アプレ・ラプルイの朝日 〜幽閉から始まる神喰らいの英雄譚〜   作:鹿鳴弥

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試験

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なるほど。なら、まずはアルターのことを教えてもらえないかな?」

 

 僕は姿勢を正す。

 

 計算高く目を光らせるアルターと向き合った。

 

 隣に座るリリアも同じだ。

 先程までは剣士のあり方に自信を滲ませた感じで振る舞っていたが、今は真剣な光を瞳に宿している。

 

 僕とリリアはパーティを組んではいない。

 まだ僕とリリアは会って二日とそこら。

 

 だけど僕らはやりたいことが共通している。

 

 それは冒険と鍛錬。

 未知の探検と強くなり続けることに共感しあっているんだ。

 

 目的もやりたいことも同じである以上、パーティを組むのは半ば決まったようなものだ。

 

 だけど、アルターは違う。

 

 僕が引っ張り上げ、助けただけ。

 その腹の中はまだわかりきっていない。

 きっと悪い人じゃないのはわかる。

 だけど、彼女が求めているのは僕達との同行だ。なら、せめて僕はどんな人物なのかを理解し、見極める必要がある。

 

「アルターはアルター・I(イアフ)・アヌマティ。アヌマティ家の長女にして、世界を渡り歩く行商人なのです。好きなことはお金と旅、嫌いなことは不義理と辛いものなのです」

 

 アルターは胸を張り、堂々とした様子で語る。

 

 しゃらり、とブレスレットが揺れた。

 黄金の輪っかのようなブレスレットだ。純金で構成されていて、不思議な力が篭っている。

 

 ――《蒼眼》でも、詳細が見えない。

 

「アルターが皆さんに同行したいと思ったのは恩返しがしたいからなのです。アルターはこう見えても商人としてそれなりの物なのです。冒険者に必須な財政管理や物資管理の経験はありますか?」

「ないよ」

「なるほど、ならアルターがいるととてもお役立ちなのですよ。ギルドはたまに素材買収でがめる時があるのです。そんな時にアルターがいれば便利なのです!」

「………………」

 

 お役立ち、か。

 確かに役に立つ。だけど、僕が聞きたいことはそうじゃない。

 

 僕の顔色を察したのか、少し慌てた様子でアルターは話し始める。

 

「け、決して足手まといにはならないのですよ? それだけじゃなく、荷運びとか、宿の予約とか、あとはマッサージとか! 強化系の魔法も結構得意でして――」

「アルター」

 

 アルターを遮り、真正面からアルターを見つめて語る。

 

「僕らは役に立つかどうかの話はしてないんだ。アルターがどうして、僕らのパーティに入りたいのかを聞きたいんだ」

 

 役に立つか否かをアルターが気にする必要はない。

 

 そもそもパーティに入った人は仲間。

 仲間の能力を把握して、どう運用するかは長たるリーダーが考えること。

 

 役に立たないからって追放する真似をするつもりも、追放を許すつもりも毛頭ない。

 

「だから、恩返しなんて考えなくていいんだ。あれは僕が考える前に動いちゃっただけの行動だし。もう一度聞くね、アルター。なんでアルターは僕らのパーティに入りたいと思ったの?」

 

 だからこそ、見極めなければならない。

 なぜ、アルターが僕たちのパーティに入りたいのか。

 

 恩返しなら別の方法がある。

 冒険者稼業は死と隣り合わせだ。

 

 僕はアルターをじっと観察する。、

 つけている装飾品や、食べ方の品。

 これは相当な教育を受けていてかつ、実践できる状況がなければ自然には出てこない。

 行商人としても相当な成功をおさめてると思う。

 

 だからこそ。その心意気を問いたい。

 

「あ、アルターは……」

 

 アルターの目が揺れた。

 パクパク、と唇が空いては開く。俯いては顔を上げ、少し怯えたような顔をして、観念したように肩を落とした。

 

 

「……羨ましいな、と思ったのです」

 

 

 僅かな沈黙。

 逡巡(しゅんじゅん)が垣間見えた沈黙を破って、アルターは話し始めた。

 

「アルターは、旅が好き。大好きなのです。知らない場所、知らない文化、新たな友人。同じ場所を旅しても毎度違う景色が見えて、辛いことも、楽しいことも一緒の旅が大好きなのです」

 

 

「でも、旅はいつも一人だったのです。一人の旅は気楽なのです。だけど、想いを。その情景や感動を分かち合う人はどこにもいない」

 

 

「冒険者の仲間を取ろうとしたこともあったのです。でも、駄目でした……。アルターの体躯(たいく)じゃ、対等な仲間の目線で話してくれる人はいなかったのです。

 アルターと同い年くらいの見た目の子たちは、アルターの仕事を明確に馬鹿にしてくる子が多かった」

 

 

「でも、エディンは違ったのです。ちゃんとアルターを見て、助けてくれたのです。男女分け隔てなく助け、リリアと協力してタコの魔物を討伐した。

 その時に、アルターは羨ましいと。仲間に入れてほしいと。心の底から思ったのです」

 

 

 アルターは僕とリリアを真正面から見た。

 彼女は決死の覚悟を決めたような顔をして、思い切り頭を下げた。

 

「お願いなのです。アルターも仲間に入れてほしいのです。できることはなんでもするのです。だから、アルターを、仲間に入れてほしいのです……!」

 

 深々と、机よりも深く頭を下げていた。

 ……一人は寂しい、か。

 

「頭を上げて、アルター」

 

 リリアが声を上げた。

 アルターが頭を上げ、リリアをじっと見つめていた。

 

「そこまで言われて無碍な扱いができるほどわたしは鬼じゃない。隣で真面目な顔してるエディンはわたしに輪をかけて優しくて、頑固なの」

 

 リリアは笑う。

 

「わたしは賛成。気に入ったし、知能労働を任せる相談役が近くにいるのはとても心強い。エディン、なんとか言いなさいな」

 

 ばし、ばしとリリアが頭を叩いてくる。

 ……むう、その通りだけど。

 アルターが悪い人じゃないと分かってた時点で仲間入りを蹴るつもりはあまり無かった。

 

 だけどその……。地味にリリアは力強いんだから、あんまり頭叩かないでほしい。

 

「リリアの言うとおり。アルター、君を迎え入れる理由しかない。世間知らずな僕だけど、どうか支えてほしい」

 

 僕も同じく頭を下げる。

 アルターの知見は本物だ。堂々とした話しぶりと、こちらの意図を察して動ける能力。それでいて各国を旅した知見。

 話しているときに《蒼眼》で見ていたけど、心拍数が上がったりとかそういったことが全く無かった。

 

 リステリアで父上に嘘をついてる臣下は脈拍や血圧に面白いくらい変化があったから、そこら辺を見抜くのは得意だ。

 

 何より、魔力量がかなり高い。

 僕と同じか、少し低いくらいだ。この国の冒険者の人が僕の半分未満ってことを考えると、相当な量。

 どうして侮れようか。

 

 なら、僕も頭を下げるのが筋だ。

 

「わ、わ……! 頭を上げてほしいのです。エディン……! 困るのです……!」

「ん……。それじゃ」

 

 困っているアルターが《蒼眼》で視えたので頭を上げ、アルターに手を向ける。

 

「これからよろしくね、アルター!」

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 夜も更けて十九時半。

 宿を出発したのは十八時。門限は二十時。もうそろそろ帰ったほうが安全な時間だ。

 

「それじゃ、そろそろ帰ろうかな。そういえばアルター、最後に聞きたいんだけどさ」

「なんです?」

 

 帰り支度を行い、リュックを背負い直しているアルターに話しかける。

 

「冒険者試験って、何するの?」

 

 危ない危ない、忘れるところだった。

 アルターに色々教えてもらおうと思ってた。

 なのにそれを上回るでかい情報が多くて忘れるところだったよ。

 

「冒険者試験ですか? 簡単なのですよ。

 学科と実技に分かれているのです。学科で50点、実技で60点以上取れば合格なのです。

 点数に応じて与えられる冒険者証のランクが変わるので、高得点は取るだけ得なのです」

 

 アルターは事も無げにリュックに探知魔法をかけ、忘れ物や盗難被害がないかを確認しながら答えてくれる。

 リリアはムッとした顔でこちらを見てきた。

 

 何? 100点を目指してあんなに勉強する必要はなかった?

 いいじゃん。覚えていて無駄な知識なんてないんだし。無駄じゃなかったからその拳は下げてくれると嬉しい。

 

「不合格になったら、どうなるのよ」

 

 しかし不安ではあるんだろう。

 リリアアルターに少し揺れた声で聞いている

 

「冒険者証自体は発行されるのです。ですが、最下級の石級スタートになるのです。そうなると討伐依頼どころか、迷宮へも入れなくなるのです。

 ドブさらいとか猫探しとかの雑用がメインになるのですよ」

「やだー…………!」

 

 なるほど……。一応メモ取っておくか。忘れないだろうけど、念の為に。

 アルターはそれを見て話が終わりだと判断したのか、水本の時計を見た。

 

「それじゃっ、また明日なのです。アルターは明日に備えて、今日は予習しておくのですよ」

 

 宴もたけなわ、ってことだろう。

 冒険者試験を受けるのは何気に初めてなのですよーと笑いながらアルターが外へ出ようとする。

 

「あ、お会計はアルターが払うので大丈夫なので……」

「いや、僕達も払うよ。仲間一人に払わせるのは違うじゃん?」

「そうよ。自分が飲み食いした分くらいは自分で払うわ。それじゃ、アルターを金目当てで仲間にしたみたいじゃない」

 

 そんなゲスみたいな真似はゴメンだわ、とリリアは続けた。

 全く同意だ。金持ちだからってお金を全部払ってもらうのは個人的にだいぶ無い選択肢だ。

 

 アルターから伝票を抜き取り、ひらひらと振りながら背を向ける。

 

「じゃ、ここは僕が払っとくよ。あとで全員分の金額伝えとくから、先出てて〜」

 

 イルクの教えその一、「良い女にはさり気なく奢ってカッコつけろ」

 

 これは……。かなり、かっこいい奢り方なんじゃないだろうか?

 良い女ってのがよくわかんないけど、二人とも素敵な女性だ。なら多分良い女なんだろう。

 

 決まったな。僕も一歩男に近づいたってわけだ。

 イルクのお金だけど。そこは冒険して稼いだお金で返すつもりだし、そしたら最終的には僕が奢ったって寸法よ!

 

 ちなみにメシ代は目が飛び出るほど高かった。りょ、料亭って怖い場所なんだな…………。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 朝八時五十五分。

 冒険者ギルド【伯方】支部にて。

 

 僕ら全員は教室に集められていた。

 受験生は二十三人。

 机の上には筆記用具だけが並べられており、不正は退場処分と説明があった。

 

「…………」

 

 そわそわと自分の指元が忙しなく動いている。

 緊張するな……。

 何気(なにげ)に初めての試験だからか……。どんな問題が出てくるのか、想像はつくけど実感がわかない。

 怖いもの見たさ反面、ワクワクする。

 

 隣にいるリリアは余裕の表情だ。

 あれだけやったのだから、自分が失敗するはずがないという自信の表情。流石は赤いお姫様だ。

 

 後ろの席にいるアルターは特に何も考えていなさそうだ。緊張も何もていなさそう。

 ペンを回し、頬杖をついている。

 昼ごはんのことでも考えていそうな感じだ。

 

 《蒼眼》を、ギルドの受付の方へ向ける。

 ここはギルド二階の教室。受付は階段を降り、大きい中庭を越えていった先だ。

 

 そこには椅子に腰掛け、片手で本を読んでいる男性がいた。

 イルクだ。迷わないだろうけどって言いながらも、今日は暇だからと付き添いに来てくれた、僕の兄貴分。

 

 ――、一瞬、目があった。

 

 イルクはウィンクして答え、『がんばれよ』と唇だけ動かして伝えてきた。

 

 ああ……、ほんと、もう……! 

 

「――時間だ!」

 

 野太い声と剃髪(ていはつ)の声が響いた。

 イルクにそう言われちゃ、頑張るしかないじゃんか……!

 

 配られる問題用紙を後ろのアルターに渡しながら、僕は羽根ペンをインク壺から抜き出した。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 問題自体は、非常に簡単だ。

 ○×形式の問題と、一部が記述式の問題。特に気にする必要もなく、肩透かし感のある内容がほとんどだ。

 

 

『問十六。国有の迷宮は攻略しても良い』

 

 

 ―― ×だ。

 国有の迷宮は国の物で、鉱山よりも優れた資源。

 勝手に攻略した場合、国から処罰される。最低でも懲役三十年。

 

 

『問二十五。迷宮は無限の資源が取れる場所である』

 

 

 んーー。これはいや。

 

 ○か。

 

『迷宮記』には迷宮の主を倒すと迷宮は枯れると書いてあった。

 つまり、完全な無限ってわけじゃないだろうけど、まあ意図としては近い。○で。

 

 

『問三十。冒険者の階級と迷宮の階級は同じ名称である。名称を階級が高い順に記載せよ』

 

 

 

 これは簡単だね。

 全部で8つの階級を上から順に書けばいい。

 

 

 『黒晶(こくしょう)級』

 

 『黄金級』

 

 『輝鉱七種(きこうななしゅ)級』

 

 『銀級』

 

 『銅級』

 

 『玻璃(はり)級』

 

 『鉄級』

 

 『石級』

 

 

 

 

 だね。

 迷宮の階級は魔物の強さやトラップ、環境などの難易度と、採れる鉱石の種類や宝箱の質によって決まる。

 

 黒晶級が世界に五人しかいない最強の冒険者ってことは本に書いてあったな。

 

 

『問四十。輝鉱七種の内訳を答えよ』

 

 

 あー、はいはい。

 輝鉱七種ってのは黄金や銀を除いた魔導宝石類。

 7つの魔法原素の結晶だ。

 

 迷宮以外ではほとんどない資源のはず。

 

 だから……。

 

 

 

 『紅熾玉(ルビー)

 

 『蒼瑠璃(ラピス・ラズリ)

 

 『金雷玉(トパーズ)

 

 『岩琥珀(アンバー)

 

 『翠命岩(エメラルド)

 

 『光石英(クォーツ)

 

 『闇瑪瑙(オニキス)

 

 

 

 の七種だったはず。

 ま、しばらく僕らは関わらないタイプだし、そんなに深く覚えなくてもいい気がする。

 

 

 あとは……。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

「ふー……」

 

 試験は恙無(つつがな)く終わった。

 大体二分くらいかかったかな。

 そんなに難しくないし、記述式も気になるようなところはなかったしねー。

 

 五十問くらいだったし、早い方なんじゃないかな。

 事実誰も解き終わっていない。

 

 試験監督――ヴァルガスさんにも『速いではないか! ガハハハハ!!!』って大笑いされたから、かなり早いんだろう。

 

 先輩冒険者たちがどうなのかは知らないし、僕が一番早いだなんて思うのはつまらない。

 

 挑戦の余地は常に残っていたほうが楽しい。

 

 リリアとアルターに目配せしたら、二人ともサムズアップで答えてきた。

 たぶん、二人とも問題ないだろう。

 

 実技試験はパーティ推奨らしい。

 願ったり叶ったりだ。

 なので僕はのんびりと学科試験会場の前で待っている。

 

 がらら、と扉が開いた。

 お、早い。二番手だ。十五分で終わったんだね。

 

 相手は少年。茶髪にメガネをかけた少年だ。

 

 大人しそうな少年。冒険者、っていうよりもお坊ちゃんって感じの雰囲気。

 荒事にはなれてなさそう。だけど魔力の制御が他の受験生よりしっかりしている。

 

 ――魔法師かな?

  

 リリアたちが来るまで話し相手になってもらおうかな、と持たれていた柱から身体を起こした瞬間。

 

「あの!!!」

 

 とんでもなくでかい声が、扉を開いた少年から響いた。

 

「エ、エディンくん、だよね!」

 

「ぼく、モーリス! 石上モーリス!」

 

「君にお礼を言いたくて、試験を早く片付けてきたんだ!」

 

 

 …………なんで?

 僕はニコニコと笑う石上モーリス君……。

 モーリス君に呆気にとられなれながら、彼との会話に興じるのだった。

 

 

 

 

 

 

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