アプレ・ラプルイの朝日 〜幽閉から始まる神喰らいの英雄譚〜   作:鹿鳴弥

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アルターという少女

 

 

 

 

 

 夜、十八時。

 冒険者ギルド【伯方】支部。

 ギルド受付前にあるテーブルの酒盛りも一層賑やかになり、夜の帳が降りた建屋。

 

 一人の巨漢が扉を開けた。

 

「あら、ヴァルガスさん。おかえりなさい」

 

 受付嬢がにこやかに声をかける。

 

「フーム。ああ、ただいまァッ!」

 

 衝撃波のような大声が響き渡った。

 

 精悍な男だ。

 つるりと光る剃髪(ていはつ)の頭。二メテルに届く巨躯には甲冑と西洋鎧を混ぜた特徴的な鎧を身に纏っている。

 背には彼の体躯をしてなお巨大と言える、竜をあしらった大剣。

 

「ヴァルガス・ガンバード。今帰参したァッ!」

 

 両手が打ち合わせられ、轟音と共に衝撃が響き渡る。

 

 対する受付嬢は慣れたような扱いだ。

 雄叫びのようなヴァルガスの大声をにこやかに受け流し、ヴァルガスを奥へと案内する。

 

「ヴァルガスさん、ちょうど良かった。明日の試験なんだけれど、募集生徒が揃ったの。当日の試験申込みがなければ、このメンバーで確定。

 それにしても有望な子が二人も来てくれるのよ! エディンくんとリリアちゃん! しっかり見てあげてね!」

「フーム。拝見しよう」

 

 奥の部屋に回されたヴァルガスは受付嬢から資料を受け取り、提灯に火を灯して資料に目を通す。

 

 机に資料を起き、一枚一枚丹念に読み通していく。

 

 銀級冒険者、ヴァルガス・ガンバード。

 

 質実剛健でありながら豪快な性格の持ち主。三十になる前に銀級迷宮、【赤竜の棲家】を踏破した傑物だ。

 何よりも彼に箔をつけているのは、大戦の生き残りであることだろう。

 

 今尚続く悪夢の戦争、生存率が四割を切る<魔人戦線(まじんせんせん)>を五ヶ月生き抜いた人物。

 

 そんな彼は情報の大切さを、後進の育成の重要性を身に沁みて理解している。

 

「一人でも多く、立派に育ってほしいものだ」

 

 ヴァルガスは独りごちる。

 冒険者試験の監督を務めたがる者は少ない。理由は単純。退屈な上、儲からないからだ。

 

 彼が冒険者試験の監督を請け負うのは、一人でも多く立派な冒険者を輩出し、また生き残って欲しいという想いがあるからだろう。

 浪漫の裏にある血腥い現実を、誰よりもよく知っているからこそのつぶやきであった。

 

『あれ〜ぇ? ヴァルガス君じゃーん!』

 

 豪快な堅物の前に、軽薄な女性の声が響く。

 

 ぬるり、と影が魔法陣を描き、一人の女性を形作った。

 

「…………これはこれは、リーリエ・アモン殿」

 

 ヴァルガスの声音が硬くなる。

 現れた女性は、黒い和服を着崩した女性。

 

 煙管を持ち、うなじを見せた女性。

 肩口で切りそろえた白髪に、猫のような緑色の瞳。

 

 口元にはニヤニヤとした笑みが浮かんだ彼女――。リーリエ・アモンからは只者ではない気配が醸し出ていた。

 

「そー固くならなくていいよぉ! (これ)は遊びに来ただけなんだからさぁー。そんな態度取られちゃうと、悲しくなっちゃうよ」

 

 よよよ、と涙を拭う仕草をしながらリーリエはヴァルガスの手元をじっと見つめていた。

 ヴァルガスの眉に皺が寄っている。

 

 無作法を怒っているのではない。単純にこの女性が――。この御仁が苦手なのだ。

 

「へー! これ、明日の試験の名簿じゃーん!」

 

 いつの間にかリーリエはヴァルガスの隣に移動し、ヴァルガスの肩にしなだれかかっていた。

 ヴァルガスの眉がつり上がった。

 

「うははっ、雑魚がたくさん群がってんじゃん。おもろ」

「アモン殿。将来有望な少年少女を捕まえてそのような呼び方は感心しませんな。御用がお済みでしたら、どうぞお帰りになられては?」

 

 ヴァルガスはリーリエを静かに振り払い、指先で出口を指した。

 自由奔放。無責任。

 

 自由なのはいい。だが、無責任に動いては場をかき乱し、実力だけに物を言わせて周囲を考慮せず動く彼女が、ヴァルガスは虫唾が走るほど苦手だった。

 

「え? 銀級のヴァルガスくん如きが、此に命令とか。――うはは、偉くなったじゃん」

 

 リーリエは目を細め、ニタニタと笑いながら威圧する。

 巨漢はそれだけで、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。

 

 その隙にヴァルガスから資料を奪い取り、リーリエは資料に目を通す。

 

「絵太郎、錦ノ助、石上モーリス……。うーん、名前からして凡も凡。パッとしなさそうなのが多いなー……んん?」

 

 リーリエはつまらなさそうに書類に目を通していく中で、一人の人物のところで目が止まった。

 

「……このエディンって子とリリアちゃんって子の推薦人――」

「ああ、イルク殿と言う冒険者ですな。確か、銀級の冒険者だったと――」

 

「うははははははっっ!」

 

 リーリエがヴァルガスの言葉を聞いた途端、腹を抱えて笑い始めた。

 

「そうか! そうなんだ! へー!! 戻ってきたんだ! イルク! いや!」

 

 リーリエは静かに笑いを止め、月を背景に立ち上がる。

 

「――フレドリクス・アイネイアス!」

 

 リーリエは獰猛に笑い、丸めた書類をヴァルガスに返した。

 

「いいね。なら、明日の冒険者試験は此が試験官をやろう。ヴァルガスくん! 此の手伝い、よろしくね」

「えっ」

 

 リーリエはヴァルガスに要件だけ伝え、楽しそうに笑うとこの場から去っていった。

 ヴァルガスは頭痛を堪えるようにため息をつき、別の本を取り出す。

 

 リーリエ・アモン。

 二つ名は<生体艤装(せいたいぎそう)>。黄金級冒険者にして、迷宮都市国家の誇る超越者の一人。陰陽道、魔法、錬金術を最高レベルで修める猛者であり。

 

 ――【迷宮都市国家 メーヴェ・ジ・パン】が誇る、国家最大戦力である。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 宿の底。

 異空間の底で、机が1つ。大机の上に教材が二つ並んでいた。

 

 意識を集中させる。

 目の前にあるのは魔導書。しかし、内部にある術式は絡み合う蛇のよう。

 

 少しでも解き方を誤れば、精神の一部が乗っ取られかねない。

 細心、かつ最大限に魔力制御を研ぎ澄まし——。

 

「できた!」

 

 魔導書が光った。

 本に閉じられた魔力が解け、中の文字が顕になる。

 

 ……読めない。文字が踊っている。魔力を正しく流さないと、正文にならないタイプか。

 

 魔力を流し、文字を整列させて読む。しかし、まともに読んでもトンチンカンな内容しか記述されてない。

 暗号か。東塔でもよくあったなぁ……。このタイプ。

 

 ま、幸いなことに暗号鍵の一部は表紙にあるこれを当てはめれば……。うん、意味が通る。視線誘導の術式もないから、読んでもいきなり廃人になることはないだろう……。

 

「あ——!」

 

 魔導書が収縮、目の前で爆発した。

 紙吹雪が部屋に舞い、煙があちこちから湧き出ている。

 空には色付きの煙が漂い、「残念でした!」と浮かんでいた。

 

 ご丁寧なことだ。焚いてやろうかこの魔導書ボケが……!

  

 隣からはカリカリと羽根ペンの滑る音とインク壺に羽根ペンを入れる音が響き。

 

「慣れよぉ……」

 

 隣に座るリリアは、限界そうな声とともに倒れ込んだ。

 

「むむ……」

 

 リリアの回答の丸つけを手伝っていた僕、エディン・イラ・リステリアは困りに困っていた。

 冒険者試験の過去問題だけど、リリアが完全正答に一歩のところで届かない。

 

 問題数は全部で五十問。

 聞いたことがない問題がほとんどだけど、そんなに難しい問題でもない。

 だが、リリアはあと一歩のところで誤答する。

 

 ほむ……。

 

 顎に手を当て、空中にある知恵の輪を魔力操作でバラした。

 

 鉄の輪が解け、術式が解除される。

 制限時間内に、魔力操作のみでこの知恵の輪を解かなければ爆発する、という代物。

 

 リリアと僕は明確に用意されていた問題が違った。

 彼女は冒険者試験の過去問と対策のみ。僕はなんか、殺意に満ちた魔導書のオンパレードが鎮座。

 

 暗号化され、文がとびとびなのに解読しないと発狂する魔導書やら、正確無比な魔力操作を施さなければ殺しにかかってくる石板やら、物騒なものがとにかく多かった。

 

(面白かった)

 

 ところどころ苦戦したが、なんとかリモルさんからの課題をぶちのめした。完遂こそ出来なかったけど、生きてるからそれで良しとする。

 

 こちとら東塔でずっと魔力操作鍛えてきたんだ。今更この程度の魔力操作で苦戦……したけど、クリアできないほどではない。

 

 リモルさんが僕に用意していた魔法の教材はすべて解き終わった。

 原素に関する知識から魔法陣学、魔導書学。

 魔法構築や型について結構タメになるものが多く、参考になった。

 

 冒険者試験の過去問も、リリアの添削をしている間に覚えられたし、一石二鳥だねってことか。

 はははは、いつかしばいてやるからな、あのドチビ魔法師。

 

「なんでエディンは余裕でクリアしてるのよー……。理不尽よー……!」

「思ってたより楽しかったからね。腹立ったけど」

 

 魔導書って呪詛とか飛ばしてくるんだ。

 解呪に苦労したよ。だけど、とても勉強になった。今後の魔法創作の際に役に立つだろう。

 

 ……そもそも魔導書ってそんな普及してるもんなのか?

 

「でも、近づいてきてるよリリア! さっきは96点、今回は98点だよ! たぶん次はいける! もっかいやってみよう!」

「無理ー……」

 

 完全に倒れ込んだリリアはうめき声と共にコートを頭からかぶり、貝のようになってしまった。

 

「んー……」

 

 リリアの解答を見ながらポン菓子を頬張る。

 彼女のテストは悪いわけではない。むしろ良いように感じる。同じ誤答はしないし、次に必ずつなげている。

 だけど、どうにも途中で集中力が切れてしまうという感じだ。

 

「ねー、リリア。リリアは勉強嫌い?」

「嫌いよー……。机に座ってガリガリペン動かしてるだけなの、どうにも背中がムズムズするのよ」

 

 リリアはぶんぶんと頭を振って答えてくる。

 なるほど、動いてないのがリリアにとって嫌なんだな。それそうか。三度の飯より剣が好き、って感じの女の子だし。

 

 剣もいいけど、三度の飯のありがたさと旨さ、忘れないでくださいね。

 

 何はともあれ、そういうことなら話は早い。

 

「リモルさん。ちょっとここから出してもらえませんか?」

 

 《蒼眼》のピントを絞り、外にいるであろうリモルさんに話しかける。

 返事は返ってこない。しかし、外のリモルさんの耳が反応しているのは視えた。

 

「リリアの気分転換をしてあげたいんです。しばらく外に出たいので、出してください」

 

 リリアに足りないものとは、何か。

 外出だ。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 外はすっかり暗くなっていた。

 街では提灯に火が灯り、障子の向こう側から漏れる光が相まって道を照らしている。

 

 お酒臭く、あちらこちらで飲めや騒げのどんちゃん騒ぎ。

 元気だなぁ。冒険者が多い街だからだろうか。それともここが貿易港だからだろうか。

 

「――いいわね」

 

 リリアが復活してきた。

 さっきまでは萎びたほうれん草みたいになっていたのに、今では充実した顔つきのリリアが戻ってきていた。

 教本をめくりながら歩いている。ぶつからないようにリリアの手を引き、【伯方】の街を適当にぶらついている。

 

「よかった。じゃ、色々見て回ろっか。イルクを心配させちゃうし」

 

 外出の許可をもぎ取るのは大変だった。

 イルクが同行するって聞かなくて……。来てくれるのは嬉しいんだけど、むさ苦しい男二人でリリアを挟むのはなんか、アレだし。

 

 僕かイルクかのじゃんけん勝負の結果、僕が勝ったので今はここに来ている。

 門限やら厳しい条件はたくさんつけられたけど、まああと二時間はある。ゆっくり遊びながら勉強していこうと思っている。

 

 でもイルク、お小遣いは二〇〇万テレスもいらない。

 屋台の食事が二〇〇テレスなのに、なんでその万倍の金をくれるんだ。バッグがお金だけでパンパンだ。

 

 イルクの過保護っぷりに苦笑しつつも、《蒼眼》で当たりをつけながら、良さげな店を探す。

 

「リリア。売店で売ってるあれって熾紅玉(ルビー)だよね? 迷宮のどの深度で取れるんだっけ?」

輝鉱七種(きこうななしゅ)ね」

 

 リリアがドヤ顔で答えてきた。

 

「すごい! 正解だよ!」

 

 これはリリアに一度も出していない問題で、さっきリリアが捲っていたページの問題だ。

 やっぱりそうだ。リリアは動きながら問題を教えたほうがスムーズに頭に入る。

 

 リリアは頭が悪いんじゃない。身体を動かして物を覚えるタイプなんだ。

 

「これなら銀貨で買えるだろうし、リリアの髪飾りししたらどうかな?」

「——いいの?」

 

 リリアがこちらを覗き込むように見てきた。

 

「もちろん。リリアに似合いそうだし。ええと、金額は……」

「5000テレスね」

 

 店主さんが看板へ指を向ける。

 看板には5000テレスの記載。

 イルク曰く、5000テレスでちょっといい高級品が買えるらしい。200万テレスもあるんだ。これくらいなら…… 

 

「——どうぞ、なのです!」

 

 瞬間、僕の脇を縫って銅貨三枚が置かれた。

 

 酔っぱらいや道行く人の声じゃない。明確に僕らに向けて放たれた言葉だ。

 

 小柄な女の子の声だ。

 どこかで聞き覚えのある声が目の前を横切り、店主を見つめる。

 

 白髪に、蜂蜜色の瞳の少女。

 背には大きなカバンを背負っている。

 巻物や大量の魔導具が詰め込まれた重そうなカバンの紐を直しながら、少女は笑っていた。

 

「おいおい、嬢ちゃん。1500テレスしかねぇじゃねえか。これじゃ譲れ—— 」

「これ、純度20%もないですよね? なら、この料金はボッてるのです。

 市場価格からすると、800テレスが妥当なところだと思うのですが……」

 

 パチリ、と銅貨を一枚追加で置く。

 

「追加で500テレス出すのです。これで、お譲りいただけませんか?

 ……バラされたら、商売やりづらくなると思うのです」

 

 少女は身を乗り出し、店主さんに耳打ちしていた。

 

「……けっ。足元見やがって。持ってけ」

 

 店主さんは露骨に不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「ありがとうなのです!

 はい、なのです!」

 

 白髪の少女が僕に熾紅玉を手渡す。

 

「え、いいの? 君が買ったものじゃ……」

「いいのですよ。これはお礼なのですから」

「お礼? 僕、君とどこかで——」

 

 彼女はふふん、と笑い、指を天に向けた。

 

「わたしはアルター! アルター・I(イアフ)・アヌマティ! しがない行商人なのです!あのタコから助けてもらったお礼を、させてほしいのですよ!」

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 個室の料亭。

 目の前には小鉢。箸置きの石は蛍石を加工したものかな? 綺麗に磨かれていて、光沢を放っている。

     

「へえ。そうなのですね。お二人はまだ冒険者になっていなかったのです?」

 

 僕らはあれよあれよと言う間にアルターと名乗る少女に料亭に連れ込まれ、今は高そうなお座敷で食事を取っている。

 

 目の前に座るアルターなる少女の貫禄が凄い。こんな高そうな料亭でも気後れせず、丁寧な箸使いで小鉢の料理を摘んでいる。

 

「ええ。わたしも以前は冒険者証を持っていたのだけれど、事故で失くしちゃったのよ。再発行しようにも身分証明書がないから、一からやり直しね」

 

「あんな目立つもの無くすことあるのです……?」

 

 アルターはジト目でリリアを見た。

 へえ、冒険者証ってそんな目立つものなんだ。カードだと思ってたんだけど、そんなにデカイのかな。

 

「それにしても、本当に助かったのですよ。帝国から商いをしにここまで来たのですけれど、その船でまさか魔物に襲われるとはアルターも思っていなかったのです」

 

 女将さんが僕らが食べ終わったタイミングでお吸い物を持って来てくれる。

 あ、あの……。どの品書にも値段が書いてないんですけど……。気になって食べれないんだけど……。

 

「そうね。エディンとわたしが来なかったら、間に合わなかったかもしれないわ」

 

 リリアはしゃなりしゃなりとした空気でお吸い物に口をつけた。

 お上品だな……。見た目は凄いきれいなお嬢様だからな、リリア。

 

「そうなのですよ! あと少しでアルターの商品もお陀仏だったのです。二人にはなんとお礼を言うべきか……」

 

 アルターはお吸い物を飲み込み、ペコペコとお礼をしてくる。

 

「いいのよ。弱きを助け強きを挫く。剣士の誉れで、戦士の義務なのだから」

「誉れと義務……。かっこいいのです……!」

 

 アルターは目をキラキラと輝かせながら僕らを見てくる。

 ……小っ恥ずかしいな。堂々と受け止めようにも、顔が赤くなっちゃう。まだ自分に対して信じきれてない部分があるのかも……。

 

 でも、ここで否定するのは違う。なんだか背中が痒くてたまらない。

  

「それより、何か、困っていることはありませんか? お二人はアルターの命の恩人! アルターのお手伝いできる範囲でなら、お手伝いさせてもらいたいのです!」

 

 アルターはお椀を置き、僕らに微笑みかけてきた。

 

「アルターは冒険者試験について詳しい?」

「もちろんなのですよ。受けたことはないのですが、仕入れはギルドからがほとんどですから」

「なら、僕とリリアにわかるように冒険者試験について教えてもらえないかな」

 

 僕はアルターへ頭を下げる。

 僕自身は試験のすべてが頭に入っている。一度読めばほぼ完璧に覚えられる。だけど、リリアはそういう訳じゃない。

 

 リリアは命の恩人だ。

 彼女が来なかったら僕も《蒼霆》を決められなかった可能性が高い。なら、そんな彼女に『不合格』という泥をかぶせるわけには行かない。

 

「いいのですよ」

「ほんと!?」

「ただし、条件があるのです」

 

 アルターは目を煌めかせ、計算高い笑みを浮かべた。

 

「お二人のパーティに、アルターを専門会計士として加えてほしいのですよ」

 

 

 

  

 

 

 

 

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