(原作:スパイダーマン)

やぁみんな!僕はノリと勢いでスパイダーマンになった男だよ!▼スパイダーマンがいない世界で著作権フリーとばかりにスパイダーマンのコスプレしちゃったら大いなる責任が伴っちゃった感じの人です。なんかノーウェイホームに参戦するらしい。終わったね!神作が


総合評価:6033/評価:8.16/連載:8話/更新日時:2026年09月11日(金) 16:03 小説情報

姉様、姉様、ごめんなさい(作者:イエスアマゾネス)(原作:Fate/)

死亡フラグ100%の種族にTS転生


総合評価:3334/評価:8.46/連載:5話/更新日時:2026年06月02日(火) 03:02 小説情報

TS生体ユニットの幸せ余生計画!(作者:鰻重特上)(オリジナルSF/恋愛)

「目指すは快適な生体ユニットライフ! レッツ、快適な余生!」▼ ロボットアニメとSFが好きな普通の男子高校生が、鬱ゲーまっしぐら、みたいなSF宇宙世紀にTS転生して、生体ユニットの少女(余命数年)として「幸せな余生」を目指して頑張るお話。▼今回の被害者:相棒のパイロットくん。


総合評価:13642/評価:9.13/完結:16話/更新日時:2026年05月03日(日) 19:00 小説情報


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