ステフェン・ポッター視点で送る、母港のちょっとした騒ぎ
※登場するKAN-SENは全てケッコン済です

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ステフェン・ポッターとZ級指揮官

 ぼくはユニオン所属、フレッチャー級駆逐艦のステフェン・ポッター。

 今は「遠洋海域における大規模作戦」のために遠征に行った指揮官に代わって留守番の真っ最中!

 これは報告用の航海日誌のようなもの。秘書艦――留守中のKAN-SENたちのまとめ役に指名されちゃったからねー。指揮官が帰ってきた時の報告用も兼ねてっと。

 ぼくじゃなくてレナウンとか高雄とかエセックスとかもっと相応しい娘はいると思うし、そう進言したんだけど「真面目過ぎて抱え込むからやめておく」だって。ぼくも真面目なんだけどなー。

 というわけでこれは、ある日ぼくが指揮官の執務室に出勤した時のお話。

 

 その日、ぼくがいつも通り朝の8時ピッタリに執務室のドアを開けた時。

「ハッハー!新指揮官はこの俺!Z1様だ!!!」

 指揮官がいつも座っているデスクの上に仁王立ちになった鉄血のZ級駆逐艦たちの長女、Z1(レーベレヒト・マース)、通称レーベが高らかにそう宣言した。デスクの周りにはZ24(ニーシェ)、Z36、Z43(フィード)Z47(フィーズ)らZ級駆逐艦と撫順、アバークロンビー、水無月がいる。どういう面子?

「あの、新指揮官って、なに?」

 ぼくは当然の疑問を口にした。当たり前じゃん、わけわかんないし。

 レーベは待ってましたと言わんばかりにタブレットをこちらに見せてくる。

 その画面には「一日指揮官任命書」という文字と「Z1に一日指揮官として権限の一部を移譲する」という内容の電子契約書があった。

「昨日リモートで指揮官とゲーム勝負をしたんだが、その時の賭けでアイツは「指揮官としての権限」を賭けてきたんだ。だから俺様が本気を出してコテンパンにしてやったというわけだ!」

 レーベが自慢げにふんぞり返る。机からは降りて欲しいかな。

 レーベは身体能力・戦闘能力も高くて頭もいい。オレ様なところを除けばとても頼りになる仲間だ。というか指揮官、人間がKAN-SENの反応速度に勝てるとホンキで思ったのかな?

「つまり今日からはこのレーベ様が指揮官というわけだ!」

「権限の移譲は一部だけだし、一日だけの筈だけど?」

「フン!一日もあればオレ様がこの母港の全権を掌握してやるさ!」

 なるほど、クーデターね。まぁレーベなら出来そうだよねー。強い戦艦とか重巡とかのKAN-SENはだいたい遠征に行っちゃったし。力押しだけじゃなくて交渉も得意だし。

「「「レーベ指揮官、バンザーイ!!!」」」

 周りのZ級駆逐艦たちと撫順、アバークロンビー、水無月がレーベを称える。Z47だけいつも通りスマホ弄ってら。

「レーベ指揮官は執務室の隠し通路とか隠し扉とか探し放題だって!」

「イヒヒ!スナック食べ放題って最高じゃん!」

「イタズラ好きほうだい!さいこー!」

 撫順とアバークロンビーと水無月が楽しそうに笑い合っている。……買収されちゃったかー。

「ヒューマンの従僕よ!共にデビルの暗黒面を極めようではないか!」

「グラナートの魔眼において命ずる!蠱惑の力と共に戦って欲しいってこと!」

「宿命の付き人よ!この誘惑を幸運に思うがいい!」

 Z24、Z36、Z43がよく分かんないポーズで相変わらず何を言ってるのかよく分かんないことを言う。ニュアンスは分かるんだけど……ぼくを勧誘してるっぽい?

 レーベガ机から飛び降りてぼくの目の前まで歩いてくる。そしてぼくの顎をクイっと指であげる。……身長、あんまり変わらないから、ときめかないね。

「そうだ、秘書艦ステフェン・ポッター!このレーベ様と手を組め!オレ様ならもっと良い待遇で迎えてやる!」

「ぼくはそういうのはいいよ」

 大切な権限を賭けに出しちゃうようなのに義理立てするつもりはないけど、ぼくは今の地位に満足してるんだ。

「シッキー……いないじゃん……」

 ずっと俯いてスマホを弄ってたZ47がようやく口を開いた。

「シッキー、いるっていうから付いてきたのに……」

「おぅ!フィーズ、今はオレ様が指揮官だ!」

 Z47にとっての指揮官はたぶん一人しかいない。レーベでは代わりにならないんだね。

 その時、執務室のドアが思い切り勢いよく開かれた。

「レーベ!それに皆!何してるんですか!!!」

「レーベくん、迎えにきました。はい」

 Z23(ニーミ)と、それからZ2(ゲオルク・ティーレ)だ。

「げ!ニーミ!ティーレ!」

 Z級駆逐艦の中でレーベに口出し出来る数少ない存在、それがZ23にZ2だ。特にZ2は……自分の手に装着した艤装に「レーベくん」と名付けてるのに、レーベを強く尊敬?しててそれでいて容赦がない。

「フィーズが、呼んだ。シッキーいるって言ったのにいないから」

 それでスマホを……いや、Z47はいつもスマホ弄ってるか。

「だからどうした!今のオレ様は指揮官だ!KAN-SENへの命令権だって…」

「それは委譲されてないよ」

 悲しいね。指揮官としての特権の一つ、KAN-SENへの命令権は書類には書かれていなかった。指揮官、これを見越して……?いや、指揮権とかを賭けの対象にするのがそもそもの間違いよ。

「だが!数はオレ様の圧倒的有利だ!」

「失礼します。えぇ」

 一瞬でレーベの背後に回り込んだティーレが手刀をレーベの首の後ろに叩き込み、あっさりと気絶させた。恐ろしく早い手刀、KAN-SENでなきゃ見逃しちゃうね。

 ティーレは指揮官本人だろうと容赦なく投げ飛ばしたり腕を捻ったりするから、命令権とかあっても意味なかったかもね。

「レーベくんが失礼しました、はい」

 ティーレが気絶したレーベをずるずると引き摺って執務室から出て行く。

「ほら、他の皆も帰りますよ!帰ったらお説教です!」

「「「はい……」」」

 大将を喪ったZ24、Z36、Z43もまたあっさり投降した。Z47は相変わらずスマホを見つめたまま、彼女らの後ろについていく。ちょっとだけ笑ってるのは指揮官本人から返信でも来たのかな?

「ステフェン・ポッター秘書艦、この度はご迷惑をお掛けしました!」

 ニーミは律儀に頭を下げて出て行った。

 残るは撫順、アバークロンビー、水無月の三人だけど……。

 混乱に乗じて指揮官のデスクの鍵が掛かった引き出しを開けようとしてる。鍵は指揮官が持ってるから開けようがないんだけどね。

「撫順!また執務室を荒らすような真似を!」

 ニーミたちと入れ替わりに執務室に入ってきたのは撫順の姉の鞍山(アンシャン)だ。

「うわっ!鞍山姉さん!まだ何もしてないと……思いますぅ……」

 こっちも大丈夫そうかな。撫順が無力化されてアバークロンビーも水無月もやる気をなくしたらしい。項垂れた撫順と一緒に執務室から出て行く。

「バイバーイ、秘書艦!イヒヒ!」

「あーおもしろかった!つぎは何しようかな!」

 いや、反省してないね、あれ。あとでフッドと……天城は遠征組か、じゃあ長門?報告しておくかー。

 そうしてレーベクーデター未遂事件は数分で片付いた。

 

「ハハハ!そいつは傑作だ!」

 画面の向こうでU96が爆笑してる。

 ぼくが今日起きたレーベクーデター未遂事件を話したからだ。

 秘書艦業務が終って就寝する前にオンラインでゲームしながら通話してるトコ。爆笑しながらでも全然腕前が落ちないのは流石だね。

 U96は鉄血潜水艦だけど、意外と話合うんだよねー。たまにこうやってゲームしながら他愛のない会話をするんだ。

「ぼくもちょっと楽しかったけどねー」

「そういや指揮官は、お前や留守番組が暇にならないよう、ワザとやったんじゃないのか?」

「そんなまさかー」

「本気でレーベがクーデターをやるにしても、ニーミにティーレに残ってる戦艦や空母を全員どうにか出来るとは思えないけどな」

「それは、そうだね」

 ホントのところはどうだろうね。

 そんなカンジで会話をしてゲームして、その日は就寝。

 もう新指揮官なんて出てきませんように!そう、ぼくは軽くお祈りをして眠りについた。

 

「ハッハッハー!今日からこの母港の新指揮官は、雪風様なのだー!!!」

 翌日 、いつも通り朝8時ピッタリに出勤したぼくに、満面の笑みを浮かべた雪風がタブレットを掲げていた。そこには「一日指揮官任命書」と書かれた電子書類が……。

「この雪風様にくじ引き勝負なんて挑むのは指揮官くらいなのだ!賭けの報酬として「一日指揮官権」、勝ち取ってやったのだー!」

 ぼくは頭を抱えた。


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