アプレ・ラプルイの朝日〜聖劍と王冠、ヤンヘラ女神の御名において〜 作:鹿鳴弥
水の帳が降りた。
正門を通り、城へ入る。
豪奢な造りの城だ。大階段にシャンデリア、花瓶や絵画が壁に飾られている。
『青い薔薇……』
<
不可能の象徴でもある青い薔薇は、特殊な神域でしか咲かないと言われている薔薇だ。
魔力環境や魔法で生体情報をいじっても、青の薔薇だけは生まれないとリモルは語っていた。
『きれい……』
花瓶に挿された青い薔薇は、何とも言えない美しさがあった。
やっぱり、どうにもここが迷宮だとは思えない。
特級の神域や聖域みたいな空気感があって、どうにもここが普通の迷宮とは思えない。
迷宮都市国家のお寺にもお邪魔させてもらったことはあるけど、気品過ぎて現実離れした空間はここが初めてだ。
ううむ、面妖なことこの上ない。
どーにも落ち着くというか。この迷宮、というか王城に入ってからというもの、体の調子がとてもいいんだよな。
《蒼眼》による脳みそへの負担が減った影響かと思っていたけど、そうとも違う。
『まあ、あまり考えていても仕方がないか』
水中を蹴り、大階段の向こう側へ向かう。
ヴァルガスさんとの決着がついた後、すぐに一帯が水に覆われた。<
なんて思いながら大階段を泳いで超えると、奥には鉄製のかごがあった。
僕二人分くらいの大きさだ。かごの扉は空いていて、足元には複雑な魔法陣が描かれている。魔力探知で探ってみると、効果はまだ生きているのが分かった。
『入れ、ってことかな』
こき、と首を鳴らして中へ入る。
乾いた音を立ててかごの扉が閉まり、わずかに揺れる。音を立て、体が下に引っ張られる感覚があった瞬間、かごが勢いよく上昇していく。
かごの窓から外を見れば、すでに高度は宮殿を超え、街を一望できる高度にまで来ていた。
『水流で上がっているのか』
窓の外を見る。
泡が重力に逆らうように上昇し続けていた。よく見れば、それが水流によって運ばれているのが見てわかる。
直感的にも、ここで危険が起こりそうな感じはしない。おそらく、この場で襲われることはないだろう。
『なら、少し休もうかな』
きっと、屋上部でも戦いがある。
類まれな力を持つ、ヴァルガスさんをも超える力を持つ強大な敵と、相まみえることになる。
『ヴァルガスさん』
「お力、お借りします」
背中に宿る【赤龍剣】の柄を触り、上昇するかごの中で目を閉じた。
※※
目を開ける。
上昇が止まり、かごが開いた。
目と鼻の先に青い天球がある。
『橋だ』
水の中に橋がかけられていた。
川や湖を越えるために築かれた朱橋が水の真ん中にある。
その先には大きな広場があった。
思い返すのは、ヴァルガスさんの幻霊と戦う前だ。
入った神殿、そこにあった巻物の記憶。
――豪奢な服を着た貴族と、王冠を被った人物が広場の近く、宮殿の最上階で祈りを捧げている。
――【王は我が近くに侍ることを許す。いと高きわが天を突く城で、我を仰げ】
『ここのことか』
橋の先に広がる広場の真上に、青い天球が続いていた。
広場の中央には鈴が置かれている。
かごから降りる。
橋に降り立ち、うなじに手を当てる。
――ここから先、危険がある。
僕の直感がそう語っている。
すう、と頭が冷えていく感じ。腰に佩いている『亡星』を抜き、片手で持って水の中を歩く。
同時に、脳裏で新たに得た能力を想起する。
<
『世界神の加護』。
<
『絶対律聖書』。
<
『黄金の誓い』。
銀級迷宮特典。
命蝕み、剥離する【赤龍剣】。
「……よし」
覚悟は決まった。
あとは戦うのみ。ひたすらに向かい、手向かいする全てを切り捨てて、絶対に生きて帰る。
そうでなければ、あらゆるものを託してくれたヴァルガスさんに合わせる顔がない。
……だけど、このあとは迷宮の主との戦闘も控えている。
<
橋を渡り、広間へと足を踏み入れる。
光の泡が立ち上った。
周囲から水気が引いていき、青に染まった景色が白日の下にさらされる。
白皙の街並みが露わとなった。
真白の大理石で造られた神殿や住居が立ち並び、青の天球がそれを照らす。
警戒が桁外れに高まっていく。
一歩、一歩と踏み出すたびに泡立つような感覚が肌を覆っているんだ。
そして。
「――阿」
獅子面の剣士が、天球から飛び降りてきた。
※※※
その風体は、異様だった。
顔は虎。胴は人。四本の腕。長く、蹄のある二本足。
二本の腕で薙刀と剣を握っており、鬣のない獅子面から牙をむき出しにして、
甲高い咆哮を上げた。
「<
『亡星』を抜き、唱える。
「――《黄金の誓い》」
黄金の粒子が身体にまとわりつく。
魔力量、身体能力、空気の質感の感覚が一時的とはいえ跳ね上がったのを感じた。
「鶯」
眼前の虎面が吠え、同じように黄金の粒子が奴の体へまとわりついた。
やつの魔力が、大きく跳ね上がったのを感じる。
虎面からすさまじい威圧が僕へ放たれた。負けじと僕も青い魔力を放出し、互いに魔力場をぶつけあう。
じりじり、と金と青の魔力場がぶつかり合う。
魔力場は互いに可視化できるほど放ち、競り合っている。
いや、すこし僕が押されている。
ほんの寸毫ずつ、僕の魔力場が押し込められ、後退し始めていた。
互いの魔法を、より効果的に通すための陣地合戦。
問われるのは魔力操作技術と、魔力の量。僕は十八番であるこの領域で、獣より明確に劣っていた。
分厚く、己より格上の高い壁。
「クハッ!」
その事実が、たまらなく小気味いい。
腹の底から湧き出た滾りを笑みに変え、『亡星』を担ぐように構え、
奴へ駆ける。
無言で獣は薙刀を振るい、それを弾く。
鈍色の一閃が蛇のように曲がり、衝撃が僕を正面から打ち据える。
「夷」
くるり、と二転して虎面は刃を翻す。
足を軸に回転し、独楽のような斬撃が僕へ迫る。
「【
片足に力を入れ、全身を脱力させて『亡星』を構え。
「――『
回る斬撃を完全に受け流す。
一撃、 二撃、 三撃。
わずかな遅延を混ぜ込んだ連撃、そのすべてを見切り、流しきる。
受け流された虎面の姿勢が、前のめりになって崩れた。
「【
軸にした片足へ力を入れる。
活用するは受け流した衝撃。渦雲に攫われるように、嵐中の柳のように力をしならせ、蓄える。
地面から跳ね返ってくる反発すら作用に加え、ばね仕掛けのように一転。
「――『
首へ一閃。
連撃に対する反撃。相手からの打ち込みを刃にため、ばねのように切り返す裏奥義を、
居合のように放つ。
しかし、それは甲高い金属音に阻まれた。
「……おいおい。その握ってる剣も一流かい」
しかし、その一撃は虎面の携えた剣に阻まれる。
「トワ・■■■■■■■」の名が刻まれた剣だ。頑丈で、白雪のように流麗な刃を持つ、美しい剣だった。
鉛のように重い体幹が不意の一撃を受け止め、背後から土煙が上がった。
――怖気。
背に走った冷たい感覚に従い、思い切り地面を蹴って飛ぶ。
刹那遅れて、足を狙った鋭い薙刀が地面を這った。
「やっべ……!」
冷や汗を隠し切れず引き笑いし、虎面を蹴って後ろへ跳び、
後方へ着地する。
わずかに、『亡星』を持つ右手が震えていた。
とんでもない技のキレだ。槍のように長い薙刀を剣のように振るう妙技、
薙刀の打つ側に潜ませた剣の技量もべらぼうに高い。
「あいつ、技量でリリアを軽く超えてるな……」
リリアの剣技のキレは僕より数段上だ。
さらにそこへ獣の膂力も乗せられているとなれば、苦戦は必定。
「だけど、これで確信できた。あなたは元人間。それも、聖教の流れを組む強者だ」
刀の切っ先を向け、浮かんだ笑みを殺してにらみつける。
獣なれど、精緻な剣戟。さらに、《黄金の誓い》の使用。
「トワ殿とお見受けする」
ぴくり、と獣の方が揺れた。
「さぞ高名な英傑なのでしょう。理性を濁しても、なお凄絶な剣技。野生とは思えない、本能にしみついたような間合いのはかり方。
敬服するほかない」
僕は居住まいを正し、『亡星』を呼びかけるように構える。
「ならば、出し惜しみはなしとさせていただきます」
語り終えると同時に魔力を練り、魔法陣を空へ描く。
「<
砲門型魔法陣が一門現れ、深紅の太陽が尾を引いて獣面へと襲い掛かかる。
トワは懐の聖書をちぎり、何やらつぶやいた。
「『絶対律聖書』」
奴はページを放り、そこへ気魄を込めた。
聖書が水の壁へと変わる。
渦巻く滝の壁となり、<
だが。
――轟。
【魔神】の式は安くない。
<
拮抗を正面から食い破り、威力だけを減衰させてトワへ迫る。
トワはそれを半身になって躱す。
<
「――隙を見せたね?」
トワの緑色の瞳が、間近に迫る僕の体を捉えた。
<
瞬時に薙刀を僕へ突き出す。
――は。動きは精緻だが、刃の動揺を隠し切れちゃいないぜ、トワ殿!
僕は空中で身をひねって躱し、着地と同時に後方へ跳ぶ。
「――《世界神の加護》」
同時に、<
長大な退魔の刃が『亡星』に纏わりつく。
「――!」
トワは迷わず四本の腕を繰り、薙刀と刀を交差させる。
そこへ、大上段に振り下ろした退魔の刃が叩きつけられる。
が、それで終わりじゃない。
「そらよっ、と!」
受け止められた一撃を起点に、棒高跳びの要領で跳び、<
トワは虎面に何も浮かべず、薙刀と剣を構えた。
薙刀で一撃を弾き、剣で仕留める腹つもりだろう。
剣山のように刃が僕へ突き立てられた。
「一手、誤ったな」
トワを見下ろしながら、『亡星』へ気魄を送る。
束ねるは火。先に散らした、<紅蓮砲殲火>の残り火へ、視線を送る。
「魔剣技巧――」
轟々と燃え盛る火から、熱線が放たれる。
一本に束ねられた熱線を黒刃が喰らい、刃が爆炎を秘めた。
大上段に『亡星』を構え、体をひねる。
「――『夜舞い』」
空中で、爆炎の孤月を刻んだ。
※※※
「呼ォ……!」
鮮血が、獣の体内から噴き出す。
よろよろと地面に倒れる。
頸動脈を確実に刈り取った一撃は、《黄金の誓い》による防御すら切り裂いて致命傷を幻霊へ与えていた。
【赤龍剣】を使うまでもなかった。
曰く、これは生き物の命を切る刃。気魄を込めれば特殊な瘴気を発し、相手を絶殺する大剣。
――だが、まだ終わりじゃない。
限界まで引き上げられていた直感が、戦闘の終焉にはまだ遠いとけたたましく告げていた。
「!」
怖気。
走った直感の通りに首を傾ける。僕の首があった場所に剣閃が走った。
「なんだぁ……っ」
背後へ刃を振るう。
「……が、あ……!」
ざしゅ、と肉を切った感覚と共に、背後に立っていた人型が倒れ、消えていった。
人だ。人の幻霊がいつの間にか周囲を囲んでいる。
総勢、10名以上。槍や剣、杖を持った白い幻が、僕へと一斉に刃を繰り出してきた。
「なんだよ、タイマン張ってるところをさあ!」
ぬお、囲んで叩くとかずっるい!
せっかくのタイイチの勝負をこんな形で崩すのはだめ、っしょうが!
迫る刃を弾き、首を切り、蹴りでつぶす。
続く幻霊たちを切り裂き、仕留めては一人残らず蹴散らしていく。
「ああもう! こいつら無限沸きかよ!」
だけど、倒しても倒しても敵があふれ、いたちごっこになっていく。
雷鳴が、地に落ちた。
「おいおい、マジか」
落ちた先には、トワが立っていた。
掲げた薙刀には稲妻が宿り、その刀身は黄金色に染まっている。
瞬間、トワが跳びあがった。
「ちょお……っ!」
脳天めがけて振り下ろされた、輝く雷刃を紙一重で躱す。
雷は地面に触れた瞬間、広場の足場を焼き焦がし、完全に放電しきった。
「いい加減、死ねィっ!」
迷わず刀をトワ目がけて振るう。
しかし、簡単に弾かれた。<紅蓮砲殲火>の残り火は尽き、整ってるわけでもない乱雑な一刀を、しのげないわけがない。
「冥府の雪風」
瞬間、トワの口から人の言葉が発せられた。
薙刀が真白の風を纏い、渦巻くように振り回す。
風が肌に当たった刹火、僕の肌が魔力ごと凍り始めた。
「ちょい、ちょいちょい……!」
ここにいたらまずい! 使える魔力すら凍え、使い物にならんくなる! そうなったら僕の負けは決まったようなもの!
足に魔力を注ぎ、後ろへ跳ぶ。急いで脱出を――。
「――あ?」
跳んだ瞬間、左手が、軽くなった。
手首から先。左手の甲が、空を舞っていた。
トワの剣が、わずかに赤色に染まっていた。
※※※
「……痛ぅ!」
痛みが走る。
同時に血が噴き出て、体力を一気に奪おうとする。
「おらぁいっ!」
迷わず、左手を雪の嵐に突っ込んだ。
手首から先が、瞬時に凍り付いていく。
吹き出るはずの鮮血が、割れるような音を立てて魔力ごと凍結させていった。
「見えてんだよっ!」
嵐の向こうから走る剣閃を一歩引いて躱し、左手を見る。
……めちゃくちゃ痛い。左手が、無意識に震えている。
よだれまで垂れてきた。痛すぎて、切られていないはずの右腕まで震えてくる。
ああ、ああ。なんて、本当に――。
「血が滾ってきたァ!」
――楽しいんだろうか。
視界が明滅するほどの強烈な痛覚が、常に左手から警戒として叩きつけられている。
いまにも気絶しちゃいそうな刺激が、熱く、冷たい痛みが僕の左手のあった場所に通っている。
「征くぞ、トワァ!」
頬が吊り上がる。
思考が加速する。痛すぎて、もう笑えて来る。ぐう、と腹が鳴り、汗もにじみ出てきた。
――僕は今、間違いなく生きている!
間違いなく、今こそが生きている。
一気に駆け抜く。
嵐へと突っ込み、超至近距離で<紅蓮砲殲火>を叩き込んだ。
冬風と、爆炎が混ざり合う。
暴力的なまでに魔力を込めた<紅蓮砲殲火>の火は、冥府の風と相殺しあい、活路を見出した。
そこに、見失っていたトワの姿が見えた。
必ず殺す。
殺意が際限なく膨れ上がり、刺々しい戦意となって、突撃のエネルギーになる。
怒りではない。怒りなんかじゃない。僕を突き動かしているのは、『歓喜』。
「覇ァ――!」
渾身の蹴りをトワへ叩きこむ。
身体を満たす、圧倒的な充足感が身体を未知の領域まで高めている。
「逃げんじゃあないよォ!」
たたらを踏むトワへ追撃をかける。
痛いのは好きじゃない。
極力傷つかないほうがいいに決まっている。楽をしたいに決まっている。
トワの薙刀がきらめく。
遠慮呵責のない、凄烈な突き。首目がけて放たれた一撃が、僕の頬を貫いた。
「
薙刀をかみしめ、笑みが浮かんだ。
だが、この死闘が。自分の命が危険にさらされている体感が、たまらなく楽しい。
一手を誤れば僕は確実に死ぬ。相手にはまだ奥の手がある。
トワの目に、明確な恐怖が浮かんだ。
頬に刺さった薙刀が引き抜かれ、彼女が大きく後退する。
この綱渡りが、たまらなく楽しいんだ。
同時に幻霊が僕の周囲を囲み、トワの周囲に冥府の雪が舞う。
4つの刃が僕へ迫る。
腕、肩、額が切り裂かれ、残る一刀を『
腹の底に眠る、戦いを楽しむ自分。
東塔の頃からくすぶり、膨れ上がってきた狩猟本能と闘争心が、
傷つくたびに際限なく高まっていく。
「邪魔ァ!」
うなり声をあげ、最大まで強化した腕を振るって幻霊どもを両断する。
迫る。迫る。迫る。
渦風に爆炎を叩きつけ、トワへと迫る。
「くっははははははははぁッ!!!」
額から垂れた血が口に入り、鉄の味が身体を身震いさせる。
――【赤龍剣】の一撃は、剥離の斬撃。
ヴァルガスさんとの戦いに感じた怖気は、霊魂のおびえ。
一撃で僕を殺すに足る、致命の一撃だ、だがそれを振るうにも大きな隙が必要だ。
《蒼霆》は無理だ。
『
手首より先から血が滴り始めてる。これじゃまともな打撃にならないから、没だ。
《統巡》で冥府の風を弾き、前へ進む。
「『夜舞い』!」
灼熱を纏わせ、トワの体へふるう。
しかし、雪の嵐に触れた瞬間、『亡星』の保持していた<紅蓮砲殲火>の魔力と熱は凍え、ただの刀へ戻った。
致命的な隙を作るには、『夜舞い』か、それに匹敵する威力の一撃をきめる必要があるんだ。
「寒ぃなぁ!」
体から発する魔力が凍え、体表の動きが鈍り始める中で剣を振るう。
さあ、どうする。どうすれば、確実にトワをとめられるか。
「ひらめいた」
トワの斬撃を片手で受け流し、『登波』を振るう。
彼女は大きく飛びのき、僕の体が嵐の射程圏から外れる。
「左手、使えるじゃねえか」
凍りかけた左手を見て、思わず僕は笑った。
※※※
《蒼霆》は、荒れ狂う高エネルギーを、打撃と共に相手の体内へ打ち出す技だ。
つまり、法力そのものが爆発的なエネルギー。畢竟、燃料である。
「っすう――」
大きく息を吐き、周囲に<紅蓮砲殲火>の火をばらまく。
これ周囲にいる幻霊の干渉を緩和できる。
左手を突き出し、法力を左手に集めていく。
「じゃあさあ――」
腹の底から湧き出る笑みをそのまま浮かべ、歯をむき出しにして笑う。
「
天才だ。人生長しといえど、こんなに楽しいことを考え付くのは今の僕くらいだろう。
狙いは嵐。その奥にいるトワへ照準を定め、笑みを深める。
腕に気魄が集い、青い稲妻が腕に集う。
瞬間、黄金の稲妻が僕の右肩を貫いた。
トワからの雷撃だ。びりびりと体がしびれ、強烈な痛みを肩に響かせた。
「優しいなぁ! お前の雷はよォ!」
だが、構わない。
今更そんな妨害が僕に効くはずもない。
血液を法力と触れさせ、その鉄分子を強制的に超エネルギーを付与する。
《統巡》でその方向性を定め、さらにその一射を圧縮する。
「穿て――」
一射一殺。
殺しきるのは不可能だ。だが、致命的な隙を作ることはできる。
「
赤い、火花が散った。
圧縮され、極限まで反応した血液が雷速に達し、トワの顔面をぶち抜いた。
トワの身体が、大きく揺らいだ。
雪の嵐が止み、上半身を仰け反っている。
――いまだ。
一息に跳ぶ。
トワの体に蹴りを入れ、踏みつけたまま押し倒した。
――【赤龍剣】を抜く。
大剣は赤黒い瘴気を纏い、右手がその力にむしばまれて黒くなる。
正式な所有者でないがゆえの、避けられない反動。
僕の命を侵す、赤黒い鉄錆が指を染めた。
だからなんだ。
右手に強引に気魄を回し、強制的に【赤龍剣】を服従させる。
思い切り、その喉元へ【赤龍剣】を突き刺し。
皮を裂き、骨を断ち、その魔力すら絡めとって。
「その命」
「もらい受ける」
その命を、斬った。
※※※
『――守護者: 先代【勇者】トワ・エヴァンジェルの討伐を確認』
『神話の移行を実行。対象者: エディン・イラ・リステリア』
『領域――<止水>へのパスを開通』
『神話の継承を開始します』